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第5章 苦悶の朝
3 甘い朝食
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新藤がシャワーを済ませ、昨日着ていた服を仕方なく身につけて脱衣所を出ると、ベッドの上にいたはずの佐京はキッチンのシンクの前に立っていた。
服を着るのが面倒だったのだろう。白いバスローブを一枚羽織ったきりの姿で、ベーコンつき目玉焼きにトーストという、まさに洋風朝食の王道を皿に盛りつけていた。
「おまえ、体はもう大丈夫なのか?」
合意の上とはいえ、佐京の体に負担をかけてしまったことは事実だ。若干の後ろめたさを覚えつつ新藤が訊ねると、佐京は下を向いたまま、ぼそりと答えた。
「筋肉痛がつらいだけだ」
――筋肉痛……
他にもっと、集中的にダメージを受けた箇所があると思うのだが、口には出せない。
「俺が朝飯作るって言ったのに……何か手伝うか?」
「もう全部終わった。コーヒーだけ淹れるから、これ、向こうに持っていってくれ」
佐京は料理本に写真を掲載できそうなほど完璧な料理を作る。
目玉焼きの半熟具合もトーストの焦げ具合もまったく申し分がない。
(こんなに何でもできる男が、何でまた俺なんかに抱かれたがるんだろうな?)
自分はホモではないと佐京は言った。
行為中は別人のように乱れる佐京を見てしまうと、どうしても新藤には信じられないが、冷静に我が身を省みれば、自分もそのように佐京に思われているに違いない。
ひとまず、この問題にはこれ以上触れないことにして、新藤はまるで学食のようにトレーに載せられた二人分の食事を、ウェイターよろしくリビングへと運んだ。
新藤が風呂に入っている間に佐京がしたのだろう。ガラステーブルの隅には、煙草やライターと共にきれいに洗われた灰皿がさりげなく置かれていた。
そういえば、今日はまだ煙草を吸っていない。気づいたとたん、急に煙草が欲しくなったが、せっかくの朝食に煙の臭いを染みこませるのも何だ。食べ終わるまで我慢しよう。
新藤がソファに腰を下ろしたとき、佐京がコーヒーを淹れた白いマグカップを二つ両手に持って現れた。
新藤と佐京の数少ない共通点の一つは、コーヒーはブラック派なところだ。
新藤は缶のブラックコーヒーで充分満足できるのだが、佐京はドリップしてコーヒーを淹れる。それがまた、たまに行くこともある喫茶店のコーヒーよりもうまい。本当に器用な男である。人間関係以外なら。
「先に食べてればよかったのに」
新藤がまだ一口も食べていないのに気づいた佐京は、意外そうに言いながらマグカップをテーブルの上に置き、新藤の隣にゆっくり腰を下ろした。
「持っていけとは言われたけど、先に食べてもいいとは言われなかったから」
新藤は苦笑いして、佐京の前にトレーを置き直した。
「それに、勝手に先に食べはじめたら、筋肉痛を押して朝食を作ってくれた家主に対して、あまりにも失礼だろ?」
軽く目を見張ってから、佐京ははにかむように笑った。
佐京がこんなふうに笑うのを、新藤はこのとき初めて見た。
驚くと同時に、少し見とれた。
「それじゃ、食うか」
我に返った新藤の声を皮切りに、かなり遅めの朝食が始まった。
「どうした? 食欲ないのか?」
ふと隣の佐京に目をやると、彼はコーヒーばかり飲んでいて、肝心の朝食のほうにはまったく手をつけていなかった。
「もともと朝はあまり入らないんだ」
佐京は曖昧に笑って答えたが、昨夜もろくに食べていなかったはずだ。
「風邪でも引いたんじゃないか?」
新藤は心配になって、テーブルに置かれていたおしぼり――こういうところが、男にしては気が利きすぎていると思う――で汚れた指先を拭うと、佐京の白い額に左手を置き、自分の額に右手を置いた。
「熱は……ないみたいだな。パンが食べにくいんなら、お粥でも作ってやろうか?」
「いいよ、別に。病人じゃあるまいし」
「でも、何か腹に入れとかないと、体が持たないだろ?」
「腹が減ったら、自分で何か作って食べるから」
佐京はそう答えたが、彼は料理をするのは得意でも、自分が食べることには無頓着なようだ。
新藤は溜め息をつくと、自分の分のトレーを持って、ソファから立ち上がった。
「新藤?」
「お粥を作っていくから、腹が減ったらそれを温め直して食べろ。昔、おふくろが倒れたとき、お粥だけはさんざん作ったから得意なんだ。でも、今から炊いたら時間がかかるな。……あ、確か、冷凍庫に白飯があるんだったよな?」
「ほんとに、別にいいのに」
口ではそう言いつつも、自分のために新藤が食事を作ってくれるというのは嬉しいらしく――たとえそれがお粥であっても――佐京はキッチンに向かう新藤を無理に止めようとはしなかった。
***
「見かけによらず、まめなんだな」
感心したように佐京が声をかけてきたのは、新藤が鍋を火にかけたときだった。
振り返ると、自分の分のトレーを持った佐京が立っていた。
「俺がまめだったら、おまえは大まめだよ」
呆れて新藤は応じた。
佐京は白飯を詰めた専用の保存容器を、冷凍庫にいくつも常備していた。レンジで温めるだけで炊きたて状態になるので、こういうときにはたいへん重宝する。だが、見かけによらないというセリフは、そっくりそのまま佐京に投げ返してやりたい。
「何だ、おまえ、ほとんど食ってないじゃないか。……ああ、それはそこに置いていけ。俺が自分のと一緒に片づけておくから」
自分のトレーを片づけようとした佐京を、新藤はあわてて止めた。佐京が困惑したように首をかしげる。
「だったら、俺は何をしたらいいんだ?」
「とりあえず、ソファに座ってテレビでも見てたらどうだ?」
「別に、テレビなんか見たくないし……」
ぶつぶつ文句を言いつつも、佐京はリビングに引き返していった。
新藤はトーストだけは食べて処分すると、残りはラップをかけて冷蔵庫の中にしまい、鍋の具合を見ながら洗い物を済ませた。
その間、リビングからはテレビの音声はもちろん、何の物音も聞こえてこなかった。立派なテレビを持っているくせに、佐京は本当にテレビを見ない。
「佐京、できたぞ」
味気ないので卵を入れたお粥を茶碗に軽く一杯よそってリビングに戻ると、佐京はこちらに足を向けた格好でソファに横になっていた。上を向いて、片膝を立てて。
「佐京……横になっててもいいけど、せめて裾は直せよ。……見えるぞ」
見えそうで見えないギリギリのライン。目のやり場に困っている新藤を佐京は無言で見返すと、さらに裾を広げてみせた。
「佐京!」
「もうさんざん見たくせに」
佐京はからかうように笑ったが、新藤に言われたとおりに裾を直し、片膝を立てるのをやめた。
「見えるのと見えそうなのとは、焼肉の並と特上くらい違うんだよ。ほら、せっかく作ったんだから、一口だけでも食べてくれよ」
佐京は少し考えてから、何を思いついたのか、にたりと笑った。
「じゃあ、食べさせろ」
「おまえ、病人じゃないんだろ?」
「病人じゃないけど、少しだけ怪我人」
うっと言葉に詰まってしまった新藤に、佐京は赤い唇を軽く開いてみせた。
「ほら、早く」
新藤はお粥を食べさせるより、自分がその唇を貪りたい衝動に駆られたが、〝少しだけ怪我人〟を〝完全に怪我人〟にするわけにはいかない。必死で心頭を滅却し、佐京の前で膝をついた新藤は、さじですくったお粥をふうふう吹いて冷ましてから、魅惑的な唇の中へと運んでやった。
「うん……うまい」
佐京は満足げに笑ったが、それに気をよくした新藤がもう一さじ食べさせてやろうとすると、黙って首を横に振った。
「今はもういい。あとで必ず食べるから」
「本当に大丈夫か?」
茶碗をテーブルの上に置いてから、佐京の髪を撫でてやると、彼は心地よさそうに目を閉じた。
「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから。それより新藤。今日のバイトは何時に終わる?」
「そうだな……九時半くらいになるかな。一度自分のアパートに帰ってから、またここに来るよ」
「本当に?」
「本当に」
佐京は目を開けて、じっと新藤を見つめた。
新藤はどうも、佐京のこの目に弱い。
心のうちを見透かすような、黒目がちの瞳。
「だったら、バイトが終わったら、すぐに携帯に電話してくれ。何時に来るかはっきりしないのは嫌だから」
「ああ、わかった。必ず電話するよ」
真剣に答えると、佐京はほっとしたように笑った。
(こういうとこは、可愛いよな)
あくまで被雇用者として付き合っていた頃は、美形だが横柄で醒めた男だとばかり思っていた。
しかし、実はその裏には多様な顔が隠されていて、今のところ新藤がいちばん気に入っているのが、恥じらうように笑う佐京だった。
新藤はまた佐京の髪に触れようとしたが、ふとあることを思い出し、あわてて立ち上がった。
「じゃあ俺、そろそろ出るわ」
それを聞いて、佐京があせったように身を起こす。
「バイト先のドラッグストアってあそこだろ? まだ行くには早いんじゃないか?」
「うん、そうだけど、やっぱアパートに戻って、着替えてから行こうと思って。一応客商売だし、二日も着た服着て店に出たらまずいだろ。それに、俺はもっと重大な問題を忘れていた」
「問題?」
「佐京。おまえ、ヘアムースとかヘアワックスとか、そういうのは持ってないだろ?」
「ないけど……必要ないから」
「だと思った。俺はポリシーとして、この頭のままではバイトには行けない」
長い前髪を掻き上げて主張すると、佐京は腑に落ちたようにうなずいた。
「そっちのほうがいいと思うけど……うん、外ではそのポリシーを貫いてくれ。今のおまえは俺だけが見たいから」
――畜生、普通の顔して殺し文句言いやがって!
とうとう我慢しきれなくなって、新藤は佐京を抱きしめると同時に唇を塞いだ。
佐京は驚いたようだったが、新藤を拒むはずもなく、甘えるように新藤の背中に腕を回した。
服を着るのが面倒だったのだろう。白いバスローブを一枚羽織ったきりの姿で、ベーコンつき目玉焼きにトーストという、まさに洋風朝食の王道を皿に盛りつけていた。
「おまえ、体はもう大丈夫なのか?」
合意の上とはいえ、佐京の体に負担をかけてしまったことは事実だ。若干の後ろめたさを覚えつつ新藤が訊ねると、佐京は下を向いたまま、ぼそりと答えた。
「筋肉痛がつらいだけだ」
――筋肉痛……
他にもっと、集中的にダメージを受けた箇所があると思うのだが、口には出せない。
「俺が朝飯作るって言ったのに……何か手伝うか?」
「もう全部終わった。コーヒーだけ淹れるから、これ、向こうに持っていってくれ」
佐京は料理本に写真を掲載できそうなほど完璧な料理を作る。
目玉焼きの半熟具合もトーストの焦げ具合もまったく申し分がない。
(こんなに何でもできる男が、何でまた俺なんかに抱かれたがるんだろうな?)
自分はホモではないと佐京は言った。
行為中は別人のように乱れる佐京を見てしまうと、どうしても新藤には信じられないが、冷静に我が身を省みれば、自分もそのように佐京に思われているに違いない。
ひとまず、この問題にはこれ以上触れないことにして、新藤はまるで学食のようにトレーに載せられた二人分の食事を、ウェイターよろしくリビングへと運んだ。
新藤が風呂に入っている間に佐京がしたのだろう。ガラステーブルの隅には、煙草やライターと共にきれいに洗われた灰皿がさりげなく置かれていた。
そういえば、今日はまだ煙草を吸っていない。気づいたとたん、急に煙草が欲しくなったが、せっかくの朝食に煙の臭いを染みこませるのも何だ。食べ終わるまで我慢しよう。
新藤がソファに腰を下ろしたとき、佐京がコーヒーを淹れた白いマグカップを二つ両手に持って現れた。
新藤と佐京の数少ない共通点の一つは、コーヒーはブラック派なところだ。
新藤は缶のブラックコーヒーで充分満足できるのだが、佐京はドリップしてコーヒーを淹れる。それがまた、たまに行くこともある喫茶店のコーヒーよりもうまい。本当に器用な男である。人間関係以外なら。
「先に食べてればよかったのに」
新藤がまだ一口も食べていないのに気づいた佐京は、意外そうに言いながらマグカップをテーブルの上に置き、新藤の隣にゆっくり腰を下ろした。
「持っていけとは言われたけど、先に食べてもいいとは言われなかったから」
新藤は苦笑いして、佐京の前にトレーを置き直した。
「それに、勝手に先に食べはじめたら、筋肉痛を押して朝食を作ってくれた家主に対して、あまりにも失礼だろ?」
軽く目を見張ってから、佐京ははにかむように笑った。
佐京がこんなふうに笑うのを、新藤はこのとき初めて見た。
驚くと同時に、少し見とれた。
「それじゃ、食うか」
我に返った新藤の声を皮切りに、かなり遅めの朝食が始まった。
「どうした? 食欲ないのか?」
ふと隣の佐京に目をやると、彼はコーヒーばかり飲んでいて、肝心の朝食のほうにはまったく手をつけていなかった。
「もともと朝はあまり入らないんだ」
佐京は曖昧に笑って答えたが、昨夜もろくに食べていなかったはずだ。
「風邪でも引いたんじゃないか?」
新藤は心配になって、テーブルに置かれていたおしぼり――こういうところが、男にしては気が利きすぎていると思う――で汚れた指先を拭うと、佐京の白い額に左手を置き、自分の額に右手を置いた。
「熱は……ないみたいだな。パンが食べにくいんなら、お粥でも作ってやろうか?」
「いいよ、別に。病人じゃあるまいし」
「でも、何か腹に入れとかないと、体が持たないだろ?」
「腹が減ったら、自分で何か作って食べるから」
佐京はそう答えたが、彼は料理をするのは得意でも、自分が食べることには無頓着なようだ。
新藤は溜め息をつくと、自分の分のトレーを持って、ソファから立ち上がった。
「新藤?」
「お粥を作っていくから、腹が減ったらそれを温め直して食べろ。昔、おふくろが倒れたとき、お粥だけはさんざん作ったから得意なんだ。でも、今から炊いたら時間がかかるな。……あ、確か、冷凍庫に白飯があるんだったよな?」
「ほんとに、別にいいのに」
口ではそう言いつつも、自分のために新藤が食事を作ってくれるというのは嬉しいらしく――たとえそれがお粥であっても――佐京はキッチンに向かう新藤を無理に止めようとはしなかった。
***
「見かけによらず、まめなんだな」
感心したように佐京が声をかけてきたのは、新藤が鍋を火にかけたときだった。
振り返ると、自分の分のトレーを持った佐京が立っていた。
「俺がまめだったら、おまえは大まめだよ」
呆れて新藤は応じた。
佐京は白飯を詰めた専用の保存容器を、冷凍庫にいくつも常備していた。レンジで温めるだけで炊きたて状態になるので、こういうときにはたいへん重宝する。だが、見かけによらないというセリフは、そっくりそのまま佐京に投げ返してやりたい。
「何だ、おまえ、ほとんど食ってないじゃないか。……ああ、それはそこに置いていけ。俺が自分のと一緒に片づけておくから」
自分のトレーを片づけようとした佐京を、新藤はあわてて止めた。佐京が困惑したように首をかしげる。
「だったら、俺は何をしたらいいんだ?」
「とりあえず、ソファに座ってテレビでも見てたらどうだ?」
「別に、テレビなんか見たくないし……」
ぶつぶつ文句を言いつつも、佐京はリビングに引き返していった。
新藤はトーストだけは食べて処分すると、残りはラップをかけて冷蔵庫の中にしまい、鍋の具合を見ながら洗い物を済ませた。
その間、リビングからはテレビの音声はもちろん、何の物音も聞こえてこなかった。立派なテレビを持っているくせに、佐京は本当にテレビを見ない。
「佐京、できたぞ」
味気ないので卵を入れたお粥を茶碗に軽く一杯よそってリビングに戻ると、佐京はこちらに足を向けた格好でソファに横になっていた。上を向いて、片膝を立てて。
「佐京……横になっててもいいけど、せめて裾は直せよ。……見えるぞ」
見えそうで見えないギリギリのライン。目のやり場に困っている新藤を佐京は無言で見返すと、さらに裾を広げてみせた。
「佐京!」
「もうさんざん見たくせに」
佐京はからかうように笑ったが、新藤に言われたとおりに裾を直し、片膝を立てるのをやめた。
「見えるのと見えそうなのとは、焼肉の並と特上くらい違うんだよ。ほら、せっかく作ったんだから、一口だけでも食べてくれよ」
佐京は少し考えてから、何を思いついたのか、にたりと笑った。
「じゃあ、食べさせろ」
「おまえ、病人じゃないんだろ?」
「病人じゃないけど、少しだけ怪我人」
うっと言葉に詰まってしまった新藤に、佐京は赤い唇を軽く開いてみせた。
「ほら、早く」
新藤はお粥を食べさせるより、自分がその唇を貪りたい衝動に駆られたが、〝少しだけ怪我人〟を〝完全に怪我人〟にするわけにはいかない。必死で心頭を滅却し、佐京の前で膝をついた新藤は、さじですくったお粥をふうふう吹いて冷ましてから、魅惑的な唇の中へと運んでやった。
「うん……うまい」
佐京は満足げに笑ったが、それに気をよくした新藤がもう一さじ食べさせてやろうとすると、黙って首を横に振った。
「今はもういい。あとで必ず食べるから」
「本当に大丈夫か?」
茶碗をテーブルの上に置いてから、佐京の髪を撫でてやると、彼は心地よさそうに目を閉じた。
「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから。それより新藤。今日のバイトは何時に終わる?」
「そうだな……九時半くらいになるかな。一度自分のアパートに帰ってから、またここに来るよ」
「本当に?」
「本当に」
佐京は目を開けて、じっと新藤を見つめた。
新藤はどうも、佐京のこの目に弱い。
心のうちを見透かすような、黒目がちの瞳。
「だったら、バイトが終わったら、すぐに携帯に電話してくれ。何時に来るかはっきりしないのは嫌だから」
「ああ、わかった。必ず電話するよ」
真剣に答えると、佐京はほっとしたように笑った。
(こういうとこは、可愛いよな)
あくまで被雇用者として付き合っていた頃は、美形だが横柄で醒めた男だとばかり思っていた。
しかし、実はその裏には多様な顔が隠されていて、今のところ新藤がいちばん気に入っているのが、恥じらうように笑う佐京だった。
新藤はまた佐京の髪に触れようとしたが、ふとあることを思い出し、あわてて立ち上がった。
「じゃあ俺、そろそろ出るわ」
それを聞いて、佐京があせったように身を起こす。
「バイト先のドラッグストアってあそこだろ? まだ行くには早いんじゃないか?」
「うん、そうだけど、やっぱアパートに戻って、着替えてから行こうと思って。一応客商売だし、二日も着た服着て店に出たらまずいだろ。それに、俺はもっと重大な問題を忘れていた」
「問題?」
「佐京。おまえ、ヘアムースとかヘアワックスとか、そういうのは持ってないだろ?」
「ないけど……必要ないから」
「だと思った。俺はポリシーとして、この頭のままではバイトには行けない」
長い前髪を掻き上げて主張すると、佐京は腑に落ちたようにうなずいた。
「そっちのほうがいいと思うけど……うん、外ではそのポリシーを貫いてくれ。今のおまえは俺だけが見たいから」
――畜生、普通の顔して殺し文句言いやがって!
とうとう我慢しきれなくなって、新藤は佐京を抱きしめると同時に唇を塞いだ。
佐京は驚いたようだったが、新藤を拒むはずもなく、甘えるように新藤の背中に腕を回した。
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