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第36話 父と母と義母の関係
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俺の反応を見て、ユーノは笑った。
「ごめんね、確かにそう言っても通じないよね、母さんには。……知ってた? 母さんって、兄さんの母親の学生時代のバディで、義父さんのことが好きだったんだよ」
「は?」
何その情報過多。
「でも、兄さんの母親が義父さんのことを好きだからって、譲ったんだってさ。妻の座も、バディも。卒業して、兄さんの母親は義父さんにチーム結成を申し出て義父さんは受けた。そして、結婚した」
ユーノはゆっくりと俺から距離をとるように歩き、くるりと振り向いた。
「僕の父さんは、義父さんの学生時代のバディ。兄さんの母親のことが好きだったけど、親友である義父さんに取られて、仕方なく母さんと結婚したってさ。そんなグチャグチャの関係でも、父さんと兄さんの母親が生きている間はうまくやってた。……そのまま続いてたら、何もなかっただろうにね」
ユーノは荒んだ笑みを浮かべている。
俺は呆れてツッコんだ。
「いやそれ、誰から聞いたんだよ? 間違ってるかもしれないだろ? 誰かが捏造して、面白おかしくお前に話したのかもしれないし」
そんなドロドロの愛憎劇、そうあるもんじゃない。
「これ? 父さんが生前僕に話してくれたよ。母さんは学生時代、義父さんの悪口ばかり言ってて心証がよくなかったんだけど、卒業の時に兄さんの母親がバディに申し込みそれを義父さんが受けて、良かったねって言ってたけど陰で泣いていて、それを慰めてなし崩しにになった、ってさ。でもって、義父さんと兄さんの母親が結婚することになったとき、二人とも自棄になって結婚したんだってさ。笑えるよね」
……笑えない。少なくとも、子どもに話す内容じゃない。父さんの親友、どういう人だったんだ……!
「……確かに、俺の母さんは父さんにベタ惚れだったかな……」
母さんは、父の話をよくしてくれたが、俺に父の記憶は無い。セイバーズとして活躍していて家には帰らなかった。
……いや、一度だけ帰ってきたか。母を連れ去ったときだ。
あぁ本当に、なんで俺は父の息子なんだろう? 父の息子だというばかりに義母からは酷く憎まれ、挙げ句血の繋がらない弟から何かを仕掛けられようとしている。
幼い頃から義母に「夫を殺した男の息子」と責められ、「のうのうと生きているのが許せない」とずっと罵られ当たられていた。
義母の夫は、母の代理で父と組み、任務中に亡くなったから。
義母はずっと俺に、「罪を償え」と呪詛のように繰り返していた。
だけどその理由は……彼女が夫を深く愛していたからではなく、俺の父を愛していたから俺に当たっていただけ、とは……! ふざけんな!
遠慮していたのが急激にバカらしくなった。
唐突にわりきった俺は剣を抜いて、戦闘態勢に入った。
「……ユーノ。俺に勝てると思うのか? 俺はまだ、お前に全力を出したところを見せてもいないし、母から譲られた魔導具もある。Sランクのセイバーズ直伝の魔法も、母が死ぬまでに教わっている。……俺を舐めるなよ」
それを見たユーノが陰惨に笑う。
「知ってるよ。兄さんの有能さは、あの頭が筋肉で出来てそうなバカよりも、ずっとずっと知ってる。そして、母の執念も知ってるんだ。……母はね、父さんを殺した男と愛した男を奪った女の息子である兄さんを憎み怨むことに決めているんだよ。だから兄さんが、義母さんの憎しみと怨みを背負うしかないんだよ」
そう言うと、ユーノの姿がかき消えた。
「!?! 魔導具か!?」
俺は周囲を警戒した後、元来た道を引き返そうとした。
その瞬間。
「……しまっ……!」
何かを踏んでしまった。
ユーノは、俺が罠の範囲に入ったのを見て、唐突に話し始めたのか。
長々と話したのは、時間稼ぎだった……?
と、俺はゾワッとする気配に振り返った。
「……召喚の魔法陣……」
それは、つい先日も見た魔法陣だ。
魔法陣は光り、そしてそこからは……到底中級ではないな、という魔物が召喚されていた。
「ごめんね、確かにそう言っても通じないよね、母さんには。……知ってた? 母さんって、兄さんの母親の学生時代のバディで、義父さんのことが好きだったんだよ」
「は?」
何その情報過多。
「でも、兄さんの母親が義父さんのことを好きだからって、譲ったんだってさ。妻の座も、バディも。卒業して、兄さんの母親は義父さんにチーム結成を申し出て義父さんは受けた。そして、結婚した」
ユーノはゆっくりと俺から距離をとるように歩き、くるりと振り向いた。
「僕の父さんは、義父さんの学生時代のバディ。兄さんの母親のことが好きだったけど、親友である義父さんに取られて、仕方なく母さんと結婚したってさ。そんなグチャグチャの関係でも、父さんと兄さんの母親が生きている間はうまくやってた。……そのまま続いてたら、何もなかっただろうにね」
ユーノは荒んだ笑みを浮かべている。
俺は呆れてツッコんだ。
「いやそれ、誰から聞いたんだよ? 間違ってるかもしれないだろ? 誰かが捏造して、面白おかしくお前に話したのかもしれないし」
そんなドロドロの愛憎劇、そうあるもんじゃない。
「これ? 父さんが生前僕に話してくれたよ。母さんは学生時代、義父さんの悪口ばかり言ってて心証がよくなかったんだけど、卒業の時に兄さんの母親がバディに申し込みそれを義父さんが受けて、良かったねって言ってたけど陰で泣いていて、それを慰めてなし崩しにになった、ってさ。でもって、義父さんと兄さんの母親が結婚することになったとき、二人とも自棄になって結婚したんだってさ。笑えるよね」
……笑えない。少なくとも、子どもに話す内容じゃない。父さんの親友、どういう人だったんだ……!
「……確かに、俺の母さんは父さんにベタ惚れだったかな……」
母さんは、父の話をよくしてくれたが、俺に父の記憶は無い。セイバーズとして活躍していて家には帰らなかった。
……いや、一度だけ帰ってきたか。母を連れ去ったときだ。
あぁ本当に、なんで俺は父の息子なんだろう? 父の息子だというばかりに義母からは酷く憎まれ、挙げ句血の繋がらない弟から何かを仕掛けられようとしている。
幼い頃から義母に「夫を殺した男の息子」と責められ、「のうのうと生きているのが許せない」とずっと罵られ当たられていた。
義母の夫は、母の代理で父と組み、任務中に亡くなったから。
義母はずっと俺に、「罪を償え」と呪詛のように繰り返していた。
だけどその理由は……彼女が夫を深く愛していたからではなく、俺の父を愛していたから俺に当たっていただけ、とは……! ふざけんな!
遠慮していたのが急激にバカらしくなった。
唐突にわりきった俺は剣を抜いて、戦闘態勢に入った。
「……ユーノ。俺に勝てると思うのか? 俺はまだ、お前に全力を出したところを見せてもいないし、母から譲られた魔導具もある。Sランクのセイバーズ直伝の魔法も、母が死ぬまでに教わっている。……俺を舐めるなよ」
それを見たユーノが陰惨に笑う。
「知ってるよ。兄さんの有能さは、あの頭が筋肉で出来てそうなバカよりも、ずっとずっと知ってる。そして、母の執念も知ってるんだ。……母はね、父さんを殺した男と愛した男を奪った女の息子である兄さんを憎み怨むことに決めているんだよ。だから兄さんが、義母さんの憎しみと怨みを背負うしかないんだよ」
そう言うと、ユーノの姿がかき消えた。
「!?! 魔導具か!?」
俺は周囲を警戒した後、元来た道を引き返そうとした。
その瞬間。
「……しまっ……!」
何かを踏んでしまった。
ユーノは、俺が罠の範囲に入ったのを見て、唐突に話し始めたのか。
長々と話したのは、時間稼ぎだった……?
と、俺はゾワッとする気配に振り返った。
「……召喚の魔法陣……」
それは、つい先日も見た魔法陣だ。
魔法陣は光り、そしてそこからは……到底中級ではないな、という魔物が召喚されていた。
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