上 下
5 / 18
姉妹(カルラ視点)

5

しおりを挟む
 三ヶ月程前の事。私と父に国王陛下から直々に登城の指示が下った。私は理由を知っていたが秘密裏の事であり、父にとっては寝耳に水だったので、途中の馬車の中では散々何をやったのだと詰られた。自分に心当たりがないからといって、娘が何かをやったと決めつける狭量さに苛立ちを覚えたが、顔に出せば怒鳴り散らす事はわかっていたので仕方なく扇で顔を隠し下を向き黙っていた。

「は!?カ、カルラを養女に…ですか?」

 国王陛下の執務室へと通され、一通り挨拶を済ませたあと陛下が口にしたのは、私をサテッリテ侯爵の養女として迎えたい、という話だった。私も一応驚いた振りをする。どうせ父は私の方など見ていないのでおざなりにだが。

 陛下の話を要約するとこうだ。

 オルシーネ伯爵家は、伯爵としては家格が高くない。その家からもし…あくまでもしだが、王太子妃と大公子息夫人と二人も王族、王族と近しい者との婚姻ともなれば、妬み嫉みをうけることに違いない。王太子妃の実家になる(かもしれない)家がそれによって没落したりするような事になれば世間体が非常に悪い。

 ならばどちらか一人を宰相であるサテッリテ侯爵の養女にした方が良いのではという話になった。本来であれば王太子妃(の、まだ)候補のルーチェをと思うが、サテッリテ侯爵夫人が亡きオルシーネ伯爵前夫人と学園時代からの親しい友人であったこともあり、養女にするならカルラの方を希望している。

 サテッリテ侯爵とは、先先代国王陛下の兄君が臣籍降婿した、以前から何度か王族とも縁がある由緒正しい侯爵家で、現当主は宰相の任に就いている。息子が二人居て、既に長男は結婚しており子供にも恵まれているので、養女といってもほぼ名前だけになるだろうし、婚姻までの事だ。オルシーネ家からはなにもせずとも許可を出してくれればあとは全て王家宰相家で手続きしよう。

 細かい疑問点もあるが、一応筋道は通っている。娘二人を王族上位貴族に嫁がせた誉れは魅力だが、確かに嫉妬を必要以上に受けるのは勘弁したい。嫉妬だけですめばまだましだ。嵌められ没落というのもあながち誇張では無いだろう。なにより、疎ましいカルラを外に出すことによって、今まで仕方なく使ってきた金をルーチェの為に使える。王太子妃に決まれば王家からも支度金が出るが、ドレスに宝石などいくらあっても足りないからだ。

 悪い話ではない。そう判断したのだろう父は、一も二もなくその話を受けた。

 本来、貴族籍の異動には半年から一年ほどかかるが、国王陛下直々の指示であり、もうすぐ私達が学園を卒業、ということもあって最優先に進められたらしい。晴れて私は一月前、サテッリテ侯爵令嬢となった、という訳だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話

真理亜
恋愛
公爵令嬢のイライザには夢という形で未来を予知する能力があった。その夢の中でイライザは冤罪を着せられ処刑されてしまう。そんな未来を絶対に回避したいイライザは、予知能力を使って未来を変えようと奮闘する。それに対して、男爵令嬢であるエミリアは絶対にイライザを処刑しようと画策する。実は彼女にも譲れない理由があって...

無表情な奴と結婚したくない?大丈夫ですよ、貴方の前だけですから

榎夜
恋愛
「スカーレット!貴様のような感情のない女となんて結婚できるか!婚約破棄だ!」 ......そう言われましても、貴方が私をこうしたのでしょう? まぁ、別に構いませんわ。 これからは好きにしてもいいですよね。

聖獣がなつくのは私だけですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

聖女にはなれませんよ? だってその女は性女ですから

真理亜
恋愛
聖女アリアは婚約者である第2王子のラルフから偽聖女と罵倒され、婚約破棄を宣告される。代わりに聖女見習いであるイザベラと婚約し、彼女を聖女にすると宣言するが、イザベラには秘密があった。それは...

処理中です...