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連行Ⅲ
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城の中を歩くこと数分。クロノスは兵は牢の中へとぶち込まれた。
「ナリユキ様!」
「ん?」
「どうかご無事で」
クロノスが俺にそう言ってきた。しかし瞳の中に潜んでいたそんな軽い感情ではなかった。まるでクロノスの胸中が手に取るように分かる――絶対に死なないでください! そう訴えかけていた。
牢の扉が扉がメリーザによって施錠されると、俺はもっと奥の牢へと案内された。数十メートル歩いたところにあった大きめの牢。牢という概念でいけば大人10人足らず入っても苦ではくらいのスペースはあった。
「貴様はここだ。呼びに来るから大人しくしていろ」
マカロフ卿にそう言われて牢の扉はギギギという古びた金属音と共に閉じられた。
「それにしても牢っていうのは居心地が悪いな」
清掃されているのか分からない公衆便所のようなトイレと、ボロボロのベッドがあるのみ――。ん? トイレ? そうか、マカロフ卿がいるから発達しているのか――。アードルハイムの牢と比べたら全然マシだな。
俺は取り合えずベッドに腰をかけた。
「どうするか――」
正直なところ、これから何が起きるか分からないという状態は、俺を追い詰めるには十分だった。スキルが使えないという状況はこの世界においてこれほど苦しいものなのだと感じた。魔族や龍族のように元々の生体としてのスキルは無い。どんなスキルでも習得できる可能性があるメリットの代わりにスキルを封じ込められては何もできない。唯一の武器と言えば、経験値という名の今まで生きてきた中でのスキルだ。コミュニケーション能力、交渉力、サバイバル力といったもの――。
部屋を見渡したものの、特に脱出できそうなものは無い。当然、牢のところに小窓なんてものはない。
「タンパク質――」
筋トレを行うためにいつもなら今の時間帯あたりにミクちゃんの手料理を食べているところだ。ここでの時間帯は全然違うらしいが、マーズベルでの時刻でいうと今は19時頃だ――正直辛すぎる。
俺はそれからしばらく何も考えずに途方に暮れていた。ここまで何も考えないのは何年ぶりだろうか――。これほど、自分で何もできないと実感させられると直ぐに廃人になれそうだ。
創造主というチートスキルをたまたま授けられたので好き放題に暴れることができたんだなとしみじみと感じる。
そう思いにふけっていると廊下の奥の方から革靴の足音が聞こえて来た。
「来い。ボスがお呼びだ」
マカロフ卿がそう言って牢を開けた。先に歩かされた。
「この廊下はしばらく真っすぐが続く。行け」
「マカロフ卿一人で来たのか?」
「ああ。私一人で十分だからな。それにしても随分と覇気が無くなったな。正直失望したよ」
「うるせえよ」
「こういった体験は初めてだろうからな。経験の1つとしてはアリなんじゃないか?」
「したくない経験だな」
「違いない」
マカロフ卿はそう言って葉巻をふかした。それにしても妙だ――敵にしては妙に緊張感がない。
「なあ。聞いてもいいか?」
「変な質問でなければ答えてやる」
マカロフ卿にそう言われて俺はゆっくり息を吐いて心を落ち着かせた。
「俺は殺されるのか?」
俺がそう言うとマカロフ卿はしばらく沈黙をして――。
「さあな。これが私の答えだ」
今の間はどっちなのだろう。本当に知らないっていう可能性は低く、何らかの情報は知っているような口ぶりだった。
廊下を歩いていると、途中でクロノス達がいる廊下の前を通った。クロノスは俺の顔を見るなり――。
「ナリユキ様……」
たったそれだけの言葉をかけてきた。俺は思わず立ち止まってクロノスの目をほんの数秒見ていた。
向けられた眼差しはまるで我が子を見るような瞳だった。ルミエールの側近という重要な役割を改めて肌で感じさせられた気がする。
「ありがとう。大丈夫だ」
俺はそれだけ言ってまた歩き始めた。ゆっくりと歩いているときに感じるクロノスの視線。振り返らずとも、クロノスが黙って俺の背中を見ているのが感じ取れていた。
「貴様は本当に慕われてるな」
「その慕われている人を捕まえるなよ」
俺が皮肉っぽく聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームで言うと、マカロフ卿は意外にも「違いない」と笑っていた。
「しかし、貴様がやった行いは我が国にとって不利益ばかりを生み出している。だからこうして貴様を捕まえた」
「あっそ――まあ誰かが苦しめられている反面、誰かが得を積んでいるというのがお金を動かすにあたっての摂理というものだ。けどアンタがやっているお金の回し方は本当に綺麗なのか?」
俺がそう立ち止まってマカロフ卿の方に振り向いて言うと、マカロフ卿は眉間に皺を寄せた。
「黙れ!」
その瞬間体中に鈍痛が駆け巡った。一瞬息も詰まった。
「クソ……」
物理攻撃無効が無いと、コイツの蹴りはこんなに痛いのか。身体向上なんか使われたら一瞬で意識がもっていかれそうだ。
「早く行け」
マカロフ卿の声が、このひんやりとした不気味なこの空間に静かに響いた。地下を出た後はマカロフ卿が先に行くことになる。甲冑を着た兵士が行きかっているので、ここで何か変な事を起こしたら直ぐに殺されそうだ。俺は直感的だがそう感じた。
そして着いたところは黒い重厚そうな扉がある部屋の前だった。
「ナリユキ様!」
「ん?」
「どうかご無事で」
クロノスが俺にそう言ってきた。しかし瞳の中に潜んでいたそんな軽い感情ではなかった。まるでクロノスの胸中が手に取るように分かる――絶対に死なないでください! そう訴えかけていた。
牢の扉が扉がメリーザによって施錠されると、俺はもっと奥の牢へと案内された。数十メートル歩いたところにあった大きめの牢。牢という概念でいけば大人10人足らず入っても苦ではくらいのスペースはあった。
「貴様はここだ。呼びに来るから大人しくしていろ」
マカロフ卿にそう言われて牢の扉はギギギという古びた金属音と共に閉じられた。
「それにしても牢っていうのは居心地が悪いな」
清掃されているのか分からない公衆便所のようなトイレと、ボロボロのベッドがあるのみ――。ん? トイレ? そうか、マカロフ卿がいるから発達しているのか――。アードルハイムの牢と比べたら全然マシだな。
俺は取り合えずベッドに腰をかけた。
「どうするか――」
正直なところ、これから何が起きるか分からないという状態は、俺を追い詰めるには十分だった。スキルが使えないという状況はこの世界においてこれほど苦しいものなのだと感じた。魔族や龍族のように元々の生体としてのスキルは無い。どんなスキルでも習得できる可能性があるメリットの代わりにスキルを封じ込められては何もできない。唯一の武器と言えば、経験値という名の今まで生きてきた中でのスキルだ。コミュニケーション能力、交渉力、サバイバル力といったもの――。
部屋を見渡したものの、特に脱出できそうなものは無い。当然、牢のところに小窓なんてものはない。
「タンパク質――」
筋トレを行うためにいつもなら今の時間帯あたりにミクちゃんの手料理を食べているところだ。ここでの時間帯は全然違うらしいが、マーズベルでの時刻でいうと今は19時頃だ――正直辛すぎる。
俺はそれからしばらく何も考えずに途方に暮れていた。ここまで何も考えないのは何年ぶりだろうか――。これほど、自分で何もできないと実感させられると直ぐに廃人になれそうだ。
創造主というチートスキルをたまたま授けられたので好き放題に暴れることができたんだなとしみじみと感じる。
そう思いにふけっていると廊下の奥の方から革靴の足音が聞こえて来た。
「来い。ボスがお呼びだ」
マカロフ卿がそう言って牢を開けた。先に歩かされた。
「この廊下はしばらく真っすぐが続く。行け」
「マカロフ卿一人で来たのか?」
「ああ。私一人で十分だからな。それにしても随分と覇気が無くなったな。正直失望したよ」
「うるせえよ」
「こういった体験は初めてだろうからな。経験の1つとしてはアリなんじゃないか?」
「したくない経験だな」
「違いない」
マカロフ卿はそう言って葉巻をふかした。それにしても妙だ――敵にしては妙に緊張感がない。
「なあ。聞いてもいいか?」
「変な質問でなければ答えてやる」
マカロフ卿にそう言われて俺はゆっくり息を吐いて心を落ち着かせた。
「俺は殺されるのか?」
俺がそう言うとマカロフ卿はしばらく沈黙をして――。
「さあな。これが私の答えだ」
今の間はどっちなのだろう。本当に知らないっていう可能性は低く、何らかの情報は知っているような口ぶりだった。
廊下を歩いていると、途中でクロノス達がいる廊下の前を通った。クロノスは俺の顔を見るなり――。
「ナリユキ様……」
たったそれだけの言葉をかけてきた。俺は思わず立ち止まってクロノスの目をほんの数秒見ていた。
向けられた眼差しはまるで我が子を見るような瞳だった。ルミエールの側近という重要な役割を改めて肌で感じさせられた気がする。
「ありがとう。大丈夫だ」
俺はそれだけ言ってまた歩き始めた。ゆっくりと歩いているときに感じるクロノスの視線。振り返らずとも、クロノスが黙って俺の背中を見ているのが感じ取れていた。
「貴様は本当に慕われてるな」
「その慕われている人を捕まえるなよ」
俺が皮肉っぽく聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームで言うと、マカロフ卿は意外にも「違いない」と笑っていた。
「しかし、貴様がやった行いは我が国にとって不利益ばかりを生み出している。だからこうして貴様を捕まえた」
「あっそ――まあ誰かが苦しめられている反面、誰かが得を積んでいるというのがお金を動かすにあたっての摂理というものだ。けどアンタがやっているお金の回し方は本当に綺麗なのか?」
俺がそう立ち止まってマカロフ卿の方に振り向いて言うと、マカロフ卿は眉間に皺を寄せた。
「黙れ!」
その瞬間体中に鈍痛が駆け巡った。一瞬息も詰まった。
「クソ……」
物理攻撃無効が無いと、コイツの蹴りはこんなに痛いのか。身体向上なんか使われたら一瞬で意識がもっていかれそうだ。
「早く行け」
マカロフ卿の声が、このひんやりとした不気味なこの空間に静かに響いた。地下を出た後はマカロフ卿が先に行くことになる。甲冑を着た兵士が行きかっているので、ここで何か変な事を起こしたら直ぐに殺されそうだ。俺は直感的だがそう感じた。
そして着いたところは黒い重厚そうな扉がある部屋の前だった。
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