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声劇の章
声劇朗読フリー台本『相談断層』
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声劇・朗読フリー台本【一人用】 『相談断層』
一人用声劇
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
海や山が好きな人間が一定数いるように、石や土が好きな人間もまた一定数いる。
僕は子供のころから化石が好きなのだが、これもまた一定数存在する。
地質学者を目指したのもそんな理由からだ。まだ駆け出しの地質学者だが。
今日は、古い断層を調査しに来た。
どのくらいの年代なのか、ということは、先に来た研究者が調査している。数億年前のものであることは分かっている。詳しくは、まだ分析にかけている最中らしい。しかし、それを待たずとも、おもに化石の種類によっておおよその年代がわかるのである。それはこの分野の人間であれば常識的だ。
しかし、今回の問題はそういうことではなかった。この断層は、かなり異質なものと言っていいだろう。
というのも、この断層からは、話し声が聞こえるというのだ。数億年前の断層から「声」が聞こえるというのはまったくオカルトの世界の話だ。
「私もこの目でみるまで、いや、この耳で聞くまで信じられなかったよ」
そう私に話してくれているのは、地質学での大先輩。ジョーンズ先輩だ。
「先輩が言うからには、僕だって信じたいですが。何かの勘違いというわけではないんですか?」
「ここの地元民ふくめ研究者が幾人も調査したさ。この国のマスコミもこぞって取り上げた。しかし、どうしてもわからないんだ。あの断層。10メートルほどのきれいな断層なのだが、どう考えても断層の中から声が聞こえるのだよ」
僕は、それ以上聞かなかった。実際、見にいったほうが早いと思ったのだ。
と同時に僕は、やはり勘違いか、集団催眠の類ではないかと考えていた。地下もしくは地表から何かの有害物質が検出され、それが幻聴を引き起こしているかもしれない。または、ここの土地に自生する特別な植物などの花粉で幻を見るという可能性もある。ある種の植物は幻覚幻聴作用があるからだ。付きつめてみれば、オカルトは簡単にくずれさったりするものだ。
「ついたぞ、ここだ」
僕と先輩は断層の前についた。いたってよくあるガケ崩れによって断層が現れたモノだということが見て取れる。
「自然にできたようですね。人工的なものが関わった様子はない」
僕はそういった。
「もちろんだ。そしてレコーダーもないし、近くにスピーカーがあるわけでもない。電波の状況も調べたがラジオや、電話の類、無線機の可能性も否定された。まったくの自然物だ。だがしかし、声が絶えず聞こえてくる。」
「鉱石ラジオのようなものでもないってわけですか」
「その通り。ただの土だ。そして我々にはなんて言っているのかもわからない。未知の言語なんだ。この国の先住民族の者ですら、聞いたことがないコトバだそうだ」
僕はおそるおそる、断層の前に立って耳をすませた。
「んん。たしかに、何かが」
僕は、たしかに声が聞こえていることを確かめた。
「おどろきですね。確かに聞こえる。いったいどういう仕組みになっているんだろう」
僕の疑問に先輩は答えた
「うむ。まったくの謎だ。しかし君はすごいな。わたしの助手は驚いて腰を抜かしていたぞ」
「僕も驚いてはいますが……」
「君はこの言葉はなんだと思うかね?」
「これは日本語ですね」
「なんだとっ? 翻訳機にかけても、なにも反応はなかったぞっ?」
「ええ。これは日本語の中でも青森という地域の方言です。しかもそうとう強い訛りで、地元に育った人間じゃないと同じ日本人でも判別は難しいでしょう。幸いにして僕は青森生まれなんです」
「なんと……驚きすぎて言葉が出ないぞ。しかし……なぜそんなことが……?」
「それはこれから調査するしかないでしょうな」
僕はにべもなく先輩にそう告げた。まったく不可思議な現象だ。調査して解明できるかは分からないな。
「先輩、とにかく、これは比較的安全なシロモノですよ。呪いや心霊現象ではなさそうです」
「なぜそう言い切れるのだ」
「ええと。会話内容が『縁側で世間話をしているような感じ』ですからね」
「なんだ縁側というのは?」
そうか、先輩は外国人だから縁側を知らないんだった。
「そうですね。『縁側』というのは日本の一般的住宅の庭先っていう感じです。会話の詳しい内容としては日常生活の相談……ですね。人間同士が最近の天気や体調について世間話しています。青森の訛りでね。いったいどういう仕組みかはまったく予想もつきませんが。今は『腰痛がつらい』という話をしています。ご高齢同士なんですね。仮にこれに名付けるとすると『相談断層』という感じです」
僕は先輩の不安を出来るだけ取り除こうとして言ったのだが、それでも効果は薄かったようだ。
「ううむ。気味が悪いな。ある程度、調査をしても仕組みがわからなかったら、埋めてしまったほうがいいかもしれないな……」
たしかに。そのほうが良いかもしれないと僕は思った。未知のテクノロジーが働いているのかもしれないが不可思議極まりない。
それにだ。いかに害のない世間話とはいえ、人の腰痛相談などに聞き耳をたてるなんてのはあまりいい趣味ではないからな……。
一人用声劇
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海や山が好きな人間が一定数いるように、石や土が好きな人間もまた一定数いる。
僕は子供のころから化石が好きなのだが、これもまた一定数存在する。
地質学者を目指したのもそんな理由からだ。まだ駆け出しの地質学者だが。
今日は、古い断層を調査しに来た。
どのくらいの年代なのか、ということは、先に来た研究者が調査している。数億年前のものであることは分かっている。詳しくは、まだ分析にかけている最中らしい。しかし、それを待たずとも、おもに化石の種類によっておおよその年代がわかるのである。それはこの分野の人間であれば常識的だ。
しかし、今回の問題はそういうことではなかった。この断層は、かなり異質なものと言っていいだろう。
というのも、この断層からは、話し声が聞こえるというのだ。数億年前の断層から「声」が聞こえるというのはまったくオカルトの世界の話だ。
「私もこの目でみるまで、いや、この耳で聞くまで信じられなかったよ」
そう私に話してくれているのは、地質学での大先輩。ジョーンズ先輩だ。
「先輩が言うからには、僕だって信じたいですが。何かの勘違いというわけではないんですか?」
「ここの地元民ふくめ研究者が幾人も調査したさ。この国のマスコミもこぞって取り上げた。しかし、どうしてもわからないんだ。あの断層。10メートルほどのきれいな断層なのだが、どう考えても断層の中から声が聞こえるのだよ」
僕は、それ以上聞かなかった。実際、見にいったほうが早いと思ったのだ。
と同時に僕は、やはり勘違いか、集団催眠の類ではないかと考えていた。地下もしくは地表から何かの有害物質が検出され、それが幻聴を引き起こしているかもしれない。または、ここの土地に自生する特別な植物などの花粉で幻を見るという可能性もある。ある種の植物は幻覚幻聴作用があるからだ。付きつめてみれば、オカルトは簡単にくずれさったりするものだ。
「ついたぞ、ここだ」
僕と先輩は断層の前についた。いたってよくあるガケ崩れによって断層が現れたモノだということが見て取れる。
「自然にできたようですね。人工的なものが関わった様子はない」
僕はそういった。
「もちろんだ。そしてレコーダーもないし、近くにスピーカーがあるわけでもない。電波の状況も調べたがラジオや、電話の類、無線機の可能性も否定された。まったくの自然物だ。だがしかし、声が絶えず聞こえてくる。」
「鉱石ラジオのようなものでもないってわけですか」
「その通り。ただの土だ。そして我々にはなんて言っているのかもわからない。未知の言語なんだ。この国の先住民族の者ですら、聞いたことがないコトバだそうだ」
僕はおそるおそる、断層の前に立って耳をすませた。
「んん。たしかに、何かが」
僕は、たしかに声が聞こえていることを確かめた。
「おどろきですね。確かに聞こえる。いったいどういう仕組みになっているんだろう」
僕の疑問に先輩は答えた
「うむ。まったくの謎だ。しかし君はすごいな。わたしの助手は驚いて腰を抜かしていたぞ」
「僕も驚いてはいますが……」
「君はこの言葉はなんだと思うかね?」
「これは日本語ですね」
「なんだとっ? 翻訳機にかけても、なにも反応はなかったぞっ?」
「ええ。これは日本語の中でも青森という地域の方言です。しかもそうとう強い訛りで、地元に育った人間じゃないと同じ日本人でも判別は難しいでしょう。幸いにして僕は青森生まれなんです」
「なんと……驚きすぎて言葉が出ないぞ。しかし……なぜそんなことが……?」
「それはこれから調査するしかないでしょうな」
僕はにべもなく先輩にそう告げた。まったく不可思議な現象だ。調査して解明できるかは分からないな。
「先輩、とにかく、これは比較的安全なシロモノですよ。呪いや心霊現象ではなさそうです」
「なぜそう言い切れるのだ」
「ええと。会話内容が『縁側で世間話をしているような感じ』ですからね」
「なんだ縁側というのは?」
そうか、先輩は外国人だから縁側を知らないんだった。
「そうですね。『縁側』というのは日本の一般的住宅の庭先っていう感じです。会話の詳しい内容としては日常生活の相談……ですね。人間同士が最近の天気や体調について世間話しています。青森の訛りでね。いったいどういう仕組みかはまったく予想もつきませんが。今は『腰痛がつらい』という話をしています。ご高齢同士なんですね。仮にこれに名付けるとすると『相談断層』という感じです」
僕は先輩の不安を出来るだけ取り除こうとして言ったのだが、それでも効果は薄かったようだ。
「ううむ。気味が悪いな。ある程度、調査をしても仕組みがわからなかったら、埋めてしまったほうがいいかもしれないな……」
たしかに。そのほうが良いかもしれないと僕は思った。未知のテクノロジーが働いているのかもしれないが不可思議極まりない。
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