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本編

駆け落ちの行方

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「おやまぁ青春ですねぇ」
「え!もしや執事長も駆け落ちの経験が?」
「しませんよそんな面倒臭い」
「えー!でもしても良いかなって人とかいなかったの?」
「まだ遊んでたいですね。殿下は?」
「俺は今口説いてるとこ~」

後ろで執事長とサイラスが楽しげに恋バナを始めている。呑気か。

しかも会話が地味にリアルで思わずひっそり耳を傾けていたが、父上に話しかけられ慌てて顔を上げる。

「ロゼッタ、マゼンタと繋がりのある人間はエルドレッドに何人いる」
「友達が数人いるようですね。全員マゼンタに惚れてますけど」
「全て言えるか」
「はい。コーニッシュ子爵の長男とフォーカー伯爵の三男、パウエル商会の次男にスタンリー侯爵の次男、そして……」
「王太子か」
「はい」

最後の1人は流石に父上にもわかったのか、苦々しい顔でため息をついた。

そう、エルドレッドの王太子はマゼンタに惚れている。

それこそ何度も求婚を受け、父上にも縁談を申し込んでいたが、父上は断固拒否を続けたし、あちらの両親も反対していた。

エルドレッドの国民は正義感の強い者が多く、うちの家業には果てしなく向いていない。裏社会に大きな影響力をもつ黒薔薇公爵の娘が、そんな国の王族に嫁ぐわけにはいかなかった。

王太子も最後にはそれを認め、話はなかったことになったけど…………まあ、マゼンタが助けを求めたら絶対に助けるわよね、あそこの王太子は。

金を返さずとんずらした相手は地の果てまで追いかける父だけど、もしマゼンタがエルドレッドの城にいるなら、かなり面倒臭いことになりそう。

本当にマゼンタは誰に似たのか、面倒な男ばかりに惚れられる。

サイラスもこれをネタに遊ぶ気満々だし、下手したらあの子たちのせいで一国が滅びそうね。ある意味傾国の美女だわ。

まあともかく、私は忠告したから。
もうアイツらを庇う理由は私にない。

ダリルはマゼンタに甘いことを言われて改心した気でいるだろうけど、悪徳貴族に金を借り弟を暗殺しようとした上に金を返さず逃げた事実は何一つ変わっていないのだ。

控えめに言ってクズよね。王族の教育どうなってんのよ。

「陛下はこのことについてなんとおっしゃったのですか?」
「陛下は、今回の件については全て私に一任なさった」

ダリルが駆け落ちした件についての国王の見解が気になり、話を聞けばついに見捨てられたようだ。

ということはやはりサイラスこれが次期国王……?

ダリルみたいに馬鹿じゃないからさらにやばい国が出来そうだ。どちらにせよこの国の未来は危うい。  

「ロゼッタ今失礼な事考えてるでしょ。俺は王にはならないってさっきも言ったでしょ?」
「はいはい分かってます」
「うん絶対信じてないねこれ」

だがしかし少なくとも今の私にはどうだって良い。

散々邪魔をされたせいで、仕事が溜まりに溜まっているのだ。

今日こそベットで眠るため、私は重い足取りで執務室に向かうのだった。
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