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11 物は試し
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「暴れられたら困るから、あなたを眠らせて運んだのよ」
あっさり少女は言った。
どう考えても自分より、コンビニごと店員たちを殺したこの少女のほうが危険人物だと思うが、そんな反論をしたところで、それもおまえのせいだと切り返されるだけだろう。それくらいは紀里も学習した。
「それから、一応言っておくけど、その状態で力を使おうとしたら、全部の爪の間に針を刺されたような激痛が走るわよ」
――そうか。俺、超能力者だったんだっけ。
改めて思い出したが、いま試すのはあえてやめた。
「それで……これから俺はどうなるんだ?」
「そうね。しばらくはここにいてもらうわ。閣下がお呼びになるまで」
「閣下?」
「本当に、こっちの記憶はまるでないのね」
少女は呆れたように溜め息をついた。
「このレアを真に支配しておられる偉大な方よ。私たちでも直接お目にかかることはないわ」
「じゃあ、そんな偉い人が、何の用で俺に?」
そう問うと、少女は少しだけ困惑したように眉根を寄せた。
「それは……私にはわからないわ。私の任務はあなたを捜し出して、ここへ連れ戻すことまでだもの」
「だったら、俺の親父は? 一緒に連れ戻さなくてよかったのか?」
「ええ。あの人はあの星に残してくるように言われていたから」
「うちの親父はいったい何者なんだ?」
「それも私は知らないわ。一緒に逃げたんだから、あなたのほうがよく知っているんじゃないの?」
「それはそうなんだけど……俺、記憶喪失だから……」
「なら、閣下とお会いになったときに伺うことね。食事は一日三回、ここまで届けさせるわ」
少女は自分の腕時計をちらりと見やると、後方の壁に向かって踵を返した。
「あ、おい、まだ訊きたいことが……!」
紀里はあわててベッドから跳ね起きたが、少女は振り返りもせず、壁の前に立った。
と、壁に人一人が通れるくらいの縦長の四角い穴が現れ、少女はそこを通って部屋の外に出た。
今ならここから出られるかもしれない。紀里はベッドから飛び降りたが、その間に穴は閉まってしまい、また元の何もない壁に戻ってしまった。
「どういう仕組みだよ……」
愚痴りながら、穴があったはずの壁を調べてみたが、やはり筋一本見つからない。
(後は……)
紀里は自分の両手をじっと見下ろした。
ここから飛べたら逃げられるかもしれない。しかし、力を使えば激痛が走ると少女は言っていた。
(やることないし……とりあえず、物は試しだ)
確か、超能力というものは、手を使わずに物を動かしたりもできるはずだ。
紀里は殺風景な部屋の中を見回して、洗面台のところに置いてある、白いプラスチックのようなコップに目をつけた。
(よし。……動け!)
そう念じたとたん。
脳天に巨大な釘を打ちこまれたような衝撃を感じて、その場にうずくまった。
「痛……」
薄目を開けてコップを確認したが、洗面台の上にはなく、床の上を転がっていた。
ということは、一瞬だけでもコップ一個を動かすくらいの力は出せるらしい。それにしても。
「針どころじゃねえ……」
予想以上の痛さに、紀里は床を這っていって、やっとの思いでベッドに戻った。
(とにかく、今は逃げ出せるチャンスを待とう)
少女のいう閣下とやらは、今のところ紀里を殺すつもりはないようだ。ならば、まだ機会はある。
紀里は目を閉じた。目を閉じれば、いま自分がどこにいるのかもわからなくなる。ここが自分の私室なのだと思えば、そのようにも思えてくる。
(それに、ここが本当にレアとかいう星なのかもわかんないもんな)
もしかしたら、少女は紀里の逃げる気を削ぐために、出まかせを言ったのかもしれない。……とても嘘をついているようには見えなかったが。
(少し寝よう)
もう考えるのも疲れた。鏡太郎も言っていた。いざというときのために、睡眠と食事はしっかりとれと。寝つきのよさなら誰にも負けない自信がある。現にさっそく眠くなってきた。
(ああ……そうだった……)
先ほど、起きる直前まで見ていた夢。
そこには、鏡太郎も出ていたのだった。
懐かしい……琥珀の目をした鏡太郎が。
あっさり少女は言った。
どう考えても自分より、コンビニごと店員たちを殺したこの少女のほうが危険人物だと思うが、そんな反論をしたところで、それもおまえのせいだと切り返されるだけだろう。それくらいは紀里も学習した。
「それから、一応言っておくけど、その状態で力を使おうとしたら、全部の爪の間に針を刺されたような激痛が走るわよ」
――そうか。俺、超能力者だったんだっけ。
改めて思い出したが、いま試すのはあえてやめた。
「それで……これから俺はどうなるんだ?」
「そうね。しばらくはここにいてもらうわ。閣下がお呼びになるまで」
「閣下?」
「本当に、こっちの記憶はまるでないのね」
少女は呆れたように溜め息をついた。
「このレアを真に支配しておられる偉大な方よ。私たちでも直接お目にかかることはないわ」
「じゃあ、そんな偉い人が、何の用で俺に?」
そう問うと、少女は少しだけ困惑したように眉根を寄せた。
「それは……私にはわからないわ。私の任務はあなたを捜し出して、ここへ連れ戻すことまでだもの」
「だったら、俺の親父は? 一緒に連れ戻さなくてよかったのか?」
「ええ。あの人はあの星に残してくるように言われていたから」
「うちの親父はいったい何者なんだ?」
「それも私は知らないわ。一緒に逃げたんだから、あなたのほうがよく知っているんじゃないの?」
「それはそうなんだけど……俺、記憶喪失だから……」
「なら、閣下とお会いになったときに伺うことね。食事は一日三回、ここまで届けさせるわ」
少女は自分の腕時計をちらりと見やると、後方の壁に向かって踵を返した。
「あ、おい、まだ訊きたいことが……!」
紀里はあわててベッドから跳ね起きたが、少女は振り返りもせず、壁の前に立った。
と、壁に人一人が通れるくらいの縦長の四角い穴が現れ、少女はそこを通って部屋の外に出た。
今ならここから出られるかもしれない。紀里はベッドから飛び降りたが、その間に穴は閉まってしまい、また元の何もない壁に戻ってしまった。
「どういう仕組みだよ……」
愚痴りながら、穴があったはずの壁を調べてみたが、やはり筋一本見つからない。
(後は……)
紀里は自分の両手をじっと見下ろした。
ここから飛べたら逃げられるかもしれない。しかし、力を使えば激痛が走ると少女は言っていた。
(やることないし……とりあえず、物は試しだ)
確か、超能力というものは、手を使わずに物を動かしたりもできるはずだ。
紀里は殺風景な部屋の中を見回して、洗面台のところに置いてある、白いプラスチックのようなコップに目をつけた。
(よし。……動け!)
そう念じたとたん。
脳天に巨大な釘を打ちこまれたような衝撃を感じて、その場にうずくまった。
「痛……」
薄目を開けてコップを確認したが、洗面台の上にはなく、床の上を転がっていた。
ということは、一瞬だけでもコップ一個を動かすくらいの力は出せるらしい。それにしても。
「針どころじゃねえ……」
予想以上の痛さに、紀里は床を這っていって、やっとの思いでベッドに戻った。
(とにかく、今は逃げ出せるチャンスを待とう)
少女のいう閣下とやらは、今のところ紀里を殺すつもりはないようだ。ならば、まだ機会はある。
紀里は目を閉じた。目を閉じれば、いま自分がどこにいるのかもわからなくなる。ここが自分の私室なのだと思えば、そのようにも思えてくる。
(それに、ここが本当にレアとかいう星なのかもわかんないもんな)
もしかしたら、少女は紀里の逃げる気を削ぐために、出まかせを言ったのかもしれない。……とても嘘をついているようには見えなかったが。
(少し寝よう)
もう考えるのも疲れた。鏡太郎も言っていた。いざというときのために、睡眠と食事はしっかりとれと。寝つきのよさなら誰にも負けない自信がある。現にさっそく眠くなってきた。
(ああ……そうだった……)
先ほど、起きる直前まで見ていた夢。
そこには、鏡太郎も出ていたのだった。
懐かしい……琥珀の目をした鏡太郎が。
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