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刺客の本領Ⅱ
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真・夢想刀により、致命傷を負ったバロールは苦い表情を浮かべていた。対して、タスクはクールな素振りを見せ、ツバキは「どうだ!」と喜んでいた。
「我を本気で怒らせたいらしいな。いいだろう。我の力を思い知るがよい」
バロールはそう言ってとうとう眼帯を外した。露わにした瞳は魔族の魔眼と変わらない深紅の瞳を持っている。しかし瞳に宿しているMPの量が異常な程多い。まるで、魔真王を彷彿させるエネルギーの質量だ。
「まさか魔眼を開放するだけで戦闘値が8,000近くになるとはな」
「いくらになったの?」
「7,950。もう少しでZ級なりそうだな」
俺がそう言うとアイは目を丸くして驚いていた。
「これは多分二人共相当きついぞ――」
「でも数字だけで言えば150上がっただけだよね?」
「数字だけで言えばな」
俺がそう神妙な顔つきで言うと、アイは二人を不安気に見守っていた。
バロールが魔眼を露わにしてから、タスクとツバキは一方的に攻撃を浴び続けていた。
数十分後の事だった。二人はバロールに猛攻に耐え切れずにダウンしてしまった。バロールの足元に横たわるタスクとツバキの表情は悔しさで溢れていた。
対するバロールは不敵な笑みを浮かべて二人の調理方法を考えているところだろう。
「潮時かな」
俺が一歩踏み出すと、バロールは嬉々とした表情を浮かべていた。格差があるにも関わらず俺との戦いを待ちわびていたようだ。
「我はより高みを目指すため、ここに転がっている弱き転生者などに興味はない。あるのはあの老いぼれと同じ領域に踏み入れている人間のみ。貴様等を倒しフォモール族の威厳と誇り、そして強さを証明するのだ!」
「おお。気合い十分だな」
「貴様のその顔を苦痛の表情に歪ませてやる」
バロールはどこからその自信が湧いてくるんだろうと不思議でならないが、簡単にひねりつぶしてやろう。そう思っている時だった。
「まだ負けていないぞ」
そう言って立ち上がったのはタスクだった。自動再生と自動回復があるにも関わらず、身体の傷は癒えていない。何なら額がぱっくりと割れていて流血しているくらいだ。
「いくら何でもその怪我で戦うのは無茶だろ」
「自動再生、自動回復――これらの温いスキルが機能していなくても俺には関係が無い」
そう言っているタスク。瞳を見る限りまんざら嘘でもなさそうだ。
「いい加減敗北を認めたらどうだ? 次は本当に殺すぞ?」
「生憎だが、殺さない限り俺は立ち上がり続けるぞ?」
タスクのその台詞が癇に障ったのか、バロールは「貴様――」と呟いた後、氷のように冷たい瞳をしていた。この雰囲気から察するに、奴はもう1mmたりとも手加減をしないだろう。
「後悔する事になるぞ?」
バロールがそう呟くとタスクはこう呟いた。
「魔物の癖に人間の俺より温いとは――。戦いとは生きるか死ぬかだ。それ以外に存在しない」
「いいだろう――」
バロールは何か決意したかのように漆黒の三又槍を力強く握った。刹那――。漆黒の三又槍は膨大なMPを周囲に放出した。その放出したMPは黒い雷へと姿を変えて、周囲の建物を次々と破壊していた。
「町が――」
アイはそう呟きながら啞然としていた。全身脱力とはまさにこの事だ。
俺はと言うと、この街の風景は天眼の瞬間眼でこの街の景観全てを覚えているから、破壊された建物を再生するのは造作もない。ただ、問題は今回の件で巻き込まれた人々だ。今のMP放出の雷で死人は出ていないが、奴の配下の巨人が登場した時に、逃げ遅れた人々が犠牲になってしまっている――。
流石の俺でも――と、言うかミクちゃんでさえその大勢の犠牲者は元通りにできない。
「僅か数十人の命だけど軽い人命なんて無い。だからせめて街くらいは元に戻すよ。犠牲者は俺でも何ともできないからな」
俺がそう言うと、アイは「本当にいいの?」と少し明るい表情で返してきた。
「勿論」
俺がそう返答すると、脱力していたアイはパアと明るい表情に戻った。あとはタスクがどう思っているのか。少なくとも、ツバキは横たわったままだ。このまま戦意喪失をしてやられるタスクではない。例え相手がS級の頂点に立つバロールであっても、表情に出さないが激しい闘志を燃やし続けている。
パイモンや、カルベリアツリーのダンジョンの魔王ベルゼビュート、熾天使のラファエルより強敵なのは違いない。まあ、魔王ベルゼビュートはあくまで記憶の産物のようなもの。数千年前、或いは数万年前の神々の時代の魔王ベルゼビュートはZ級だっただろうけど。
「行くぞ」
「来い」
バロールの「行くぞ」に対して「来い」と挑発するタスク。攻撃を受けながらもバロールの漆黒の三又槍の連続攻撃についていっている。
「凄い――何であんな速い攻撃についていけるの!?」
と、アイは驚いていた。
「覚悟と気合いだな」
「覚悟と気合い?」
「絶対に勝ってやるという覚悟と、倒れないぞ! っていう気合いだな。ほら、攻撃が速くてもタスクが流血しているのは分かるだろ?」
「え? そうなの?」
アイはそう言って目を凝らしてタスクだけを見ていた。数秒してやっと気付いたようだ。「確かに!」と頷いていた。
「そういう事か。俺にはコマ送り視えるけど、アイからしたら情報が遅れて視えているのか。ゲームで言うところの遅延が発生しているんだな」
「私もゲームはするからその例えものすごく分かりやすいわ。だから、タスクが怪我をしながら戦っているって気付くまで時間がかかったのね」
「アイからしたら別次元の戦いだからな~。今繰り広げられている撃ち合いは」
「我を本気で怒らせたいらしいな。いいだろう。我の力を思い知るがよい」
バロールはそう言ってとうとう眼帯を外した。露わにした瞳は魔族の魔眼と変わらない深紅の瞳を持っている。しかし瞳に宿しているMPの量が異常な程多い。まるで、魔真王を彷彿させるエネルギーの質量だ。
「まさか魔眼を開放するだけで戦闘値が8,000近くになるとはな」
「いくらになったの?」
「7,950。もう少しでZ級なりそうだな」
俺がそう言うとアイは目を丸くして驚いていた。
「これは多分二人共相当きついぞ――」
「でも数字だけで言えば150上がっただけだよね?」
「数字だけで言えばな」
俺がそう神妙な顔つきで言うと、アイは二人を不安気に見守っていた。
バロールが魔眼を露わにしてから、タスクとツバキは一方的に攻撃を浴び続けていた。
数十分後の事だった。二人はバロールに猛攻に耐え切れずにダウンしてしまった。バロールの足元に横たわるタスクとツバキの表情は悔しさで溢れていた。
対するバロールは不敵な笑みを浮かべて二人の調理方法を考えているところだろう。
「潮時かな」
俺が一歩踏み出すと、バロールは嬉々とした表情を浮かべていた。格差があるにも関わらず俺との戦いを待ちわびていたようだ。
「我はより高みを目指すため、ここに転がっている弱き転生者などに興味はない。あるのはあの老いぼれと同じ領域に踏み入れている人間のみ。貴様等を倒しフォモール族の威厳と誇り、そして強さを証明するのだ!」
「おお。気合い十分だな」
「貴様のその顔を苦痛の表情に歪ませてやる」
バロールはどこからその自信が湧いてくるんだろうと不思議でならないが、簡単にひねりつぶしてやろう。そう思っている時だった。
「まだ負けていないぞ」
そう言って立ち上がったのはタスクだった。自動再生と自動回復があるにも関わらず、身体の傷は癒えていない。何なら額がぱっくりと割れていて流血しているくらいだ。
「いくら何でもその怪我で戦うのは無茶だろ」
「自動再生、自動回復――これらの温いスキルが機能していなくても俺には関係が無い」
そう言っているタスク。瞳を見る限りまんざら嘘でもなさそうだ。
「いい加減敗北を認めたらどうだ? 次は本当に殺すぞ?」
「生憎だが、殺さない限り俺は立ち上がり続けるぞ?」
タスクのその台詞が癇に障ったのか、バロールは「貴様――」と呟いた後、氷のように冷たい瞳をしていた。この雰囲気から察するに、奴はもう1mmたりとも手加減をしないだろう。
「後悔する事になるぞ?」
バロールがそう呟くとタスクはこう呟いた。
「魔物の癖に人間の俺より温いとは――。戦いとは生きるか死ぬかだ。それ以外に存在しない」
「いいだろう――」
バロールは何か決意したかのように漆黒の三又槍を力強く握った。刹那――。漆黒の三又槍は膨大なMPを周囲に放出した。その放出したMPは黒い雷へと姿を変えて、周囲の建物を次々と破壊していた。
「町が――」
アイはそう呟きながら啞然としていた。全身脱力とはまさにこの事だ。
俺はと言うと、この街の風景は天眼の瞬間眼でこの街の景観全てを覚えているから、破壊された建物を再生するのは造作もない。ただ、問題は今回の件で巻き込まれた人々だ。今のMP放出の雷で死人は出ていないが、奴の配下の巨人が登場した時に、逃げ遅れた人々が犠牲になってしまっている――。
流石の俺でも――と、言うかミクちゃんでさえその大勢の犠牲者は元通りにできない。
「僅か数十人の命だけど軽い人命なんて無い。だからせめて街くらいは元に戻すよ。犠牲者は俺でも何ともできないからな」
俺がそう言うと、アイは「本当にいいの?」と少し明るい表情で返してきた。
「勿論」
俺がそう返答すると、脱力していたアイはパアと明るい表情に戻った。あとはタスクがどう思っているのか。少なくとも、ツバキは横たわったままだ。このまま戦意喪失をしてやられるタスクではない。例え相手がS級の頂点に立つバロールであっても、表情に出さないが激しい闘志を燃やし続けている。
パイモンや、カルベリアツリーのダンジョンの魔王ベルゼビュート、熾天使のラファエルより強敵なのは違いない。まあ、魔王ベルゼビュートはあくまで記憶の産物のようなもの。数千年前、或いは数万年前の神々の時代の魔王ベルゼビュートはZ級だっただろうけど。
「行くぞ」
「来い」
バロールの「行くぞ」に対して「来い」と挑発するタスク。攻撃を受けながらもバロールの漆黒の三又槍の連続攻撃についていっている。
「凄い――何であんな速い攻撃についていけるの!?」
と、アイは驚いていた。
「覚悟と気合いだな」
「覚悟と気合い?」
「絶対に勝ってやるという覚悟と、倒れないぞ! っていう気合いだな。ほら、攻撃が速くてもタスクが流血しているのは分かるだろ?」
「え? そうなの?」
アイはそう言って目を凝らしてタスクだけを見ていた。数秒してやっと気付いたようだ。「確かに!」と頷いていた。
「そういう事か。俺にはコマ送り視えるけど、アイからしたら情報が遅れて視えているのか。ゲームで言うところの遅延が発生しているんだな」
「私もゲームはするからその例えものすごく分かりやすいわ。だから、タスクが怪我をしながら戦っているって気付くまで時間がかかったのね」
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