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第23話 アウズンブラアカデミー生のふたり

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 俺たちは、対抗戦が始まる前日に戻ってきた。
「あ゙ー……。疲れたぜ……」
「さすがに無茶したかも……」
 キラービーとアウルベアの任務から帰ってきたら、次の任務は止められそうな雰囲気だ、と、キャル鑑定士に教えられたのだ。
 気を利かせてくれたキャル鑑定士が長期遠征の依頼を作ってくれたので、それを受注ししばらくこなしていた。
 ちなみに、遠征中は喉が枯れそうなくらい怒鳴っていた。

 受付室に行くと、キャル鑑定士が出迎えてくれた。
「おー、お帰り。仕上がりはどうよ?」
「おう! バッチリだぜ!」
「オリエンテーション直後よりはいいです」
 互いに、妥協と諦めを知ったと思う。

 俺たちがキャル鑑定士と会話していると、フィッシャー教官が飛んできた。
「無事だったか! 今日、捜索隊を出そうかと考えていたんだぞ!」
 ええ!? なんで!?

 帰ってこない俺たちを心配していたらしい。
「んな大げさな。遠征なんてフツーあるだろ」
「前のチームじゃ長期遠征はやりませんでしたが、そのために予備日があるんでしょう?」
「一年生で、そんなに長い遠征をやらせるわけがないだろう!?」
 ……らしかった。

 キャル鑑定士は驚き、フィッシャー教官の責めるような視線に縮こまっている。
 彼女はエーギルアカデミーの教官ではないから知らなかったらしく、だからやらかしたのだが、でもそれは気を利かせてくれた結果だし、そもそもがデモンストレーションをやらせるとか言うから特訓してきたんだし……。

「つーか、いきなり『デモンストレーションやらせる』とか抜かすから、訓練しなきゃなんなくなって、んでもってキャルちゃんが気を利かせてくれたんだろうが。俺たち、結成したばっかなんだぜ?」
 エドウィンもそう思ったらしく、強い口調でフィッシャー教官に抗議している。

 フィッシャー教官が額に手を置いた。
「……あぁ、それでか……。すまない、一般教養のときに説明しておけばよかった。確かに君たちにも出てもらうが、倒すのは、オリエンテーションで出たオーククラスの初級魔物だ。もちろん、君たちが結成して間もないこともきちんと伝えるし、そもそも、アイテムハンターの真骨頂は敵の強さじゃない、ドロップアイテムだ。何匹倒したらSが出るのかを見せるので、弱い魔物を瞬殺して回転させないといけないんだ。疲れていたら、たくさん倒せないだろう? だから依頼を受けさせないようにしていたんだ……」
「「マジか」」
 エドウィンと声を揃えた。
 ……それ、早く伝えてほしかったよ!!

 今日は何もせず休め、あと低級だが体力回復薬も飲んでおけ、と、体力回復薬を山ほど渡されて受付室から追い出された。

 アイテムはキャル鑑定士に納品しておいた。彼女も空間魔法による格納が使えるということで、お任せしたのだ。
 ちなみに、彼女が所望していた茶葉が納品アイテムの中にある。エドウィンと俺で、森林火災上等の精神で燃やし尽くした。

 キャル鑑定士が申し訳なさそうにしていたのが、目に焼き付いている。でも、俺としては、悪いのはフィッシャー教官だと思う。

 疲れた足を引きずって寮に戻ると、騒がしかった。
「……なんだ?」
 俺は首を傾げた。
「あァん? ――お前ら、うっせーぞ!」
 疲れているエドウィンが邪険に怒鳴ったら、誰かが飛び出してきた。

 灰茶の長い髪、金の瞳のチビッコだ。
 右目にモノクルをつけていて、偉い人が着ていそうな制服を着ている。
 ……どう見ても幼女なんだが、なんで男子寮にいる?

「ん? お前は誰だ?」
 と、チビッコに訊かれる。
 というか君が誰だ?

「俺か? エドウィン様だ。テメーは誰だチビッコ」
「チビッコ言うな! スノウ様だ!」
 互いに様付けで名乗り合う精神年齢チビッコども。
 誰か説明してください。

「……おい! チョロチョロ歩き回るな!」
 と、今度は見慣れない制服を着た大男が現れた。俺たちよりもデカいぞこいつ。

「……転入生か?」
 この時期に珍しい。
 そう思って呟いたら、聴かれてしまったのか返事がきた。
「いや違う。対抗戦に出る、アウズンブラアカデミー生だ」
 俺とエドウィンが絶句した。

 大男はシェーン・ハワードと名乗った。
 エドウィンはチビッコにシンパシーを感じているだろうが、俺は苦労性っぽいこの男にシンパシーを感じた。
 というか、彼女はいったい何者? 妹……にしては似ていないし。
 エドウィンはあっという間に仲良くなって、彼女を肩車している。

「……えーと、つまり、あなたは対抗戦に出る生徒ってことですか?」
「そうだ。戻るまではここで過ごすらしい。交流なので、他アカデミーの生徒と会話するのも今回の目的だそうだ」
「……言われれば、確かに。よろしくお願いします、シェーン・ハワードさん」
「シェーンでいい、あと敬語もいらない」
「じゃあ、シェーン、俺のこともジミーって呼んでくれ」
「ジミー、よろしくな。……似ていそう奴がいてくれて良かった」
 あ、シェーンも俺にシンパシーを感じていたらしい。

「バディも紹介しよう。……おい! スノウ!」
「え?」
 シェーンが声をかけたのは、エドウィンに肩車されているチビッコ。
「あれが俺のバディ。スノウ・クリスタルだ」

 俺は固まってスノウ・クリスタルを見て……。
「ずいぶん若く見える先輩だな……。声も高いから、失礼かもしれないけどかわいい女の子に見えた」
 って、なんとか誤魔化した。

「先輩ではないだろう。俺たちは一年生だ。かわいい女の子は、本人に言ってやってくれ、喜ぶだろう。アカデミーでは小僧呼ばわりされて、怒っていたからな」
 小僧の方が良くないか?
「男が『女子に見える』って言われるの、わりと屈辱じゃないか?」
「アレでもスノウは女子だから、『かわいい女の子』って言われれば喜ぶ」
 …………。
「なんで男子寮にいるんだよ!?」
 俺は叫んだ。

「そうかそうか、エーギルアカデミーだと男女に分かれているのか。うちはそういうの、ないのだ!」
 スノウ様(と呼べ、と言われた)が朗らかに言った。
「そもそもが、遠征では二人っきりで野営するのに、アカデミーの寮だけ男女に分けてどうするんだ? なら、常に寝食を共にしたほうがいいだろう! ……ってうちの学長が言っていた」
 と、シェーンも事もなげに言ってきたので、それがアウズンブラアカデミー流なんだろう。

「……確かに」
「俺も同意するー」
 寮にいる連中も集まってきて食堂で話した。
 同意したのは女子がバディの連中だ。俺は二人が納得すればどっちでもいいが、ただ、男子寮に慣れたので女子も一緒に暮らすとなると、落ち着かないかもしれない。

「と、いうわけで! しばらくここで世話になるぞ! よろしくな!」
 高らかにスノウ様が挨拶する。……別にいいけど。どうせ世話をするのはシェーンだし。
 俺には他アカデミー生の世話とか関係ないだろ。寝よ。
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