銃器使いの追放者

天樹 一翔

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ようこそイレーネ事務所Ⅱ

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「今、所長も含めて二人不在なんだけど紹介しておくよ。ここに座っている茶髪の人がヘルギ・シャルヴィ。エリーと同じ戦安官チェイサーだ」

「君、めちゃくちゃ可愛いね! 宜しく!」

 いきなり距離の詰め方がバグっているこの人はシャルヴィさんというらしい。

「駄目ですよヘルギさん。今のご時世そんな事をするとセクハラになるんですから」

 そうシャルヴィさんに注意を入れた人が、先程解体した銃を手元に置いていたオレンジ色のフレームの眼鏡をした男性だった。この人の席はシャルヴィさんの隣だった。 

「そしてコイツがうちの技術担当。サミュエル・ゲイツだ」

「どうもはじめまして。サミュエル・ゲイツです」

 ゲイツさんはそう言って席を立って一礼をした。私もその挨拶に応じて一礼――。でもゲイツって確か――。

「サミュエル・ゲイツって、あの世界一の技術者、ヤコブ・ゲイツさんと同じ名前――」

 私がそう呟くとリストキー副所長が間髪入れずこう答えた。

「ああ。ヤコブ・ゲイツさんはコイツの親父さんだ」

「ええええ!? そうなんですか!?」

 私がそう驚いていると、ゲイツさんは「ハハ……」と照れ臭そうに頭をかいていた。

「まさか新人の子にも名前を知られているとは――まいったな」

「す――凄い。という事はゲイツさんも色々な人の武器の声が聞こえるんですか!?」

「ま――まあね。君の銃はセレネだね? 何回か手入れさせてもらったら聞こえるよ。まあ父のように無条件で武器の声は聞こえないけど」

「そういう事だ。親父さん譲りの確かな技術を持っているよ」

 驚いた。武器の声は前提として所有者にしか聞こえない。けれども稀に特異体質で他の人の武器の声も聞こえるという特殊能力を持った武声体質ぶせいたいしつを持つ人が一億人に一人現れるという――。その影響もあり武声体質ぶせいたいしつを持つ人間を巡って戦争する国もあるくらいだ。そんな人が目の前に――。

「あ……あの。大丈夫なんでしょうか? ゲイツさんにはとびきり悪い人が襲い掛かってきそうですけど」

「僕は大丈夫ですよ。僕もそこそこ戦えますし、やたらと強い副所長もいます。何なら所長は世界一の男ですからね。あの人を怒らせたら国一つ滅びる」

 国一つ滅びるって流石に冗談じゃ……。まあそれほど強いって事ね。

「あの――リストキー副所長もやっぱり強いんですか?」

「それはもう強いですよ。経歴を見たら驚きますよ~」

「俺もそこそこ強い戦安官チェイサーなんだけど、副所長には勝てやしない」

 ゲイツさんとシャルヴィさんはそう言ってリストキー副所長の事を褒めていた。

「褒めても何も出ないぞ~」

 と言って二人をスルーしたリストキー副所長。

「じゃあ最後だな」

 リストキー副所長はそう言って入口付近に座っている女性のところへ近づいた。この胸元を開けたシャツを着ているやたらと綺麗で色気の塊のような黒髪の女性の人だ。

「この人はうちの事務を担当しているソフィア・アンソルスランだ」

 リストキー副所長がそう紹介するとアンソルスランさんは立ち上がった。

「エリーちゃんはじめまして。私は事務所のメンバーのサポートを行っているわ。分からない事があれば何でも聞いてちょうだいね」

 そう言ってアンソルスランさんはウインクをしてきた。それより、長いまつ毛に綺麗な青い瞳。厚い唇に雪のように白くきめ細かい肌――同じ女性なのにその綺麗さに見とれて思わず唾を飲み込んでしまった。

「あらら。緊張しなくてもいいわよ。リラックスリラックス。ね?」

「は――はい!」

 ちょっと大きな声を出しちゃった。するとアンソルスランさんは「ふふ」と悪戯な笑みを浮かべていた。なんか私の心を見透かしたような笑みだった。恥ずかしい。

「じゃあまずは事務所を案内するか。もうちょいで始業開始だからヘルギは漫画読むのを止めてスイッチ入れておけよ」

「へいへーい。了解です副所長」

 シャルヴィさんはそう言って自分の席に着くなり、パソコンのUSBポートに何やらコードを差し込んだかと思えばヘッドホンを付け始めた。

「今日はメタルかな~」

 そう呟いたと思ったらヘッドホンから、メタル特有のギターの速弾きと、ドコドコと地鳴りのような激しいバスドラムの音と、ボーカルのシャウトが微かに聞こえた。思い切り音漏れしている。

「リストキー副所長。あれは何をされているんですか?」

「あいつなりのルーティンだな。あれをしないと仕事のやる気が出ないらしい」

「す――凄く自由ですね」

「うちはそういう職場だ。各々が高いパフォーマンスを発揮できるために、割と何をしてもいい」

「そ――そう言えばランスロット所長の雑誌のインタビュー記事でそんな事書いていましたね」

「へえ。所長のインタビュー記事にも目に通しているのか――そういう事だ。さあ行くぞ」

「はい!」

 リストキー副所長に連れられて部屋を出た。そして真っすぐ進んで、エントランスをそのまま通過した左手にはいくつかの部屋があった。

「この辺りは来客室だ。ここで依頼の内容を聞いて、正式な任務として引き受けるんだ」

「成程。やっぱり依頼は多いんですか?」

「まあ多いな。それにオリュンポスの仕事が振られたりするからな」

「オリュンポスの仕事も舞い込んでくるんですか!?」

「ああ。所長はオリュンポスの元大将で司令官だったから」

「確かにそう言われてみれば納得できますね」

 そう思うと少しだけ不安になってきた。オリュンポスは世界政府直属の軍事組織。当然、世界中からオリュンポスに集まり、そのなかでも戦闘スキルが高い人間が、マスターズという称号とNo.を与えられ、オリュンポス十二武ドゥオデキムの一員となる。つまり、どう転がっても民間の軍事事務所が取り扱えるような優しい任務ではなく、世界の命運を懸けたような任務がこの事務所には舞い込んでくるという事だ。その辺の犯罪者を捕まえるとは訳が違う。

「何だ? 不安気な表情をして」

「オリュンポスの仕事が舞い込んでくると思うと、私は本当に戦安官チェイサーとして務まるのかなと思いまして」

「大丈夫。俺がついているからな。それにオリュンポス養成学校で戦安官チェイサーになる為の特訓を受けて主席で卒業しているんだろ?」

「学校と実践では訳が違いますから」

「それもそうだな。大丈夫だ。何かあったら俺が必ず守ってやるから」

 リストキー副所長はそう言ってニッと笑みを浮かべていた。まだ、リストキー副所長の実力を1mmたりとも見ていないのに、妙な安心感があった。ランスロット所長と違って、この人から武氣ぶきを全く感じることができないのに不思議だ。
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