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貴族の調査Ⅵ
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翌日。俺達はマルキージオ卿を連れてディルビア王国に到着した。
ディルビア王国はマルキージオ卿が言っていたように、この世界では新鮮味がある汽車が王都を走っている。英国を彷彿させる街並みを颯爽と駆ける汽車の姿は高揚感を覚える。
ディルビア王国の王都ウィールにある白い建物が建ち並ぶ高級住宅街にある一軒家。俺達はそこに招かれた。レンガ造りの街並みに忽然と現れる戸建てばかりのこのエリアは、世界的にも有名な観光スポットらしい。うん。めちゃくちゃ綺麗。何百年以上という長い歴史があるらしいけど、ここの住民達は定期的に外壁塗装をしているとの事だ。
「遠路はるばるようこそおいで下さいました」
ベルを鳴らすと出て来たのは、茶色の短髪の五十代くらいの男性だった。黒の紳士服を身に包んでいるのが特徴的で、インナーのカッターシャツの膨らみ方で、相当体を鍛えているのが分かる。ベタな表現をするとスーツが似合うダンディなオジサンだ。
「お久しぶりです。スペンサー公爵。こちらがマーズベルのナリユキ・タテワキ閣下とミユキ・アマミヤ様です」
「はじめまして」
俺とアマミヤが紹介されたので一礼をすると、スペンサー公爵が「はじめまして、ハドソン・スペンサーです」と握手を求めてきた。
俺とアマミヤはそれに応じて握手を交わした後、家の中に招かれた。
図書館かよ。と突っ込みたくなるような高い天井と、360°本に囲まれた席でスペンサー公爵の話を聞くことになった。
「凄い家ですね」
アマミヤがそう呟いた。
「いえいえ。ここは家では無く仕事場です」
「仕事場ですか?」
「はい。様々な仕事をしておりますが、主な仕事は歴史学者なのです。ですので、このように本だらけになっているのですよ」
「成程――確かに歴史に関する本や他国に関する本が多いですね」
アマミヤはそう呟きながら辺りを見渡していた。
「これだけの本を集めるのには相当な大金が必要でしたよね?」
「ええ。この事務所を買えるくらいには」
と、スペンサー公爵は照れ笑いを浮かべていた。この表情を見るに相当歴史が好きなんだなと思う。
「ナリユキ閣下」
「何でしょうか?」
「まずはお礼をさせて下さい。この度は我々を救って頂きまして誠にありがとうございました」
と、いきなり感謝を述べられた。
「ナリユキ閣下と青龍様がいなければ、黒龍によって世界が滅亡していました。ディルビア王国も黒龍による攻撃で王国は火の海となっておりました」
「その割には町は綺麗でしたけど――」
「スキルによって修復しました。青龍様がお見えになっていなければ、黒龍の消えない黒炎で我々の文明は滅んでいた事でしょう」
「そうでしたか。被害状況はどんな感じでしたか?」
「死者は300人程。行方不明者は500人程です」
と言った割にはそれほど苦い表情をしている訳では無かった。むしろ案外あっさりとしていた。
「不思議ですか? 確かにこの事件による経済損失は確かに大きいです。しかし、ナリユキ閣下がマーズベルで黒龍を倒していなければ、我々の国もこれだけの被害では済んでいなかった事でしょう」
まるで俺が考えている事を見透かしたようなコメントだった。この感じだと少なからず、スペンサー公爵は俺に対して本当に感謝をしてくれているようだ。
「自分の話にはなってしまいますが、ナリユキ閣下と青龍様の御力があり、スペンサー家は誰一人欠けずに今を生きる喜びを実感できております。ですので我々の素性を明かす事は普段無いのですが、今回隠す事無くお話をさせて頂く覚悟です」
スペンサー公爵の顔つきが神妙になった。俺が思わずマルキージオ卿を見ると、マルキージオ卿はニコッと柔和な笑みを浮かべていた。
「今回、私が訪問した理由は既に周知の上でお話をして下さるのですよね?」
「そうです。創世についての情報ですよね? アルボス城でカードを見つけたと聞きました。そこでスペンサー家のカードがあったので気になったと――」
俺は思わず固唾を飲みこんでしまった。
「まず結論から申し上げますと私はハドソン・スペンサーのコードネームはHです」
スペンサー公爵がそう発言したと同時にアマミヤは立ち上がって敵意を向けていた――が。
「アマミヤ。落ち着け。スペンサー公爵に敵意は無い」
するとスペンサー公爵は安心した表情を浮かべていた。でも不思議だ。俺が視ているスペンサー公爵のステータスの戦闘値は3,100。創世の構成員なら5,000近くあってもいいけど――。
「原則。私からはナリユキ閣下のステータスは確認できません。またナリユキ閣下からも私の本当のステータスは視る事ができていない筈です。ナリユキ閣下の方が格上なのに不思議ですよね?」
「そうですね。ミロクの力か何かですか?」
本当。この人俺の心を見透かしたように話を進めるな。まあ、今のところ話がスムーズで楽だけど。
「お察しの通りでございます。ミロク様のご加護で私のステータスは誤魔化せています」
「そうでしたか」
「その点に関しては申し訳ないと思っています」
「大丈夫です。どのみち戦う事になるかもしれませんからね」
俺がそう言うとスペンサー公爵は「それは避けたいですね」と苦笑を浮かべいた。
「我々、創世はよりよい世界を築くための集団です。ですので、必要とあれば殺害する事も躊躇しません。そこはアードルハイム帝国を壊滅させたナリユキ閣下ならご理解頂けると思います」
「そうですね。痛いくらいに分かります」
俺がそう返すとスペンサー公爵は「安心しました」と胸を撫でおろした。
「ただ、同胞が犯した過ち――ストーク・ディアン公爵ことQが行ったサイスト・クローバー侯爵の殺害について、個人の意見として誤りだったと思います。もっと話し合うべきだったのではないかと――その件に関しては謝罪させていただきます。大変申し訳ございませんでした」
スペンサー公爵にそう謝罪された俺。何か思っていたのと違うから非常にやりづらい。
ディルビア王国はマルキージオ卿が言っていたように、この世界では新鮮味がある汽車が王都を走っている。英国を彷彿させる街並みを颯爽と駆ける汽車の姿は高揚感を覚える。
ディルビア王国の王都ウィールにある白い建物が建ち並ぶ高級住宅街にある一軒家。俺達はそこに招かれた。レンガ造りの街並みに忽然と現れる戸建てばかりのこのエリアは、世界的にも有名な観光スポットらしい。うん。めちゃくちゃ綺麗。何百年以上という長い歴史があるらしいけど、ここの住民達は定期的に外壁塗装をしているとの事だ。
「遠路はるばるようこそおいで下さいました」
ベルを鳴らすと出て来たのは、茶色の短髪の五十代くらいの男性だった。黒の紳士服を身に包んでいるのが特徴的で、インナーのカッターシャツの膨らみ方で、相当体を鍛えているのが分かる。ベタな表現をするとスーツが似合うダンディなオジサンだ。
「お久しぶりです。スペンサー公爵。こちらがマーズベルのナリユキ・タテワキ閣下とミユキ・アマミヤ様です」
「はじめまして」
俺とアマミヤが紹介されたので一礼をすると、スペンサー公爵が「はじめまして、ハドソン・スペンサーです」と握手を求めてきた。
俺とアマミヤはそれに応じて握手を交わした後、家の中に招かれた。
図書館かよ。と突っ込みたくなるような高い天井と、360°本に囲まれた席でスペンサー公爵の話を聞くことになった。
「凄い家ですね」
アマミヤがそう呟いた。
「いえいえ。ここは家では無く仕事場です」
「仕事場ですか?」
「はい。様々な仕事をしておりますが、主な仕事は歴史学者なのです。ですので、このように本だらけになっているのですよ」
「成程――確かに歴史に関する本や他国に関する本が多いですね」
アマミヤはそう呟きながら辺りを見渡していた。
「これだけの本を集めるのには相当な大金が必要でしたよね?」
「ええ。この事務所を買えるくらいには」
と、スペンサー公爵は照れ笑いを浮かべていた。この表情を見るに相当歴史が好きなんだなと思う。
「ナリユキ閣下」
「何でしょうか?」
「まずはお礼をさせて下さい。この度は我々を救って頂きまして誠にありがとうございました」
と、いきなり感謝を述べられた。
「ナリユキ閣下と青龍様がいなければ、黒龍によって世界が滅亡していました。ディルビア王国も黒龍による攻撃で王国は火の海となっておりました」
「その割には町は綺麗でしたけど――」
「スキルによって修復しました。青龍様がお見えになっていなければ、黒龍の消えない黒炎で我々の文明は滅んでいた事でしょう」
「そうでしたか。被害状況はどんな感じでしたか?」
「死者は300人程。行方不明者は500人程です」
と言った割にはそれほど苦い表情をしている訳では無かった。むしろ案外あっさりとしていた。
「不思議ですか? 確かにこの事件による経済損失は確かに大きいです。しかし、ナリユキ閣下がマーズベルで黒龍を倒していなければ、我々の国もこれだけの被害では済んでいなかった事でしょう」
まるで俺が考えている事を見透かしたようなコメントだった。この感じだと少なからず、スペンサー公爵は俺に対して本当に感謝をしてくれているようだ。
「自分の話にはなってしまいますが、ナリユキ閣下と青龍様の御力があり、スペンサー家は誰一人欠けずに今を生きる喜びを実感できております。ですので我々の素性を明かす事は普段無いのですが、今回隠す事無くお話をさせて頂く覚悟です」
スペンサー公爵の顔つきが神妙になった。俺が思わずマルキージオ卿を見ると、マルキージオ卿はニコッと柔和な笑みを浮かべていた。
「今回、私が訪問した理由は既に周知の上でお話をして下さるのですよね?」
「そうです。創世についての情報ですよね? アルボス城でカードを見つけたと聞きました。そこでスペンサー家のカードがあったので気になったと――」
俺は思わず固唾を飲みこんでしまった。
「まず結論から申し上げますと私はハドソン・スペンサーのコードネームはHです」
スペンサー公爵がそう発言したと同時にアマミヤは立ち上がって敵意を向けていた――が。
「アマミヤ。落ち着け。スペンサー公爵に敵意は無い」
するとスペンサー公爵は安心した表情を浮かべていた。でも不思議だ。俺が視ているスペンサー公爵のステータスの戦闘値は3,100。創世の構成員なら5,000近くあってもいいけど――。
「原則。私からはナリユキ閣下のステータスは確認できません。またナリユキ閣下からも私の本当のステータスは視る事ができていない筈です。ナリユキ閣下の方が格上なのに不思議ですよね?」
「そうですね。ミロクの力か何かですか?」
本当。この人俺の心を見透かしたように話を進めるな。まあ、今のところ話がスムーズで楽だけど。
「お察しの通りでございます。ミロク様のご加護で私のステータスは誤魔化せています」
「そうでしたか」
「その点に関しては申し訳ないと思っています」
「大丈夫です。どのみち戦う事になるかもしれませんからね」
俺がそう言うとスペンサー公爵は「それは避けたいですね」と苦笑を浮かべいた。
「我々、創世はよりよい世界を築くための集団です。ですので、必要とあれば殺害する事も躊躇しません。そこはアードルハイム帝国を壊滅させたナリユキ閣下ならご理解頂けると思います」
「そうですね。痛いくらいに分かります」
俺がそう返すとスペンサー公爵は「安心しました」と胸を撫でおろした。
「ただ、同胞が犯した過ち――ストーク・ディアン公爵ことQが行ったサイスト・クローバー侯爵の殺害について、個人の意見として誤りだったと思います。もっと話し合うべきだったのではないかと――その件に関しては謝罪させていただきます。大変申し訳ございませんでした」
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