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第34話 兄さん、勘違いしてない?
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ユーノに指定された当日。
ユーノが現れた。
「よかった、許可が取れたよ」
依頼票を見せる。
「…………? 俺が受け取っているのと違うな」
「そうなの? でも、僕が受け取っているのは、兄さんと組んでいたときからこれだったよ」
そうだったか……? 教官とのやり取りはユーノがやっていて俺は後ろに控えていただけだったから、あまり覚えていない。
教官によって違うとは知らなかったな。
「……にしても、ここって……。お前もオリエンテーションが終わったばかりだろ? こんなところ、よく依頼で出してきたな」
ここ、俺たちがキャル鑑定士から出してもらった中級魔物出没地の、さらに奥地じゃないか?
「普通だろ? 初級魔物しかいないって聞いたけど」
ユーノはキョトンとして言った。
……教官によって解釈が違うのか?
でも、フィッシャー教官はキャル鑑定士に怒っていたよな……。
あ。
それで思い出した。
キャル鑑定士から、『アウズンブラアカデミーでは普通』って言われたことを。
……その教官も、アウズンブラアカデミーの出身だとしたら。エーギル式を生温いって思ってたとしたら。アカデミー代表に選ばれたユーノを期待して依頼を出したとしたら。
「まぁいいや。お前がそれだけ期待されている、ってことかもしれないな」
俺がそう言うと、ユーノが固まった。
「…………どうしてそうなったの?」
ユーノが固い声で尋ねてきた。
「いや、俺たちに依頼を出す鑑定士が、アウズンブラアカデミーの出身なんだ。エーギルはちょっと生温いらしい。でもって、中級魔物の依頼を出したら、担当教官に怒られていた」
「…………」
ユーノは黙ったが、唐突に明るい笑顔でこちらを見た。
「そうなんだ! じゃあ、この依頼も僕らのレベルに合わせたものかもしれないね!」
さぁ行こう、とユーノが促した。
岩場の多い山中が該当魔物がいる場所だ。
ヘル・ハウンドという狼のような魔物だそうだ。
道中、俺は先導しつつ、こういうときにはこうしたほうがいい、と説明をしていた。
なんとなく、間が持たなくて。
……やはり、ユーノといると緊張する。
ユーノが悪いわけじゃない。全面的に俺が悪いんだ。だから、今までのように俺を責めず朗らかに対応するユーノに対してなんとなくいたたまれないような気分になっていた。
――と、唐突にユーノが笑いだした。
「フフッ。フフフ……ハハハッ! 兄さん、なんでそんなに面目なさげなの?」
そう言うと、ユーノは俺を睨むように見据えた。
「……なんで、って……。……別に、面目なさげじゃないけど」
「まるで、僕に『悪かった』って思っているみたいじゃない」
ユーノが吐き捨てるように言った。
俺は、直視してくるユーノの視線を避け、斜め下を見ながら答える。
「…………悪かった、って思ってるよ。卒業まではずっと組むつもりだった。だけど……俺は弱くて、お前の存在に耐えられなかった。一緒にいること自体が苦痛だった」
だから、離れられてホッとしている。ユーノは貧乏くじを引いたのかもしれないけど……。
ユーノが俺を睨みながら叫ぶ。
「そりゃ『ありがとう』だ! そう思うように仕向けたからね!」
……あぁ、やはり、俺を責めるためにここに呼んだのか。
でもいい。気が済むまで付き合おう。だからユーノも、今回限り、今日限りのお願いをしてきたんだろう。
それで踏ん切りが付くのなら、俺は別に――
「兄さん、勘違いしてない?」
俺の思考を読んだかのようにユーノが言った。
「兄さんは、僕が『兄さんを詰るため』ここに連れてきた、そう思っているでしょ? 違うよ」
ユーノの光る目を見て、悟った。
――俺を罠に嵌めるために呼んだのか、と。
ユーノが現れた。
「よかった、許可が取れたよ」
依頼票を見せる。
「…………? 俺が受け取っているのと違うな」
「そうなの? でも、僕が受け取っているのは、兄さんと組んでいたときからこれだったよ」
そうだったか……? 教官とのやり取りはユーノがやっていて俺は後ろに控えていただけだったから、あまり覚えていない。
教官によって違うとは知らなかったな。
「……にしても、ここって……。お前もオリエンテーションが終わったばかりだろ? こんなところ、よく依頼で出してきたな」
ここ、俺たちがキャル鑑定士から出してもらった中級魔物出没地の、さらに奥地じゃないか?
「普通だろ? 初級魔物しかいないって聞いたけど」
ユーノはキョトンとして言った。
……教官によって解釈が違うのか?
でも、フィッシャー教官はキャル鑑定士に怒っていたよな……。
あ。
それで思い出した。
キャル鑑定士から、『アウズンブラアカデミーでは普通』って言われたことを。
……その教官も、アウズンブラアカデミーの出身だとしたら。エーギル式を生温いって思ってたとしたら。アカデミー代表に選ばれたユーノを期待して依頼を出したとしたら。
「まぁいいや。お前がそれだけ期待されている、ってことかもしれないな」
俺がそう言うと、ユーノが固まった。
「…………どうしてそうなったの?」
ユーノが固い声で尋ねてきた。
「いや、俺たちに依頼を出す鑑定士が、アウズンブラアカデミーの出身なんだ。エーギルはちょっと生温いらしい。でもって、中級魔物の依頼を出したら、担当教官に怒られていた」
「…………」
ユーノは黙ったが、唐突に明るい笑顔でこちらを見た。
「そうなんだ! じゃあ、この依頼も僕らのレベルに合わせたものかもしれないね!」
さぁ行こう、とユーノが促した。
岩場の多い山中が該当魔物がいる場所だ。
ヘル・ハウンドという狼のような魔物だそうだ。
道中、俺は先導しつつ、こういうときにはこうしたほうがいい、と説明をしていた。
なんとなく、間が持たなくて。
……やはり、ユーノといると緊張する。
ユーノが悪いわけじゃない。全面的に俺が悪いんだ。だから、今までのように俺を責めず朗らかに対応するユーノに対してなんとなくいたたまれないような気分になっていた。
――と、唐突にユーノが笑いだした。
「フフッ。フフフ……ハハハッ! 兄さん、なんでそんなに面目なさげなの?」
そう言うと、ユーノは俺を睨むように見据えた。
「……なんで、って……。……別に、面目なさげじゃないけど」
「まるで、僕に『悪かった』って思っているみたいじゃない」
ユーノが吐き捨てるように言った。
俺は、直視してくるユーノの視線を避け、斜め下を見ながら答える。
「…………悪かった、って思ってるよ。卒業まではずっと組むつもりだった。だけど……俺は弱くて、お前の存在に耐えられなかった。一緒にいること自体が苦痛だった」
だから、離れられてホッとしている。ユーノは貧乏くじを引いたのかもしれないけど……。
ユーノが俺を睨みながら叫ぶ。
「そりゃ『ありがとう』だ! そう思うように仕向けたからね!」
……あぁ、やはり、俺を責めるためにここに呼んだのか。
でもいい。気が済むまで付き合おう。だからユーノも、今回限り、今日限りのお願いをしてきたんだろう。
それで踏ん切りが付くのなら、俺は別に――
「兄さん、勘違いしてない?」
俺の思考を読んだかのようにユーノが言った。
「兄さんは、僕が『兄さんを詰るため』ここに連れてきた、そう思っているでしょ? 違うよ」
ユーノの光る目を見て、悟った。
――俺を罠に嵌めるために呼んだのか、と。
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