1 / 5
プロローグ
しおりを挟む
東京の夜の街を一望できる20階建てのビルの草木に囲まれたビアガーデン。そこには若い男女のカップルや、6人以上の複数人で来ている客などでイタリアン料理やフランス料理を食しながら賑わっていた。
その中で夜景を眺めながら月下に晒されている20代後半の若い二人の男女がいた。
男性はネイビーのセットアップのスーツを身に纏い、ピンク色のネクタイをしたセンターパートの中肉中背の男だ。
一方、女性はハイトーンベージュのショートカットに、白のワンピースと赤のヒールという出で立ち。雪のような白い肌に童顔で可愛らしい華奢な女性だった。
「綺麗だね」
女性がそう呟く反面、男性は女性の横顔に見惚れていた。
「そうだな」
秋風が二人の間を通りすぎると、女性は耳元の髪をかきあげた。
男性の心臓は高鳴りを打ち、少し顔が紅潮したまま視線を光り輝く街に戻して、拳をぎゅっと握る。
「望ちゃんは酔った?」
「少しだけね。でも優司君がこのスポットに連れてきてくれたら、酔いは大分冷めているよ」
「ならよかった」
優司はふうと小さく息を吐き、望に体を向けた。
「今日はさ――聞いて欲しいことがあるんだ」
「なに?」
望は返事をすると優司の方に体を向ける。
「今まで色々な女性と交流したけどやっぱり君が一番だった。出会った七年前の学生時代から君にずっと恋をしていた――」
優司はすうと呼吸を整えて震える拳を止めた。
「俺と付き合ってください」
優司はそう言い切った。再度震える拳に紅潮した顔。今にも流れ落ちてきそうな汗。まるで酸素濃度が一気に減ったかのような息苦しさ――。
五秒ほどの沈黙。優司は望からの返答が長く感じた。ほんの僅か五秒ほどだったのに体感としてはその倍近くのような気がした。
そして、望が見せた表情は頬を伝う涙と悲しい表情だった。唇を噛み締めながらゆっくりと口を開いた。
「そう言ってくれるのは嬉しい。もう今日で三回目の告白だしね。学生の時に一回。社会人になってから一回。そして今日……。もっと可愛くて魅力的な女の子がたくさんいるのに、見向きもしない優司君は本当に私の事を大切に想ってくれているんだなって思う。私自身、これほど一途に思われたことなんてやっぱり無いしね。それこそ私なんか勿体ないくらい――」
望はすすり泣きをしてしまい、話を一旦中断してしまった。優司はこの時点で嗚咽をずっと堪えた。いつものパターンだと察知したからだ。
「でも、やっぱり駄目なの。私は優司君と違って、結婚願望もなければ、子供が欲しいとも思わない。優司君と私の価値観が合わない。例え付き合ったとしても何年後かに私から別れを切り出す未来しか見えない……」
「そうか有難う」
優司は力無くそう呟いた。
「ごめんね」
望は涙ながらに優司にそう訴えた。
「謝るなよ……」
優司の声色は震えていた。今にも溢れ出て来そうな涙をぐっと堪えて――。
「優司君とはもう会えない。今まで有難う。さようなら……」
望は涙をハンカチで拭ってからそう言って優司に前から、水晶のような大粒の涙と共に去って行った。
「待ってくれ!」
優司が絞り出した声――しかし、望は振り向くどころか足早になりビルの中に入っていった。ガラス張りで見える望の後姿は、もはや友達歴七年という親しい間柄から一気に他人になった気がした。
互いに何でも相談し合った。何も言わなくても、今何を求めているか分かるから、次に取るであろう行動を先取りして自然に気を配れていた。しかし残酷なのは結果的に親友止まりだった――。
「さようなら――」という言葉は望から聞く初めての台詞だった。その台詞が何を意味するか優司は解っていた。だからこそ、望を追いかけることは出来なかった。
ただ涙を流しながら呆然と立ち尽くす優司に集まる周りの視線――。
そして、一陣の秋風が優司の心をさらって行った――。
その中で夜景を眺めながら月下に晒されている20代後半の若い二人の男女がいた。
男性はネイビーのセットアップのスーツを身に纏い、ピンク色のネクタイをしたセンターパートの中肉中背の男だ。
一方、女性はハイトーンベージュのショートカットに、白のワンピースと赤のヒールという出で立ち。雪のような白い肌に童顔で可愛らしい華奢な女性だった。
「綺麗だね」
女性がそう呟く反面、男性は女性の横顔に見惚れていた。
「そうだな」
秋風が二人の間を通りすぎると、女性は耳元の髪をかきあげた。
男性の心臓は高鳴りを打ち、少し顔が紅潮したまま視線を光り輝く街に戻して、拳をぎゅっと握る。
「望ちゃんは酔った?」
「少しだけね。でも優司君がこのスポットに連れてきてくれたら、酔いは大分冷めているよ」
「ならよかった」
優司はふうと小さく息を吐き、望に体を向けた。
「今日はさ――聞いて欲しいことがあるんだ」
「なに?」
望は返事をすると優司の方に体を向ける。
「今まで色々な女性と交流したけどやっぱり君が一番だった。出会った七年前の学生時代から君にずっと恋をしていた――」
優司はすうと呼吸を整えて震える拳を止めた。
「俺と付き合ってください」
優司はそう言い切った。再度震える拳に紅潮した顔。今にも流れ落ちてきそうな汗。まるで酸素濃度が一気に減ったかのような息苦しさ――。
五秒ほどの沈黙。優司は望からの返答が長く感じた。ほんの僅か五秒ほどだったのに体感としてはその倍近くのような気がした。
そして、望が見せた表情は頬を伝う涙と悲しい表情だった。唇を噛み締めながらゆっくりと口を開いた。
「そう言ってくれるのは嬉しい。もう今日で三回目の告白だしね。学生の時に一回。社会人になってから一回。そして今日……。もっと可愛くて魅力的な女の子がたくさんいるのに、見向きもしない優司君は本当に私の事を大切に想ってくれているんだなって思う。私自身、これほど一途に思われたことなんてやっぱり無いしね。それこそ私なんか勿体ないくらい――」
望はすすり泣きをしてしまい、話を一旦中断してしまった。優司はこの時点で嗚咽をずっと堪えた。いつものパターンだと察知したからだ。
「でも、やっぱり駄目なの。私は優司君と違って、結婚願望もなければ、子供が欲しいとも思わない。優司君と私の価値観が合わない。例え付き合ったとしても何年後かに私から別れを切り出す未来しか見えない……」
「そうか有難う」
優司は力無くそう呟いた。
「ごめんね」
望は涙ながらに優司にそう訴えた。
「謝るなよ……」
優司の声色は震えていた。今にも溢れ出て来そうな涙をぐっと堪えて――。
「優司君とはもう会えない。今まで有難う。さようなら……」
望は涙をハンカチで拭ってからそう言って優司に前から、水晶のような大粒の涙と共に去って行った。
「待ってくれ!」
優司が絞り出した声――しかし、望は振り向くどころか足早になりビルの中に入っていった。ガラス張りで見える望の後姿は、もはや友達歴七年という親しい間柄から一気に他人になった気がした。
互いに何でも相談し合った。何も言わなくても、今何を求めているか分かるから、次に取るであろう行動を先取りして自然に気を配れていた。しかし残酷なのは結果的に親友止まりだった――。
「さようなら――」という言葉は望から聞く初めての台詞だった。その台詞が何を意味するか優司は解っていた。だからこそ、望を追いかけることは出来なかった。
ただ涙を流しながら呆然と立ち尽くす優司に集まる周りの視線――。
そして、一陣の秋風が優司の心をさらって行った――。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる