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力の片鱗
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翌朝、蒼雷と玲は通常通りに学校に通った。玉を取られてしまった今。次の在り処が分からない限り下手に動かないという判断だ。
「ソワソワするな。あんなことが起きてしまったのに何もできないって」
机の上で体をぐったりさせている蒼雷に、まあまあと言わんばかりに隣の席から慰める玲。
「まあ場所も分からないんじゃ動いても意味ねえもんな。魔法省に任せるしか方法はないのか」
蒼雷が大きくため息をつくと同時に教室の扉が開いた。
「みんな席につけ」
駿聖がそう言って教室に入ってくると、生徒たちは各々席につく。
「今日は転入生を紹介する。入ってきてくれ」
駿聖の声で入ってきてきたのは、アッシュグレーの長い髪に雪のような白い肌をしている。華奢な体と相まって豊満な胸を持っている。
クラスの男子はおおと前のめりになり、女子はその抜群なプロポーションに見とれて、両手を合わせて羨んでいる。
「それじゃあ自己紹介を宜しく」
「はい先生」
駿聖のその言葉に満面の笑みを浮かべた後、胸を撫でおろし呼吸を整えて口を開いた。
「白川雪菜です。宜しくお願いします」
雪菜がそう言って笑みを浮かべると、クラスの男子全員が総立ちして歓声をあげた。そんな男どもを見てうるさいと言わんばかりに不愉快そうな表情をしている女子達。
「玲ちゃんと雪菜ちゃんがいるクラスなんて、なんて幸せなんだ!」
「神様、仏様、女神様!」
歓声が止まない状況で雪菜も困った表情を見せる。駿聖は苦笑いをしながら、右手の指に雷を走らせる。
「お前たちいい加減にしろ!」
教室中に微弱な雷が走ると、男子たちは静まり返った。
「相変わらずおっかねえな」
「先生容赦ないね。それにしても、あの白川さんもの凄い魔力じゃない?」
「何だ。気付いていたのか。腕を上げたな玲」
「お、やっぱり当たっていたんだ」
玲はそう言いながら親指を立てた。
「何者かわからねえから警戒する必要があるな」
蒼雷はそう言った後に雪菜の方に視線を向けると、雪菜は蒼雷に向けて笑みを浮かべた。蒼雷は「え?」と首を傾げる。
「じゃあ、白川を休み時間に学校を案内してほしいのだが」
駿聖のその言葉に男性陣は挙手をしてアピールする。駿聖はため息をつきながら小声で「始めから決まっているのに」と呟く。
「神瞳と水野が案内してくれ」
駿聖の真っ直ぐな瞳に蒼雷は「なんで」と呟く。
「何かあるんじゃないのかな? 私達を指名するってことは」
「まあ、そうかもな。駿聖のあの瞳は頼んだぞって瞳だ。問題起きなければいいけどな」
「大丈夫だよ」
蒼雷は右人差し指でこめかみを押しながら、間をあけて口を開いた。
「そうだな。敵をこの学校入れるわけないし。得体のしれない人間をもちろん入れるわけがない。とすると、味方側の何者かになるよな」
「なら、本人に訊いてみる?」
「だな」
雪菜の紹介が終わると、蒼雷の前の席に座った。雪菜は宜しくと言って、蒼雷と玲に微笑みかけた。
授業が終わると蒼雷、玲、雪菜はさっそく廊下に出た。
「まずは自己紹介だな。俺は神瞳蒼雷。感じていると思うが、俺には魔力が無い。取柄は身体能力が高いくらいかな。宜しく!」
蒼雷はそう言って手を差し伸べた。雪菜はそれに応じて手を差し出し、互いに笑顔で握手を交わした。
「私は水野玲です。得意な魔法は水属性。特に防衛魔法が得意です。宜しくお願いします」
玲はそう言って一礼した後、手を差し伸べた。
「水野財閥のご令嬢ですよね。宜しくお願いします」
雪菜はそう言いながら手を差し伸べ玲と互いに握手をした。その後、各学年の校舎や図書館、食堂などを案内し、最後は実践演習場の案内となった。
「ここが実践演習場なんだね」
「そうだ」
蒼雷がそう言って頷くと、雪菜は深呼吸した後に口を開いた。
「神瞳くん。ここで一度手合わせをしてほしいのだけど」
「――あんまり気乗りじゃないだけどな。それに俺には魔力が無い。肉弾戦で戦うことになるけど」
「私は訳あって、神瞳くんが七色の操雷者ということ知っているの。大丈夫、今の段階だと怪しまれるかもしれないけど、あなた達の敵ではないということは断言できる」
「敵じゃないことはわかる。校長先生や駿聖が敵をわざわざ入れるわけないからな。それに最近ゴタゴタしているから警戒心も強いはずだ。けど、戦う目的はなんだ?」
蒼雷が頭をかきながらそう言うと、雪菜はしばらく考えたあと、仕方ないかと言わんばかりに肩を落とした。
「一度実力をみてみたいの。魔法省の人間として」
「その魔法省の人間がわざわざ学校に足を運んできた理由は?」
「任務は神瞳くんの支援。魔法省には秘密部隊があって、その秘密部隊の一人がこの私。なので、任務の一環には学校の生徒となり、神瞳くんの護衛兼支援も含まれているの。神瞳くん、不知火くん、水野さんが属性玉を取りにいくのであれば私もついていく。一人の戦力としてね」
雪菜は真っすぐな瞳をしながら蒼雷を見つめた。蒼雷はそれに負けじと雪菜を見つめてみたが、とても嘘をついているようには思えなかった。
「嘘じゃないことは分かったよ。けど、魔法省となるとどれくらいの実力をもっているかだな。正直、アリアスさん、コレイアさん、クレイヴァーさんでは話にならなかった。他の人から見ればいい勝負をしていたかもしれない。ただ、闇の支配者の構成員は余力があるようだった」
「一応、戦闘は見させてもらったよ。スペルダーが出てきていたから、私がいたとしても正直力になることはできなかったと思う。けれども、今回の戦闘で分かったことは三人では圧倒的に不利な状況を生んでしまう。一人でも多いほうがいいいでしょ? それに、闇の支配者の構成員と同等以上の実力があることは自信をもって言える」
「じゃあ、魔力を最大限まで高めてくれないか?」
「それはちょっと――私の存在は機密で、校長先生と迅鳴先生しか知らないから、正直魔力が漏れてしまうのはマズい――」
雪菜は申し訳なさそうに顔を伏せた。
「いや問題ねえよ」
蒼雷があっけらかんと放った一言に、雪菜は首を傾げる。
「玲、できるか?」
「お任せあれ!」
玲は満面の笑みを浮かべながら陽気に返事した後、両手を天に翳す。
「マジックアウト」
玲がそう呟くと、掌から薄い水色の煙のようなものが現れた。やがてその煙のような気体はちいさなドームの結界を生み出す。
「これはなに?」
雪菜は蒼雷、玲の順番に目線を合わせる。
「魔力が漏れないよう結界を展開したの。まあ実戦ではあまり使わないんだけどね」
玲が照れながらそう言うと、雪菜は凄いと声を漏らしていた。
「な? これで心置きなく魔力を解放できるだろ?」
蒼雷が得意げにそう言うと、信頼を得るためには仕方ないと、雪菜は割り切った表情を見せた。
目を瞑りながら小さく深呼吸をした後、目を開き、鋭い眼光を飛ばしながら魔力を一気に解放した。ドーム内いる蒼雷と玲は解放した魔力の嵐を肌で感じ、各々感想を述べた。
「炎神の瞳の発動時の不知火より上か。戦力としては申し分ない。属性に関しては珍しいな。氷属性が一番得意なのか」
対して玲は「同い年なのに凄い」と呟く。雪菜に関しては、魔力だけで得意属性を当てられたことに驚きを隠せない。雪菜は魔力の解放を止めて蒼雷に問いかけた。
「なんで属性わかったの?」
その質問に呆気をとられる蒼雷。
「え? 分からないのか?」
うんうんと激しく首を振る雪菜。もちろん玲も首を振っている。
「前提として魔力ってのは色々な表情がある。その人の性格が垣間見れるのはわかるよな? 玲はスペルダーの魔力を感じてどう思った?」
玲はそう言われるとあの時の恐ろしく大きな、禍々しい魔力を思い出した。胸を締め付けるような重圧だった。
「支配力に満ちていて禍々しかった。でもほんの少しだけ、包み込むような温かさがあった」
「その通り、実は禍々しいってのは闇属性をメインで使う人の特徴なんだ」
「あ。そう言えばザギロスって人も禍々しかった」
「そうなんだよ。意外と共通できる感じ方が魔力にはこめられているんだ。で、白川さんの魔力はというと、色々な逆境を乗り越えたから生まれる強い信念のなかに、どこか冷たさが感じることができる。氷属性ってのは冷たさを考えることができるんだけど、なかには性格が冷酷で残酷を意味するときもある。だが、白川さんの魔力は非常に安定しているから氷属性が得意なのかって思ったのさ」
「すご――」
玲がそう言うと、蒼雷が少し困惑した。
「とはいってもあくまでこれは目安だ。百発百中ではない。俺、闇の支配者の幹部が勢揃いしていたとき、言う程焦っていなかっただろ?」
「確かに」
「魔力で性格や現在の目的や、過去の生き方が分かるから、焦っていなかったんだ。たまたま俺達と対峙しているだけで、互いに本気でぶつかれば、軌道修正できると思っているんだ。魔力ってのは手相占いみたいな感じかな」
「凄いね。魔法省に入っているのにそんな重要な情報知らなかった」
「おいおい大丈夫か魔法省」
「うちには魔力を数値化できる能力者がいるから、必要なかったのかもしれない」
「なるほどな。どうだ? 今の説明を聞いて何となく分かったか?」
「いや、やってみないことには――」
と、声を揃えて玲と雪菜は自信なさげに言った。
「ああ――それはそうだな」
蒼雷は申し訳なさそうにそう応えるとこう続けた。
「まあ分からなかったら、いつでも答え合わせしにきてくれ。俺は9割くらい当たっているから」
「訓練だね!」
玲はよしと気合を入れたと、なぜか雪菜に両手を差し出した。雪菜は戸惑いながらも玲の両手を軽く数秒握った。その後、雪菜は蒼雷に向かって口を開く。
「どう? さっきの魔力開放を感じて肉弾戦で戦う?」
「思った以上だったから流石にキツいか。しゃあねぇ――」
蒼雷は面倒くさそうにそう言うと、こう述べた。
「全てを見通す眼。全てに適応する眼。全てを支配する眼を備えし瞳。聖霊、光神セイレーンよ我に力を与え給え。発動、神の瞳」
蒼雷は青色の雷を纏い、両方の瞳は薄めの茶色から蒼色に変色した。同時に解き放たれた魔力の嵐は、ただならぬ
重圧と、猛々しさが出ている。かつてないほどの膨大な量で、玲の結界を破り、部屋全体が地震のような横揺れを起こす。
玲と雪菜が呆然としているなか、蒼雷は意外な展開に慌てて能力を解除した。しかし、結界を破ってしまった結果は変わらない。当然、いきなり規格外の魔力を解放すれば奴がやってくる。
「何事だ!」
実践演習場の門が勢いよく開けられた同時に入室してきたのは夜炎と駿聖。二人とも声を揃えていたので、蒼雷は思わず笑みが零れる。ただ、駿聖まで入ってきたのは蒼雷にとっては驚きの対象であった。
一方、玲と雪菜は「笑っている場合じゃないでしょ」と言わんばかりの表情を、蒼雷に向けていた。
夜炎と駿聖は蒼雷に駆け寄るなり、説明を促した。
「悪りぃ。能力発動したら魔力がエラいことになった」
軽く説明する蒼雷に、夜炎は心なしか顔をしかめていた。それを横目に見ていた雪菜が説明を加えた。
「私が、神瞳くんの実力がどんなものか少し興味があったから、それに応じて能力を発動してもらいました。そしたら、ちょっと想像の遥か上で――」
雪菜が説明を咥えながら少し濁すと、次は玲が口を開く。
「スペルダーと戦っていたパパより魔力が上だったかも。というか、あの時のスペルダーより上だった可能性が――」
「本当か?」
駿聖の問いかけに、はいと応える夜炎。もちろん、あの時スペルダーが全力を出す前に、龍騎が魔力が封じてしまったため、闇の支配者は撤退した。そのためスペルダーの全力の魔力がどれほど大きいものか推測はできないが、あのときのスペルダーを明らかに超えていた。夜炎は破壊帝を倒した七色の操雷者の神瞳蒼雷の片鱗を感じることができ、思わず武者震いをした。
「一瞬で解除して正解だったな。さっきの魔力で戦えばだいぶ寝込んだな」
そう両手を見ながら呟く蒼雷に駿聖は肩を叩き、笑顔で言った。
「あのときに近付いたな。俺もまともにやりあうと厳しいレベルだ」
「光の速さで動く人間がよく言うよ。駿聖には攻撃当たらないもん」
と、少し拗ねたように返す蒼雷にはどこか弟感が出ていた。その返答に呑気に笑いながら、それもそうかと返す。
「で、一人知らない魔力と匂いがあるのだが誰だ?」
あっと声を漏らす蒼雷、玲、駿聖。しかし雪菜は躊躇なく切り出した。
「私は名前は白川雪菜です。これから私も属性玉の取得には同行するので、宜しくお願いします」
雪菜はそう言って一礼する。
「俺は不知火夜炎だ宜しく。白川も相当な達人のようだな、それに明らかに死線を潜ってきているようだな」
え? 超能力者? と玲に向かって語りかけるが私に言われてもと困惑した表情を浮かべている。
「死線を潜ったというほど、たいそうな事はしてないけど、魔法省の人間だよ」
「神瞳と戦おうとしたようだが、魔力の差にそれどころではなかったようだな。闘争心が消え切っていないようだ。俺と勝負しないか?」
雪菜はまたしても超能力者か! と思わず言いたくなったが、心のなかでは盛大にツッコム。魔法省で目を通した通りの情報だ。能力の代償で目が見えていない分、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされているため、本能が見透かされてしまう。
「逃げ場なしということか」
雪菜はそう呟いた後、魔力を再び解放する。その魔力を感じた夜炎は口角を吊り上げる。
「全ての者を屍に変える眼。全てを焼き尽くす眼を備えし瞳よ、今こそ開眼する時だ。聖霊、炎神デューオよ我に力を与え給え。発動、炎神の瞳」
盲目だった夜炎の目は開眼し、金赤色の鷹のような鋭い瞳を宿し、体中には漆黒の炎を纏っている。その炎に身を包む夜炎の姿は、炎の邪神のよう。先程、蒼雷が解き放った魔力はまた別次元ではあったが、夜炎の放つ魔力の大きさは雪菜の魔力とさほど変わらない。しかし、迫力が圧倒的に違う。
「これが炎神の瞳――神の力」
「いくぞ」
雪菜が夜炎の姿に圧倒されていると、目の前にいた夜炎はその場から姿を消した。関心している場合ではないとスイッチを切り替えて神経を研ぎ澄ます。
「手刀――」
背後の気配を感じ取った雪菜は咄嗟に屈んだ。夜炎が繰り出した手刀は空振りに終ると、雪菜は両足に重心を蓄えて、頭上にいる夜炎に向かって、部位魔法を宿し、拳を力強く振り上げた。
10メートルほど飛んだだろうか。夜炎はその地点で魔力浮遊でピタリと止まる。夜炎は不敵な笑みを浮かべている。両手で拳を受け止めていたからだ。ただし、少しだけその手には少し赤みが出ている。
「なかなかの威力だったぞ」
そう言いつつ右手に魔力を集中させる夜炎。次第に右手の掌の上には漆黒の炎の球体が浮かんだ。
「フレイムバースト」
球体から漆黒の炎が一気に噴出。
「いつも通りの攻め方だな。恐らくあれもくる」
蒼雷がそう言った同時に夜炎は次の魔法を準備していた。人差し指の指の背を地面に向けて、奥から手前へ指をクイッと動かす。
「フレイムボルテックス」
何本もの黒い火柱が出現。
強烈な二つの魔法を二連続で繰り出した夜炎だったが、雪菜はそれに全く動じず、両手を地面に大きく叩きつける。
すると水のドームが雪菜を包み込んだ。勿論水の防御魔法を発動したことにより、夜炎の魔法は消滅するかと思われたが、策を悟られまいと詠唱破棄で発動したため、水の壁の厚みも大きさ本来と比較して少ない。故に夜炎の漆黒の炎で、雪菜が展開した水魔法が蒸発している。
「ちょっとそれは予想外。詠唱破棄だからといって、火属性の魔法に負けるほど、私の水魔法はヤワじゃないんだけどな」
雪菜は想像以上の威力に焦りを見せる。
「私の水じゃ分が悪いかな」
思わず苦笑を浮かべる。魔力の大きさは変わらない。寧ろ雪菜のほうが上回っている。だからと言って、水の魔法が、火の魔法に負けていい筈が無い。
雪菜が魔力を右手に集中させると氷の結晶が形成されていく。やがてそれは先端が鋭利になり槍のような形をした三メートルほどの氷柱が出現。
数秒後、水が完璧に蒸発した同時に右手を大きく振りかぶる。
「アイススピア!」
詠唱と同時に投げると、雪菜の氷柱槍は、サイズが少し小さくなりながらも、夜炎のフレイムボルテックスを音速で飛び抜け、フレイムバーストを相殺。そして夜炎の腹部を貫通した。
その光景に思わず両手で口元を覆う玲。しかし、蒼雷と駿聖は平然としている。
「よし!」
と、雪菜が声を上げるも、氷柱槍に刺さった夜炎が炎となり姿を消した。
「悪いがそれは偽物だ」
夜炎の低い声が後ろから聞こえ、振り返ったと同時に、雪菜の左脇腹に夜炎の右足が入る。
当然の如く、雪菜は吹き飛ばされてしまう。しかし夜炎の攻撃は止まらない。吹っ飛んでいく雪菜を追い越し、拳を構える夜炎。
しかし夜炎の拳は小さな水の壁に飲み込まれた。雪菜は魔力浮遊で急ブレーキをかけて態勢を戻す。
「水の壁か」
そう呟きながらも夜炎は少し焦っていた。白川雪菜という強敵を前にして、能力解放時での体力消耗は激しい。蒼雷と違い、倒れてしまうことはないものの、能力なしで勝てる生温い相手ではないからだ。
どうする――。
それが夜炎の率直な感想だった。
一方、雪菜も相性の悪い相手をしていることから焦っていた。それにこの焦りが相手に気付かれてしまっていると考えると、尚焦ってしまう。余裕の表情を見せたいところではあるが、表情の嘘はつけても脈の嘘はつけない。対して夜炎は、神の能力を使っている故の、体力消耗が激しいにも関わらず、その底を見せない圧倒的なポーカフェイス。いや――それとも余力を残しているのか。
少し不安に陥りながらも二人が共通していることがあった。それは楽しい! という感情だ。二人は自然と笑みが零れていた。
「持ち直したか」
「本当、戦い辛いね」
夜炎が拳を振るったと同時に、雪菜は大きく数メートルほど跳んで後退した。
「アイスバーン」
雪菜がそう言って地面に両手をつけると辺りの荒野が凍結した。夜炎は氷の荒野に足元を固定され動けなくなる。
「アイスナイフ」
雪菜が右手を左から右へと振ると、ナイフの形をした氷が十本ほど出現し、そのまま身動きがとれない夜炎を襲う。
全ての氷のナイフは夜炎の体に刺さった。部位魔法で体を硬化させたものの、夜炎の体力を奪うには十分な攻撃だった。
「残念だな」
雪菜は夜炎の言葉に怪訝な顔を見せる。ふと夜炎の足元を見ると、ナイフで出血した血が漆黒の炎へと姿を変えて、氷を溶かしていた。
「血という代償を払ったんだ。溶けなければ困る」
夜炎はそう言いながら、右手を銃の形にして雪菜に向けた。
「フレアレーザー」
銃の形をした手の親指を少し上に傾けると、雪菜は漆黒の炎に包まれた。もがき苦しむ雪菜の姿を見て、駿聖は雪菜を炎から救い出した。
それを見た夜炎は思わず凝視する。駿聖は夜炎の炎に飛び込んだにも関わらず火傷どころか服すら燃えていない。これもまた、七色の操雷者の一員の強さかと心から敬服した。
「大丈夫か? 白川」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「白川の負けだ。相性が悪かったな」
駿聖がそう言うと、雪菜は少し不貞腐れてしまう。
「確かに負けましたけど」
一方、夜炎は能力を止めて盲目に戻った。
「傷は大丈夫?」
そう言いながら玲は夜炎に駆け寄る。
「これくらい大丈夫だ。まあ医務室に行く必要はあるな。少しだけ痛む」
「お前結構刺さっていたぞ? タフだな」
蒼雷は少し呆れたように言い放った。それに対して夜炎は当たり前だと言わんばかりに、ほんの僅かだが口角が上がっていた。
「お前、今ドヤ顔しただろ」
「いや、してないが?」
蒼雷と夜炎は再びそう言い合い、子供のような喧嘩を始めた。そこにいつも通り割って入る玲。雪菜と駿聖はその光景を眺めている。
「どうだ? 仲良くやれそうか?」
「はい!」
雪菜はそう言って駿聖に満面の笑みを見せた。
「ソワソワするな。あんなことが起きてしまったのに何もできないって」
机の上で体をぐったりさせている蒼雷に、まあまあと言わんばかりに隣の席から慰める玲。
「まあ場所も分からないんじゃ動いても意味ねえもんな。魔法省に任せるしか方法はないのか」
蒼雷が大きくため息をつくと同時に教室の扉が開いた。
「みんな席につけ」
駿聖がそう言って教室に入ってくると、生徒たちは各々席につく。
「今日は転入生を紹介する。入ってきてくれ」
駿聖の声で入ってきてきたのは、アッシュグレーの長い髪に雪のような白い肌をしている。華奢な体と相まって豊満な胸を持っている。
クラスの男子はおおと前のめりになり、女子はその抜群なプロポーションに見とれて、両手を合わせて羨んでいる。
「それじゃあ自己紹介を宜しく」
「はい先生」
駿聖のその言葉に満面の笑みを浮かべた後、胸を撫でおろし呼吸を整えて口を開いた。
「白川雪菜です。宜しくお願いします」
雪菜がそう言って笑みを浮かべると、クラスの男子全員が総立ちして歓声をあげた。そんな男どもを見てうるさいと言わんばかりに不愉快そうな表情をしている女子達。
「玲ちゃんと雪菜ちゃんがいるクラスなんて、なんて幸せなんだ!」
「神様、仏様、女神様!」
歓声が止まない状況で雪菜も困った表情を見せる。駿聖は苦笑いをしながら、右手の指に雷を走らせる。
「お前たちいい加減にしろ!」
教室中に微弱な雷が走ると、男子たちは静まり返った。
「相変わらずおっかねえな」
「先生容赦ないね。それにしても、あの白川さんもの凄い魔力じゃない?」
「何だ。気付いていたのか。腕を上げたな玲」
「お、やっぱり当たっていたんだ」
玲はそう言いながら親指を立てた。
「何者かわからねえから警戒する必要があるな」
蒼雷はそう言った後に雪菜の方に視線を向けると、雪菜は蒼雷に向けて笑みを浮かべた。蒼雷は「え?」と首を傾げる。
「じゃあ、白川を休み時間に学校を案内してほしいのだが」
駿聖のその言葉に男性陣は挙手をしてアピールする。駿聖はため息をつきながら小声で「始めから決まっているのに」と呟く。
「神瞳と水野が案内してくれ」
駿聖の真っ直ぐな瞳に蒼雷は「なんで」と呟く。
「何かあるんじゃないのかな? 私達を指名するってことは」
「まあ、そうかもな。駿聖のあの瞳は頼んだぞって瞳だ。問題起きなければいいけどな」
「大丈夫だよ」
蒼雷は右人差し指でこめかみを押しながら、間をあけて口を開いた。
「そうだな。敵をこの学校入れるわけないし。得体のしれない人間をもちろん入れるわけがない。とすると、味方側の何者かになるよな」
「なら、本人に訊いてみる?」
「だな」
雪菜の紹介が終わると、蒼雷の前の席に座った。雪菜は宜しくと言って、蒼雷と玲に微笑みかけた。
授業が終わると蒼雷、玲、雪菜はさっそく廊下に出た。
「まずは自己紹介だな。俺は神瞳蒼雷。感じていると思うが、俺には魔力が無い。取柄は身体能力が高いくらいかな。宜しく!」
蒼雷はそう言って手を差し伸べた。雪菜はそれに応じて手を差し出し、互いに笑顔で握手を交わした。
「私は水野玲です。得意な魔法は水属性。特に防衛魔法が得意です。宜しくお願いします」
玲はそう言って一礼した後、手を差し伸べた。
「水野財閥のご令嬢ですよね。宜しくお願いします」
雪菜はそう言いながら手を差し伸べ玲と互いに握手をした。その後、各学年の校舎や図書館、食堂などを案内し、最後は実践演習場の案内となった。
「ここが実践演習場なんだね」
「そうだ」
蒼雷がそう言って頷くと、雪菜は深呼吸した後に口を開いた。
「神瞳くん。ここで一度手合わせをしてほしいのだけど」
「――あんまり気乗りじゃないだけどな。それに俺には魔力が無い。肉弾戦で戦うことになるけど」
「私は訳あって、神瞳くんが七色の操雷者ということ知っているの。大丈夫、今の段階だと怪しまれるかもしれないけど、あなた達の敵ではないということは断言できる」
「敵じゃないことはわかる。校長先生や駿聖が敵をわざわざ入れるわけないからな。それに最近ゴタゴタしているから警戒心も強いはずだ。けど、戦う目的はなんだ?」
蒼雷が頭をかきながらそう言うと、雪菜はしばらく考えたあと、仕方ないかと言わんばかりに肩を落とした。
「一度実力をみてみたいの。魔法省の人間として」
「その魔法省の人間がわざわざ学校に足を運んできた理由は?」
「任務は神瞳くんの支援。魔法省には秘密部隊があって、その秘密部隊の一人がこの私。なので、任務の一環には学校の生徒となり、神瞳くんの護衛兼支援も含まれているの。神瞳くん、不知火くん、水野さんが属性玉を取りにいくのであれば私もついていく。一人の戦力としてね」
雪菜は真っすぐな瞳をしながら蒼雷を見つめた。蒼雷はそれに負けじと雪菜を見つめてみたが、とても嘘をついているようには思えなかった。
「嘘じゃないことは分かったよ。けど、魔法省となるとどれくらいの実力をもっているかだな。正直、アリアスさん、コレイアさん、クレイヴァーさんでは話にならなかった。他の人から見ればいい勝負をしていたかもしれない。ただ、闇の支配者の構成員は余力があるようだった」
「一応、戦闘は見させてもらったよ。スペルダーが出てきていたから、私がいたとしても正直力になることはできなかったと思う。けれども、今回の戦闘で分かったことは三人では圧倒的に不利な状況を生んでしまう。一人でも多いほうがいいいでしょ? それに、闇の支配者の構成員と同等以上の実力があることは自信をもって言える」
「じゃあ、魔力を最大限まで高めてくれないか?」
「それはちょっと――私の存在は機密で、校長先生と迅鳴先生しか知らないから、正直魔力が漏れてしまうのはマズい――」
雪菜は申し訳なさそうに顔を伏せた。
「いや問題ねえよ」
蒼雷があっけらかんと放った一言に、雪菜は首を傾げる。
「玲、できるか?」
「お任せあれ!」
玲は満面の笑みを浮かべながら陽気に返事した後、両手を天に翳す。
「マジックアウト」
玲がそう呟くと、掌から薄い水色の煙のようなものが現れた。やがてその煙のような気体はちいさなドームの結界を生み出す。
「これはなに?」
雪菜は蒼雷、玲の順番に目線を合わせる。
「魔力が漏れないよう結界を展開したの。まあ実戦ではあまり使わないんだけどね」
玲が照れながらそう言うと、雪菜は凄いと声を漏らしていた。
「な? これで心置きなく魔力を解放できるだろ?」
蒼雷が得意げにそう言うと、信頼を得るためには仕方ないと、雪菜は割り切った表情を見せた。
目を瞑りながら小さく深呼吸をした後、目を開き、鋭い眼光を飛ばしながら魔力を一気に解放した。ドーム内いる蒼雷と玲は解放した魔力の嵐を肌で感じ、各々感想を述べた。
「炎神の瞳の発動時の不知火より上か。戦力としては申し分ない。属性に関しては珍しいな。氷属性が一番得意なのか」
対して玲は「同い年なのに凄い」と呟く。雪菜に関しては、魔力だけで得意属性を当てられたことに驚きを隠せない。雪菜は魔力の解放を止めて蒼雷に問いかけた。
「なんで属性わかったの?」
その質問に呆気をとられる蒼雷。
「え? 分からないのか?」
うんうんと激しく首を振る雪菜。もちろん玲も首を振っている。
「前提として魔力ってのは色々な表情がある。その人の性格が垣間見れるのはわかるよな? 玲はスペルダーの魔力を感じてどう思った?」
玲はそう言われるとあの時の恐ろしく大きな、禍々しい魔力を思い出した。胸を締め付けるような重圧だった。
「支配力に満ちていて禍々しかった。でもほんの少しだけ、包み込むような温かさがあった」
「その通り、実は禍々しいってのは闇属性をメインで使う人の特徴なんだ」
「あ。そう言えばザギロスって人も禍々しかった」
「そうなんだよ。意外と共通できる感じ方が魔力にはこめられているんだ。で、白川さんの魔力はというと、色々な逆境を乗り越えたから生まれる強い信念のなかに、どこか冷たさが感じることができる。氷属性ってのは冷たさを考えることができるんだけど、なかには性格が冷酷で残酷を意味するときもある。だが、白川さんの魔力は非常に安定しているから氷属性が得意なのかって思ったのさ」
「すご――」
玲がそう言うと、蒼雷が少し困惑した。
「とはいってもあくまでこれは目安だ。百発百中ではない。俺、闇の支配者の幹部が勢揃いしていたとき、言う程焦っていなかっただろ?」
「確かに」
「魔力で性格や現在の目的や、過去の生き方が分かるから、焦っていなかったんだ。たまたま俺達と対峙しているだけで、互いに本気でぶつかれば、軌道修正できると思っているんだ。魔力ってのは手相占いみたいな感じかな」
「凄いね。魔法省に入っているのにそんな重要な情報知らなかった」
「おいおい大丈夫か魔法省」
「うちには魔力を数値化できる能力者がいるから、必要なかったのかもしれない」
「なるほどな。どうだ? 今の説明を聞いて何となく分かったか?」
「いや、やってみないことには――」
と、声を揃えて玲と雪菜は自信なさげに言った。
「ああ――それはそうだな」
蒼雷は申し訳なさそうにそう応えるとこう続けた。
「まあ分からなかったら、いつでも答え合わせしにきてくれ。俺は9割くらい当たっているから」
「訓練だね!」
玲はよしと気合を入れたと、なぜか雪菜に両手を差し出した。雪菜は戸惑いながらも玲の両手を軽く数秒握った。その後、雪菜は蒼雷に向かって口を開く。
「どう? さっきの魔力開放を感じて肉弾戦で戦う?」
「思った以上だったから流石にキツいか。しゃあねぇ――」
蒼雷は面倒くさそうにそう言うと、こう述べた。
「全てを見通す眼。全てに適応する眼。全てを支配する眼を備えし瞳。聖霊、光神セイレーンよ我に力を与え給え。発動、神の瞳」
蒼雷は青色の雷を纏い、両方の瞳は薄めの茶色から蒼色に変色した。同時に解き放たれた魔力の嵐は、ただならぬ
重圧と、猛々しさが出ている。かつてないほどの膨大な量で、玲の結界を破り、部屋全体が地震のような横揺れを起こす。
玲と雪菜が呆然としているなか、蒼雷は意外な展開に慌てて能力を解除した。しかし、結界を破ってしまった結果は変わらない。当然、いきなり規格外の魔力を解放すれば奴がやってくる。
「何事だ!」
実践演習場の門が勢いよく開けられた同時に入室してきたのは夜炎と駿聖。二人とも声を揃えていたので、蒼雷は思わず笑みが零れる。ただ、駿聖まで入ってきたのは蒼雷にとっては驚きの対象であった。
一方、玲と雪菜は「笑っている場合じゃないでしょ」と言わんばかりの表情を、蒼雷に向けていた。
夜炎と駿聖は蒼雷に駆け寄るなり、説明を促した。
「悪りぃ。能力発動したら魔力がエラいことになった」
軽く説明する蒼雷に、夜炎は心なしか顔をしかめていた。それを横目に見ていた雪菜が説明を加えた。
「私が、神瞳くんの実力がどんなものか少し興味があったから、それに応じて能力を発動してもらいました。そしたら、ちょっと想像の遥か上で――」
雪菜が説明を咥えながら少し濁すと、次は玲が口を開く。
「スペルダーと戦っていたパパより魔力が上だったかも。というか、あの時のスペルダーより上だった可能性が――」
「本当か?」
駿聖の問いかけに、はいと応える夜炎。もちろん、あの時スペルダーが全力を出す前に、龍騎が魔力が封じてしまったため、闇の支配者は撤退した。そのためスペルダーの全力の魔力がどれほど大きいものか推測はできないが、あのときのスペルダーを明らかに超えていた。夜炎は破壊帝を倒した七色の操雷者の神瞳蒼雷の片鱗を感じることができ、思わず武者震いをした。
「一瞬で解除して正解だったな。さっきの魔力で戦えばだいぶ寝込んだな」
そう両手を見ながら呟く蒼雷に駿聖は肩を叩き、笑顔で言った。
「あのときに近付いたな。俺もまともにやりあうと厳しいレベルだ」
「光の速さで動く人間がよく言うよ。駿聖には攻撃当たらないもん」
と、少し拗ねたように返す蒼雷にはどこか弟感が出ていた。その返答に呑気に笑いながら、それもそうかと返す。
「で、一人知らない魔力と匂いがあるのだが誰だ?」
あっと声を漏らす蒼雷、玲、駿聖。しかし雪菜は躊躇なく切り出した。
「私は名前は白川雪菜です。これから私も属性玉の取得には同行するので、宜しくお願いします」
雪菜はそう言って一礼する。
「俺は不知火夜炎だ宜しく。白川も相当な達人のようだな、それに明らかに死線を潜ってきているようだな」
え? 超能力者? と玲に向かって語りかけるが私に言われてもと困惑した表情を浮かべている。
「死線を潜ったというほど、たいそうな事はしてないけど、魔法省の人間だよ」
「神瞳と戦おうとしたようだが、魔力の差にそれどころではなかったようだな。闘争心が消え切っていないようだ。俺と勝負しないか?」
雪菜はまたしても超能力者か! と思わず言いたくなったが、心のなかでは盛大にツッコム。魔法省で目を通した通りの情報だ。能力の代償で目が見えていない分、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされているため、本能が見透かされてしまう。
「逃げ場なしということか」
雪菜はそう呟いた後、魔力を再び解放する。その魔力を感じた夜炎は口角を吊り上げる。
「全ての者を屍に変える眼。全てを焼き尽くす眼を備えし瞳よ、今こそ開眼する時だ。聖霊、炎神デューオよ我に力を与え給え。発動、炎神の瞳」
盲目だった夜炎の目は開眼し、金赤色の鷹のような鋭い瞳を宿し、体中には漆黒の炎を纏っている。その炎に身を包む夜炎の姿は、炎の邪神のよう。先程、蒼雷が解き放った魔力はまた別次元ではあったが、夜炎の放つ魔力の大きさは雪菜の魔力とさほど変わらない。しかし、迫力が圧倒的に違う。
「これが炎神の瞳――神の力」
「いくぞ」
雪菜が夜炎の姿に圧倒されていると、目の前にいた夜炎はその場から姿を消した。関心している場合ではないとスイッチを切り替えて神経を研ぎ澄ます。
「手刀――」
背後の気配を感じ取った雪菜は咄嗟に屈んだ。夜炎が繰り出した手刀は空振りに終ると、雪菜は両足に重心を蓄えて、頭上にいる夜炎に向かって、部位魔法を宿し、拳を力強く振り上げた。
10メートルほど飛んだだろうか。夜炎はその地点で魔力浮遊でピタリと止まる。夜炎は不敵な笑みを浮かべている。両手で拳を受け止めていたからだ。ただし、少しだけその手には少し赤みが出ている。
「なかなかの威力だったぞ」
そう言いつつ右手に魔力を集中させる夜炎。次第に右手の掌の上には漆黒の炎の球体が浮かんだ。
「フレイムバースト」
球体から漆黒の炎が一気に噴出。
「いつも通りの攻め方だな。恐らくあれもくる」
蒼雷がそう言った同時に夜炎は次の魔法を準備していた。人差し指の指の背を地面に向けて、奥から手前へ指をクイッと動かす。
「フレイムボルテックス」
何本もの黒い火柱が出現。
強烈な二つの魔法を二連続で繰り出した夜炎だったが、雪菜はそれに全く動じず、両手を地面に大きく叩きつける。
すると水のドームが雪菜を包み込んだ。勿論水の防御魔法を発動したことにより、夜炎の魔法は消滅するかと思われたが、策を悟られまいと詠唱破棄で発動したため、水の壁の厚みも大きさ本来と比較して少ない。故に夜炎の漆黒の炎で、雪菜が展開した水魔法が蒸発している。
「ちょっとそれは予想外。詠唱破棄だからといって、火属性の魔法に負けるほど、私の水魔法はヤワじゃないんだけどな」
雪菜は想像以上の威力に焦りを見せる。
「私の水じゃ分が悪いかな」
思わず苦笑を浮かべる。魔力の大きさは変わらない。寧ろ雪菜のほうが上回っている。だからと言って、水の魔法が、火の魔法に負けていい筈が無い。
雪菜が魔力を右手に集中させると氷の結晶が形成されていく。やがてそれは先端が鋭利になり槍のような形をした三メートルほどの氷柱が出現。
数秒後、水が完璧に蒸発した同時に右手を大きく振りかぶる。
「アイススピア!」
詠唱と同時に投げると、雪菜の氷柱槍は、サイズが少し小さくなりながらも、夜炎のフレイムボルテックスを音速で飛び抜け、フレイムバーストを相殺。そして夜炎の腹部を貫通した。
その光景に思わず両手で口元を覆う玲。しかし、蒼雷と駿聖は平然としている。
「よし!」
と、雪菜が声を上げるも、氷柱槍に刺さった夜炎が炎となり姿を消した。
「悪いがそれは偽物だ」
夜炎の低い声が後ろから聞こえ、振り返ったと同時に、雪菜の左脇腹に夜炎の右足が入る。
当然の如く、雪菜は吹き飛ばされてしまう。しかし夜炎の攻撃は止まらない。吹っ飛んでいく雪菜を追い越し、拳を構える夜炎。
しかし夜炎の拳は小さな水の壁に飲み込まれた。雪菜は魔力浮遊で急ブレーキをかけて態勢を戻す。
「水の壁か」
そう呟きながらも夜炎は少し焦っていた。白川雪菜という強敵を前にして、能力解放時での体力消耗は激しい。蒼雷と違い、倒れてしまうことはないものの、能力なしで勝てる生温い相手ではないからだ。
どうする――。
それが夜炎の率直な感想だった。
一方、雪菜も相性の悪い相手をしていることから焦っていた。それにこの焦りが相手に気付かれてしまっていると考えると、尚焦ってしまう。余裕の表情を見せたいところではあるが、表情の嘘はつけても脈の嘘はつけない。対して夜炎は、神の能力を使っている故の、体力消耗が激しいにも関わらず、その底を見せない圧倒的なポーカフェイス。いや――それとも余力を残しているのか。
少し不安に陥りながらも二人が共通していることがあった。それは楽しい! という感情だ。二人は自然と笑みが零れていた。
「持ち直したか」
「本当、戦い辛いね」
夜炎が拳を振るったと同時に、雪菜は大きく数メートルほど跳んで後退した。
「アイスバーン」
雪菜がそう言って地面に両手をつけると辺りの荒野が凍結した。夜炎は氷の荒野に足元を固定され動けなくなる。
「アイスナイフ」
雪菜が右手を左から右へと振ると、ナイフの形をした氷が十本ほど出現し、そのまま身動きがとれない夜炎を襲う。
全ての氷のナイフは夜炎の体に刺さった。部位魔法で体を硬化させたものの、夜炎の体力を奪うには十分な攻撃だった。
「残念だな」
雪菜は夜炎の言葉に怪訝な顔を見せる。ふと夜炎の足元を見ると、ナイフで出血した血が漆黒の炎へと姿を変えて、氷を溶かしていた。
「血という代償を払ったんだ。溶けなければ困る」
夜炎はそう言いながら、右手を銃の形にして雪菜に向けた。
「フレアレーザー」
銃の形をした手の親指を少し上に傾けると、雪菜は漆黒の炎に包まれた。もがき苦しむ雪菜の姿を見て、駿聖は雪菜を炎から救い出した。
それを見た夜炎は思わず凝視する。駿聖は夜炎の炎に飛び込んだにも関わらず火傷どころか服すら燃えていない。これもまた、七色の操雷者の一員の強さかと心から敬服した。
「大丈夫か? 白川」
「大丈夫です。ありがとうございます」
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駿聖がそう言うと、雪菜は少し不貞腐れてしまう。
「確かに負けましたけど」
一方、夜炎は能力を止めて盲目に戻った。
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そう言いながら玲は夜炎に駆け寄る。
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「お前結構刺さっていたぞ? タフだな」
蒼雷は少し呆れたように言い放った。それに対して夜炎は当たり前だと言わんばかりに、ほんの僅かだが口角が上がっていた。
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「いや、してないが?」
蒼雷と夜炎は再びそう言い合い、子供のような喧嘩を始めた。そこにいつも通り割って入る玲。雪菜と駿聖はその光景を眺めている。
「どうだ? 仲良くやれそうか?」
「はい!」
雪菜はそう言って駿聖に満面の笑みを見せた。
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