6 / 18
兄弟(国王視点)
1
しおりを挟む
婚約者の戸籍が変わったのを知らなかった、か……。
壇上から見えるホールの様子は、まるで三文芝居だ。確か隣国で、傲慢な婚約者を断罪し、身分を越えて愛する下級貴族の娘を妻に迎え入れる王子の物語が流行っていると誰かに聞いたような気がするが、もしかしたらその影響を受けているのかもしれない。非常に趣味が悪いとしか言いようがないが。何故ならばそれが自分の実の両親達が起こした醜聞を元に、お綺麗な部分だけを切り取った創作であると知っているからだ。
ああいうものは物語として誇張されていて面白いのであって、現実に起これば悲劇にしかならない。実際目の前で繰り広げられている悲劇。……いや、喜劇と言えなくもない、か?
「お待ちください兄上!」
のんびりと眺めている間に、こそこそ隠れていた最後の当事者が現れた。
周りで遠巻きにしている者達を掻き分けながら現れたのは、私の弟…エターリオ大公だ。幼い頃先代国王妃である母に散々甘やかされて育ったからか、三十を過ぎてもまだ何処か幼稚な印象を受ける男だ。この男にとって息子の妻が姉妹どちらになるのも構わないが、私が口を挟んだのが気に入らないのだろう。
「ここは公式の場だ、エターリオ大公」
「っ!? も、申し訳ありません陛下。し、しかし何故我が大公家との縁談を陛下が破棄とはどういう事ですか!?私は破棄など認めませんよ!」
やはりこの息子の親だ、とわかる思考だ。婚約は結婚の為の契約だ。当然結んだ家の当主同士で解消も行う。そこに横槍を入れるのは確かにおかしいかもしれないが、いくら甥とはいえ国王がなんの理由もなく口を出すわけがない。そこに思い至らない時点で底が知れる。
「カルラ嬢がサテッリテ侯の養女となった件は流石に覚えておろう。婚約が家同士の結び付きのためであれば当然お前の元へも話が言っており、お前も同意した筈だ。一旦ラレンティスとオルシーネとの婚約を白紙にし、ラレンティスとサテッリテの間で結び直した」
ちゃんと理解しているか?という表情を浮かべ確認すると、憮然とした顔で弟がうなずく。
「婚約を結び直す時、契約書にサテッリテ侯が追記した。『一方に不貞、もしくは罪を犯す行為が見られた場合、もう一方は同意なく婚約を破棄する事が出来る。同時に賠償を請求する事が出来る』……とな。そうであろう、侯?」
「はい。陛下のおっしゃるとおりでございます。三通書類を用意し、当家、大公家、貴族院にて保管となっている筈です」
「なにっ!?私はそんなもの知らないぞっ!?」
澄ました顔で後ろに控えていた宰相が答えると、弟が顔を赤らめ叫ぶ。その表情は先程の息子にそっくりだ。
「ご存知ない、と申されましても困りましたね。当家の侍従が伺い、直接大公殿下から了承のサインをいただいて参りました書類ですので」
つまり、弟は家が変わっただけ、とろくに書類の内容も確認せずにサインしたと自分で暴露した訳だ。正に似た者親子だな。
壇上から見えるホールの様子は、まるで三文芝居だ。確か隣国で、傲慢な婚約者を断罪し、身分を越えて愛する下級貴族の娘を妻に迎え入れる王子の物語が流行っていると誰かに聞いたような気がするが、もしかしたらその影響を受けているのかもしれない。非常に趣味が悪いとしか言いようがないが。何故ならばそれが自分の実の両親達が起こした醜聞を元に、お綺麗な部分だけを切り取った創作であると知っているからだ。
ああいうものは物語として誇張されていて面白いのであって、現実に起これば悲劇にしかならない。実際目の前で繰り広げられている悲劇。……いや、喜劇と言えなくもない、か?
「お待ちください兄上!」
のんびりと眺めている間に、こそこそ隠れていた最後の当事者が現れた。
周りで遠巻きにしている者達を掻き分けながら現れたのは、私の弟…エターリオ大公だ。幼い頃先代国王妃である母に散々甘やかされて育ったからか、三十を過ぎてもまだ何処か幼稚な印象を受ける男だ。この男にとって息子の妻が姉妹どちらになるのも構わないが、私が口を挟んだのが気に入らないのだろう。
「ここは公式の場だ、エターリオ大公」
「っ!? も、申し訳ありません陛下。し、しかし何故我が大公家との縁談を陛下が破棄とはどういう事ですか!?私は破棄など認めませんよ!」
やはりこの息子の親だ、とわかる思考だ。婚約は結婚の為の契約だ。当然結んだ家の当主同士で解消も行う。そこに横槍を入れるのは確かにおかしいかもしれないが、いくら甥とはいえ国王がなんの理由もなく口を出すわけがない。そこに思い至らない時点で底が知れる。
「カルラ嬢がサテッリテ侯の養女となった件は流石に覚えておろう。婚約が家同士の結び付きのためであれば当然お前の元へも話が言っており、お前も同意した筈だ。一旦ラレンティスとオルシーネとの婚約を白紙にし、ラレンティスとサテッリテの間で結び直した」
ちゃんと理解しているか?という表情を浮かべ確認すると、憮然とした顔で弟がうなずく。
「婚約を結び直す時、契約書にサテッリテ侯が追記した。『一方に不貞、もしくは罪を犯す行為が見られた場合、もう一方は同意なく婚約を破棄する事が出来る。同時に賠償を請求する事が出来る』……とな。そうであろう、侯?」
「はい。陛下のおっしゃるとおりでございます。三通書類を用意し、当家、大公家、貴族院にて保管となっている筈です」
「なにっ!?私はそんなもの知らないぞっ!?」
澄ました顔で後ろに控えていた宰相が答えると、弟が顔を赤らめ叫ぶ。その表情は先程の息子にそっくりだ。
「ご存知ない、と申されましても困りましたね。当家の侍従が伺い、直接大公殿下から了承のサインをいただいて参りました書類ですので」
つまり、弟は家が変わっただけ、とろくに書類の内容も確認せずにサインしたと自分で暴露した訳だ。正に似た者親子だな。
59
お気に入りに追加
3,207
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです
珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。
※全3話。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

自信過剰なワガママ娘には、現実を教えるのが効果的だったようです
麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
伯爵令嬢のアンジェリカには歳の離れた妹のエリカがいる。
母が早くに亡くなったため、その妹は叔父夫婦に預けられたのだが、彼らはエリカを猫可愛がるばかりだったため、彼女は礼儀知らずで世間知らずのワガママ娘に育ってしまった。
「王子妃にだってなれるわよ!」となぜか根拠のない自信まである。
このままでは自分の顔にも泥を塗られるだろうし、妹の未来もどうなるかわからない。
弱り果てていたアンジェリカに、婚約者のルパートは考えがある、と言い出した――
全3話

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる