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声劇の章
声劇(朗読)フリー台本 「新聞」
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一人朗読用
怪談
1500字程度
時間・五分(一分300字換算)
ー-------------------------
これは同級生から聞いた話なんですが、ある男が新聞配達のバイト中にあった本当の話です……。
その男はいつものように朝の新聞配達のバイトをしていた。
いつも通り仕事をこなし、あと二軒ほどのところで、やけにぼろぼろの家があった。
このあたりは住宅地で、いつも決まったルートで配達する。
そのぼろぼろの家は、住民がいる気配が無くひっそりとしている。いつもそうだ。
しかし、玄関ドアは小綺麗にさっぱりしており、ドアの郵便用の差し込み口が新聞やチラシの類がポストにたまっているというわけでもない。
誰か人がいて、配達物を回収しているらしい。
よくよく見ても、居住者の生活の様子が見える痕跡がなく、ひっそりとしている。
恐ろしく静かである。
男はそこのドアの差し込み口に新聞を入れるたび、すこしばかり気味が悪かった。
しかしこの家と、あともう一軒の新聞配達を終わらせれば、その朝の配達は終了する。
もう少しで終わる……。その思いが気味の悪さを打ち消していた。
そのまま彼は家路についた。
そうして配達をしていく毎日。彼は今日もぼろぼろの家のドアに新聞を入れた。
もうすぐ終わりだ。と彼は、もう一軒の家に向かったとたん、シュッ! と新聞を抜き取る音がした。
彼はぼろぼろの家を振り返った。すると、さきほど投函したばかりの新聞が抜き取られていた。
すこしばかり驚いたが、なんてことはない。住人が内側から投函されたばかりの新聞を抜き取ったのだろう。
そういうことはたまにある。
しかし、ひっそりと静かなこのぼろ家においては、初めてのことだった。
次の日も、彼は新聞配達をこなしていた。
終わり間際、やはり、あのぼろ家に新聞を投函しようとした。
まさに新聞を差し込み口に入れようとしたその瞬間、ものすごい勢いでズバッ!!
と、新聞が内側へ吸い込まれた。
男は驚いて、手を離した。そのまま手ごと引っ張られそうな勢いだった。
こんなふうに乱暴に引っ張られたら、新聞も無事ではすまないだろうし、彼も手をぶつけていたかもしれない。
気持ち悪いなと思った。しかし、あと一軒で終わりだ。気を取り直して、彼は最後の一軒に急ごうと背中を向けた。
すると、ドンドンドンッと、ドアを叩くような音がした。
驚いて彼は後ろのぼろ家を振り返った。
すると、無数の赤い血の手形が、ドアの表面にびっしりと付いていた。
もちろんそんなものは今までなかった。
ドアの内側からは、ドンドンドンッと叩く音が鳴りやまない。
一体どういうことなんだ。恐怖で男は凍り付いていた。
そのとき、いつも新聞を入れているドアの差し込み口から、
青白くて細い手のひらがすーーーッと伸びてきた。手のひらは真っ赤だった。
それが一本、二本、三本と、手が増えてこちらに向かってくる。
ドアを叩く音はいっそう激しくなる。
いや、それだけではない。何かが出てこようとしている。男を家に引きずり込もうとしている。
ああっ!
と思った瞬間、もう遅かった。
男は一瞬のうちにその手に絡めとられた。必死で抵抗した。
助けてくれ!! 大声も上げた。
ここは住宅街。大声をあげればいくら早朝とはいえ、誰かに聞こえるだろう。しかし、だれにも男の叫びは届くことはなかった。
………………
その日の朝。新聞配達の事務所に「朝の新聞が届いていない」という電話が入った。事務所の職員は謝罪とともに、その家に新聞を届けに行った。
職員は帰り、やけにひっそりと静まり返ったぼろぼろの家が目に入った。そこには新聞配達用の自転車が置きっぱなしになっており、新聞も残されていた。あの男の姿だけがきれいさっぱり消えていた。
噂によると、たまに早朝、ドアを叩く音と助けてという声がこのあたりから聞こえるという。
怪談
1500字程度
時間・五分(一分300字換算)
ー-------------------------
これは同級生から聞いた話なんですが、ある男が新聞配達のバイト中にあった本当の話です……。
その男はいつものように朝の新聞配達のバイトをしていた。
いつも通り仕事をこなし、あと二軒ほどのところで、やけにぼろぼろの家があった。
このあたりは住宅地で、いつも決まったルートで配達する。
そのぼろぼろの家は、住民がいる気配が無くひっそりとしている。いつもそうだ。
しかし、玄関ドアは小綺麗にさっぱりしており、ドアの郵便用の差し込み口が新聞やチラシの類がポストにたまっているというわけでもない。
誰か人がいて、配達物を回収しているらしい。
よくよく見ても、居住者の生活の様子が見える痕跡がなく、ひっそりとしている。
恐ろしく静かである。
男はそこのドアの差し込み口に新聞を入れるたび、すこしばかり気味が悪かった。
しかしこの家と、あともう一軒の新聞配達を終わらせれば、その朝の配達は終了する。
もう少しで終わる……。その思いが気味の悪さを打ち消していた。
そのまま彼は家路についた。
そうして配達をしていく毎日。彼は今日もぼろぼろの家のドアに新聞を入れた。
もうすぐ終わりだ。と彼は、もう一軒の家に向かったとたん、シュッ! と新聞を抜き取る音がした。
彼はぼろぼろの家を振り返った。すると、さきほど投函したばかりの新聞が抜き取られていた。
すこしばかり驚いたが、なんてことはない。住人が内側から投函されたばかりの新聞を抜き取ったのだろう。
そういうことはたまにある。
しかし、ひっそりと静かなこのぼろ家においては、初めてのことだった。
次の日も、彼は新聞配達をこなしていた。
終わり間際、やはり、あのぼろ家に新聞を投函しようとした。
まさに新聞を差し込み口に入れようとしたその瞬間、ものすごい勢いでズバッ!!
と、新聞が内側へ吸い込まれた。
男は驚いて、手を離した。そのまま手ごと引っ張られそうな勢いだった。
こんなふうに乱暴に引っ張られたら、新聞も無事ではすまないだろうし、彼も手をぶつけていたかもしれない。
気持ち悪いなと思った。しかし、あと一軒で終わりだ。気を取り直して、彼は最後の一軒に急ごうと背中を向けた。
すると、ドンドンドンッと、ドアを叩くような音がした。
驚いて彼は後ろのぼろ家を振り返った。
すると、無数の赤い血の手形が、ドアの表面にびっしりと付いていた。
もちろんそんなものは今までなかった。
ドアの内側からは、ドンドンドンッと叩く音が鳴りやまない。
一体どういうことなんだ。恐怖で男は凍り付いていた。
そのとき、いつも新聞を入れているドアの差し込み口から、
青白くて細い手のひらがすーーーッと伸びてきた。手のひらは真っ赤だった。
それが一本、二本、三本と、手が増えてこちらに向かってくる。
ドアを叩く音はいっそう激しくなる。
いや、それだけではない。何かが出てこようとしている。男を家に引きずり込もうとしている。
ああっ!
と思った瞬間、もう遅かった。
男は一瞬のうちにその手に絡めとられた。必死で抵抗した。
助けてくれ!! 大声も上げた。
ここは住宅街。大声をあげればいくら早朝とはいえ、誰かに聞こえるだろう。しかし、だれにも男の叫びは届くことはなかった。
………………
その日の朝。新聞配達の事務所に「朝の新聞が届いていない」という電話が入った。事務所の職員は謝罪とともに、その家に新聞を届けに行った。
職員は帰り、やけにひっそりと静まり返ったぼろぼろの家が目に入った。そこには新聞配達用の自転車が置きっぱなしになっており、新聞も残されていた。あの男の姿だけがきれいさっぱり消えていた。
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