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本編

嵐の前の静けさ

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「ロゼッタ、今日顔色悪いけどどうしたの?」
「え?ああ、ちょっと悪夢を……」

公爵家の馬車に揺られながら眉間に皺を寄せる私に、サイラスが顔を覗き込んできた。

眼福という言葉があるが、このイケメンはあまり健康に良く無いタイプのイケメンだと思う。

少しでも見惚れたら最後、魂ごと持っていかれそうだ。

婚約者と妹の駆け落ちから3日が経った。

私は今日、『お宅の息子さんに逃げられた公爵令嬢』として、今回の一件について国王陛下と話し合ってきた。今はその帰りだ。

風邪を拗らせ療養中という設定の王子は、それに堂々とついて来た。

解せない。仮にも婚約者(駆け落ち中)持ちの私が、どうしてこんな奴と一緒に密室に閉じ込められているのだろう。正解は執事長だ。
 
執事長は何故か異様にサイラスを気に入っていて、執務中にやたらと派遣してきたり、お茶を一緒させたりする。

魂胆はわかっている。絶対にコレと私をくっつける為に違いない。

執事長、私がダリルと婚約したって言った時すごく嫌そうだったから………。まあ喜んだ人なんていなかったけど。

とにもかくにも王族なんぞと関わってしまったことに後悔していると、サイラスは楽しげな声を上げた。

「それにしても久々に帰ったなー」
「公務とかしなくて良いんですか?」
「やってるよ?姉上が留学から帰ってきたから仕事減ったしね。なんか王位狙ってるみたいだよ?これで俺も安心して継承権捨てられるよ」
「ああ……あの話まじだったんですね……」
「そう言ったじゃーん!」

そう。聞けばこの男、本当に継承権捨てていた。

王太子が亡くなり、兄が借金して逃げた一大事の中無慈悲にもほどがある。

つい最近留学先から帰ってきた第一王女のアデラ様はむしろ喜んでたけどね。『ついに妾の時代が来たようだな!』って。相変わらずたくましくて羨ましい。

陛下には死んだ目でダリルのことを謝られ、『サイラスを頼む』と言い残してその場で死んだように寝た。よほど疲弊していたらしい。この人ロクな息子いないな……しかしサイラスの件は絶対に頼まれる気はない。

父上はあれから帰ってきていないが、ダリルとマゼンタはやはり王城にいるらしいと連絡をくれた。

今のところ情報は漏れていないけど、なるべく穏便な交渉の末ダリル達を連れ戻さないと両国の確執に繋がってしまう。

なんて傍迷惑なカップルなのだろう。私のせいなの?勝手にしろって言った私が悪いの?

2人を匿っていると思われるエルドレッドの王太子、ジュリアンからは、当たり前だが今のところ連絡ひとつない。

「流石の父上も今回は手こずるかしらね…」
「大丈夫、手は打ったから」

ため息をつく私に、サイラスはやけに自信ありげにふふんと笑った。

手って何の手だ。聞きたくなさすぎる。

思わず不敬も考えず小突くと、サイラスはご機嫌に笑った。

その結果がわかるのは、4日後の出来事である。


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