上 下
41 / 73

41.

しおりを挟む
それから数年後、無事に出産を終えると、私はユリウス様のお子様を産んであげられたことがとても嬉しかった。
私のお腹の中には新たな命が宿っていたのである。
「ありがとう、カルネ。僕達の子供だよ」
ユリウス様は私を優しく抱き締めて下さった。
私はユリウス様の子供を身籠もる事が出来てとても幸せな気持ちでいっぱいだった。
しかし、ユリウス様は最近様子がおかしい。
どこか上の空で考え込んでいるような気がしていた。
私にはその理由が分からなかった。
ある日、私はユリウス様にある提案をした。
「ユリウス様、今から少しだけ散歩に出掛けませんか?」
「え? うん、構わないけれど。何かあったのかい?」
私は微笑むと、ユリウス様の手を引いて外へと出た。
私達は手を繋いで街へ出掛けた。
ユリウス様は私とのデートを楽しんでいるようだ。
私はユリウス様の喜ぶ顔を見るのが好きだ。
ユリウス様が喜んでくれると私も嬉しくなって、もっと笑顔にさせたくなる。
私とユリウス様が歩いていると、誰かに付けられている事に気が付いた。
「ねえ、ユリウス様」
「ん? どうしたんだい?」
私はユリウス様の腕に自分の腕を絡ませると、その人物の後を追った。
暫く歩くと人気の無い場所に出る。
私はその男に声を掛けた。
「ユリウス様を付け回すなんてどういうつもりかしら?」
私がそういうと男は慌てた様子で逃げようとするが、ユリウス様がそれを許さなかった。
「お前は誰だ?」
「ひ、人違いでは無いでしょうか?」
男は苦し紛れにそういうが、私は知っている。
この男の正体は……
「貴方は私の婚約者だった方で間違い無いですよね?」
私がまだ幼い頃に親同士が決めた婚約ではあったが、それなりに仲良くやっていたはずだった。
しかし、私が成長するにつれて彼への想いは冷めていき、いつしか嫌いになっていった。
彼は私に嫌われていることを知らない。
ユリウス様は私に問い掛けるが、私は答えることが出来なかった。
「おい、貴様。僕の姫に何の用だ?」
ユリウス様がそう言うと、その人は顔を青ざめさせていた。
私はその人が誰なのかを知っている。
そう、彼はユリウス様の従兄弟に当たる人で、次期国王となるべきお方なのだ。
つまり、私の婚約者だった人である。
私はユリウス様が彼を睨んでいるのを見て、怖くなってしまった。
私は彼に歩み寄ると、その手を握った。
「ごめんなさい。ユリウス様は悪くないんです。全て私のせいなのです。私の我がままのせいでユリウス様がこんな目に遭われてしまった。本当に申し訳ありませんでした」
私はユリウス様の前で深く頭を下げて謝罪した。
私が謝ると、ユリウス様は私を庇うようにして前に出た。
「お前がカルネを虐めたのか!? 」
「ち、違う! 誤解なんだ!」
「貴様は黙れ!」
ユリウス様は剣を抜くと、彼の首元に刃を当てた。
その目は怒りに満ちていて、私ですら震えてしまうほどだ。
「貴様、カルネに一体何をした?」
「何ってお前と同じくことをしてやった、お前がカルネを酷く抱いたのは有名な話だからな」
ユリウス様は私の方を向いた。
すると、
「カルネ、大丈夫かい? あいつに酷いことされなかったか?」
ユリウス様は心配そうにしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大人の隠れんぼ=妻編=

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  ある日、夫の提案で、夫婦だけで隠れんぼをすることになるのだが、何だかおかしなルールが追加され、大騒ぎの隠れんぼとなってしまう。  しかも、誰か手引きしている人がいるようで……。  *この作品は『明智さんちの旦那さんたちR』から抜粋したものです。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして

夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。  おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子  設定ゆるゆるのラブコメディです。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

ラスボス姫に転生したけど、ドS兄貴はシスコン設定になっていたようです

ぷりりん
ファンタジー
転生ラスボス姫がドS兄貴の溺愛に大困惑する、ラブコメファンタジー

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...