上 下
142 / 236

142.

しおりを挟む
こうして、俺は新しい生活を始めることになったのだった。
あれから数日が経過したある日のこと、 俺はいつものように冒険者ギルドへと向かっていた。
目的はもちろん依頼を探すためである。
しかし、今日に限ってなかなか見つからなかった。
いつもならすぐ見つかるはずなんだが、
不思議に思っていると、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこにいたのはアリアだった。
どうやら心配して来てくれたようだ。
俺は礼を言うと、一緒に帰ろうと言って手を差し伸べてきた。
それを見て苦笑すると、俺も同じように手を差し出して握るのだった。
帰り道では他愛もない話をしたりしながら歩いた。
途中、何度かすれ違う人たちからの視線が気になったが、
きっと気のせいだろうと思い無視することにした。
そうしているうちに家に着いたので中に入ることにした。
中に入った後も夕食の準備に取り掛かることにした。
とは言っても材料がないので、また買いに行かなければならないが、とりあえず今はあるもので代用するしかないだろうと思い、
簡単なものを作ることにした。
メニューはシチューにした。
これなら材料を切って煮込むだけで簡単に作れるからだ。
さっそく調理に取り掛かった俺は野菜を切り分けると鍋に入れて炒めた後、水を入れて煮込み始めた。
その間に肉を入れようとしたが冷蔵庫の中に何も入っていなかったので、買い物に行くことにした。
外に出て鍵をかけた後、市場に向かうことにした。
大通りを歩いていると、突然声をかけられた。
振り向くとそこには見知った顔があった。
アリアだ。
彼女は心配そうにこちらを見つめている。
どうかしたのだろうかと思っていると、向こうから話しかけてきた。
「こんにちは、今日は一人なの?」
その言葉に頷いて答えると、彼女はホッとしたような表情を見せた後で言った。
「それならよかったわ、最近は物騒だから気をつけてね」
そう言われたので、お礼を言って別れた後で目的の店へと向かった。
道中、周囲を警戒しつつ進んでいくと、途中で路地裏の方から気配を感じた気がしたので立ち止まると、
そこから一人の少女が飛び出してきたのだ。
よく見るとそれは見覚えのある顔だった。
確か、数日前に知り合ったばかりの子だ。
名前はフィリアというらしい。
なぜこんなところにいるのか気になったが、それよりも先に逃げなければと思った瞬間、
「リュート様! こっちです!」
と叫ぶ声が聞こえたので、反射的にそちらを見ると、その先にはアリアの姿があった。
どうやら追いかけてきたらしい。
慌ててそちらへ駆け寄ろうとしたが、その前に背後から殺気を感じたので咄嗟に横に飛ぶと次の瞬間、
先ほどまで自分がいた場所に矢が飛んできたのが見えた。
間一髪避けることには成功したが、安心する暇もなく次々と攻撃が飛んでくる。
このままではまずいと思い、慌てて走り出すと、目の前の角を曲がって建物の陰に身を隠した。
どうやら追ってきてはいないようだが油断はできないので、しばらく様子を見ることにした。
それから30分ほど経った頃だろうか、辺りはすっかり暗くなっていた。
さすがにこれ以上ここにいるわけにはいかないと思い立ち上がろうとした時、
「こんばんは、こんなところで何をしているのですか?」
急に声を掛けられて驚いて振り返ると、そこにはあの少女が立っていた。
いつの間に現れたのか分からなかったが、少なくとも気配は全く感じなかったので
少し警戒していると、彼女の方から話しかけてきた。
どうやら危害を加えるつもりはないらしいことを悟った俺は素直に事情を話すことにした。
すると、彼女はにっこりと微笑むと言った。
それからしばらくの間雑談をしていると、ふと気になったことがあったので尋ねてみることにした。
どうして俺のことを助けたのかと尋ねると彼女はこう答えた。
「だってあなたのことが好きになってしまったんだもの」
彼女は照れくさそうに笑いながらそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。
まさかこんなことを言われる日が来るとは夢にも思っていなかったからだ。
動揺を隠しきれないまま固まっていると、いつの間にか背後に回っていた彼女に抱きしめられてしまった。
柔らかな感触に包まれると同時に甘い香りに包まれて頭がクラクラしてくるようだった。
さらに追い打ちをかけるかのように耳元で囁かれたせいで余計に意識してしまう羽目になったのだが、
その直後には離れてしまっていたため少しだけ残念に思ったりもしたのだが、
すぐに気を取り直した俺は改めて彼女に向き直るとこう言った。
「えっと、それじゃあ、そろそろ帰ることにするよ、君も気を付けて帰ってね」
それだけ言うと、その場を後にした。
宿に戻った後で風呂に入り、ベッドに横になると、すぐに眠りに落ちていった。
翌朝目を覚ますと、まだ外は暗かった。
時計を確認すると午前4時を少し回ったところだった。
二度寝しようかと思ったが、目が冴えてしまって眠れそうにないので起きることにした。
部屋を出て一階の食堂へ向かうと、既に何人かの宿泊客が朝食を取っていたので、俺も同じものを注文した。
待っている間に今日の予定について考えることにした。
(さて、どうしようかな……)
特にやることが思い浮かばない以上、冒険者ギルドに行って依頼を受けるくらいしかないだろうと考えていた時だった。
不意に肩を叩かれたかと思うと声をかけられた。
振り返ってみるとそこに立っていたのは知らない女性だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです

青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。 その理由は、スライム一匹テイムできないから。 しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。 それは、単なるストレス解消のため。 置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。 そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。 アイトのテイム対象は、【無生物】だった。 さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。 小石は石でできた美少女。 Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。 伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。 アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。 やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。 これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。 ※HOTランキング6位

勇者パーティー追放された支援役、スキル「エンカウント操作」のチート覚醒をきっかけに戦闘力超爆速上昇中ですが、俺は天職の支援役であり続けます。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
支援役ロベル・モリスは、勇者パーティーに無能・役立たずと罵られ追放された。 お前のちっぽけな支援スキルなど必要ない、という理由で。 しかし直後、ロベルの所持スキル『エンカウント操作』がチート覚醒する。 『種類』も『数』も『瞬殺するか?』までも選んでモンスターを呼び寄せられる上に、『経験値』や『ドロップ・アイテム』などは入手可能。 スキルを使った爆速レベルアップをきっかけに、ロベルの戦闘力は急上昇していく。 そして勇者一行は、愚かにも気づいていなかった。 自分たちの実力が、ロベルの支援スキルのおかげで成り立っていたことに。 ロベル追放で化けの皮がはがれた勇者一行は、没落の道を歩んで破滅する。 一方のロベルは最強・無双・向かうところ敵なしだ。 手にした力を支援に注ぎ、3人の聖女のピンチを次々に救う。 小さい頃の幼馴染、エルフのプリンセス、実はロベルを溺愛していた元勇者パーティーメンバー。 彼女たち3聖女とハーレム・パーティーを結成したロベルは、王国を救い、人々から賞賛され、魔族四天王に圧勝。 ついには手にした聖剣で、魔王を滅ぼし世界を救うのだった。 これは目立つのが苦手なひとりの男が、最強でありながらも『支援役』にこだわり続け、結局世界を救ってしまう。そんな物語。 ※2022年12月12日(月)18時、【男性向けHOTランキング1位】をいただきました!  お読みいただいた皆さま、応援いただいた皆さま、  本当に本当にありがとうございました!

異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です! 前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...