ひとりぼっちの魔王と分からず屋の勇者

にわとりぶらま

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第10話 答え

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 勇者は本拠地に向けて急ぎ飛翔する。そして飛翔しながら考える。


(魔王は自らの命を差し出して、私に質問の答えを求めてきた… ならば、私も勇者としてその場限りの曖昧な返答をせず、真摯な態度で正確な返答をせねばなるまい…)


 勇者は魔王の言葉を敵の言葉としてではなく、契約を交わした相手の言葉の様に考えていた。


(私では、この星を覆う死の瘴気を浄化する方法や、新たな命を生み出す方法は分からない… 私に分からないのだから、賢者に直接会って真剣に尋ねなければならない!)


 勇者は本拠地進入の為のチェックポイントを通過して、入口の解除条件を満たしたうえで、本拠地の入口へと向かう。


(どうした勇者よ)


 本拠地に戻るとすぐに、予定より早い勇者の帰還に、賢者が声を掛ける。



「少し、賢者様にお尋ねしたい事がありまして、戻りました」


 仄かに光るクリスタルの賢者に尋ねる。


(なんだ? 魔王に対する勝率を知りたいのか?)

(それとも、魔王に勝利するまであと何回、どれ程の経験を積まねばならぬことか?)

(心配するな勇者よ、我らの計画通りに動けば、最終的には99%の可能性で魔王に勝利出来る)

(そうだ、全ては我らの計画通り…必ずや魔王に勝利できる…)

 
 次々とクリスタルが輝き始め、賢者たちの声が響き始める。


「いえ、私が聞きたいのは、魔王に勝利出来る事ではなく、もっと先、魔王を倒した未来の話です」

(未来の話?)

(なんだ、勇者は気が早いな)

(現状の戦闘能力で、もう魔王に勝てる見込みがついたのか?)

 
 賢者たちは勇者の発言を余裕と受け取る。


「いいえ…私が言いたいのはそう言う事ではありません…この星の未来についてです」

(この星の未来?)

「はい、この星の未来… 例え魔王を倒したと言えど、この星には未だ死の瘴気が蔓延し、生物は動物はおろか草花や目に見えぬ小さなものに至るまで… 何一つありません」

(………)

 賢者たちは勇者の話を沈黙して無言で聞く。

 その賢者たちに勇者は訴えかける様に尋ねる。


「賢者様たちは、この星に蔓延する死の瘴気を浄化し、命を生み出して、この星を再び命溢れる星に戻す事が出来るのでしょうか! 私はその答えが知りたいのです!」


 勇者の熱を帯びた声が部屋の中に響き渡った。


(勇者よ…)


 反響する勇者の声が消えた後、少し間をおいてから、賢者の一人が話し出す。


(この星の未来が聞きたいのだな?)

(この星を包む死の瘴気の事…)

(死に絶えた生命の事…)

(この星の復活の事…)


 他の賢者が次々と声を上げていく。


(その答えは…)


 ………

 ……

 …


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 魔王は地下の箱庭…その中央にある神殿の玄関前の階段に腰を降ろし、自身が作り出した街並みとこの地下への入り口を呆然と眺めていた。

 勇者は、今度は私に考える時間が欲しいと言って、魔王の前を立ち去った。

 今までも何度も勇者と対峙し、その都度勇者は別れの言葉も告げずに撤退するが、再び魔王の前に現れた。 
 
 だが、今回は待って欲しいとつげて魔王の前を立ち去った。勇者の約束だ。だから、魔王は安心していつまでも心穏やかに待てる。

 この地下や地表にいると循環する時の輪に閉じ込められて、永遠の同じ時間が続くように感じられた。

 だが、空の成層圏まで飛行すると、夜の星は瞬き、流星が流れ、日が昇りそして沈んでいく… 確かに時の流れを感じられた。

 世界は静かに変化している…だから長きに渡る年月の間、変化を待ちわびる事ができたのだ。

 そして、一万二千年後にようやく変化が訪れた。それは自分以外の他者であり、意思疎通が出来る存在であった。

 そして、その存在は、仲間の魔族でなく人族の勇者であっても、魔王にとって待望であり、念願であり希望であった。

 最初は攻撃という手段での意思疎通であったが、勇者は言葉を発し、やがて私の言葉に耳を傾け、その言葉に返答する意思を示した。

 魔王が希求していた夢が正に叶おうとしている瞬間である。

 それと同時に魔王はある予感を感じていた。

 それは永遠と思われた自分の時間が終わる予感である。

 勇者がこの場に戻ってきて、魔王の質問である『この星を再び命溢れる場所にする事が出来るか』…その返答がYESであれば、魔王は潔く勇者の剣に胸を貫かれ、この孤独の日々に終止符を打つことが出来る。後の心配は何一つない。

 だが返答がNOだった場合は…そうだな…私の今までの研究成果を全て差し出して、戦う意思がない事を示せば良いだろう…向こうも和平後の復興のための知恵や技術が必要なはずだ。一人では無しえなかった事も二人ならきっと成しえるはずだ。

 そして、死の瘴気を取り除き、新たな生命を生み出せたその時は…私は静かに姿を消して、そして永遠の眠りにつこう… 平和な時代に私の様な強大な破壊の力しか持たない存在は不要なはずだ…

 それがどれだけ長い時間が掛かっても、終わりの見えないゴールを目指す事と比べれば、取るに足りない時間だ…

 いずれにしろ、私には安息の時が来る。長い孤独からも…辛い苦しみからも解放され… そして、許されるのだ…

 魔王がそんな未来の事に思いを巡らせていると勇者の気配を感知する。どうやら戻ってきたようだ。

 魔王は腰を降ろしていた階段から立ち上がり、正面を見据えて勇者を待つ。

 すると、中央通りの向こう側から、勇者がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


 さて、勇者はどの様な答えを持ち帰って来たのであろう… YESだろうかNOだろうか…
 そのどちらにしろ勇者は私の言葉に耳を傾け、歩み寄る姿勢を見せてくれた。
 だから、どちらに転んでも悪い結果にはならないだろう…
 もうすぐ…もうすぐだ…私がこれから求めてきた始まりであり終わりが始まる…

 
 勇者の姿が私の作った石像の人混みを抜けて、こちらに近づいてきている。


 さぁ!勇者よ! どのような答えをもたらしてくれるのだ!!


 勇者の姿が徐々に近づき、その姿がよく見えるようになってくる…


 どうしたのだ…勇者よ…その様に酷く落ち込んだ顔をして…もしかして答えはNOだったのか?
 しかし、その様な事でそこまで落ち込まなくて良いものを…


 勇者は魔王と少し離れた所で立ち止まる。だが、魔王は声を掛けなかった。その表情から結果など分かっていたからである。だから、勇者から話し出すのを待っていた。


「なっ!?」


 だが、魔王は予想外の光景に声を上げて目を見開く。


 シュリィン…


 勇者が静かに剣を抜き放ったのだった…

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