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(何、これ……)
自分でも、よく分からなかった。
ただ、胸が苦しくて、顔が熱くなるのを感じる。
そんな私を、彼は、じっと見つめ続けていた。
結局、その後、ほとんど、彼の方を見れなかったため、食事を味わう余裕は無かった。
それでも、何とか、完食する。
すると、食器を下げた後、彼は、私の隣に座ってきた。
ビクッ、思わず、身体が小さく震える。
彼は、私の肩を抱くようにして引き寄せてきた。
そして、耳元で囁かれる。
「ねぇ、名前、教えてくれる?」
その声は、とても甘く響いて、脳に直接語りかけてくるようだった。
ゾワワッ、全身に鳥肌が立ち、ブルルッと身震いをする。
すると、彼は、
「ごめん、怖かった?」
と言って、パッと手を離した。
ハッとして、顔を上げると、申し訳なさそうな表情をしている彼と、目があった。
(違う、怖いんじゃない、ただ、驚いただけ、だから……)
咄嵯に、言い繕おうとしたけれど、上手く言葉が出てこなかった。
黙り込んでいると、彼が、また、口を開く。
「俺は、悠真っていうんだ」
ユウマ、それが、彼の名前らしい。
「君は?」
聞かれたので、自分の名前を答えようとしたのだが、何故か、口を開くことが出来なかった。
何故だろう、思い出せないの。
戸惑っていると、彼は、優しく微笑んだ後、私の頭を撫でた。
「大丈夫、ゆっくり、思い出せるようになるよ」
その笑顔に、ドキッとする。
そして、彼は、私のことを、ユイ、と呼んだ。
その瞬間、頭の中に、様々な記憶が流れ込んでくる。
――私は、ユイ、という女の子だった。
そして、彼は、私の婚約者、つまり、結婚相手なのだそうです。
私は、彼のことが、大好きで、ずっと、一緒に居たいと願っていたらしい。
でも、ある日、事故に遭ってしまい、今までの記憶を失ってしまったのだという。
その話を聞いた時、胸の奥に、ズキンッと痛みを感じた気がした。
それは、今まで感じたことのない感覚で、戸惑ってしまう。
そんな私を見て、彼は、心配そうに声をかけてきた。
「どうかした?」
「いえ、何でもありません」
慌てて、首を横に振る。
すると、彼は、ホッとしたような表情になった。
「良かった、じゃあ、そろそろ、行こうか」
そう言うと、私の手を取り、立ち上がらせる。
そのまま、部屋を出ると、廊下を歩いていく。
しばらく、無言のまま、歩いていると、一つの扉の前で、彼は足を止めた。
ガチャリ、鍵を開ける音が聞こえ、ゆっくりと、ドアノブが回っていく。
ギィッ、音を立てて、開かれた先には、とても広い空間が広がっていた。
天井は高く、豪華なシャンデリアが設置されている。
床には、赤い絨毯が敷かれており、壁際には、大きな本棚が置かれていた。
自分でも、よく分からなかった。
ただ、胸が苦しくて、顔が熱くなるのを感じる。
そんな私を、彼は、じっと見つめ続けていた。
結局、その後、ほとんど、彼の方を見れなかったため、食事を味わう余裕は無かった。
それでも、何とか、完食する。
すると、食器を下げた後、彼は、私の隣に座ってきた。
ビクッ、思わず、身体が小さく震える。
彼は、私の肩を抱くようにして引き寄せてきた。
そして、耳元で囁かれる。
「ねぇ、名前、教えてくれる?」
その声は、とても甘く響いて、脳に直接語りかけてくるようだった。
ゾワワッ、全身に鳥肌が立ち、ブルルッと身震いをする。
すると、彼は、
「ごめん、怖かった?」
と言って、パッと手を離した。
ハッとして、顔を上げると、申し訳なさそうな表情をしている彼と、目があった。
(違う、怖いんじゃない、ただ、驚いただけ、だから……)
咄嵯に、言い繕おうとしたけれど、上手く言葉が出てこなかった。
黙り込んでいると、彼が、また、口を開く。
「俺は、悠真っていうんだ」
ユウマ、それが、彼の名前らしい。
「君は?」
聞かれたので、自分の名前を答えようとしたのだが、何故か、口を開くことが出来なかった。
何故だろう、思い出せないの。
戸惑っていると、彼は、優しく微笑んだ後、私の頭を撫でた。
「大丈夫、ゆっくり、思い出せるようになるよ」
その笑顔に、ドキッとする。
そして、彼は、私のことを、ユイ、と呼んだ。
その瞬間、頭の中に、様々な記憶が流れ込んでくる。
――私は、ユイ、という女の子だった。
そして、彼は、私の婚約者、つまり、結婚相手なのだそうです。
私は、彼のことが、大好きで、ずっと、一緒に居たいと願っていたらしい。
でも、ある日、事故に遭ってしまい、今までの記憶を失ってしまったのだという。
その話を聞いた時、胸の奥に、ズキンッと痛みを感じた気がした。
それは、今まで感じたことのない感覚で、戸惑ってしまう。
そんな私を見て、彼は、心配そうに声をかけてきた。
「どうかした?」
「いえ、何でもありません」
慌てて、首を横に振る。
すると、彼は、ホッとしたような表情になった。
「良かった、じゃあ、そろそろ、行こうか」
そう言うと、私の手を取り、立ち上がらせる。
そのまま、部屋を出ると、廊下を歩いていく。
しばらく、無言のまま、歩いていると、一つの扉の前で、彼は足を止めた。
ガチャリ、鍵を開ける音が聞こえ、ゆっくりと、ドアノブが回っていく。
ギィッ、音を立てて、開かれた先には、とても広い空間が広がっていた。
天井は高く、豪華なシャンデリアが設置されている。
床には、赤い絨毯が敷かれており、壁際には、大きな本棚が置かれていた。
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