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兄弟(国王視点)
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そんな中、遠国からやってきた留学生が現王妃……つまり私の妻である雪花(シュエファ)だ。遠い東国の姫である彼女は、我が国特産の工芸品……とくに色とりどりのガラス工芸をいたく気に召した彼の国の王妃の命で貿易の協定を結ぶ為にやってきたのだ。実務は同行の外交官が行うため、彼女の目的は主に我が国との交流。何れは国交の協定を結びたいとの考えだった様だ。その為に国に滞在する間、同年代が集う学園へ留学生としてやって来たのだ。
今現在国交の無い遠国とはいえ姫ということで、歳が近い王族の私が城内や学園内で接待役をする事となった。我が国には少ない美しい黒髪と黒曜石の瞳の慎ましやかな少女。私が惹かれたのはすぐだった。まだ婚約者が定まっていなかった当時の私の周りと言えば、未来の王妃の座を狙う肉食獣の様な女性ばかりで辟易していたのだ。
姫と言っても、彼の国では一夫多妻が認められており、雪花姫はあくまで数多くの娘の一人で、自国ではあまり重用されていなかったらしく、王太子であるにも関わらず国王から放任されていた私とどこか通ずるものを感じていた。
私の妻になってください。いずれ国交が整ったら、改めて正式に結婚を申し込みたい。
跪き、手を取って甲に唇を落としながら告げると、象牙色の頬が薄っすらと染まり、「はい、喜んで」と小さく答えてくれた。その瞬間、思わず立ち上がって抱き締めてしまったのは甘酸っぱい思い出だ。
だが、そんな私達の前に現れたのはやはりというか弟だった。私が姫に夢中になっているのに気付いたのだろう。彼女の周りをうろうろするようになったのだ。初めは将来の義弟になるかもと姫も丁寧に対応していたが、私よりひとつ年上の姫からしたら尊大な態度の礼儀知らずにしか思えなかったらしく、終いには私を通してしか会話もしなくなった。妥当な判断だったと思うが。
なんでも私の真似をしたがる弟が、一人前に女性を接待出来るつもりだったのに、塩対応された事に対し真っ先にやったのが、案の定母に泣きつく事だった。それに対して母がしたのはこちらも案の定姫の接待役を弟に変われと命令する事だった。
これまではなんでも弟を優先する両親に辟易していたものの仕方なく従っていたが、この命には流石に腹が立った。初めての反抗と言ってもいいかもしれない。断固拒否の姿勢をとった所為で随分周囲を驚かせたが。嬉しい事に当の姫も拒否してくれた。
これまで面倒だから放置していただけなのに、優秀な自分を認めているから何でもやらせてくれていたと勝手に思っていたらしい弟は、ショックでつい取り巻きに零した。それがその後の王家の醜聞になるとも思わず。
今現在国交の無い遠国とはいえ姫ということで、歳が近い王族の私が城内や学園内で接待役をする事となった。我が国には少ない美しい黒髪と黒曜石の瞳の慎ましやかな少女。私が惹かれたのはすぐだった。まだ婚約者が定まっていなかった当時の私の周りと言えば、未来の王妃の座を狙う肉食獣の様な女性ばかりで辟易していたのだ。
姫と言っても、彼の国では一夫多妻が認められており、雪花姫はあくまで数多くの娘の一人で、自国ではあまり重用されていなかったらしく、王太子であるにも関わらず国王から放任されていた私とどこか通ずるものを感じていた。
私の妻になってください。いずれ国交が整ったら、改めて正式に結婚を申し込みたい。
跪き、手を取って甲に唇を落としながら告げると、象牙色の頬が薄っすらと染まり、「はい、喜んで」と小さく答えてくれた。その瞬間、思わず立ち上がって抱き締めてしまったのは甘酸っぱい思い出だ。
だが、そんな私達の前に現れたのはやはりというか弟だった。私が姫に夢中になっているのに気付いたのだろう。彼女の周りをうろうろするようになったのだ。初めは将来の義弟になるかもと姫も丁寧に対応していたが、私よりひとつ年上の姫からしたら尊大な態度の礼儀知らずにしか思えなかったらしく、終いには私を通してしか会話もしなくなった。妥当な判断だったと思うが。
なんでも私の真似をしたがる弟が、一人前に女性を接待出来るつもりだったのに、塩対応された事に対し真っ先にやったのが、案の定母に泣きつく事だった。それに対して母がしたのはこちらも案の定姫の接待役を弟に変われと命令する事だった。
これまではなんでも弟を優先する両親に辟易していたものの仕方なく従っていたが、この命には流石に腹が立った。初めての反抗と言ってもいいかもしれない。断固拒否の姿勢をとった所為で随分周囲を驚かせたが。嬉しい事に当の姫も拒否してくれた。
これまで面倒だから放置していただけなのに、優秀な自分を認めているから何でもやらせてくれていたと勝手に思っていたらしい弟は、ショックでつい取り巻きに零した。それがその後の王家の醜聞になるとも思わず。
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