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第六章 痴王残夢《ちおうざんむ》
3 虚無
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「おい」
ふと、ある事実に気がついて恭司が不機嫌に呼びかけると、〈這い寄る混沌〉は鷹揚に「何だ?」と応じた。
「俺の尻、撫でんなよ」
「そんなことはしておらん」
心外そうに蕃神は否定したが、だったらなぜすぐに手の位置を変えたのか。胸に蹴りでも入れてやろうかと恭司が考えたとき、眼下の底知れない闇が、黒地に白い筋の入った石の床へと変わった。
身を起こそうとすると、それを察したのか、蕃神が恭司の腰をつかみ、丁重に床の上へと下ろした。見るからに冷たそうな床だったが、素足でも平気なくらい温かい。心なしか、周囲の空気も温かくなったような気がする。
「ようこそ、カダスへ」
足の裏で床を撫でていると、〈這い寄る混沌〉が胸に手を当て、慇懃に一礼した。
「我が主。まずはこれを照覧あれ」
蕃神が指し示した先には、床と同じ石――縞瑪瑙で造られた巨大な柱が、まるで巨人を閉じこめる牢獄の格子のように何本も立ち並んでいた。
だが、柱たちの間は、否応なしに慣れさせられてしまった闇ではなく、黄昏時の淡い茜色で塗りつぶされている。その光に引き寄せられるように恭司は石柱に歩み寄り、その外に広がるものを眺め下ろした。
縞大理石で造られた壮麗な宮殿。
迫持造りの橋。神殿。柱廊。皓壁。
完璧に手入れされた庭園では、色鮮やかな花々が咲き誇り、精巧な噴水が水煙を上げている。
この夕映の都こそ、あのランドルフ・カーターが〈夢の国〉の中で探し求めた都。
彼の幼時の思い出より生み出されたものでありながら、なぜか〈這い寄る混沌〉に守護されている地球の神々に奪われた都。
カダスとは、〈夢の国〉の果てにあるという凍てつく荒野の名前であり、そこにある縞瑪瑙の城に地球の神々は住むという。
「気に入ったか?」
背後から、機嫌を伺うように〈這い寄る混沌〉が声をかけてきた。
「まあな」
外を眺めたまま、恭司はそっけなく答えた。
「とりあえず、幾何学は狂ってないみたいだ」
「気に入ったのならおまえにやろう。おまえが望むなら、望むものすべて」
「人のものはいらない。欲しいのも一つだけだ」
ここで、ようやく恭司は蕃神を振り返った。
「安楽死。最初から、そう言ってる」
その一言で、黄昏は闇に変じた。
あからさまに現金だ。恭司は苦笑いしたが、〈這い寄る混沌〉は笑わなかった。
「こう広いと落ち着かない。人間サイズの部屋はないのか?」
苦笑いしたまま訊ねると、蕃神は無言で左手の指を鳴らした。
と、恭司たちはすでに小さな部屋の中にいた。
部屋は円形で、壁や床はやはり縞瑪瑙でできていた。部屋の中央には、人一人が横になれるくらいの大きさの緋色の優雅なソファが置かれていたが、出入口はおろか、明かりとりの窓一つ設けられていなかった。
「部屋の端が見えるとほっとするな」
窓も光源もないのになぜ物が見えるのかは考えるだけ無駄だろう。しみじみと呟いてソファに腰を下ろす。
「おお、やわらかい」
〈這い寄る混沌〉は黙っていた。ソファを押して喜んでいる恭司を、壁に寄りかかって腕を組み、無表情に眺めていた。
「恭司……」
蕃神が口を開いたのは、ソファの感触を楽しむのに飽きた恭司が、銀の鍵を飛ばしてもすぐに自分の手の中に戻ってくることを確認したときだった。
「どうしたら……おまえは〝生きたい〟と言ってくれる?」
「それは俺のほうが訊きたいよ」
銀の鍵をもてあそびながら、恭司はのんびりと問い返す。
「自分も世界も兄貴の夢の産物だと知っていて……どうしたら〝生きつづけたい〟と思えるようになれる?」
〈這い寄る混沌〉からの返答はなかった。
知らなかったはずはないだろう。――否。最初から、知っていた。
「いや……夢じゃなくて妄想だな。兄貴の本当の弟は、難産の末に生まれて死んだ。親は名前をつけるのも面倒だったのか、その子供の名前を兄貴につけさせた。……そこで終わってくれてたらよかったんだが、作家志望の兄貴の妄想力は半端なかった。兄貴がうっかり口を滑らせなかったら、俺はきっと兄貴が死ぬまで気づかなかっただろうな」
自嘲まじりに話し終えたときには、いつのまにか、〈這い寄る混沌〉がソファのそばに立っていた。
恭司を見下ろしているその表情は、驚くほど静謐だった。
「……兄を恨んでいるのか?」
「いいや。恨んではいない」
はっきり否定してから、恭司は銀の鍵を握った右手を膝の上に置いた。
「恨んではいないが……俺に与えられた世界で本物だったのは、おまえとおまえが見せたものだけだった」
「いや、それは違う」
食い気味に、蕃神は恭司の言葉を打ち消した。
「自覚はないだろうが、おまえは他人の夢の中にも入りこめる。それゆえに、私はあの古書店でおまえを知ることができたのだ」
古書店というのは、あの読み方のわからない古本屋――〝夜護洲古書〟のことだろう。しかし、そこで恭司が会ったのは、あの眼鏡の男だけだ。思わず眉間に皺が寄る。
「……どこにいた? まさか、あの眼鏡の男じゃないよな?」
「違う。そもそも、あの夢はあの男に見せていた夢だった。そこにおまえが突然現れて――〝私〟という自我が生まれた」
音もなく〈這い寄る混沌〉が跪く。何事かと思っているうちに、銀の鍵を持っていない左手をつかまれて、軽く持ち上げられた。
「おまえが、滅びろと言うなら滅びてもいい」
もう指輪のない左手を見下ろし、蕃神は切なげに訴えた。
「だが……おまえに会えなくなるのだけは、絶対に嫌だ……」
「馬鹿だな、おまえ。俺も相当の馬鹿だが」
呆れ笑いを浮かべつつ、恭司は自分よりも温かく大きな手を振り払い、怠惰にソファに寝そべった。
天井は闇に覆い隠されている。あの闇が晴れることは、おそらく永遠にないだろう。
「恭司……おまえには、どの世界もつまらないか?」
跪いたまま、淡々と〈這い寄る混沌〉が問いかけてくる。
そちらには目を向けず、恭司は天井の闇を見すえつづけた。
「いや。つまらないのは世界じゃなくて……つまらないと思ってる俺のほうだ」
「…………」
「俺は兄貴を恨んでいないし、兄貴を死なせたいとも思っていない。……ただ、どこにいても、頭の中が少しずつ腐っていってる気がする。何もかも、馬鹿馬鹿しく思えてきてしょうがない。年々、年を重ねるごとにひどくなってる。眠る前にはいつも思うよ。このまま目を閉じて、そのまま終わりになってくれてたら、どんなに楽だろうって。でも、必ず目が覚めて、俺はがっかりする。また終わりにならなかったってな。それなら自殺しろって思うだろうが……兄貴が死なせてくれないんだ……」
そこで恭司は疲れたように笑い、両目を閉じた。
「ナイア。おまえに少しでも俺を思う気持ちがあるんなら……このまま、終わりにさせてくれないか? 今なら、まだ間に合う。まだ俺はおまえのことを、神であってほしいと思ってる。俺がおまえのこともどうでもいいと思い出す前に……ナイア、俺を殺せ」
〈這い寄る混沌〉は何も言わなかった。
しかし、恭司は促さず、相変わらず目を閉じていた。
――と。
恭司の細い首に素手の指がかかった。が、恭司は微動だにしなかった。
「どうした?」
恭司がそう訊ねたとき、その指に少し力がこめられてから、かなりの時間が過ぎていた。
「簡単なことだ。そのまま力いっぱい絞めればいい。おまえなら、捻じ切ることだってできるだろ?」
しかし、逆に手は力をゆるめ、首を離れて恭司の頬を撫でた。
「おまえがいなければ私もない……」
そう呟く声は、意外なほど近くから聞こえた。
「嘘つきめ。本当は私のこともどうでもいいと思っているのだろう。……恭司、それならいっそ滅びろと言ってくれ。そのほうがまだましだ」
「やなこった」
おどけて恭司は切り返した。
「おまえがいなくなったら、誰が俺を安楽死させてくれるんだ? おまえだけ楽にさせてたまるもんか」
「どこまでも勝手な……」
「そう、勝手だ。だから、殺せ」
〈這い寄る混沌〉は答えなかった。恭司の顔を愛でるように撫で、薄い唇を指の腹でなぞる。それでも、恭司は目を閉じたまま、身動き一つしなかった。
「どうした? 私に触られるのは嫌ではなかったのか?」
かすかにからかいを含んだ声。
「目を閉じたら眠くなってきた。頼むから、今はこのまま寝させてくれ。眠るのが俺の唯一の楽しみなんだ」
「私に殺せと言った口でそんなことを言うのか? 本当におまえは勝手だな……」
そう詰りながらも、〈這い寄る混沌〉は恭司から手を離した。
「わかった。もう何もかも忘れて眠ればいい。しかし、これだけは聞いてくれ。答えはいらないから」
だが、もう眠ってしまったのか、単に答えるのが億劫だったのか、恭司は何の反応もしなかった。
「おまえが私を拒んでも、死を望んでも……私はおまえを選びつづける。何度でも……幾千、幾万回でも」
ふと、ある事実に気がついて恭司が不機嫌に呼びかけると、〈這い寄る混沌〉は鷹揚に「何だ?」と応じた。
「俺の尻、撫でんなよ」
「そんなことはしておらん」
心外そうに蕃神は否定したが、だったらなぜすぐに手の位置を変えたのか。胸に蹴りでも入れてやろうかと恭司が考えたとき、眼下の底知れない闇が、黒地に白い筋の入った石の床へと変わった。
身を起こそうとすると、それを察したのか、蕃神が恭司の腰をつかみ、丁重に床の上へと下ろした。見るからに冷たそうな床だったが、素足でも平気なくらい温かい。心なしか、周囲の空気も温かくなったような気がする。
「ようこそ、カダスへ」
足の裏で床を撫でていると、〈這い寄る混沌〉が胸に手を当て、慇懃に一礼した。
「我が主。まずはこれを照覧あれ」
蕃神が指し示した先には、床と同じ石――縞瑪瑙で造られた巨大な柱が、まるで巨人を閉じこめる牢獄の格子のように何本も立ち並んでいた。
だが、柱たちの間は、否応なしに慣れさせられてしまった闇ではなく、黄昏時の淡い茜色で塗りつぶされている。その光に引き寄せられるように恭司は石柱に歩み寄り、その外に広がるものを眺め下ろした。
縞大理石で造られた壮麗な宮殿。
迫持造りの橋。神殿。柱廊。皓壁。
完璧に手入れされた庭園では、色鮮やかな花々が咲き誇り、精巧な噴水が水煙を上げている。
この夕映の都こそ、あのランドルフ・カーターが〈夢の国〉の中で探し求めた都。
彼の幼時の思い出より生み出されたものでありながら、なぜか〈這い寄る混沌〉に守護されている地球の神々に奪われた都。
カダスとは、〈夢の国〉の果てにあるという凍てつく荒野の名前であり、そこにある縞瑪瑙の城に地球の神々は住むという。
「気に入ったか?」
背後から、機嫌を伺うように〈這い寄る混沌〉が声をかけてきた。
「まあな」
外を眺めたまま、恭司はそっけなく答えた。
「とりあえず、幾何学は狂ってないみたいだ」
「気に入ったのならおまえにやろう。おまえが望むなら、望むものすべて」
「人のものはいらない。欲しいのも一つだけだ」
ここで、ようやく恭司は蕃神を振り返った。
「安楽死。最初から、そう言ってる」
その一言で、黄昏は闇に変じた。
あからさまに現金だ。恭司は苦笑いしたが、〈這い寄る混沌〉は笑わなかった。
「こう広いと落ち着かない。人間サイズの部屋はないのか?」
苦笑いしたまま訊ねると、蕃神は無言で左手の指を鳴らした。
と、恭司たちはすでに小さな部屋の中にいた。
部屋は円形で、壁や床はやはり縞瑪瑙でできていた。部屋の中央には、人一人が横になれるくらいの大きさの緋色の優雅なソファが置かれていたが、出入口はおろか、明かりとりの窓一つ設けられていなかった。
「部屋の端が見えるとほっとするな」
窓も光源もないのになぜ物が見えるのかは考えるだけ無駄だろう。しみじみと呟いてソファに腰を下ろす。
「おお、やわらかい」
〈這い寄る混沌〉は黙っていた。ソファを押して喜んでいる恭司を、壁に寄りかかって腕を組み、無表情に眺めていた。
「恭司……」
蕃神が口を開いたのは、ソファの感触を楽しむのに飽きた恭司が、銀の鍵を飛ばしてもすぐに自分の手の中に戻ってくることを確認したときだった。
「どうしたら……おまえは〝生きたい〟と言ってくれる?」
「それは俺のほうが訊きたいよ」
銀の鍵をもてあそびながら、恭司はのんびりと問い返す。
「自分も世界も兄貴の夢の産物だと知っていて……どうしたら〝生きつづけたい〟と思えるようになれる?」
〈這い寄る混沌〉からの返答はなかった。
知らなかったはずはないだろう。――否。最初から、知っていた。
「いや……夢じゃなくて妄想だな。兄貴の本当の弟は、難産の末に生まれて死んだ。親は名前をつけるのも面倒だったのか、その子供の名前を兄貴につけさせた。……そこで終わってくれてたらよかったんだが、作家志望の兄貴の妄想力は半端なかった。兄貴がうっかり口を滑らせなかったら、俺はきっと兄貴が死ぬまで気づかなかっただろうな」
自嘲まじりに話し終えたときには、いつのまにか、〈這い寄る混沌〉がソファのそばに立っていた。
恭司を見下ろしているその表情は、驚くほど静謐だった。
「……兄を恨んでいるのか?」
「いいや。恨んではいない」
はっきり否定してから、恭司は銀の鍵を握った右手を膝の上に置いた。
「恨んではいないが……俺に与えられた世界で本物だったのは、おまえとおまえが見せたものだけだった」
「いや、それは違う」
食い気味に、蕃神は恭司の言葉を打ち消した。
「自覚はないだろうが、おまえは他人の夢の中にも入りこめる。それゆえに、私はあの古書店でおまえを知ることができたのだ」
古書店というのは、あの読み方のわからない古本屋――〝夜護洲古書〟のことだろう。しかし、そこで恭司が会ったのは、あの眼鏡の男だけだ。思わず眉間に皺が寄る。
「……どこにいた? まさか、あの眼鏡の男じゃないよな?」
「違う。そもそも、あの夢はあの男に見せていた夢だった。そこにおまえが突然現れて――〝私〟という自我が生まれた」
音もなく〈這い寄る混沌〉が跪く。何事かと思っているうちに、銀の鍵を持っていない左手をつかまれて、軽く持ち上げられた。
「おまえが、滅びろと言うなら滅びてもいい」
もう指輪のない左手を見下ろし、蕃神は切なげに訴えた。
「だが……おまえに会えなくなるのだけは、絶対に嫌だ……」
「馬鹿だな、おまえ。俺も相当の馬鹿だが」
呆れ笑いを浮かべつつ、恭司は自分よりも温かく大きな手を振り払い、怠惰にソファに寝そべった。
天井は闇に覆い隠されている。あの闇が晴れることは、おそらく永遠にないだろう。
「恭司……おまえには、どの世界もつまらないか?」
跪いたまま、淡々と〈這い寄る混沌〉が問いかけてくる。
そちらには目を向けず、恭司は天井の闇を見すえつづけた。
「いや。つまらないのは世界じゃなくて……つまらないと思ってる俺のほうだ」
「…………」
「俺は兄貴を恨んでいないし、兄貴を死なせたいとも思っていない。……ただ、どこにいても、頭の中が少しずつ腐っていってる気がする。何もかも、馬鹿馬鹿しく思えてきてしょうがない。年々、年を重ねるごとにひどくなってる。眠る前にはいつも思うよ。このまま目を閉じて、そのまま終わりになってくれてたら、どんなに楽だろうって。でも、必ず目が覚めて、俺はがっかりする。また終わりにならなかったってな。それなら自殺しろって思うだろうが……兄貴が死なせてくれないんだ……」
そこで恭司は疲れたように笑い、両目を閉じた。
「ナイア。おまえに少しでも俺を思う気持ちがあるんなら……このまま、終わりにさせてくれないか? 今なら、まだ間に合う。まだ俺はおまえのことを、神であってほしいと思ってる。俺がおまえのこともどうでもいいと思い出す前に……ナイア、俺を殺せ」
〈這い寄る混沌〉は何も言わなかった。
しかし、恭司は促さず、相変わらず目を閉じていた。
――と。
恭司の細い首に素手の指がかかった。が、恭司は微動だにしなかった。
「どうした?」
恭司がそう訊ねたとき、その指に少し力がこめられてから、かなりの時間が過ぎていた。
「簡単なことだ。そのまま力いっぱい絞めればいい。おまえなら、捻じ切ることだってできるだろ?」
しかし、逆に手は力をゆるめ、首を離れて恭司の頬を撫でた。
「おまえがいなければ私もない……」
そう呟く声は、意外なほど近くから聞こえた。
「嘘つきめ。本当は私のこともどうでもいいと思っているのだろう。……恭司、それならいっそ滅びろと言ってくれ。そのほうがまだましだ」
「やなこった」
おどけて恭司は切り返した。
「おまえがいなくなったら、誰が俺を安楽死させてくれるんだ? おまえだけ楽にさせてたまるもんか」
「どこまでも勝手な……」
「そう、勝手だ。だから、殺せ」
〈這い寄る混沌〉は答えなかった。恭司の顔を愛でるように撫で、薄い唇を指の腹でなぞる。それでも、恭司は目を閉じたまま、身動き一つしなかった。
「どうした? 私に触られるのは嫌ではなかったのか?」
かすかにからかいを含んだ声。
「目を閉じたら眠くなってきた。頼むから、今はこのまま寝させてくれ。眠るのが俺の唯一の楽しみなんだ」
「私に殺せと言った口でそんなことを言うのか? 本当におまえは勝手だな……」
そう詰りながらも、〈這い寄る混沌〉は恭司から手を離した。
「わかった。もう何もかも忘れて眠ればいい。しかし、これだけは聞いてくれ。答えはいらないから」
だが、もう眠ってしまったのか、単に答えるのが億劫だったのか、恭司は何の反応もしなかった。
「おまえが私を拒んでも、死を望んでも……私はおまえを選びつづける。何度でも……幾千、幾万回でも」
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