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次元の違いⅣ
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「ナリユキ閣下は見たことがあるのだろ?」
「ああ。オックス・マーキュリー閣下が思っている通り、凶悪な人物だった」
「だろうな。そもそもの戦闘値に大きな違いがあるが、前の世界で死線を潜った私でさえも、コヴィー・S・ウィズダムの前で平然と立つことは不可能だと考えている」
「俺は黒龍と何度も戦った。だからこそ、どんな敵に対しても戦闘意欲を見せる事ができると思っていた。そんな俺でさえコヴィー・S・ウィズダムの前では恐怖とただならぬ重圧に耐えることができなかった」
「ナリユキ閣下はコヴィー・S・ウィズダムの戦闘値はどのくらいだと推測しているのだ?」
「平常時で100,000くらいかな――黒龍でそのくらいはあったので」
「――ナリユキ閣下はいくつだ?」
「9,500。とてもじゃないがコヴィー・S・ウィズダムには歯が立たない。黒龍は破壊神のスキルを発動して戦闘値を極限まで高めていた。けれども、コヴィー・S・ウィズダムは生殺与奪に加えて、黒龍から破壊神を奪い取った。一人じゃとても太刀打ちできない。誰かと共闘しても倒せる可能性は限りなく0に近い」
俺がそう言うとオックス・マーキュリー閣下は深刻な表情を浮かべながら、「そうか……」と呟いていた。
「しかしこのままではコヴィー・S・ウィズダムが世界を恐怖に陥れる――動きを観察しながら、一人でも多くの協力者が必要だ。だから、より危険な地に足を踏み入れてもらうため、ジェノフの二人には地下世界に潜り込んでもらいたい。どのみちあの二人は誰かと協力して行動する――なんて事はできないから、オックス・マーキュリー閣下の調査隊とは別行動をとってもらうつもりだけどね。それに、昨日襲って来たバロールも俺の配下に加わった。彼もまたコヴィー・S・ウィズダムの被害者だ。倒したいという目的は同じだ」
「部下や近隣の国の冒険者に任せるのは難しいのかな?」
「生憎、これ以上地下世界に潜入させる人手がいない。最低でも6,000以上の戦闘値を持つ人間が一人は必要と考えると、調査に行かせる人材は限られてくる」
俺がそう言うとオックス・マーキュリー閣下は納得したようだった。
「確かに――」
その表情は妙に悲観的だった。恐らく、地下世界の調査で何人もの犠牲者を出したのだろう――。
「オックス・マーキュリー閣下の調査隊。バロール。交渉次第ではあるがジェノフ。この三編成で地下世界――もといコヴィー・S・ウィズダムの調査を進めて、コヴィー・S・ウィズダムのアジトや弱点を見つける。これを目的としましょう。勿論、危険だと判断すれば即撤退。自身の命を優先してほしい」
「分かった。私からはジェノフが地下世界の調査に加わる事を許可しよう。あとは本人達次第だ。お金を積んでも本人達が行かないと言うのであれば、それまでだからな」
「ありがとうございます」
俺がそう頭を下げると「止せ」と軽い注意を受けた。まあ軽々しく頭を下げるなとかそんな感じだろう。ちょっと驚きだけど。
「確かにこの国――というより、私は他国にそもそも頼る困ってはいなかった。しかし、昨日のようにS級の最上位に君臨するバロールのような魔物が出てきては、自国では太刀打ちできず、この国は滅んでいたかもしれない。そう考えると、もはや自国で解決できるレベルではない。私こそお願いしたいのだ。是非マーズベルと友好を結びたい。私達が困っている時に力を貸してほしい」
「勿論」
俺がそう返事をするとオックス・マーキュリー閣下は笑みが零しながら俺に握手を求めてきた。
「転生者の国主同士。良好な関係を続けたい」
「こちらこそ宜しくお願いします」
俺も嬉しい気持ちは同じだった。同じ転生者で国を統べる仲間ができたのだ。これほど嬉しい事は無い。異なる点を挙げるならば、俺は元々あった土地の国の国主となったが、オックス・マーキュリー閣下は先代に任命されて今の座に就いている。だから国の統治の仕方や政治は少し違うかもしれない。が――学べる機会は多い筈だ。人生の先輩として俺は最大限の敬意を払いながらオックス・マーキュリー閣下と友好的な関係を築きたいと心の底から思っている。
「ではジェノフがどうなったかの報告だけ聞かせてほしい。念話で済ませてくれていい」
「了解です。ただまあ、二人が起きるのは少々時間がかかりそうですが」
「確かに。アイを案内人として就けるからシールズを見学してほしい」
「それは光栄だ。是非お願いします」
俺がそう改めて頼むとオックス・マーキュリー閣下は念話でアイに語りかけた。館内にいたアイはすぐに駆けつけて来た。
「閣下。こちらへ」
う~ん。尊敬語って凄い違和感。まあ、オックス・マーキュリー閣下の前だし仕方ないか。
「アイ。宜しく頼む」
「かしこまりました」
と、アイはオックス・マーキュリー閣下に深々と頭を下げて部屋の扉を閉めた。
「あの傷じゃ後二三日は目を覚まさないだろうな。その間宜しく頼むな」
「任せて。私が好きな国をとびきり案内してあげるから」
と、アイは明るい表情を見せていた。俺にシールズを案内するのがそれほど嬉しいのだろうか。いや、それもそうか。シールズは閉鎖的な国。自国を他国の人間に紹介する機会は無いのだから。
「ああ。オックス・マーキュリー閣下が思っている通り、凶悪な人物だった」
「だろうな。そもそもの戦闘値に大きな違いがあるが、前の世界で死線を潜った私でさえも、コヴィー・S・ウィズダムの前で平然と立つことは不可能だと考えている」
「俺は黒龍と何度も戦った。だからこそ、どんな敵に対しても戦闘意欲を見せる事ができると思っていた。そんな俺でさえコヴィー・S・ウィズダムの前では恐怖とただならぬ重圧に耐えることができなかった」
「ナリユキ閣下はコヴィー・S・ウィズダムの戦闘値はどのくらいだと推測しているのだ?」
「平常時で100,000くらいかな――黒龍でそのくらいはあったので」
「――ナリユキ閣下はいくつだ?」
「9,500。とてもじゃないがコヴィー・S・ウィズダムには歯が立たない。黒龍は破壊神のスキルを発動して戦闘値を極限まで高めていた。けれども、コヴィー・S・ウィズダムは生殺与奪に加えて、黒龍から破壊神を奪い取った。一人じゃとても太刀打ちできない。誰かと共闘しても倒せる可能性は限りなく0に近い」
俺がそう言うとオックス・マーキュリー閣下は深刻な表情を浮かべながら、「そうか……」と呟いていた。
「しかしこのままではコヴィー・S・ウィズダムが世界を恐怖に陥れる――動きを観察しながら、一人でも多くの協力者が必要だ。だから、より危険な地に足を踏み入れてもらうため、ジェノフの二人には地下世界に潜り込んでもらいたい。どのみちあの二人は誰かと協力して行動する――なんて事はできないから、オックス・マーキュリー閣下の調査隊とは別行動をとってもらうつもりだけどね。それに、昨日襲って来たバロールも俺の配下に加わった。彼もまたコヴィー・S・ウィズダムの被害者だ。倒したいという目的は同じだ」
「部下や近隣の国の冒険者に任せるのは難しいのかな?」
「生憎、これ以上地下世界に潜入させる人手がいない。最低でも6,000以上の戦闘値を持つ人間が一人は必要と考えると、調査に行かせる人材は限られてくる」
俺がそう言うとオックス・マーキュリー閣下は納得したようだった。
「確かに――」
その表情は妙に悲観的だった。恐らく、地下世界の調査で何人もの犠牲者を出したのだろう――。
「オックス・マーキュリー閣下の調査隊。バロール。交渉次第ではあるがジェノフ。この三編成で地下世界――もといコヴィー・S・ウィズダムの調査を進めて、コヴィー・S・ウィズダムのアジトや弱点を見つける。これを目的としましょう。勿論、危険だと判断すれば即撤退。自身の命を優先してほしい」
「分かった。私からはジェノフが地下世界の調査に加わる事を許可しよう。あとは本人達次第だ。お金を積んでも本人達が行かないと言うのであれば、それまでだからな」
「ありがとうございます」
俺がそう頭を下げると「止せ」と軽い注意を受けた。まあ軽々しく頭を下げるなとかそんな感じだろう。ちょっと驚きだけど。
「確かにこの国――というより、私は他国にそもそも頼る困ってはいなかった。しかし、昨日のようにS級の最上位に君臨するバロールのような魔物が出てきては、自国では太刀打ちできず、この国は滅んでいたかもしれない。そう考えると、もはや自国で解決できるレベルではない。私こそお願いしたいのだ。是非マーズベルと友好を結びたい。私達が困っている時に力を貸してほしい」
「勿論」
俺がそう返事をするとオックス・マーキュリー閣下は笑みが零しながら俺に握手を求めてきた。
「転生者の国主同士。良好な関係を続けたい」
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俺も嬉しい気持ちは同じだった。同じ転生者で国を統べる仲間ができたのだ。これほど嬉しい事は無い。異なる点を挙げるならば、俺は元々あった土地の国の国主となったが、オックス・マーキュリー閣下は先代に任命されて今の座に就いている。だから国の統治の仕方や政治は少し違うかもしれない。が――学べる機会は多い筈だ。人生の先輩として俺は最大限の敬意を払いながらオックス・マーキュリー閣下と友好的な関係を築きたいと心の底から思っている。
「ではジェノフがどうなったかの報告だけ聞かせてほしい。念話で済ませてくれていい」
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「確かに。アイを案内人として就けるからシールズを見学してほしい」
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う~ん。尊敬語って凄い違和感。まあ、オックス・マーキュリー閣下の前だし仕方ないか。
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「かしこまりました」
と、アイはオックス・マーキュリー閣下に深々と頭を下げて部屋の扉を閉めた。
「あの傷じゃ後二三日は目を覚まさないだろうな。その間宜しく頼むな」
「任せて。私が好きな国をとびきり案内してあげるから」
と、アイは明るい表情を見せていた。俺にシールズを案内するのがそれほど嬉しいのだろうか。いや、それもそうか。シールズは閉鎖的な国。自国を他国の人間に紹介する機会は無いのだから。
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