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そこに写っている人物に視線を向けたまま、再び深い溜息をつく。
写真に写っていた人物は私の最愛の人物だ。
その顔は今でも鮮明に思い出すことができるし、声だって今でも耳にこびりついていた。
(……会いたい)
私は心の中だけで呟く。……でも、それが叶わない願いだということも分かっていた。
彼は今頃どうしているだろうか? あの日以来一度も連絡がない。
おそらくだが、彼がいなくなったことで大騒ぎになっていることだろう。
私も彼と一緒にいなければ、今頃どうなっていたことか……。
そう考えると、ゾッとする。
しかし、それも今日で終わりだ。
明日になれば、全てが終わる。
そうすれば、また彼と会うことが出来る。
「待っていてくださいね、貴方」
私は写真を握りしめながらつぶやくのだった。
「陛下、こちらが調査資料になります」
「ありがとう、息子達はどうしていますか?」
「はい、今は自室で休んでおります」
「わかりました」
そう答えると、私は手に持っていた書類をテーブルに置いた。
「それともう一つ、お耳に入れておきたいことがございます」
「なんでしょう?」
「先程、街の調査を行っていた兵士達からの報告がありまして、街の外れに
一軒の屋敷を見つけたとのことです」
「ほう、それは興味深いですね。それで、その場所は?」
「場所はこの辺りです」
その言葉に戸惑っていく。
そう、そこは私達のいる場所。
つまりは―――
「……なるほど、そういうことだったのですね」
私は理解した。
つまりは、こういうことだ。
「陛下、いかがいたしますか?」
騎士団長の問いかけに、私は即答した。
「放置しておいて構いません。それに、その方が都合が良い」
「承知しました。では、そのように手配いたします」
騎士団長が一礼をすると、部屋から出て行った。
一人になった私は窓の外を眺めながら考え事をしていた。
それも今日で終わる、私は起き上がると王妃の服にマントを
羽織るのだった。
扉の前に立つ騎士に声をかける。
「少し出かけてきます。誰も通さないように」
「かしこまりました。陛下はどちらへ行かれるのですか?」
「……大切な人のところへ行くのです。誰にも邪魔はさせてはなりません」
それだけ伝えると、私は王宮を抜け出した。
空は厚い雲に覆われており、今にも雨が降り出しそうな天気だった。
そして私はゆっくり歩き続けてそのままお屋敷の中に入ると
「いるの?……アルヴィン」
そう言いながら辺りを
キョロキョロと見渡すが人影は見当たらない。
おかしいわね、確かにここに来るまで誰かに見られているような気がしたんだけど。
私はもう一度、彼の名前を呼ぶがやはり反応はなかった。
仕方なく、屋敷の中に入ろうとした時、玄関の方から物音が聞こえてきた。
私は急いでそちらに向かうと、そこには見慣れた人物が立っていた。
「あら、アリスティアさんではありませんか? こんなところで何をしているのでしょうか?」
彼女は笑顔を浮かべながら話しかけてくるが、その表情はどこかぎこちなかった。
私はそんな彼女に挨拶をする。
「こんにちは、ラピスさん」
「はい、こんにちは。こんな時間に珍しいわね、何か用事でもあったの?」
「えぇ、ちょっと聞きたいことがありまして」
そう言って私は彼女に質問をした。
「夫はどちらに」
「あ、旦那様なら、今はいませんよ、退任した後は余生を楽しむと……」
「あの人は!」
そう叫ぶと慌てて機微を返す。
写真に写っていた人物は私の最愛の人物だ。
その顔は今でも鮮明に思い出すことができるし、声だって今でも耳にこびりついていた。
(……会いたい)
私は心の中だけで呟く。……でも、それが叶わない願いだということも分かっていた。
彼は今頃どうしているだろうか? あの日以来一度も連絡がない。
おそらくだが、彼がいなくなったことで大騒ぎになっていることだろう。
私も彼と一緒にいなければ、今頃どうなっていたことか……。
そう考えると、ゾッとする。
しかし、それも今日で終わりだ。
明日になれば、全てが終わる。
そうすれば、また彼と会うことが出来る。
「待っていてくださいね、貴方」
私は写真を握りしめながらつぶやくのだった。
「陛下、こちらが調査資料になります」
「ありがとう、息子達はどうしていますか?」
「はい、今は自室で休んでおります」
「わかりました」
そう答えると、私は手に持っていた書類をテーブルに置いた。
「それともう一つ、お耳に入れておきたいことがございます」
「なんでしょう?」
「先程、街の調査を行っていた兵士達からの報告がありまして、街の外れに
一軒の屋敷を見つけたとのことです」
「ほう、それは興味深いですね。それで、その場所は?」
「場所はこの辺りです」
その言葉に戸惑っていく。
そう、そこは私達のいる場所。
つまりは―――
「……なるほど、そういうことだったのですね」
私は理解した。
つまりは、こういうことだ。
「陛下、いかがいたしますか?」
騎士団長の問いかけに、私は即答した。
「放置しておいて構いません。それに、その方が都合が良い」
「承知しました。では、そのように手配いたします」
騎士団長が一礼をすると、部屋から出て行った。
一人になった私は窓の外を眺めながら考え事をしていた。
それも今日で終わる、私は起き上がると王妃の服にマントを
羽織るのだった。
扉の前に立つ騎士に声をかける。
「少し出かけてきます。誰も通さないように」
「かしこまりました。陛下はどちらへ行かれるのですか?」
「……大切な人のところへ行くのです。誰にも邪魔はさせてはなりません」
それだけ伝えると、私は王宮を抜け出した。
空は厚い雲に覆われており、今にも雨が降り出しそうな天気だった。
そして私はゆっくり歩き続けてそのままお屋敷の中に入ると
「いるの?……アルヴィン」
そう言いながら辺りを
キョロキョロと見渡すが人影は見当たらない。
おかしいわね、確かにここに来るまで誰かに見られているような気がしたんだけど。
私はもう一度、彼の名前を呼ぶがやはり反応はなかった。
仕方なく、屋敷の中に入ろうとした時、玄関の方から物音が聞こえてきた。
私は急いでそちらに向かうと、そこには見慣れた人物が立っていた。
「あら、アリスティアさんではありませんか? こんなところで何をしているのでしょうか?」
彼女は笑顔を浮かべながら話しかけてくるが、その表情はどこかぎこちなかった。
私はそんな彼女に挨拶をする。
「こんにちは、ラピスさん」
「はい、こんにちは。こんな時間に珍しいわね、何か用事でもあったの?」
「えぇ、ちょっと聞きたいことがありまして」
そう言って私は彼女に質問をした。
「夫はどちらに」
「あ、旦那様なら、今はいませんよ、退任した後は余生を楽しむと……」
「あの人は!」
そう叫ぶと慌てて機微を返す。
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