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「その後か……まず最初に会ったのは魔族村長をしている娘の所で暮らしていた。
でも、そんな平和な日々は長く持たなかった、勇者パーティーが近くに来ているという情報が入り、魔王・クロードがこちらに来てしまったんだ」
懐かしむように語る俺に相槌を打ちつつ聞いているニーナの表情は真剣そのもので、とても楽しそうに見えた。
まるで自分の事のように聞き入っているようだったので、俺もつい饒舌になってしまった。
その後の話を終えると、次はいよいよ本題に入る事にした。
「……それで、魔王は何をしに来たの」
「魔王は、領地を開放すると宣言した、そして、村ごと焼き払おうとした」
そこまで言うと、ニーナの表情が険しくなった。
おそらく怒っているのだろう。
その証拠に拳を握り締めていたからだ。
そして、こう呟いた。
「……最低ね」
その声に怒りが込められているのが分かった俺は慌てて訂正した。
「いや、違うからな?  これはあくまでも過去の話だ」
そう言うと、彼女は落ち着いたようでホッとした表情になる。
だが、まだ完全に納得したわけではないらしく疑いの目を向けてきた。
その目を見て思わず目を逸らしてしまう。
(やべっ!バレたかな……)
そう思った次の瞬間にはもう遅かった。
案の定、詰め寄られてしまったのである。
「それって当時の魔王という事はのちに貴方の父親よね」
ずいっと顔を近づけられて俺は一歩後退る。
「そ、そうだけど……」
気圧されながらも肯定すると、彼女はさらに顔を近づけてきた。
俺は反射的に仰け反ってしまう。
「つまり、貴方がいなければ今の魔王はいないって事でしょ!」
彼女は鼻息荒く捲し立ててくる。
「い、いや、そんな事言われても……ていうか、近いから顔どけてくんない?」
俺は顔を背けながら距離を取ろうとするが、彼女はお構いなしに詰め寄ってくる。
そして、俺の肩を掴んで揺さぶってきた。
「ねえ、どうして貴方はお父さんを止めなかったのよ」
「馬鹿言うなよ、こちらは聖剣はあったけど魔王に単身挑んで勝てるような優しい相手じゃないぞ」
俺が反論すると、彼女は黙り込んでしまった。
そして、俯いて肩を震わせている。
(やばい、怒らせちゃったかも)
慌てて謝ろうとしたその時、彼女は急に顔を上げて満面の笑みを向けてきた。
「じゃあ、私が魔王を倒してあげるわ」
その言葉に唖然としてしまう。
(何を言っているんだ、この子は?)
意味が分からずに呆然としていると、彼女は再び顔を近づけてきて言った。
「そうすれば、貴方に復讐できるし、魔王の座も私のものになるわ」
その言葉に背筋が寒くなるのを感じた。
(この子、本気だ……)
彼女の瞳の奥に暗い炎が宿っているのを見て確信した。
(まずい、何とかして止めないと……)
「という訳で死んで、魔王・リュート」
その言葉と共に放たれた拳を避ける事が出来ずに直撃してしまったのだった。
気が付くと見知らぬ天井が見えた。
(ここは……?)
周りを見回すと知らない部屋である事が分かった。
さらによく見ると手足の自由が利かない事に気付く。
(一体どうなっているんだ!?)
混乱しつつも必死に記憶を辿る。
(確か、俺はアリアとキスしようとしてて……そうだ、その時にニーナが現れてキスされて……)
そこでようやく思い出した。
(そうか、俺はニーナに気絶させられたのか)
状況を理解したところで改めて周囲を見回してみる。
すると、すぐ側に人影があるのが見えた。
(あれは……ニーナか?)
そう考えたところで違和感に気付いた。
(何かおかしいな……ん? 何だこれ……)
それは手枷だった。
どうやら鎖で壁に繋がれているようだ。
しかも足にも鉄球が付いているせいでまともに動けない状態だった。
それを見た瞬間、全てを思い出した。
(そうだった、あの時殴られて気を失ったんだったな……)
そんな事を考えている間にニーナが近付いてくる。
その手には大きな包丁を持っていた。
(まさか、あれで俺を料理する気なのか!?)
そんな事を考えてしまいゾッとした。
そんな俺を見て彼女はニヤリと笑うと言った。
「目が覚めたみたいね」
そう言って顔を覗き込んでくる。
その表情はとても妖艶に見えた。
「本当に何もしないんだな?」
念のため確認すると、彼女は笑顔で答えた。
「ええ、約束するわ」
それを聞いて安心した俺はゆっくりと目を閉じた。
しばらくして目を開けると目の前に彼女の顔があった。
驚いて声を上げようとしたが手で口を塞がれてしまう。
そのまま押し倒されてしまった俺は身動きが取れなくなってしまった。
そんな彼女は俺の耳元で囁くように言った。
「大丈夫、少しだけ血をもらうだけだから」
そう言って首筋に噛み付いてきた。
鋭い痛みが走ると同時に血が流れ出す感覚に襲われる。
それを一滴残らず吸い取るように強く吸い上げられた後、ようやく解放された。
それからしばらく放心状態でいると、今度は傷口を舐められた。
その瞬間ビクッと反応してしまう。
その様子を見ていたニーナは小さく笑った後、俺の胸に顔を埋めてきた。
それからしばらくの間、無言のまま抱き合っていた。
やがて満足したのか顔を上げたニーナが言った。
「ありがとう、これでしばらくは大丈夫よ」
その言葉に首を傾げる。
(どういう事だ?)
不思議に思っていると、ニーナは説明してくれた。
どうやら、この姿なら食事を取らなくても平気らしい。
(なるほど、そういう事だったのか)
納得していると、ニーナは立ち上がった。
そして、こちらを見下ろしながら言った。
「そろそろ行くわね」
そう言って立ち去ろうとするニーナを呼び止める。
「待ってくれ」
俺の言葉に彼女は立ち止まった。
俺は意を決して話しかける。
「なあ、俺と一緒に来ないか?」
それを聞いた彼女は驚いた様子で振り返った。
しかし、すぐに笑顔になると首を横に振る。
「それは無理よ」
彼女はきっぱりと断った。
しかし、俺は諦めきれずに説得を続けることにした。
「何故だ?」
そう問いかけると、彼女は真剣な表情で見つめ返してきた。
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