【電子書籍化決定!】生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~

天樹 一翔

文字の大きさ
上 下
115 / 597

帝国軍支部基地潰しⅢ

しおりを挟む
十数分後、後ろ手に縛られたティリルが男達に連れられフラフラと現れた。
目元は黒い布で巻かれ視界が塞がれていた。


駆け寄ろうとしたバリラとフラウットに蝙蝠少女ミューズが二人の足元へナイフを投擲して制する。

「会わせるとは言ったけど接触は許可してないわよ」
「……わかったよ!わかったから」


小剣をティリルの首に突き付けるミューズの目は酷く冷たく、無感情のまま殺せるのだと思い知らせていた。
レオニードとガルディは静観して成り行きを見守っている。

「バリラ、フラ。逸っても好転しない落ち着け」
「う、うん。わかってる」


レオニードに肩を掴まれたバリラは深く呼吸をすると、極力抑えた声でティリルへ話しかけた。
「ティル、無事で良かった。必ず助けるから!どうか辛抱強く待っていて!ね、お願い!」

哀願するように声をかける親友に元王女ティリルは微動だにせず、連れて来られたままそこに佇んでいる。
もう一度声を掛けようとバリラが口を開きかけた時、ミューズが黒い目隠しを解いた。


「ほら、なんか言ってやりなさいよ。お友達なんでしょ?」
憎らしい笑みを浮かべてミューズは解いた黒い布切れを指で弄びながら煽る。
ティリルはゆっくりと閉じていた瞳を開いてやっと口を動かす。


「……私は何も言いませんわ」
「ティル!?」


友人の口から放たれた言葉にバリラは固まる。
あまりの素っ気なさに愕然としてしまったのだ。


そしてティリルの瞳はどこか濁っていて、視界も定まっていない様子だった。
レオニード側は、人質ティリルが何らかの制裁を受けたのではと危惧した。

思わず咆えそうになるバリラだったが、友人の無事のため耐えるしかないと口をきつく噛む。
それから、ミューズ側は”話は終わっただろう”とばかりに侮蔑の視線を寄越すと洞窟の方へと去って行った。


連れ去られるティリルの背中を、バリラは暗がりに消えるまで見つめていたが仲間の声に我に返る。
「ごめん、私は冷静でいられたかな?」
「うん、だいじょうぶ。バリラは頑張ってたよ。必ずまた会えるから」

少し背の高いバリラの頭を、背伸びして撫でるフラウットは「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と声をかけて歩いた。


***

敵国と対峙して半時。

ガルディ王とレオニード達は国境付近に移動して、野営の準備をしていた。
交渉時の緊張と数度の転移魔法で疲弊した一行は酷い倦怠感に襲われていた。

彼らは食事も碌に摂らず、軽く水分を口にして寝入ることにした。
さすがの獣人フラウットも寝ず番は交代することを願いでた。

何回目かの交代で起きたレオニードは、雲に見え隠れする星空を仰ぎ見て冷たい夜の空気を吸い込む。
「冬の空は澄むというけれど、本当だな……」


「錯覚だというのに……バカだな」
今にも落ちてきそうな星々は、手で掴めそうな距離に見えてレオニードは少し苦笑いした。

「何がおかしいのさ」
「!……バリラか」


きゅうに声を掛けられたレオニードは少々驚いた。小さな焚火を挟むように彼女は坐る。
「声かけくらいでビビッてどうすんの、寝ず番の意味ないだろ」
「悪かったよ、交代したばかりで寝ぼけ気味だったんだ」

「ふん」

バリラは火にかけたヤカンから湯を注いでフゥーフゥーと飲む、しかし、どこかもの足りそうな顔をした。
そういえば夕飯を摂っていないとレオニードも自分の腹を摩る。


魔法鞄を漁ると少し欠けたビスケットとフワフワな何かが指に触れた。
「……取って置きだけど仕方ないか」

レオニードは焚き木用の小枝を数本集めて拭うとアルモノを刺して地面に突き立てた。
バリラは眠そうな目を擦りそれをボンヤリ観察していた。


「なにをやってんだコイツって顔だな」
「ふん、だって何をやってるか意味不明だし。眠いしどうでもいいや」

バリラは寝ず番でもないのに起きてきて損したとテントへ戻ろうと立ち上がる。
だが、炙られたそれがプクリと焦げ香ばしい煙に引き止められる。


「なんだこの匂い!?甘くて良い香がする!」
「焼きマシュマロだよ、キャンプの御馳走のひとつさ」

パンパンに膨れ上がったソレを、レオニードはニヤニヤしながらバリラへと突き出してやる。
バリラは迷わずそれを受け取るとドカリと隣に座るやいなや食み始めた。


「アチチチッ!」
「はは、落ち着いて食え逃げないからさ」

蕩けて伸びてアツアツの焼きマシュマロはあっと言う間にバリラを虜にしていった。
「なにこれ!すんげぇ美味い!マシュマロってフワフワなだけじゃないのかよ!」
「はい、これも食べてみな」

焼きマシュマロのビスケットサンドがバリラを益々喜ばせていく。
かつてストロ村ダンジョンでフラウットと秘密のオヤツを食べたことをとうとう暴露した。

「んだよもう!ずっるいじゃんか!……はぁティルはご飯たべたかな。あの子にも分けてやりたいな」
「……」

急にしょ気たバリラにレオニードが言う。

「だいじょうぶってフラに言われたろ?」
「うん……」

「信じてやろうぜ」
「……うん」


「それにアレはティルじゃないしな。平気さ」
「……うん。……うっ!うん!?ど、どういうことさ!どういう意味なんだ!こら!」

レオニードの言葉に荒れに荒れたバリラの怒号が、惰眠を貪っていた連中を叩き起こしたのは言うまでもない。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

処理中です...