隣の芝は青く見える、というけれど

瀬織董李

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兄弟(国王視点)

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 婚約者の戸籍が変わったのを知らなかった、か……。

 壇上から見えるホールの様子は、まるで三文芝居だ。確か隣国で、傲慢な婚約者を断罪し、身分を越えて愛する下級貴族の娘を妻に迎え入れる王子の物語が流行っていると誰かに聞いたような気がするが、もしかしたらその影響を受けているのかもしれない。非常に趣味が悪いとしか言いようがないが。何故ならばそれが自分の実の両親達が起こした醜聞を元に、お綺麗な部分だけを切り取った創作であると知っているからだ。
 ああいうものは物語として誇張されていて面白いのであって、現実に起これば悲劇にしかならない。実際目の前で繰り広げられている悲劇。……いや、喜劇と言えなくもない、か?

「お待ちください兄上!」

 のんびりと眺めている間に、こそこそ隠れていた最後の当事者が現れた。
 周りで遠巻きにしている者達を掻き分けながら現れたのは、私の弟…エターリオ大公だ。幼い頃先代国王妃である母に散々甘やかされて育ったからか、三十を過ぎてもまだ何処か幼稚な印象を受ける男だ。この男にとって息子の妻が姉妹どちらになるのも構わないが、私が口を挟んだのが気に入らないのだろう。

「ここは公式の場だ、エターリオ大公」

「っ!? も、申し訳ありません陛下。し、しかし何故我が大公家との縁談を陛下が破棄とはどういう事ですか!?私は破棄など認めませんよ!」

 やはりこの息子の親だ、とわかる思考だ。婚約は結婚の為の契約だ。当然結んだ家の当主同士で解消も行う。そこに横槍を入れるのは確かにおかしいかもしれないが、いくら甥とはいえ国王がなんの理由もなく口を出すわけがない。そこに思い至らない時点で底が知れる。

「カルラ嬢がサテッリテ侯の養女となった件は流石に覚えておろう。婚約が家同士の結び付きのためであれば当然お前の元へも話が言っており、お前も同意した筈だ。一旦ラレンティスとオルシーネとの婚約を白紙にし、ラレンティスとサテッリテの間で結び直した」

 ちゃんと理解しているか?という表情を浮かべ確認すると、憮然とした顔で弟がうなずく。

「婚約を結び直す時、契約書にサテッリテ侯が追記した。『一方に不貞、もしくは罪を犯す行為が見られた場合、もう一方は同意なく婚約を破棄する事が出来る。同時に賠償を請求する事が出来る』……とな。そうであろう、侯?」

「はい。陛下のおっしゃるとおりでございます。三通書類を用意し、当家、大公家、貴族院にて保管となっている筈です」

「なにっ!?私はそんなもの知らないぞっ!?」

 澄ました顔で後ろに控えていた宰相が答えると、弟が顔を赤らめ叫ぶ。その表情は先程の息子にそっくりだ。

「ご存知ない、と申されましても困りましたね。当家の侍従が伺い、直接大公殿下から了承のサインをいただいて参りました書類ですので」

 つまり、弟は家が変わっただけ、とろくに書類の内容も確認せずにサインしたと自分で暴露した訳だ。正に似た者親子だな。
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