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本編
彼が彼女と出会った経緯
しおりを挟むダリルがロゼッタと出会った経緯。
***
意外なことに、暗殺者たちはその紙をあっさりと受け取った。それどころか依頼も快く受け、ダリルを無傷で帰したのだ。
「兄ちゃん、うちの公爵と知り合いなら早く言えよ」
そう言って笑う暗殺者たちは不気味だったが、それ以上に命が助かったことと、ついにあの忌々しい弟を亡き者にできるという事実に、ダリルは舞い上がっていた。
……ダリルは金を借りた男のことを、その時には完全に忘れていた。
「──ご機嫌よう、ダリル・ロッドフォード第3王子殿下」
暗殺者ギルドを出て、王城の厩から盗んだ馬に乗ろうとした時。
目の前に漆塗りの黒い馬車が止まり、その中から、金髪の少女がふわりと降り立った。
どこかで見たものと同じ、星を散りばめたような艶のある髪だ。長い前髪で見えづらいが、その容姿は化粧っけが無い割に整っている。ダリルは思わずまじまじとその少女を見つめた。
「何者だ?」
「失礼いたしました。エセルバート公爵家のロゼッタ・エセルバートと申します」
そう言って優雅にカーテシーをし、ゆっくりと顔を上げた少女は、名前の通りの薔薇色の瞳をしていた。
美しい、が、それ以上に、ダリルは恐怖で身体が強張るのを感じた。
「エセルバート公爵だと……?」
それはまさに、自分が今いる領を治めている男であり、暗殺者ギルドが口止めを約束してくれた人物ではなかったか。
真っ青になって震えるダリルに、ロゼッタは不思議そうに首を傾げた。
「ええ、父が貴方様に貸したお金の件で参ったのですが。………間に合わなかったのですか?」
一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。
金を借りた?エセルバート公爵に?
頭の中に先程会った金髪の美丈夫が目に浮かんだ。その瞬間、ダリルの頭から血の気が引いた。
「ほ、本当なのか?彼がエセルバート公爵……?」
「……………………え?まさか、それを知らずにお金を借りたんですか?」
目の前の少女の顔がピクリとこわばる。『まじか……』というか細い声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
ダリルは数時間前の自分がしでかしたとんでもない失態にようやく気がついた。
ダリルはよりにもよって、父親が1番懇意にしている家臣であり、この国の裏社会を治める黒薔薇公爵に金を借りてしまったのだ。
「…………あの、失礼ですが、返す手立てはおありで?」
「か、返す……」
「……………………借りたものは、返さなくてはいけないんですのよ?」
「そんなことわかっているわ!!!馬鹿にしているのか!!!」
カッとなり大声で怒鳴り散らしてしまうが、正直なところわかっていなかった。
あの恐ろしい集団に金を渡すことで頭がいっぱいで、その後のことは全く考えていなかったのだ。
つい先日身ぐるみを剥がされかけたことを思い出し、ダリルは焦った。
「……………陛下に頼むというのは」
「それができないから公爵に借りたのだろう!!!貴様は馬鹿か!!?」
馬鹿は自分である。
流石のロゼッタも眉を顰め、呆れを隠さなくなった。
「………とりあえず、邸にいらしてください。父に今連絡をいれます」
美しい令嬢を前にガタガタと情けなく震える体を自分で抱きしめながら、ダリルは黒塗りの馬車に乗った。
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