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番外編*
断章*
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突き飛ばすかわりに、彼は男の胸にすがりついた。男は彼を強く抱きしめて、彼の白銀の髪を撫でた。
――ああ、やっぱり同じだ。
懐かしさと切なさに涙が出そうになったとき、男は彼の頬にそっと手を伸ばし、長身を屈めるようにして彼の唇を塞いだ。その唇の感触も舌の動きもまた同じだった。
名残惜しそうに唇を離した後、男は彼の服に手をかけた。自分で……と彼は言いかけたが、再び口づけで言葉も抵抗も封じこめられてしまった。ほどなく、彼は全裸にされ、男に軽々と抱き上げられて、寝台の上に横たえられた。
寝台の端に腰を下ろして、履物だけを脱いだ男は、彼の上に覆いかぶさると、彼の白い裸体を陶然と眺めた。やり方は知っていたが、男には何も知らないように思わせたかった。彼は恥ずかしさに耐えかねたふうを装って、目を閉じて顔をそむけた。
「服を脱いでも美しいな、貴殿は」
苦笑を噛み殺したように男は囁き、彼の首筋に舌を這わせた。
「あ……」
思わず声が出た。一瞬、男は動きを止めたが、再び舌を動かして、彼の小さな乳首をねぶった。
「あっ、やっ」
本気で彼は身悶えした。が、男はかまわず、彼のもう一つの乳首も指でもてあそんだ。
「あ……あ……」
――男に触れられている。
そう思っただけで、興奮してしまう。彼の白い繁みの中にあるものは、もう立ち上がりはじめていて、男はそれに手を伸ばすと、ゆっくりと扱き出した。
「あっ、あぁっ、あっ、あっ……」
こらえきれず、彼は男の首を抱いた。やがて彼の先端から透明な蜜があふれだすと、男はそれを指先にからめて、今度は彼の下の口に潜りこませた。そのまま、押し広げるようにかき回す。彼は両足を大きく開いて、男がやりやすいようにした。
「本当に初めてか?」
ふと男が呟いた。そちらこそ男とは初めてなのかと言い返そうとしたとき、男の指が引き抜かれ、固く張りつめたあれが押し入ってきた。
「あっ……」
彼は小さく悲鳴を上げたが、その細い両足は男の体にからみついている。しばらく留まってから、男は彼の腰をつかみ、さらに奧へと進入してきた。懐かしくて、甘い痛み。こんなところまで同じだ。
「痛いか?」
「……早く、痛くないようにしてください」
「初めてとは思えん……」
不審そうにまた男が言ったが、彼の要求に応えて、抽挿を開始した。
「あぁ……あ……あ……あ……」
どうして人間の体は男同士でも楽しめるようにできているのだろう。これが禁忌なら、最初からできないようにすればよかったのに。
「あ、あ、あぁ、あ、あ、あ」
男の動きが激しさを増してきた。それに呼応するように、彼は夢中で腰を振った。
「あ……あ、あ、あっ……!」
彼が欲情の証を迸らせたとき、男もまた彼の中で同じものを放った。
嬉しいのに。誇らしいのに。
それは、彼の体には毒そのものだった。
「エレミヤ……」
少し掠れた声で、愛しい男が今の彼の名を呼ぶ。彼は今の男の名を呼ぶかわりに、男の背中に腕を回した。
「愛しています……あなただけを……ずっと……ずっと……」
「俺もだ……俺もおまえだけを、死んでも愛している……」
――愛している。
本当に、ただそれだけだった。
そばにいて、愛しあって、共に生きたかっただけだった。
それを罪というなら、永遠に許されなくていい。
この男と愛しあえないのなら、死んでいるのも同じだ。
「近衛隊長殿……もう、お帰りになってください……」
深く唇を重ねあってから、ようよう彼は言った。
「誰か……戻ってくるかもしれません……早く……」
「エレミヤ……しかし」
「私はどうなってもかまいませんが……あなたを道連れにしたくはないのです……」
男は眉をひそめたが、彼から抜け出て、汗に濡れた彼の体を掛布で覆った。だが、寝台から下りても、彼のそばから離れようとはしなかった。
「近衛隊長殿……」
「俺を名前で呼んではくれないのか」
男は苦笑いを浮かべて、彼の髪を撫でた。男にそう言われてから、彼は今までこの男を現在の名で呼んだことがないことに気がついた。
「では、ネブザラダン。……どうぞお帰りください」
「こんな状態のおまえを一人残していくのは心苦しいが……仕方ないか」
男は嘆息して、彼の額に軽く口づけた。
「今宵のことは一生忘れない。……愛している」
「ええ。私も愛しています。ですから、早く」
「つれないな」
また男は苦く笑ったが、今度こそ部屋を出ていった。それを完全に見届けてから、彼はこらえていた苦痛の呻きを漏らした。
たとえ愛するがゆえの行為であったとしても、この体が汚されたという事実に変わりはなく、汚れた体に彼の魂は留まることができない。早急にこの体を捨てて、他の器に移らなければ。
しかし、それはあの男にとっては、自分が愛した〝エレミヤ〟という人間が死ぬということを意味している。
――すまない。
心の中で詫びながら、彼はのろのろと身を起こし、男が脱がした服をまといはじめた。
誰もここには来なかったことをとりつくろうために。
――ああ、やっぱり同じだ。
懐かしさと切なさに涙が出そうになったとき、男は彼の頬にそっと手を伸ばし、長身を屈めるようにして彼の唇を塞いだ。その唇の感触も舌の動きもまた同じだった。
名残惜しそうに唇を離した後、男は彼の服に手をかけた。自分で……と彼は言いかけたが、再び口づけで言葉も抵抗も封じこめられてしまった。ほどなく、彼は全裸にされ、男に軽々と抱き上げられて、寝台の上に横たえられた。
寝台の端に腰を下ろして、履物だけを脱いだ男は、彼の上に覆いかぶさると、彼の白い裸体を陶然と眺めた。やり方は知っていたが、男には何も知らないように思わせたかった。彼は恥ずかしさに耐えかねたふうを装って、目を閉じて顔をそむけた。
「服を脱いでも美しいな、貴殿は」
苦笑を噛み殺したように男は囁き、彼の首筋に舌を這わせた。
「あ……」
思わず声が出た。一瞬、男は動きを止めたが、再び舌を動かして、彼の小さな乳首をねぶった。
「あっ、やっ」
本気で彼は身悶えした。が、男はかまわず、彼のもう一つの乳首も指でもてあそんだ。
「あ……あ……」
――男に触れられている。
そう思っただけで、興奮してしまう。彼の白い繁みの中にあるものは、もう立ち上がりはじめていて、男はそれに手を伸ばすと、ゆっくりと扱き出した。
「あっ、あぁっ、あっ、あっ……」
こらえきれず、彼は男の首を抱いた。やがて彼の先端から透明な蜜があふれだすと、男はそれを指先にからめて、今度は彼の下の口に潜りこませた。そのまま、押し広げるようにかき回す。彼は両足を大きく開いて、男がやりやすいようにした。
「本当に初めてか?」
ふと男が呟いた。そちらこそ男とは初めてなのかと言い返そうとしたとき、男の指が引き抜かれ、固く張りつめたあれが押し入ってきた。
「あっ……」
彼は小さく悲鳴を上げたが、その細い両足は男の体にからみついている。しばらく留まってから、男は彼の腰をつかみ、さらに奧へと進入してきた。懐かしくて、甘い痛み。こんなところまで同じだ。
「痛いか?」
「……早く、痛くないようにしてください」
「初めてとは思えん……」
不審そうにまた男が言ったが、彼の要求に応えて、抽挿を開始した。
「あぁ……あ……あ……あ……」
どうして人間の体は男同士でも楽しめるようにできているのだろう。これが禁忌なら、最初からできないようにすればよかったのに。
「あ、あ、あぁ、あ、あ、あ」
男の動きが激しさを増してきた。それに呼応するように、彼は夢中で腰を振った。
「あ……あ、あ、あっ……!」
彼が欲情の証を迸らせたとき、男もまた彼の中で同じものを放った。
嬉しいのに。誇らしいのに。
それは、彼の体には毒そのものだった。
「エレミヤ……」
少し掠れた声で、愛しい男が今の彼の名を呼ぶ。彼は今の男の名を呼ぶかわりに、男の背中に腕を回した。
「愛しています……あなただけを……ずっと……ずっと……」
「俺もだ……俺もおまえだけを、死んでも愛している……」
――愛している。
本当に、ただそれだけだった。
そばにいて、愛しあって、共に生きたかっただけだった。
それを罪というなら、永遠に許されなくていい。
この男と愛しあえないのなら、死んでいるのも同じだ。
「近衛隊長殿……もう、お帰りになってください……」
深く唇を重ねあってから、ようよう彼は言った。
「誰か……戻ってくるかもしれません……早く……」
「エレミヤ……しかし」
「私はどうなってもかまいませんが……あなたを道連れにしたくはないのです……」
男は眉をひそめたが、彼から抜け出て、汗に濡れた彼の体を掛布で覆った。だが、寝台から下りても、彼のそばから離れようとはしなかった。
「近衛隊長殿……」
「俺を名前で呼んではくれないのか」
男は苦笑いを浮かべて、彼の髪を撫でた。男にそう言われてから、彼は今までこの男を現在の名で呼んだことがないことに気がついた。
「では、ネブザラダン。……どうぞお帰りください」
「こんな状態のおまえを一人残していくのは心苦しいが……仕方ないか」
男は嘆息して、彼の額に軽く口づけた。
「今宵のことは一生忘れない。……愛している」
「ええ。私も愛しています。ですから、早く」
「つれないな」
また男は苦く笑ったが、今度こそ部屋を出ていった。それを完全に見届けてから、彼はこらえていた苦痛の呻きを漏らした。
たとえ愛するがゆえの行為であったとしても、この体が汚されたという事実に変わりはなく、汚れた体に彼の魂は留まることができない。早急にこの体を捨てて、他の器に移らなければ。
しかし、それはあの男にとっては、自分が愛した〝エレミヤ〟という人間が死ぬということを意味している。
――すまない。
心の中で詫びながら、彼はのろのろと身を起こし、男が脱がした服をまといはじめた。
誰もここには来なかったことをとりつくろうために。
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