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それは以前、宮瀬さんから聞かされた内容のことだったのですが、あの場にいた人たちの中で一人だけ名前を思い出せなかったことをずっと後悔していたので、
思い切って訊いてみることにしたのですが、やっぱり思い出すことはできませんでした。
そんな時、タイミング良く扉が開き、そちらに視線を向けると、そこにはスーツ姿の男性がいて、
私のことをジッと見詰めたまま動こうとしないものだから不審に思っていると、おもむろに口を開いたと思ったら、こんなことを言ってきたのです。

「君、名前は何て言うのかな?」
突然のことに驚きながらも、正直に答えることにした私は、自分の名前を告げると、男性は納得した様子で頷きながら、さらに続けてこう言ってきました。

どうやらこの男性こそが、今回のパーティーの主賓である大企業の御曹司だったようです。
しかも、名前だけではなく、年齢や家族構成といった個人情報までも教えてくれましたが、私はそれどころではありませんでした。
何故なら、いきなり抱き寄せられてしまった上に、強引に唇を奪われてしまったからです。

突然の出来事に対応できなかった私は、成す術もなく蹂躙されていくことになりますが、
それを望んでいたのも事実なのでした――。

「美羽さん、こっちを向いてくれないか」
(えっ!?)
思わず声のする方を向くと、そこには彼の姿があったのですが、その表情は今まで見たこともないくらい穏やかで優しく微笑んでいて、
それだけで胸がキュンとなるような感覚を覚えてしまいましたが、そんな彼を見ていたら自然と涙がこぼれていました。

そして、それと同時に安心感を覚えたことが引き金となったのか、それまで我慢してきていた感情が溢れ出すかのように泣き出してしまいました。
(あぁ、そうか、この人はもうとっくに覚悟を決めていたんだ)
だからこそこんなにも穏やかな表情で、私に微笑みかけてくれたんだということがわかり、ますます彼のことが好きになってしまったのは言うまでもありませんね。

その後、落ち着いたところで改めてお礼を言い、

「ありがとうございます」
感謝の気持ちを伝えるとともに、深々と頭を下げました。

すると、彼は気にするなと言ってくれて、すぐに話題を変えようとしてきたんですけど、
その時の彼の表情がどこか無理をしているように見えてしまい、気になったものの、これ以上訊くことはできなかったので諦めるしかありませんでした。
ただ、代わりに違うことを聞いてみることにしました。

というのも、彼の様子がおかしくなった原因については何となく予想できていたので、
おそらく原因はこの前出会った人物じゃないかと思ったわけですよ。
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