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第17話 学長の呼び出し

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「ちゃんと挨拶しろ」とフィッシャー教官に念を押されたため、俺はエドウィンの背を叩き、背筋を伸ばした。
 前回、このバカは学長室に乗り込んでチームを解消するというバカをやった。フィッシャー教官もそれを覚えているので、エドウィンに釘を刺したのだろう。俺じゃあない。

 フィッシャー教官がノックし、扉を開け、俺たちを促す。
「ルビークラス一年、ジミー・モーガン、入室します!」
「同じくルビークラス一年、エドウィン・フォックス、入室します!」
 手を後ろに組んで声を張り上げて挨拶し、入室する。
 学長は、まだ若い……と思う。
 髪はブルーがかったシルバーで遮光眼鏡をかけている。
「チーム解消の騒ぎ以来だね。君たちのその後の活躍は聞いているよ、あの時、君たちを組ませてよかったと思っている」
 柔らかな笑顔で俺たちに話しかけた。
 ……そう、俺にとっても恩人に……なるのか? 確かにユーノとは離れかったけど……。
「アイテムハンターについて知りたい、という話を聞いたので、私が語ろう。私は元アイテムハンターだからね」
 俺とエドウィンが驚いた。
 こんな身近にいたとは! でも学長だと、ちょっと気軽に聞きづらいかもしれない!
 って内心で考えたけど態度には出さなかった、つもりだ。
「アイテムハンターはその名の通り、アイテム納品の依頼をこなすセイバーズだ。今のセイバーズには知らない人も多い。アイテムハンターはなりたくてなれるものではないからね」
 フィッシャー教官が頷いた。

「さて、ここまでは聞いたと思うので、追加情報だ。アイテムにしろセイバーズにしろ、ランクがある。魔物討伐をメインに行うチーム、そして彼らが納品する普通のドロップアイテム、これらは無印もしくはノーマルとされる。そこから、上位クラスの魔物を安定して討伐でき護衛もこなせるチーム、他に、特殊ドロップアイテムの納品が主な任務になるアイテムハンターとその特殊ドロップアイテムには、レアであるRランクがつけられる。……ここまではいいね」
 俺たちは頷いた。
「さらに上がある。……ジミー・モーガン君はわかるだろう。君の父親のように、上位のさらに上、特級クラスの魔物を安定して狩れるセイバーズ、そして……君たちのように、レアドロップアイテムの中でもさらに特殊なレアドロップアイテムを入手できるアイテムハンターとそのドロップアイテム、これらにスーパーレアであるSランクがつけられる」
 エドウィンが驚いて俺を見た。
 フィッシャー教官は、俺の父を知っているのか驚かない。
 俺は反応せず、さらに語るジェイド学長を見続けた。
「君たちには、それだけの価値がある。……君たちのチームはアカデミー生ながらすでにSランクのドロップアイテムをいくつも納品しているが、本職のアイテムハンターでもSランクの納品は滅多にない。君たちのレアドロップアイテム遭遇率は、異常なほどなんだ。ちなみに現在、Sランクのセイバーズは非常に少ない。Sランクのアイテムハンターとなると皆無だ。なので、アカデミーは全力で君たちを補佐することになる」

 ……だろうな。
 アイテムハンター自体が稀少なのに、さらにスーパーレアときたら、囲わないわけにはいかないだろう。俺たちが解消したら、スーパーレアなアイテムの入手は非常に困難になるって事だろうから。

 俺は、喜んでいいのか頭を抱えていいのかわからなくなった。
 父が有名なのは知っていたが、Sランクなのは知らなかった。だから……いや、今それはどうでもいい。問題なのは、父と組もうとしていた俺は、エドウィンと組んだことでSランクとなり、卒業後、チームの解消がほぼ不可能となったことだ。
 わりとその問題を見ないようにしていたんだが、目の前に突きつけられた。

「……それは、俺たちは今後、何があってもチームを解消できないってことですね?」
 自分の声がどこか遠くから聴こえるような感じだ。
 フィッシャー教官が俺をチラリと見た。
 学長が頷く。
「その通りだ。君たちには申し訳ないが、これはほぼ命令に近い。君たちのチーム解消は認められない。卒業後もだ。その代わり、君たちのチームは全てにおいて優先され、優遇される。もちろんアカデミーとして君たちのチーム【愚者と無精者】はセイバーズ協会への推薦が決まっている。これは、確定事項だ」
「…………そうですか」

 決まってしまった。
 俺は、どこかで安堵しつつもどこかでこれでいいのか、と叫ぶ気持ちがある。
 きっと、無事に卒業は出来ない。
 ……エドウィンは俺を、睨むような強い目で見ていた。
 それすらも遠くに感じていた。

「あと、これから増えるであろうSランク納品物の鑑定のため、鑑定士が我が校に来ることになった。来たら紹介しよう。教官ではないので受け持ちの授業などはないが、アドバイザーとして質疑応答は受け付けている。ジミー・モーガン君は成績優秀で非常に勉強熱心と聞いている。ぜひ活用してくれ」
「はい」
 そこはしっかりと返事をした。
 鑑定士ならいろいろと詳しいだろう。
「もちろん、私に質問してくれてかまわない。現役を離れているが情報は持っているし、現役時代の話も出来る」
「ありがとうございます」
 ……そうそう気軽に学長室を訪れるのは無理な気がするが……。

 学長室を退出し、フィッシャー教官と別れた途端、エドウィンが俺の肩を掴んだ。
「おい、大丈夫かよ? 顔色が悪いぞテメェ」
「……え」
 そうなのか……?
「将来がそんなに不安なのかよ? どうしてもダメなら解消してもいいぜ? お前、ホントはなんかやりてーことがあんじゃねーか? だから迷ってんだろ」
 まさしく言い当てられて、俺は俯き呟いた。
「……お前、バカなのになんでそんなにわかるんだ?」
「バカは余計だろうが! あと、テメーがわかりやすすぎんだ!」
 そうか、わかりやすかったか……。

「…………俺は、卒業したら、父親とバディを組むつもりだった。父は母とバディを組んでいたけど、母が亡くなり臨時のバディしかいない。……だから、俺が父と組むつもりだった」
「……それがお前の夢だったのか?」
 エドウィンのその質問を鼻で笑い飛ばした。
「夢? まさか。これは俺の責務だ」
 エドウィンがワケがわからないって顔をしつつ言った。
「……よくわかんねーけど、夢じゃねぇんだら、別に方向転換してもいいだろ。つまりはお前、親父と組みたくねーんだろ? ならやめとけよ。俺と組んでSランクとかになろうぜ。どうしても親父と組まねぇと、ってのなら、その臨時のバディとかにお前もなりゃいいだろ。確かにお前はお袋似だろうけどよ、お前はお袋じゃねーし、お前の親父はイイトシなんだから、自分のケツは自分で拭くだろ。ほっとけ、お前はお前のことを考えろ」
 エドウィンにバッサリと言い捨てられた。
「……だよな」
 俺だって、確実に辛い日々になるであろう父とのバディ生活なんて嫌だ。ユーノと組んでいた時以上の孤独だ。エドウィンと騒ぎながら怒鳴り合いながらアイテムハンターを目指したい。
 だけど……それでいいのか? 本当に?
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