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第1話 異世界生活は終了しました。
しおりを挟む【異世界召喚】(いせかいしょうかん)
[名]次元の違う別世界に召喚されること。
特に、15歳以下の時期が一般的である。
異世界召喚された者を適合者という。
** ** **
「主様よ、よいのかや? こんなにゆっくりしおって」
「ああ、別にいいんだよ。盛大な入学式も代表生のための催しみたいなもんだからな。一般生ーー捨て石でそれもEランクのお墨付きともなるといなくても変わらんだろ」
桜が満開の顔を見せ、少し世の中が慌ただしくなるこの季節。道端で一人、ぶつぶつと言いながら歩く制服姿の少年。
その姿は側からみれば少し珍妙な光景に映るだろう。近くにいる主婦達の話はその少年を話の種にしていることは、その視線からも見て取れる。
少年は、はっと、自らの声が漏れていることにようやく気付いた。
声に出てたかーー慣れないもんだな。あっちでは心伝なんて使う機会の方が少なかったしな。
「ーーかやかや、元の世界の方に慣れぬとは面白いものじゃの」
「ーーしょうがないだろ、こっちでの生活の方が実質短いんだから」
「ーーそれを言うなら妾も変わらないというものであろう?」
「ーーうぐっ」
なにやら些細な口喧嘩は少年の一人負けで終わったようだ。どこか気に触ったのか、先ほどまでのんびりと音を立てていた足音も自然とリズムを速くしていた。
そんな時ふと右を見ると、家と家の間にできた細い抜け道の横を通りかかった時だろうか、速いリズムで歩く少年より少し背丈の低い、猛スピードでこちらに向かって走ってくる人影が現れる。
そのまま勢い余って少年と衝突ーーすることはなかった。
その人物は少年の目の前で空中を回転しながら飛び越える。
後につられて美しく毛先まで黒でなぞったように癖のない艶のある髪が、ほのかに香る心地よい匂いを残して目の前を過ぎていった。
「ーー大変失礼いたしました。お怪我はありませんか?」
振り返るとそこにいたのは、自分と同じ制服を身に包み、その容姿は人目を惹かずにはいられないであろう可憐な美少女。その少女が両手を前で丁寧に合わせ、お辞儀をしながらそう言った。
「ーー大丈夫だ、何の異常もない」
「よかった。それでは急いでおりますので後ほど‥‥‥また」
向こうも同じ高校の生徒だと気付いたのか、そう言い残して颯爽と消えていった。その時、少年ーー高谷暮人の目には彼女がつけていた銀色のブレスレットが目に映る。
ーー銀のブレスレット、代表生か
そして既に見えなくなった同じ目的地を持つであろう彼女の後を追うのであった。
** ** **
1989年、44年間沈黙を保っていたアメリカとロシアの冷戦状態が弾け、世界は第三次世界大戦へと突入した。その後、世界各国は戦争と停滞を繰り返した。
そんな中、2025年世界各地で少年少女が消息不明となる事件が相次いだ。消えた少年少女達の行方を掴めないまま数年が経ったある日、各地で消息不明だった子供達が次々に発見される。そして消えていた少年少女達は口を揃えてこう言ったという
『異世界召喚された』ーーと
最初そう言った子供達に対する世間の目は冷たかった。しかし、その風潮はすぐに一変することとなる。発見された少年少女は理屈で説明できないような、魔法や武技といったおとぎ話の産物を実演してみせたのだ。その力はとても強大で世界各国はこれを軍事利用しようと研究を進めた。
そして、異世界召喚された子供達の体内にはとある物質ーー後にヘルト因子と呼ばれる物質が多く含まれることが分かった。
その後、政府は異世界より生還した子供達の教育機関を設立。そこで異世界で培った力をさらに高め、力の使い方の方向を間違えないよう指導する訳である。その後、歳月が流れ2098年さらなる管理体制の向上を含め、適合者は徐々に数を増し続けた。
そして2098年現在ーー
【異世界召喚】は辞書にも載るような現実の産物と為していたーー
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