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10 悪い冗談
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長い夢を見ていたような気がする。
目を覚ましたとたん、内容は忘れてしまったが、何かとても懐かしい気持ちだけが残っている。
(何の夢見てたんだろうな……)
そう思いながら天井を見上げて、紀里は動きを止めた。
天井がいつもと違う。
紀里の私室の天井は柔らかいクリーム色をしている。しかし、いま視線の先にある天井は白く発光していた。
そこで紀里は跳ね起きた。が、すぐに頭がぐらりとして、また元のように横になった。
紀里は簡素なシングルベッドに寝かされていた。体にはベージュ色の毛布が申し訳程度にかけられている。
部屋は天井だけでなく壁も白く、驚いたことに四方の壁のどこにも扉がなかった。
六畳しかない紀里の私室よりは多少広いが、壁際に設置されたこのベッド以外には、部屋の角に小さな洗面台と洋式便器があるだけだ。
(これって……監禁されてる……よな)
額を押さえながら、紀里はぼんやり考えた。
(何で俺がこんなところに……)
わけがわからない。
確か、いつものように寝坊して、いつものように走って家を出て、そして――
「あ……そうか」
思わず声が出た。やはり自分はどうかしていたらしい。両手首を締めつけているこのブレスレットのせいか。
あの後――鏡太郎を人質にとられ、あの金髪の少女に脅されてこのブレスレットをはめた後――紀里はそのままどこかに飛ばされて、着いたと同時に意識を失ったのだった。今まで気絶なんて一度もしたことがなかったのに、今日一日で二回も経験してしまった。
紀里はブレスレットを一睨みしてから、力まかせにはずそうとしてみた。だが、まるで皮膚の一部にでもなってしまったかのように動かない。自分の皮膚ごと剥ぎとるのはさすがに嫌だったので、紀里はあきらめて両腕を投げ出した。
(ということは、ここは敵のアジトか?)
これから自分が逃げてきたとかいう星に連れ帰られるのか。どうせ帰るのならこんな形ではなく、鏡太郎と一緒に帰りたかったが。
(そういや親父……無事かな……)
あのまま飛ばされてしまったので、鏡太郎の無事は確認できなかったが、あの少女は鏡太郎には危害を加えたくないようだったから、きっと無事でいるだろう。とりあえずはそう信じるしかない。
(ほんとにもう……今が夢みたいだよな……)
今朝、あの少女に会うまでは、自分はどこにでもいる日本の高校一年生だったのに。
鏡太郎に何か言われた瞬間、外見はまったく変わってしまうし、鏡太郎自身も若返って、異国の美青年になってしまうし、おまけに自分たちは宇宙人で、紀里には超能力があるという――
(まったく……悪い冗談としか思えねえよ……)
紀里は顔に腕をかざして、大きく溜め息をついた。と。
「気がついた?」
そんな少女の声がして、部屋に人が入ってくる気配がした。
紀里が腕をどかして、声がしたほうに目を向けると、そこにはあの金髪の少女が立っていた。
服装は兵士のような灰色の制服に変わっていたが、額にはあの金色の額当てがある。明るい場所で見てみると、細かい彫刻が施された金属製の装身具のようだった。
「どっから入ってきたんだ?」
鏡太郎を人質にとられたり、気絶させられたりしたのだから、真っ先に文句を言ってもよかったが、まず気になったのはそれだった。
「そこから」
少女は自分の後ろの壁を振り返ったが、そこには白い壁があるだけだった。
「何もないだろ」
「必要なときにしか開かないのよ」
わざとらしく少女が肩をすくめる。こんなこともわからないのかと馬鹿にされているようだ。
「それで? 俺に何の用? 出航時間でも来たのか?」
ふてくされて紀里は頭の後ろで腕を組んだ。
少女は怪訝そうな顔をしていたが、急に合点がいったようにうなずいた。
「ああ……まだ地球にいると思っているのね。いいえ、船に乗る必要はないわ。目的地にはもう着いているから」
「何?」
「ここは地球じゃない。あなたがいた星……レアよ」
紀里はしばらく何も言えず、そのまま固まっていた。
目を覚ましたとたん、内容は忘れてしまったが、何かとても懐かしい気持ちだけが残っている。
(何の夢見てたんだろうな……)
そう思いながら天井を見上げて、紀里は動きを止めた。
天井がいつもと違う。
紀里の私室の天井は柔らかいクリーム色をしている。しかし、いま視線の先にある天井は白く発光していた。
そこで紀里は跳ね起きた。が、すぐに頭がぐらりとして、また元のように横になった。
紀里は簡素なシングルベッドに寝かされていた。体にはベージュ色の毛布が申し訳程度にかけられている。
部屋は天井だけでなく壁も白く、驚いたことに四方の壁のどこにも扉がなかった。
六畳しかない紀里の私室よりは多少広いが、壁際に設置されたこのベッド以外には、部屋の角に小さな洗面台と洋式便器があるだけだ。
(これって……監禁されてる……よな)
額を押さえながら、紀里はぼんやり考えた。
(何で俺がこんなところに……)
わけがわからない。
確か、いつものように寝坊して、いつものように走って家を出て、そして――
「あ……そうか」
思わず声が出た。やはり自分はどうかしていたらしい。両手首を締めつけているこのブレスレットのせいか。
あの後――鏡太郎を人質にとられ、あの金髪の少女に脅されてこのブレスレットをはめた後――紀里はそのままどこかに飛ばされて、着いたと同時に意識を失ったのだった。今まで気絶なんて一度もしたことがなかったのに、今日一日で二回も経験してしまった。
紀里はブレスレットを一睨みしてから、力まかせにはずそうとしてみた。だが、まるで皮膚の一部にでもなってしまったかのように動かない。自分の皮膚ごと剥ぎとるのはさすがに嫌だったので、紀里はあきらめて両腕を投げ出した。
(ということは、ここは敵のアジトか?)
これから自分が逃げてきたとかいう星に連れ帰られるのか。どうせ帰るのならこんな形ではなく、鏡太郎と一緒に帰りたかったが。
(そういや親父……無事かな……)
あのまま飛ばされてしまったので、鏡太郎の無事は確認できなかったが、あの少女は鏡太郎には危害を加えたくないようだったから、きっと無事でいるだろう。とりあえずはそう信じるしかない。
(ほんとにもう……今が夢みたいだよな……)
今朝、あの少女に会うまでは、自分はどこにでもいる日本の高校一年生だったのに。
鏡太郎に何か言われた瞬間、外見はまったく変わってしまうし、鏡太郎自身も若返って、異国の美青年になってしまうし、おまけに自分たちは宇宙人で、紀里には超能力があるという――
(まったく……悪い冗談としか思えねえよ……)
紀里は顔に腕をかざして、大きく溜め息をついた。と。
「気がついた?」
そんな少女の声がして、部屋に人が入ってくる気配がした。
紀里が腕をどかして、声がしたほうに目を向けると、そこにはあの金髪の少女が立っていた。
服装は兵士のような灰色の制服に変わっていたが、額にはあの金色の額当てがある。明るい場所で見てみると、細かい彫刻が施された金属製の装身具のようだった。
「どっから入ってきたんだ?」
鏡太郎を人質にとられたり、気絶させられたりしたのだから、真っ先に文句を言ってもよかったが、まず気になったのはそれだった。
「そこから」
少女は自分の後ろの壁を振り返ったが、そこには白い壁があるだけだった。
「何もないだろ」
「必要なときにしか開かないのよ」
わざとらしく少女が肩をすくめる。こんなこともわからないのかと馬鹿にされているようだ。
「それで? 俺に何の用? 出航時間でも来たのか?」
ふてくされて紀里は頭の後ろで腕を組んだ。
少女は怪訝そうな顔をしていたが、急に合点がいったようにうなずいた。
「ああ……まだ地球にいると思っているのね。いいえ、船に乗る必要はないわ。目的地にはもう着いているから」
「何?」
「ここは地球じゃない。あなたがいた星……レアよ」
紀里はしばらく何も言えず、そのまま固まっていた。
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