上 下
51 / 57

51.

しおりを挟む
それだけの話だ、とも思うのだけど、果たして、本当に大丈夫なのだろうか、と不安に思うこともしばしばある。
特に、最近は、色々と大変なことが続いているせいで、尚更だ。
例えば、先日のことなのだが、突然、とある貴族令嬢達が、押しかけてきたかと思うと、
私達に対して、一斉に、罵倒の言葉を浴びせかけてきたの。
彼女達曰く、自分達の恋人を奪った挙句、散々弄んだ挙げ句、捨てた男に対する、復讐をしたい、
ということらしかったが、正直、そんなことを言われても困るし、正直、あまり関わり合いになりたくない人達でもあったので、
適当にあしらって追い返そうとしたのだが、これが中々、しつこくて、一向に引き下がろうとしないので、困ってしまった。
しかも、話を聞く限り、どうも相手は、複数の男性を同時に誑かしていたようなの。
しかも、そのうちの何人かは、王族も含まれているそうで、さすがに看過できない事態になってきたため、
旦那様に相談してみたところ、なんと、あっさり解決してしまった。
流石は、ヴァルディール様だと思ったものの、後で、詳しく話を聞いてみると、実際は、もっととんでもないことをしていらっしゃったようです。
具体的にいうと、相手の弱みを握り、二度と歯向かえないようにした上で、徹底的に脅しつけて、従わせたらしい。
具体的には、相手方の家族を人質に取った上で、金品の要求を行ったり、酷い時には、犯罪奴隷として、
強制的に働かせたり、といった方法を用いたとかで、話を聞いた時は、思わず絶句してしまいましたよね。
いえ、確かに、そういうやり方で問題を解決することも、不可能ではありませんけど、普通はやりませんよね。
少なくとも、私は聞いたことがありませんし、考えたこともありませんでした。
というより、思い付きもしませんでしたよ、普通。
そもそも、人の人生を弄ぶようなことをするなど、言語道断でしょう。
そんなの許されるはずがありませんし、あってはならないことです。
「奥様」
不意に声をかけられ、振り返る。
すると、そこに立っていたのは、長年、仕えてくれている侍女の一人だった。
歳は、二十代半ばぐらいだろうか。
やや吊り上がった目に、スッと通った鼻筋。
全体的に細身だが、出るところは出ており、実に均整の取れた体つきをしている美人さんだ。
名前は、リリサレ・メシャルー。
元々は、彼女の実家であるメシャルー子爵家の次女だったらしいのだが、ある時、ご両親が亡くなった際、
家を継ぐ者がいなかったので、親戚に引き取られることになり、その後、紆余曲折を経て、
今は、私の専属の侍女を務めている、というわけです。
そんな彼女が、一体何の用なのかと首を傾げていると、彼女は、どこか困惑した様子で、こう言ってきた。
「実は、ヴァルディール様から、お呼びするように、と言付かって参りました」
その言葉に、心臓が跳ねる。
(まさか……)
脳裏に浮かんだ可能性を否定しながら、恐る恐る尋ねてみた。
「……あの、もしかして、また、でしょうか?」
それに対して、彼女は頷き、それから、こう言った。
「……はい、またです」
それを聞いて、私は愕然とした。
(またなの!?)
思わず叫びそうになってしまったものの、なんとか堪えることに成功した。
とはいえ、内心では動揺を隠せない状態だったのだけれど、それを表に出さないよう気を付けつつ、平静を装って尋ねる。
「……今度は、何があったのですか?」
すると、
「さあ? 私も詳しいことは存じ上げませんが、何やら重大なお話があるそうです」
そう言われて、ますます嫌な予感が強まっていく。
これは、もしかすると、例のアレかもしれない。
最近になって、やたらと増えたの。
それはつまり、旦那様にとって、よほど重要なことである可能性が極めて高いわけで、そう思うと、否応なく緊張してしまうのだった。
(どうしようかしら……、とりあえず、着替えておこうかな……)
そう思って、衣装棚を開きかけたところで、ふいに声をかけられた。
振り返ってみれば、そこにいたのは、この屋敷のメイド長を務める女性だった。
年の頃は三十代前半ぐらいだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

薄明に身を焦がす

雪乃
恋愛
ゆるされるなら、愛を乞いたい。 ※ご都合ゆるゆる。なんでもあり。それをゆるせる方向け。運命便利に使うやつ。不定期。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
恋愛
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには許嫁の公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 メイヴィスはサイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...