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漂流者Ⅲ
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屋敷に着くとナリユキさんの指示で私達はフィオナさんの様子を診ることにした。この客室にいるのは、私とアリシアさんとアリスちゃんの3人。
「アリシアさんを訪ねてきたということはお知り合いなんですよね?」
「ええ。本来だと森妖精と闇森妖精は犬猿の仲なのですが、彼女は平和主義者なので森妖精と対立しようとは思わない考え方なのです。ですので、何百年前かに一緒にパーティーを組んで冒険をしていたこともありました」
「それでアリシアさんも☆1つ持っているんですね。ベルゾーグさんやアリスちゃんはマーズベルから出たことが無いから持っていないと踏んでいましたが、森の管理者のアリシアさんが勲章を持っているのが疑問だったんですよ」
「そうなんです。そしてある日マーズベル森林の管理者が私に任命されたので、ここに戻ってきました。しかし、彼女は他の闇森妖精と組み、色々の冒険をされていたようです。その冒険の内容は文通を通して知っておりました」
「そのパーティーを組んでいたときに、マーズベルに訪れたことがあったという事ですか?」
「そうです。しかし彼女が転移を失敗するなんて――相当傷が深かったのですね。ミク様、ありがとうございます」
「いえいえ。当たり前の事をしただけですよ」
「ミク様。フィオナさんが――」
アリスちゃんがそう言うと、フィオナさんが「ん――」と声を漏らしていた。
「ここは? フレッドは!?」
フィオナさんが目覚めるなり、体を起こして辺りを見渡した。その慌てた様子のフィオナさんに、アリシアさんが声をかけた。
「ここはマーズベル共和国のリリアンです。そして、マーズベル共和国の閣下であるナリユキ・タテワキ様のお屋敷です。貴女の命は皆様によって救われましたが、幼馴染のフレッドさんは転移寸前に命を落としています」
「目の前で見ていないのに何で分かるの!」
「実は今、カーネル王国のカーネル王様、側近のクロノス様、そしてカーネル王国のギルドマスターのルイゼンバーン様がいらっしゃっています。そのなかのクロノス様が、スキルで貴方の過去を遡ったので間違いないでしょう」
「そんな――」
フィオナさんはそう力なく呟いた後泣き崩れていた。私とアリスちゃんは一度部屋の外へ出て、彼女の泣き声をしばらく聞いていた。アリシアさんの「辛かったですね」という慰めの言葉は私にも聞こえていた。
幼馴染とは言っていたけど、恐らくフィオナさんは、その幼馴染に好意を抱いていたのだ。アードルハイム帝国は平気で、大切な人との繋がりを絶つ極悪非道の国。野放しにしていていい筈が無い。
「大変ですね」
「そうだね。大切な人が目の前でいなくなるなんて辛すぎるよ」
もし――。ナリユキさんが私の目の前で死んでしまったら――。そう想像しただけで嗚咽が込み上げてくる。
「ミク様も凄く悲しそうな顔しておりますね。ナリユキ様がもしいなくなったら? という風に考えておられたのですか?」
「そう。アリスちゃんの前ではお見通しだね」
気付いたら、涙が頬を伝っていた。フィオナさんの気持ちを考えるとやるせない。
そう考えていると、アリシアさんが部屋から出てきた。
「少し落ち着いたようです。アリス様、ナリユキ様達を呼んできてもらっていいですか?」
「分かりました」
アリスちゃんはアリシアさんに言われた通りナリユキ様達を呼びに行った。私は部屋にもう一度入ると、フィオナさんは頭を下げてきた。
「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ございません」
「いえいえ。少し楽になったようですね」
「ええ。ただ、無気力感はまだ残っています」
「ナリユキさんは優しい方なので、ここにしばらく滞在していても構わないですよ。なんならこの国に住んでもらっても構いません。ますは心のケアに励みしょう」
「はい――。過去を視たということは私がどういう扱いをされていたかもご存知なのですよね?」
「そうですね。いっそのこと死んだほうマシと思えますよね――。しかし、この国に来たならもう安心ですよ。この国にはフィオナさんをアードルハイム帝国のように扱う人はいませんから」
そう私なりの目一杯の笑顔を見せると、フィオナさんは再び涙を流し始めた。
手で一生懸命拭うと、フィオナさんも笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。そう言えば、マーズベルはいつから共和国になったのですか? それにアリシアをも配下にしてしまう人物とは一体どのような――。あ、申し訳ございません。闇森妖精のフィオナと申します」
「ミク・アサギと申します」
そう言って私も一度頭を下げた。その後アリシアさんが口を開いた。
「ナリユキ様は、聡明でお強い方ですよ。フィオナの話を聞いてアードルハイム帝国に喧嘩を売ろうとした物凄く情に熱い優しい方です」
「そう――か。気持ちは嬉しいけれど、あたしは反対です。ナリユキ閣下がどれだけお強い方存じませんが無謀すぎます」
「私もそう思うわ。目を瞑りながら新しいマーズベル共和国で平和に暮らすことが私達森妖精の望み。けれども、あの御方なら行動に移すかもしれない」
「ですね」
そう会話をしていると、部屋の外からノックする音が聞こえた。
「入るぞ」
「はい。どうぞ」
ナリユキさんの問いかけに応えると、ナリユキさん、カーネル王、クロノスさん、アリスちゃんが部屋の中に入って来た。
「アリシアさんを訪ねてきたということはお知り合いなんですよね?」
「ええ。本来だと森妖精と闇森妖精は犬猿の仲なのですが、彼女は平和主義者なので森妖精と対立しようとは思わない考え方なのです。ですので、何百年前かに一緒にパーティーを組んで冒険をしていたこともありました」
「それでアリシアさんも☆1つ持っているんですね。ベルゾーグさんやアリスちゃんはマーズベルから出たことが無いから持っていないと踏んでいましたが、森の管理者のアリシアさんが勲章を持っているのが疑問だったんですよ」
「そうなんです。そしてある日マーズベル森林の管理者が私に任命されたので、ここに戻ってきました。しかし、彼女は他の闇森妖精と組み、色々の冒険をされていたようです。その冒険の内容は文通を通して知っておりました」
「そのパーティーを組んでいたときに、マーズベルに訪れたことがあったという事ですか?」
「そうです。しかし彼女が転移を失敗するなんて――相当傷が深かったのですね。ミク様、ありがとうございます」
「いえいえ。当たり前の事をしただけですよ」
「ミク様。フィオナさんが――」
アリスちゃんがそう言うと、フィオナさんが「ん――」と声を漏らしていた。
「ここは? フレッドは!?」
フィオナさんが目覚めるなり、体を起こして辺りを見渡した。その慌てた様子のフィオナさんに、アリシアさんが声をかけた。
「ここはマーズベル共和国のリリアンです。そして、マーズベル共和国の閣下であるナリユキ・タテワキ様のお屋敷です。貴女の命は皆様によって救われましたが、幼馴染のフレッドさんは転移寸前に命を落としています」
「目の前で見ていないのに何で分かるの!」
「実は今、カーネル王国のカーネル王様、側近のクロノス様、そしてカーネル王国のギルドマスターのルイゼンバーン様がいらっしゃっています。そのなかのクロノス様が、スキルで貴方の過去を遡ったので間違いないでしょう」
「そんな――」
フィオナさんはそう力なく呟いた後泣き崩れていた。私とアリスちゃんは一度部屋の外へ出て、彼女の泣き声をしばらく聞いていた。アリシアさんの「辛かったですね」という慰めの言葉は私にも聞こえていた。
幼馴染とは言っていたけど、恐らくフィオナさんは、その幼馴染に好意を抱いていたのだ。アードルハイム帝国は平気で、大切な人との繋がりを絶つ極悪非道の国。野放しにしていていい筈が無い。
「大変ですね」
「そうだね。大切な人が目の前でいなくなるなんて辛すぎるよ」
もし――。ナリユキさんが私の目の前で死んでしまったら――。そう想像しただけで嗚咽が込み上げてくる。
「ミク様も凄く悲しそうな顔しておりますね。ナリユキ様がもしいなくなったら? という風に考えておられたのですか?」
「そう。アリスちゃんの前ではお見通しだね」
気付いたら、涙が頬を伝っていた。フィオナさんの気持ちを考えるとやるせない。
そう考えていると、アリシアさんが部屋から出てきた。
「少し落ち着いたようです。アリス様、ナリユキ様達を呼んできてもらっていいですか?」
「分かりました」
アリスちゃんはアリシアさんに言われた通りナリユキ様達を呼びに行った。私は部屋にもう一度入ると、フィオナさんは頭を下げてきた。
「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ございません」
「いえいえ。少し楽になったようですね」
「ええ。ただ、無気力感はまだ残っています」
「ナリユキさんは優しい方なので、ここにしばらく滞在していても構わないですよ。なんならこの国に住んでもらっても構いません。ますは心のケアに励みしょう」
「はい――。過去を視たということは私がどういう扱いをされていたかもご存知なのですよね?」
「そうですね。いっそのこと死んだほうマシと思えますよね――。しかし、この国に来たならもう安心ですよ。この国にはフィオナさんをアードルハイム帝国のように扱う人はいませんから」
そう私なりの目一杯の笑顔を見せると、フィオナさんは再び涙を流し始めた。
手で一生懸命拭うと、フィオナさんも笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。そう言えば、マーズベルはいつから共和国になったのですか? それにアリシアをも配下にしてしまう人物とは一体どのような――。あ、申し訳ございません。闇森妖精のフィオナと申します」
「ミク・アサギと申します」
そう言って私も一度頭を下げた。その後アリシアさんが口を開いた。
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「そう――か。気持ちは嬉しいけれど、あたしは反対です。ナリユキ閣下がどれだけお強い方存じませんが無謀すぎます」
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「ですね」
そう会話をしていると、部屋の外からノックする音が聞こえた。
「入るぞ」
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