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それだけの話だ、とも思うのだけど、果たして、本当に大丈夫なのだろうか、と不安に思うこともしばしばある。
特に、最近は、色々と大変なことが続いているせいで、尚更だ。
例えば、先日のことなのだが、突然、とある貴族令嬢達が、押しかけてきたかと思うと、
私達に対して、一斉に、罵倒の言葉を浴びせかけてきたの。
彼女達曰く、自分達の恋人を奪った挙句、散々弄んだ挙げ句、捨てた男に対する、復讐をしたい、
ということらしかったが、正直、そんなことを言われても困るし、正直、あまり関わり合いになりたくない人達でもあったので、
適当にあしらって追い返そうとしたのだが、これが中々、しつこくて、一向に引き下がろうとしないので、困ってしまった。
しかも、話を聞く限り、どうも相手は、複数の男性を同時に誑かしていたようなの。
しかも、そのうちの何人かは、王族も含まれているそうで、さすがに看過できない事態になってきたため、
旦那様に相談してみたところ、なんと、あっさり解決してしまった。
流石は、ヴァルディール様だと思ったものの、後で、詳しく話を聞いてみると、実際は、もっととんでもないことをしていらっしゃったようです。
具体的にいうと、相手の弱みを握り、二度と歯向かえないようにした上で、徹底的に脅しつけて、従わせたらしい。
具体的には、相手方の家族を人質に取った上で、金品の要求を行ったり、酷い時には、犯罪奴隷として、
強制的に働かせたり、といった方法を用いたとかで、話を聞いた時は、思わず絶句してしまいましたよね。
いえ、確かに、そういうやり方で問題を解決することも、不可能ではありませんけど、普通はやりませんよね。
少なくとも、私は聞いたことがありませんし、考えたこともありませんでした。
というより、思い付きもしませんでしたよ、普通。
そもそも、人の人生を弄ぶようなことをするなど、言語道断でしょう。
そんなの許されるはずがありませんし、あってはならないことです。
「奥様」
不意に声をかけられ、振り返る。
すると、そこに立っていたのは、長年、仕えてくれている侍女の一人だった。
歳は、二十代半ばぐらいだろうか。
やや吊り上がった目に、スッと通った鼻筋。
全体的に細身だが、出るところは出ており、実に均整の取れた体つきをしている美人さんだ。
名前は、リリサレ・メシャルー。
元々は、彼女の実家であるメシャルー子爵家の次女だったらしいのだが、ある時、ご両親が亡くなった際、
家を継ぐ者がいなかったので、親戚に引き取られることになり、その後、紆余曲折を経て、
今は、私の専属の侍女を務めている、というわけです。
そんな彼女が、一体何の用なのかと首を傾げていると、彼女は、どこか困惑した様子で、こう言ってきた。
「実は、ヴァルディール様から、お呼びするように、と言付かって参りました」
その言葉に、心臓が跳ねる。
(まさか……)
脳裏に浮かんだ可能性を否定しながら、恐る恐る尋ねてみた。
「……あの、もしかして、また、でしょうか?」
それに対して、彼女は頷き、それから、こう言った。
「……はい、またです」
それを聞いて、私は愕然とした。
(またなの!?)
思わず叫びそうになってしまったものの、なんとか堪えることに成功した。
とはいえ、内心では動揺を隠せない状態だったのだけれど、それを表に出さないよう気を付けつつ、平静を装って尋ねる。
「……今度は、何があったのですか?」
すると、
「さあ? 私も詳しいことは存じ上げませんが、何やら重大なお話があるそうです」
そう言われて、ますます嫌な予感が強まっていく。
これは、もしかすると、例のアレかもしれない。
最近になって、やたらと増えたの。
それはつまり、旦那様にとって、よほど重要なことである可能性が極めて高いわけで、そう思うと、否応なく緊張してしまうのだった。
(どうしようかしら……、とりあえず、着替えておこうかな……)
そう思って、衣装棚を開きかけたところで、ふいに声をかけられた。
振り返ってみれば、そこにいたのは、この屋敷のメイド長を務める女性だった。
年の頃は三十代前半ぐらいだろうか。
特に、最近は、色々と大変なことが続いているせいで、尚更だ。
例えば、先日のことなのだが、突然、とある貴族令嬢達が、押しかけてきたかと思うと、
私達に対して、一斉に、罵倒の言葉を浴びせかけてきたの。
彼女達曰く、自分達の恋人を奪った挙句、散々弄んだ挙げ句、捨てた男に対する、復讐をしたい、
ということらしかったが、正直、そんなことを言われても困るし、正直、あまり関わり合いになりたくない人達でもあったので、
適当にあしらって追い返そうとしたのだが、これが中々、しつこくて、一向に引き下がろうとしないので、困ってしまった。
しかも、話を聞く限り、どうも相手は、複数の男性を同時に誑かしていたようなの。
しかも、そのうちの何人かは、王族も含まれているそうで、さすがに看過できない事態になってきたため、
旦那様に相談してみたところ、なんと、あっさり解決してしまった。
流石は、ヴァルディール様だと思ったものの、後で、詳しく話を聞いてみると、実際は、もっととんでもないことをしていらっしゃったようです。
具体的にいうと、相手の弱みを握り、二度と歯向かえないようにした上で、徹底的に脅しつけて、従わせたらしい。
具体的には、相手方の家族を人質に取った上で、金品の要求を行ったり、酷い時には、犯罪奴隷として、
強制的に働かせたり、といった方法を用いたとかで、話を聞いた時は、思わず絶句してしまいましたよね。
いえ、確かに、そういうやり方で問題を解決することも、不可能ではありませんけど、普通はやりませんよね。
少なくとも、私は聞いたことがありませんし、考えたこともありませんでした。
というより、思い付きもしませんでしたよ、普通。
そもそも、人の人生を弄ぶようなことをするなど、言語道断でしょう。
そんなの許されるはずがありませんし、あってはならないことです。
「奥様」
不意に声をかけられ、振り返る。
すると、そこに立っていたのは、長年、仕えてくれている侍女の一人だった。
歳は、二十代半ばぐらいだろうか。
やや吊り上がった目に、スッと通った鼻筋。
全体的に細身だが、出るところは出ており、実に均整の取れた体つきをしている美人さんだ。
名前は、リリサレ・メシャルー。
元々は、彼女の実家であるメシャルー子爵家の次女だったらしいのだが、ある時、ご両親が亡くなった際、
家を継ぐ者がいなかったので、親戚に引き取られることになり、その後、紆余曲折を経て、
今は、私の専属の侍女を務めている、というわけです。
そんな彼女が、一体何の用なのかと首を傾げていると、彼女は、どこか困惑した様子で、こう言ってきた。
「実は、ヴァルディール様から、お呼びするように、と言付かって参りました」
その言葉に、心臓が跳ねる。
(まさか……)
脳裏に浮かんだ可能性を否定しながら、恐る恐る尋ねてみた。
「……あの、もしかして、また、でしょうか?」
それに対して、彼女は頷き、それから、こう言った。
「……はい、またです」
それを聞いて、私は愕然とした。
(またなの!?)
思わず叫びそうになってしまったものの、なんとか堪えることに成功した。
とはいえ、内心では動揺を隠せない状態だったのだけれど、それを表に出さないよう気を付けつつ、平静を装って尋ねる。
「……今度は、何があったのですか?」
すると、
「さあ? 私も詳しいことは存じ上げませんが、何やら重大なお話があるそうです」
そう言われて、ますます嫌な予感が強まっていく。
これは、もしかすると、例のアレかもしれない。
最近になって、やたらと増えたの。
それはつまり、旦那様にとって、よほど重要なことである可能性が極めて高いわけで、そう思うと、否応なく緊張してしまうのだった。
(どうしようかしら……、とりあえず、着替えておこうかな……)
そう思って、衣装棚を開きかけたところで、ふいに声をかけられた。
振り返ってみれば、そこにいたのは、この屋敷のメイド長を務める女性だった。
年の頃は三十代前半ぐらいだろうか。
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