GOD EYE-十の秘玉と封印されし魔神-

天樹 一翔

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小さな英雄の誕生

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 緑に囲まれた魔物大国メギラ。そのなかの、とある荒野に堂々とそびえたつ暗黒城。周囲の荒野には、魔物と黒いローブを羽織った数千の屍と、数万の意識を失った魔術師達。これらはたった七人の魔術師達に手によって倒されたのだった。

 しかし、そんな圧倒的な力を持つ魔術師達でさえ勝てない強敵がいる。その暗黒城の中にある一室で戦闘が行われていた。
 
 七人の前に立ちはだかるのは、冷たい眼光で、得意げに口角を吊り上げている、腰くらいまである長い銀髪に、頬から顎にかけて整えた髭を蓄えた、闇よりも深い黒のローブに身を包んだ老人。

「哀れだな。アルレーザの七人の弟子とは言えこの程度か。深手を負った奴に貴様等の首を持っていけばどんな反応するのやら」

「まだだ」

 そう言って立ち上がったのは、銀髪で精悍な顔つきをした190cm前後の男性。黒が基調の戦闘服は、ボロボロにはなっているものの、鋭い目の闘志は消えていなかった。

「流石だな、アルガロス。だが実感しているはずだ。この私には勝てないと」

 長い銀髪の老人はそう言ってアルガロスを嘲笑う。

「貴様を倒さない限り、世界に平和は訪れん」

 口元の血を拭いながら、立ち上がったのは透き通るような水色のバイザーを着けている鷹のような鋭い目を持つ男。

「キルシュ・デルカ・トール。貴様も立ち上がるか。やはりこの中で一番の戦闘狂らしいな。その血に飢えたような目もまだ霞んでいない。闇の支配者ダークルーラーの幹部に相応しい」

「何とでもいえ破壊帝」

「私にはジェラ・ロードゲートという名前がある。破壊帝じゃない」

「ほざけ。先生と同じ名前を名乗るな」

「まるで子供だな」

 すると続くように、200cm以上の巨躯を持ち、頭にターバンを巻いた中年の男、バロガン・パウワ。

 黒が基調の、死装束のようなデザインをした戦闘服を着ており、右手に刀を持つ男、ジェナス。
 
 腰くらいまである長い緑色の髪に、左目の下にあるホクロと白い肌が特徴的で、豊満な胸を持つレヴィ・ビーナス。
 
 緑色の瞳に甘いマスクを持つ金髪の好青年、迅鳴駿聖じんめいしゅんせい

 六人の魔術師たちは立ち上がるが、破壊帝ジェラはその光景を何とも思っていないようだった。ジェラからすれば、この六人の存在は、少し目障りだなと感じるほどで眼中にない。問題なのは、まだ起き上がらない神の能力を持つ者ゴッドホルダーの12歳の少年だった。その少年の名前は神瞳蒼雷しんどうそうらい。数年前に神瞳一族を抹殺したが、この少年だけは殺すことができなかった。殺害する事で、ジェラ自身が神の能力を手に入れようとしたが、失敗に終わった過去がある。この少年の底知れない力は、この七人のなかで最も警戒するべき相手であることは違いない。しかし――。

「小僧はまだ起きないか」

 ジェラのその一言で、アルガロスは後ろを振り向いた。倒れこんでいる蒼雷は一番の重傷だった。黒が基調の戦闘服はボロボロになり、左腕はあらぬ方向に曲がってしまっている。額から血を流したまま気絶している様子だった。

 アルガロスはすぐに視線をジェラに戻した。そして、蒼雷が攻撃を受けたタイミングを思い出す。三分しか持たない蒼雷の能力は、時間をフルに使用する事で長い眠りについてしまう。しかし、今回の場合は能力解放中に気絶したので、使用できる時間はまだ残っている。しかし、与えられたダメージは大きいので、立ち上がる保証がなかった。

 地球が絶望的な状況に陥ったことで呼応するかのように、空が一気に暗くなり、雷雨を降らし始めた。まるで、星そのものが恐怖し、また人類を含めた多くの生物を殺めたことによる怒りを感じているかのようだった。

「みんな分かっているな? ラストアタックだ」

 アルガロスの言葉で五人は頷くと同時に右手をジェラに向けた。そして、先頭に立つアルガロスも同様に右手をジェラに向けた。
 
 ジェラは繰り出される魔法を大方予測している。普通であれば跡形もなく消し飛ぶどころか、国一つ海に沈めることができる魔力が集中している。この六人がジェラに右手を向け、且つ魔力を集中させることによって、轟いている雷の自然エネルギーさえも、六人の力へと変えている。

「いくぞ!」

 アルガロスは藍色の雷、キルシュは緑色の雷、バロガンは赤色の雷、ジェナスは橙色の雷、レヴィは紫色の雷、駿聖は黄色の雷を。六人が一斉に雷のエネルギー波を放つと、六色の雷のエネルギーの広範囲攻撃がジェラに襲い掛かった。

 爆発に巻き込まれないよう、各々魔力のバリアで身を守り、アルガロスは倒れている蒼雷にもバリアを施す役目を果たした。城の天井を突き破り、六人とアルガロスに抱えられながら、気を失っている蒼雷の計七人は魔力浮遊エアで空へと避難し、崩落していく暗黒城を眺めていた。

「終わった――のか?」

 駿聖がそう呟いた瞬間、突如真後ろから嗚咽がこみ上げるような、禍々しく気味の悪い巨大な魔力が感じられた。その影響かどうか定かではないが、大地がみるみる割けていく。同時に人と魔物の屍と、気絶し起き上がることができない全てのジェラの手下たちは、奈落の底へと葬られていった。

 その影響は国全体まで広がり、地殻変動を起こしていたのだった。ジェラが力んで魔力を放出しただけで、強力な災害が発生する。言うまでもなく、世界最強にして最恐の片鱗だ。

呪いの操り人形カースコントロール

 ジェラがそう言って右手を六人に向けると、六人は無抵抗のまま地面に叩きつけられた。六人を追うため、ジェラは地上に降り立った。

「終わりにするか」

 豪雨にも関わらず、意識朦朧としている六人に向けられたジェラの冷たい声はやけに響き、一人の少年を立ち上がらせるキッカケになった。

「いい加減にしろ」

 ジェラよりも冷たい低い声は、とても12歳の少年とは思えない凄みも含まれていた。また、綺麗な蒼色の瞳には憎しみしか映っていなかった。

「意識を失っていたときは薄い茶色の瞳だったが、神の瞳を発動させてまた蒼色の瞳に変色したか。それに雷も纏っている。貴様の能力は分かりやすいな」

 ジェラのその言葉に聞く耳も持たない蒼雷。ジェラが右手を向けるも――。

「おかしい。さっき効いた呪いの操り人形カースコントロールが発動しない。いや――今のコイツは効かないほどの魔力を持っているのか」

 ジェラがそう冷静に解析していると、蒼雷は右拳を握りジェラを睨めつける。

「俺以外の一族皆を殺し、ロードゲート先生や、アルガロスさん達を傷つけ、魔法省の大臣を始め、無関係なたくさんの人の命を奪った……お前だけは――お前だけは許さない!!!」

 蒼雷は怒号と共に強烈な魔力の嵐を飛ばした。その強力さゆえ、ジェラですら片目を開けることでやっとのようだ。

「認めよう。私とアルレーザがこの世にいなければお前が世界最強だ!」

 刹那、ジェラの頬に蒼雷の拳がクリーンヒットした。ジェラは吹き飛ぶことなくその場で踏みとどまるが、口元から血を流していた。

「私に血を流させるとは大した小僧だ。それでこそ神の能力を持つ者ゴッドホルダー――いいだろう、ならこの魔法を受け止めてみよ」

 ジェラは魔力浮遊エアを使い空から蒼雷を見下ろす。そして、右手に邪悪で禍々しい魔力が集まっていくと、次第にその魔力は球状へと変わっていく。

その強大な魔力を前にして、蒼雷は心なしか一歩下がってその様子を伺っていた。

「残念ながら私は、超攻撃的型の固有魔法ユニークマジックを持っていない。だから通常魔法の最上位の闇魔法を披露してやろう。もし避けたところでこの辺りは巨大な爆発に呑まれ、この地は跡形もなく吹き飛ぶだろう。当然、そこに倒れている六人の命もない。なら、方法は一つしかないだろ?」

 蒼雷にはその言葉の真意が分かっていた。ジェラは魔法を撃って止めるしか方法は無いぞと言っている。この絶望的状況を打破できる魔法が一つだけ残されていた。しかし、成功するかどうか分からない。他の魔法で対抗するべきかを悩んでいた。

「やるしかない。どうせ他の魔法で対抗して死ぬのなら賭けてみるしか――」

 蒼雷の右手には猛々しく、圧倒的なパワーを感じる魔力と、神々しく、全てを包み込むような穏やかな魔力が集中していく。

「この魔力の感じは雷属性と光属性を複合させた固有魔法ユニークマジックか――。それを扱える者が私と兄以外ではいたとは――面白い」

 蒼雷は青い雷と光の魔力が混じった高密度の魔力の集合体の魔法を発現させた。掌サイズのその魔法は、数十センチほどの大きさしかない。対してジェラの闇の魔力の集合体は、数メートルほどの大きさにまで膨れ上がっていた。

「ダークジェノサイドボール」

 ジェラはそう言葉を放ったと同時に、闇の魔力の集合体を放った。音速で向かっていくその集合体だが、蒼雷は神の瞳ゴッドアイの能力により、襲い掛かってくるのがコマ送りに見えている。ゆっくりと深呼吸した後――。

星屑の玉スターダストボール!」

 蒼雷はそう叫びながら投げた青い雷と光の高密度の魔力の集合体。ジェラが放った魔法と衝突するや否や、数メートルある魔法を吸収していく。

「そんな馬鹿げた魔法があってたまるか。魔法とは本来、術者の魔力量によって威力や質が変化する。私のほうが魔法に込めた魔力が圧倒的に上――いや、吸収しているうえに、魔力の質が変わっている……」

 ジェラは宙で後ずさりをして、冷や汗を流し始めた。

 対して、蒼雷が放った魔法はジェラの魔法を吸収し終えた後、光の速さで飛んでいき、そのままジェラに直撃。

 断末魔と共に、破壊帝ジェラの魔力は完全に消滅した。

 蒼雷はそのまま倒れ深い眠りについた。ジェラとの激闘の末、戦った七人は七色の操雷者アルレーズと呼ばれ世界から賞賛された。しかし、その七人の顔、名前が世の中に大々的に発表されることはなく、一つの伝説として語り継がれた。


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