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はじまり
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「魔法の学校に行ってみないかい?」
そう話を持ち掛けられたのは、自宅のpcモニターの前だった。
「え? そんな学校があるんですか?」
ぼくは思わず相手に訊き返した。
ビデオ通話の相手――ジョン・バーンズは、にっこりと笑って続ける。
「ああ。いわゆる『魔法』のね。巷で言うような『魔法』とはちょっと違うんだけど。
君、小さいころから魔法に憧れているって、前に言っていただろう。丁度、今度そんなプロジェクトが立ち上がったんだ」
ジョンはぼくの住むニューハンプシャーから遠く離れた首都ニューヨークに住んでいる。彼は心理カウンセラーとして人々のメンタルを整える手助けをする仕事をする一方で、チャネラーとして特別なスピリチュアル相談室を行っていた。
「いつから始まるんですか?」
ぼくは再び尋ねた。今度はやや逸り気味に。
「来年の初夏、こっちの近く――といっても田舎の方だけどね、そこで、小さいけれどみんなで学校を始めるんだ」
みんな、とは、ジョンのスピリチュアルな方の仕事の仲間の事だった。みなサイキック的な能力があったり、チャネリングをしたりとスピリチュアルな仕事を(本業だったり本業とは別にだったり)している人々だった。
確かに彼らなら教師としては事欠かないだろう。
「仲間の中でね、若い子たちにこういうのを伝えていきたいねって話になって、それをとあるメンバーのスポンサーが援助してくれることになったんだ」
にこやかにジョンは話を続ける。
『魔法』の学校。正直今すぐにでも入学したい気持ちでいっぱいだったが、来年の初夏というと、まだ時間がある。なにせまだハロウィンが終わってクリスマスまでのちゅうとはんぱな11月だったから。
「興味、あります。ぜひ入学したいです。なにか試験とか入学条件は――」
逸る気持ちを抑えつつ、いや抑えられてないかもしれないが、ぼくはジョンに訊いた。
「入学条件は今のところティーン限定にしようかって考えているんだ。子供たちのための学校だからね。でも、おいおい大人も入学できるところも作りたいって思ってる。入学試験は特にないけど、一期生はたぶんぼくらの知人が多くなるんじゃないかな」
ジョンは丁寧に答えてくれた。
入学条件はティーンであること・・・クリア。
入学試験、なし・・・クリア。
よし、と心の中でガッツポーズする。
そうそう、忘れちゃいけない。
「学費はどのくらいですか?」
「うーん、まだはっきりとは決めてないんだけど、ひとり年間3000ドルくらいかな?」
2000ドル――大丈夫、それくらいならアルバイトで貯めたお金が口座にある。これもクリア。
「入学します。手続きってできますか?」
まだ校舎を用意したばかりで、教材やらカリキュラムやらが整っていないため、当然、まだ入学申し込みはできないらしかった。気が急いている自分が恥ずかしくなりながらも、来年以降に大きな楽しみができたことが嬉しくてたまらない。
学校、学校、魔法の学校。
嬉しくてついつい顔がにやついてしまう。そうだ、ママとパパにも言っておかないと。
そう思ってぼくは自室を出て、一階にいる両親に話をしに行った。
「魔法の学校?どういうことなの?」
おどろいた母はキッチンから切りかけのハムを持ったままリビングへ出てきた。その顔は楽しそうな話題に興味深々という風だった。
「いわゆる『魔法』のね。ジョンと今ビデオ通話をしていたんだ。今度仲間内で学校を始めるから、そこの一期生にならないかって」
父は席に着いたまま穏やかに僕の話を聞いていた。
「いくらかかるの?」と母が尋ねる。
一年3000ドル。大丈夫、ぼくが自分で出すよ」
「そう。ならいいんじゃない?」
両親は今までぼくが近くのレストランでアルバイトをしていたのをよく知っているのだ。なにせしょっちゅう店に客として来ていたし。
母はもう納得してくれたようだったし、それは父も同じようだった。
話がすぐに通ったことに安心する。
ぼくの家はアメリカの小さな農家だけど、日本人の母と白人系アメリカ人の父の国際結婚家庭だ。母の実家は神社だったし、母自身神社で巫女をしていた経験もある。そのためこういう世界には寛容なのだ。実際、母と父がジョンのクライアントだったからぼくはジョンと知り合ったってわけ。
「いつからなの?」母は質問を続ける。
「来年の初夏、たぶん七月だよ」
「なら卒業に間に合うわね」
母は頷いて、キッチンに戻っていった。ハムハンドを作る途中だったらしい。
来年七月に丁度ぼくは高校を卒業する。大学はまだどこに入るか決めていなかったし、卒業後にしばらく家の手伝いをしながら決めようかと思っていたけど、その必要はなくなった。
今からとてもワクワクしている。卒業が待ち遠しい。そういえば、何か入学準備は必要なのだろうか。教員――ジョンの友人たちとはどんな人たちなのか、クラスメイトはどんな子たちなのかだとか、考え出すと止まらない。逸る気持ちを抑えながら、ぼくはキッチンにいる母を手伝うことにした。
そう話を持ち掛けられたのは、自宅のpcモニターの前だった。
「え? そんな学校があるんですか?」
ぼくは思わず相手に訊き返した。
ビデオ通話の相手――ジョン・バーンズは、にっこりと笑って続ける。
「ああ。いわゆる『魔法』のね。巷で言うような『魔法』とはちょっと違うんだけど。
君、小さいころから魔法に憧れているって、前に言っていただろう。丁度、今度そんなプロジェクトが立ち上がったんだ」
ジョンはぼくの住むニューハンプシャーから遠く離れた首都ニューヨークに住んでいる。彼は心理カウンセラーとして人々のメンタルを整える手助けをする仕事をする一方で、チャネラーとして特別なスピリチュアル相談室を行っていた。
「いつから始まるんですか?」
ぼくは再び尋ねた。今度はやや逸り気味に。
「来年の初夏、こっちの近く――といっても田舎の方だけどね、そこで、小さいけれどみんなで学校を始めるんだ」
みんな、とは、ジョンのスピリチュアルな方の仕事の仲間の事だった。みなサイキック的な能力があったり、チャネリングをしたりとスピリチュアルな仕事を(本業だったり本業とは別にだったり)している人々だった。
確かに彼らなら教師としては事欠かないだろう。
「仲間の中でね、若い子たちにこういうのを伝えていきたいねって話になって、それをとあるメンバーのスポンサーが援助してくれることになったんだ」
にこやかにジョンは話を続ける。
『魔法』の学校。正直今すぐにでも入学したい気持ちでいっぱいだったが、来年の初夏というと、まだ時間がある。なにせまだハロウィンが終わってクリスマスまでのちゅうとはんぱな11月だったから。
「興味、あります。ぜひ入学したいです。なにか試験とか入学条件は――」
逸る気持ちを抑えつつ、いや抑えられてないかもしれないが、ぼくはジョンに訊いた。
「入学条件は今のところティーン限定にしようかって考えているんだ。子供たちのための学校だからね。でも、おいおい大人も入学できるところも作りたいって思ってる。入学試験は特にないけど、一期生はたぶんぼくらの知人が多くなるんじゃないかな」
ジョンは丁寧に答えてくれた。
入学条件はティーンであること・・・クリア。
入学試験、なし・・・クリア。
よし、と心の中でガッツポーズする。
そうそう、忘れちゃいけない。
「学費はどのくらいですか?」
「うーん、まだはっきりとは決めてないんだけど、ひとり年間3000ドルくらいかな?」
2000ドル――大丈夫、それくらいならアルバイトで貯めたお金が口座にある。これもクリア。
「入学します。手続きってできますか?」
まだ校舎を用意したばかりで、教材やらカリキュラムやらが整っていないため、当然、まだ入学申し込みはできないらしかった。気が急いている自分が恥ずかしくなりながらも、来年以降に大きな楽しみができたことが嬉しくてたまらない。
学校、学校、魔法の学校。
嬉しくてついつい顔がにやついてしまう。そうだ、ママとパパにも言っておかないと。
そう思ってぼくは自室を出て、一階にいる両親に話をしに行った。
「魔法の学校?どういうことなの?」
おどろいた母はキッチンから切りかけのハムを持ったままリビングへ出てきた。その顔は楽しそうな話題に興味深々という風だった。
「いわゆる『魔法』のね。ジョンと今ビデオ通話をしていたんだ。今度仲間内で学校を始めるから、そこの一期生にならないかって」
父は席に着いたまま穏やかに僕の話を聞いていた。
「いくらかかるの?」と母が尋ねる。
一年3000ドル。大丈夫、ぼくが自分で出すよ」
「そう。ならいいんじゃない?」
両親は今までぼくが近くのレストランでアルバイトをしていたのをよく知っているのだ。なにせしょっちゅう店に客として来ていたし。
母はもう納得してくれたようだったし、それは父も同じようだった。
話がすぐに通ったことに安心する。
ぼくの家はアメリカの小さな農家だけど、日本人の母と白人系アメリカ人の父の国際結婚家庭だ。母の実家は神社だったし、母自身神社で巫女をしていた経験もある。そのためこういう世界には寛容なのだ。実際、母と父がジョンのクライアントだったからぼくはジョンと知り合ったってわけ。
「いつからなの?」母は質問を続ける。
「来年の初夏、たぶん七月だよ」
「なら卒業に間に合うわね」
母は頷いて、キッチンに戻っていった。ハムハンドを作る途中だったらしい。
来年七月に丁度ぼくは高校を卒業する。大学はまだどこに入るか決めていなかったし、卒業後にしばらく家の手伝いをしながら決めようかと思っていたけど、その必要はなくなった。
今からとてもワクワクしている。卒業が待ち遠しい。そういえば、何か入学準備は必要なのだろうか。教員――ジョンの友人たちとはどんな人たちなのか、クラスメイトはどんな子たちなのかだとか、考え出すと止まらない。逸る気持ちを抑えながら、ぼくはキッチンにいる母を手伝うことにした。
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