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ヴェドラウイルスⅠ
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風呂から上がり、レンさん達に屋敷の客室、和食のフルコースを楽しんでもらっている傍ら、医療施設から聞き逃すことができない情報がミクちゃんの耳に入った。ミクちゃんの近くにいた俺は、ミクちゃんと2人でミクちゃんが管理している医療施設へと向かう。
働いている森妖精達の合図を返しながら、その情報源である隔離施設へと向かう。
ガラス張りの集中治療室で1人の男が、回復に長けたマスクを付けている5人の森妖精に囲まれながら回復を受けていた。その男性は体中に紫色の湿疹ができていた。
「ナリユキ様。お忙しいところ来て頂きありがとうございます」
そう話しかけて来たのはベリトだった。隣には険しい表情を浮かべているフィオナがいる。
「あの人か」
「はい。あの紫色の湿疹の人間が何故マーズベルに流れ込んできたのかは分かりませんが、まずはあの症例に詳しいフィオナの話を聞いて下さい」
すると、フィオナは悲しい表情を浮かべながら口を開いた。
「まずあの湿疹のご説明をさせて頂きますと、魔物の菌と転生者の知恵で培養された人工的に造られた疫病です」
「また、ややこしいのきたな」
俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「だね」
そう言って重い表情を浮かべるミクちゃん。
「この疫病は魔物から人へ。人から魔物へ。人から人へと感染する強力な疫病です。20年ほど前に、経済が右肩上がりだった人口100万人程の小国家の人々が、この疫病の影響で滅んでしまいました。その国の名前はアーディン王国。カーネル王国から100km程離れた場所に位置します」
異世界に来て初めて俺達の世界の陰謀論のような話持って来れられた。しかし、こっちに俺達の世界にいた人間がたくさんいるならな、こういった疫病を開発ができる人間がいるのも当然のことだ。
「誰がそんな事をしたんだ?」
「噂ではログウェルではないかと――」
「マカロフ卿達か?」
「いえ、仮にログウェルだとしてもマカロフ卿が関係があるのかと言うと微妙なところです……マカロフ卿は20年も前にいた人間ではありませんから」
「そうか……で、その疫病の感染率はどれくらいなんだ?」
「布で口元を覆ったりなどで対策をすることは勿論ですが基本的には50%ほどの確率で感染します……」
「ということは、あそこにいる森妖精達は?」
「当然確率で言うと5人のうちの2人か3人は感染するでしょう」
「滅んだっていうと命を落としたってことだよな? 致死率はどれくらいなんだ?」
「感染して悪化すれば100%死にます。アーディン王国を除き、他国では10%の確率で死に至っております。ですので相当危険な菌です。あそこにいる5人もその危険を承知のうえで今、懸命に治療を行っております」
「簡単に治せるものではないのか――」
「はい――ミク様の御力でも時間はかかると思います。原理的には回復と解除を同時に行うのですが、如何せん人工的に造られて未知の疫病なので……」
俺はその話を聞いて胸が痛くなった。言い方は悪いが、自分の身が危険だというのに、未知の疫病を患ったどこの誰か分からない人間を懸命に治療している姿に――。
「その疫病の名前は何て言うだ?」
「ヴェドラウイルスと呼ばれております。ヴェドラというのは、S級クラスの疫病のスキルを大量に有している魔物の名前です。世界に数百匹程いることが確認されております」
「成程な――」
「ナリユキ様。本題はここからです。あそこに寝ている男は夕方頃にリリアンのメインストリートで倒れたのですが、彼も色々なところを観光していたらしく、彼から感染したマーズベルの国民や、他国の冒険者多いかと思われます。現状、施設内に運ばれている患者は熱を訴えて運ばれてきました。今目の前にいる患者もまさに発熱で倒れたと言われております。ですので、発熱は初期段階かと思います」
ベリトの説明に何とも言えない気持ちになった――。うちの森妖精達であれば何でも治せると思っていたから、まさかこんな事態になるとは想定もしていなかった――。森妖精達でなかなか治せないというのは、ヴェドラ単体の疫病スキルが強力なのと、何らかの化学薬品が混ぜられていると考えるのが妥当だ。でなければ回復と解除で直ぐに治すことができる。しかし調合することによって、スキル効果を無視した新たなジャンルを確立させて、結果的に治すまでに時間がかかるというラグを生み出し、その間に患者の病状を悪化させて死に至らしめるというものだろう。
「ナリユキ君――大丈夫?」
「ああ――」
自分でも分かる。顔がさあと青白くなっているのが――。そんな俺を心配してミクちゃんは声をかけてくれたのだ。
「ありがとう。大丈夫だ。それよりフィオナは何でヴェドラウイルスを知っているんだ?」
「はい――ちょうどあたしが冒険者だった頃、アーディン王国に任務で出向いたことがありました。そのときに仲良くなった転生者の人間がいて、そのときに話を聞いていたんです。最近、未知のウイルスがこの国で流行っているのだと。それがヴェドラウイルスでした――あたしは結果的に感染はしておりませんでしたが、その転生者はヴェドラウイルスにかかってしまい命を落としています」
「そうだったのか――」
ログウェルはコヴィー・S・ウィズダムの著書によると、お金に貪欲な国と記されている――。アーディン王国の景気がよくなったのも、多少ログウェルに影響を与えていたのだろう――。それでログウェルがヴェドラウイルスを使ってアーディン王国の人間を滅ぼしたという筋書きは何とも綺麗だ――。
ログウェルを調査する必要性が益々出て来たな。
働いている森妖精達の合図を返しながら、その情報源である隔離施設へと向かう。
ガラス張りの集中治療室で1人の男が、回復に長けたマスクを付けている5人の森妖精に囲まれながら回復を受けていた。その男性は体中に紫色の湿疹ができていた。
「ナリユキ様。お忙しいところ来て頂きありがとうございます」
そう話しかけて来たのはベリトだった。隣には険しい表情を浮かべているフィオナがいる。
「あの人か」
「はい。あの紫色の湿疹の人間が何故マーズベルに流れ込んできたのかは分かりませんが、まずはあの症例に詳しいフィオナの話を聞いて下さい」
すると、フィオナは悲しい表情を浮かべながら口を開いた。
「まずあの湿疹のご説明をさせて頂きますと、魔物の菌と転生者の知恵で培養された人工的に造られた疫病です」
「また、ややこしいのきたな」
俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「だね」
そう言って重い表情を浮かべるミクちゃん。
「この疫病は魔物から人へ。人から魔物へ。人から人へと感染する強力な疫病です。20年ほど前に、経済が右肩上がりだった人口100万人程の小国家の人々が、この疫病の影響で滅んでしまいました。その国の名前はアーディン王国。カーネル王国から100km程離れた場所に位置します」
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「誰がそんな事をしたんだ?」
「噂ではログウェルではないかと――」
「マカロフ卿達か?」
「いえ、仮にログウェルだとしてもマカロフ卿が関係があるのかと言うと微妙なところです……マカロフ卿は20年も前にいた人間ではありませんから」
「そうか……で、その疫病の感染率はどれくらいなんだ?」
「布で口元を覆ったりなどで対策をすることは勿論ですが基本的には50%ほどの確率で感染します……」
「ということは、あそこにいる森妖精達は?」
「当然確率で言うと5人のうちの2人か3人は感染するでしょう」
「滅んだっていうと命を落としたってことだよな? 致死率はどれくらいなんだ?」
「感染して悪化すれば100%死にます。アーディン王国を除き、他国では10%の確率で死に至っております。ですので相当危険な菌です。あそこにいる5人もその危険を承知のうえで今、懸命に治療を行っております」
「簡単に治せるものではないのか――」
「はい――ミク様の御力でも時間はかかると思います。原理的には回復と解除を同時に行うのですが、如何せん人工的に造られて未知の疫病なので……」
俺はその話を聞いて胸が痛くなった。言い方は悪いが、自分の身が危険だというのに、未知の疫病を患ったどこの誰か分からない人間を懸命に治療している姿に――。
「その疫病の名前は何て言うだ?」
「ヴェドラウイルスと呼ばれております。ヴェドラというのは、S級クラスの疫病のスキルを大量に有している魔物の名前です。世界に数百匹程いることが確認されております」
「成程な――」
「ナリユキ様。本題はここからです。あそこに寝ている男は夕方頃にリリアンのメインストリートで倒れたのですが、彼も色々なところを観光していたらしく、彼から感染したマーズベルの国民や、他国の冒険者多いかと思われます。現状、施設内に運ばれている患者は熱を訴えて運ばれてきました。今目の前にいる患者もまさに発熱で倒れたと言われております。ですので、発熱は初期段階かと思います」
ベリトの説明に何とも言えない気持ちになった――。うちの森妖精達であれば何でも治せると思っていたから、まさかこんな事態になるとは想定もしていなかった――。森妖精達でなかなか治せないというのは、ヴェドラ単体の疫病スキルが強力なのと、何らかの化学薬品が混ぜられていると考えるのが妥当だ。でなければ回復と解除で直ぐに治すことができる。しかし調合することによって、スキル効果を無視した新たなジャンルを確立させて、結果的に治すまでに時間がかかるというラグを生み出し、その間に患者の病状を悪化させて死に至らしめるというものだろう。
「ナリユキ君――大丈夫?」
「ああ――」
自分でも分かる。顔がさあと青白くなっているのが――。そんな俺を心配してミクちゃんは声をかけてくれたのだ。
「ありがとう。大丈夫だ。それよりフィオナは何でヴェドラウイルスを知っているんだ?」
「はい――ちょうどあたしが冒険者だった頃、アーディン王国に任務で出向いたことがありました。そのときに仲良くなった転生者の人間がいて、そのときに話を聞いていたんです。最近、未知のウイルスがこの国で流行っているのだと。それがヴェドラウイルスでした――あたしは結果的に感染はしておりませんでしたが、その転生者はヴェドラウイルスにかかってしまい命を落としています」
「そうだったのか――」
ログウェルはコヴィー・S・ウィズダムの著書によると、お金に貪欲な国と記されている――。アーディン王国の景気がよくなったのも、多少ログウェルに影響を与えていたのだろう――。それでログウェルがヴェドラウイルスを使ってアーディン王国の人間を滅ぼしたという筋書きは何とも綺麗だ――。
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