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新たなる刺客Ⅰ
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「フォル兄――」
完全に人間の姿では無いものの、自我を取り戻したエヴァンスは俺の近くへ歩み寄ってきた。そして、俺の手を握るなり目を瞑った。
何をしたのかと思えば、身体がどんどん軽くなっていく。うっすらとしていた意識も回復していく。俺はエヴァンスに回復を使われたのだ。そもそもの話、俺が知っているエヴァンスは、回復を使えたわけでは無いし、バフォメットが回復を使える個体では無かったはずだ。
「フォル兄、大丈夫?」
「ありがとう。傷は癒えたから問題ない。それより大丈夫なのか?」
「今は何とか大丈夫。またいつ暴れるか分からないから、フォル兄は今の間に休んでて。見た感じ、俺を一人で止めることができるのは、今のフォル兄とバフォメットを倒したあのお姉さんだけのようだし」
エヴァンスはそう言って俺の後ろの方向を指した。指した先には倒れているバフォメットの前で、スウーと呼吸を整えているエヴァだった。アリスとフィオナは、シュファ、カルロータ、ランベーフの所へ応戦していたようだ。
「流石だな」
「皆、フォル兄の仲間?」
「そうだな。頼れる仲間だ」
俺がそう呟くと、タイミング良く最後のバフォメットを、アリス、フィオナ、シュファ、カルロータ、ランベーフのチームが撃破していた。
「あれも子供達だよな?」
「勿論そうだよ。ただ、記憶は曖昧だからどんな人があの姿になっていたかまでは憶えていない。フォル兄はどうやって自我を取り戻したの?」
「西の国にあるマーズベル共和国に、腕の良い医者がいてな。頭の中に埋め込まれているマイクロチップという物を除去して記憶が甦った。まあ、始めから全部思い出したわけではないが、今となってはほとんどの記憶が甦ったよ。エヴァンスは俺の事をよく憶えていたな?」
「そうだね。多分最近完全なバフォメットになったんだと思う。そうじゃないとフォル兄みたいに記憶が完全に消えて本物の怪物になっていたはずだし。逆にフォル兄じゃないと記憶が甦るって事は無かったから運が良かったよ」
「そうか。何より無事でよかった」
俺はそう思うと自然に涙が出ていた。
「気持ちは俺も嬉しいけど今は脱出が先だ。案内するからついて来て――」
「は――?」
エヴァンスは突如吐血を始めたので、俺は一瞬何が起きたか分からなかった。そしてエヴァンスは虚しくも俺の目の前でぐったりと倒れる。
俺はエヴァンスを受け止めた。腹部に孔が空いている――そこからの出血が止まらない。
「誰か薬を!」
俺がそう叫ぶと、異変に気付いたエヴァが真っ先に駆けつけてくれた。
「酷い怪我ね――私の技術じゃ治すことができないかもしれない――」
「頼む! 何とかしてくれ!」
「分かっているわ」
そうエヴァが必死にエヴァンスの傷を治してくれるなか、誰かが近付いて来た。
「ったく――世話しないのう。あの方の耳に入る前に片付けなければ」
「救難信号が無かったら、今頃この施設が破壊されていた所だな」
そう呟きながら俺達の前に立ちはだかったのは、黒いローブに身を包んだ大男と、杖をついている森妖精の老人だった。
黒いローブの男も相当な手練れだが、森妖精の老人もかなりの手練れだ――一体何者なんだ?
「どっちがエヴァンスをやったんだ!?」
俺がそう威嚇しても2人は微動だにしなかった。
「意思のある亜人。フォルボスか――なかなか面白いが儂等の相手にはならんよ」
そう挑発をしてきたのは、黒いローブの人間では無く、森妖精の老人だった。そして次の俺の行動があまりにも愚かだった。この2人のどっちかがエヴァンスに致命傷――あの大怪我なら下手をすると死ぬかもしれない――そう頭によぎったときには、その老人に向かって攻撃を行っていた――。
「若いのう」
老人はそう言って口角を吊り上げたと同時に、光が俺の方に向かって飛んで来た。腹部に走る激痛――。
「なっ……!?」
俺は自分の腹部を見て驚いた。前提として間合いは2m程あった筈だ。しかし俺の腹部には光の剣のようなものが貫通している。
俺はそのままゆっくり地面に倒れ込んだ。仲間の皆が駆け寄ってくれるのが見える。
「爺。いきなりやりすぎなんじゃないか?」
「ん? これくらいがちょうど良いじゃろう。周りが見えていないこの小童が悪い」
「相変わらず容赦無いな」
「容赦などこの世界で生き残るには不要じゃ。ほれさっさとトドメを刺すぞ」
老人はそう言って光る樹の剣を出した。俺が見た事が無いスキルだ。それにただならないエネルギーが宿っている――。まるで一振りすれば海を割る事だってできそうだ。こんな攻撃を喰らえば俺は確実に死ぬ――。
生憎、身体は全然動かない。俺は死を覚悟してそっと目閉じた。
「諦めるなや。あの生意気な自分どこいってん!?」
そう言いながら、老人の一太刀を受け止めてたのはランベーフだった。
「邪竜か。儂の剣を受け止めるとはなかなかやるのう」
「アホ言え。お前絶対に老人の森妖精と違うやろ!」
ランベーフの独特な口調の影響か、どこか余裕があるようにも見るが、表情を見れば一目瞭然だ。冷や汗を流しながら、森妖精の老人を睨みつけて歯を食いしばっている。誰が見てもランベーフが不利だ。
「なかなかの力じゃな」
森妖精の老人はそう言ってランベーフを振り払った。するとランベーフは吹っ飛ばされて、20m先にある施設の壁に激突してしまう――。
これは万事休すだ……。
敵が強すぎる――。
完全に人間の姿では無いものの、自我を取り戻したエヴァンスは俺の近くへ歩み寄ってきた。そして、俺の手を握るなり目を瞑った。
何をしたのかと思えば、身体がどんどん軽くなっていく。うっすらとしていた意識も回復していく。俺はエヴァンスに回復を使われたのだ。そもそもの話、俺が知っているエヴァンスは、回復を使えたわけでは無いし、バフォメットが回復を使える個体では無かったはずだ。
「フォル兄、大丈夫?」
「ありがとう。傷は癒えたから問題ない。それより大丈夫なのか?」
「今は何とか大丈夫。またいつ暴れるか分からないから、フォル兄は今の間に休んでて。見た感じ、俺を一人で止めることができるのは、今のフォル兄とバフォメットを倒したあのお姉さんだけのようだし」
エヴァンスはそう言って俺の後ろの方向を指した。指した先には倒れているバフォメットの前で、スウーと呼吸を整えているエヴァだった。アリスとフィオナは、シュファ、カルロータ、ランベーフの所へ応戦していたようだ。
「流石だな」
「皆、フォル兄の仲間?」
「そうだな。頼れる仲間だ」
俺がそう呟くと、タイミング良く最後のバフォメットを、アリス、フィオナ、シュファ、カルロータ、ランベーフのチームが撃破していた。
「あれも子供達だよな?」
「勿論そうだよ。ただ、記憶は曖昧だからどんな人があの姿になっていたかまでは憶えていない。フォル兄はどうやって自我を取り戻したの?」
「西の国にあるマーズベル共和国に、腕の良い医者がいてな。頭の中に埋め込まれているマイクロチップという物を除去して記憶が甦った。まあ、始めから全部思い出したわけではないが、今となってはほとんどの記憶が甦ったよ。エヴァンスは俺の事をよく憶えていたな?」
「そうだね。多分最近完全なバフォメットになったんだと思う。そうじゃないとフォル兄みたいに記憶が完全に消えて本物の怪物になっていたはずだし。逆にフォル兄じゃないと記憶が甦るって事は無かったから運が良かったよ」
「そうか。何より無事でよかった」
俺はそう思うと自然に涙が出ていた。
「気持ちは俺も嬉しいけど今は脱出が先だ。案内するからついて来て――」
「は――?」
エヴァンスは突如吐血を始めたので、俺は一瞬何が起きたか分からなかった。そしてエヴァンスは虚しくも俺の目の前でぐったりと倒れる。
俺はエヴァンスを受け止めた。腹部に孔が空いている――そこからの出血が止まらない。
「誰か薬を!」
俺がそう叫ぶと、異変に気付いたエヴァが真っ先に駆けつけてくれた。
「酷い怪我ね――私の技術じゃ治すことができないかもしれない――」
「頼む! 何とかしてくれ!」
「分かっているわ」
そうエヴァが必死にエヴァンスの傷を治してくれるなか、誰かが近付いて来た。
「ったく――世話しないのう。あの方の耳に入る前に片付けなければ」
「救難信号が無かったら、今頃この施設が破壊されていた所だな」
そう呟きながら俺達の前に立ちはだかったのは、黒いローブに身を包んだ大男と、杖をついている森妖精の老人だった。
黒いローブの男も相当な手練れだが、森妖精の老人もかなりの手練れだ――一体何者なんだ?
「どっちがエヴァンスをやったんだ!?」
俺がそう威嚇しても2人は微動だにしなかった。
「意思のある亜人。フォルボスか――なかなか面白いが儂等の相手にはならんよ」
そう挑発をしてきたのは、黒いローブの人間では無く、森妖精の老人だった。そして次の俺の行動があまりにも愚かだった。この2人のどっちかがエヴァンスに致命傷――あの大怪我なら下手をすると死ぬかもしれない――そう頭によぎったときには、その老人に向かって攻撃を行っていた――。
「若いのう」
老人はそう言って口角を吊り上げたと同時に、光が俺の方に向かって飛んで来た。腹部に走る激痛――。
「なっ……!?」
俺は自分の腹部を見て驚いた。前提として間合いは2m程あった筈だ。しかし俺の腹部には光の剣のようなものが貫通している。
俺はそのままゆっくり地面に倒れ込んだ。仲間の皆が駆け寄ってくれるのが見える。
「爺。いきなりやりすぎなんじゃないか?」
「ん? これくらいがちょうど良いじゃろう。周りが見えていないこの小童が悪い」
「相変わらず容赦無いな」
「容赦などこの世界で生き残るには不要じゃ。ほれさっさとトドメを刺すぞ」
老人はそう言って光る樹の剣を出した。俺が見た事が無いスキルだ。それにただならないエネルギーが宿っている――。まるで一振りすれば海を割る事だってできそうだ。こんな攻撃を喰らえば俺は確実に死ぬ――。
生憎、身体は全然動かない。俺は死を覚悟してそっと目閉じた。
「諦めるなや。あの生意気な自分どこいってん!?」
そう言いながら、老人の一太刀を受け止めてたのはランベーフだった。
「邪竜か。儂の剣を受け止めるとはなかなかやるのう」
「アホ言え。お前絶対に老人の森妖精と違うやろ!」
ランベーフの独特な口調の影響か、どこか余裕があるようにも見るが、表情を見れば一目瞭然だ。冷や汗を流しながら、森妖精の老人を睨みつけて歯を食いしばっている。誰が見てもランベーフが不利だ。
「なかなかの力じゃな」
森妖精の老人はそう言ってランベーフを振り払った。するとランベーフは吹っ飛ばされて、20m先にある施設の壁に激突してしまう――。
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敵が強すぎる――。
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