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第02話 一万二千年
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魔王はゆっくりと成層圏近くの上空を飛ぶ。そして、地表に何か動くものがいないか目を凝らしてみるが、何も動くものはいない…
この幾度となく繰り返される状況に慣れ切っているものの、やはり魔王は少し落胆する。
成層圏から見下ろす地表は、荒涼とした砂漠の黄色と、所々にある岩石の灰色…河川も捌くから舞い上がる黄砂により、黄色く濁っている。
この状況は魔王が見下ろす所だけではなく、この星全体がこの様な木々や雑草一本も生えない、全く生物の姿の無い星となって、既に一万二千年の月日が流れていた。
一万二千年前のあの日、突然、人族側の攻撃を受け、魔王以外の者…家畜や野生動物、草木や昆虫、最近に至るまで、魔族領の全ての生命が死滅した。
人族により一方的に同族だけではなく、その領地、国土、生存圏まで死滅させられた魔王は、我を忘れる程激怒し、すぐさま報復を果たす為、人族の済む場所へと向かった。
そこで魔王がどれだけの時間、何をどうしたかは覚えてはいない。しかし、復讐と言う行為に身を任せていた事は確かだ。魔王が我を取り戻した時には、人族の領地、国土、生存圏全てを魔族領と同じ全ての生物が死滅した場所と化していた。
我を取り戻した魔王は、骨一つ残さない人族に復讐を果たした事に、達成感に似た喜びを感じていた。だが、そんな喜びは一週間も持たなかった。
元自国だった魔族領に戻った魔王であったが、己が魔法によって仲間の魔族たちを復活させようと試みるが、人族そして自分自身が放った凶悪な魔法により発生した死の瘴気に、誰一人として蘇らせることは叶わなかった。
自身の強大な魔力ならば、仲間を蘇らせることなど造作もないと見込み違いをしていた魔王は、その思いがけない結果に、次第に焦りを覚え始め、爆心地となった魔族領から離れて、別の場所で仲間の復活を試みる。だが、人族と魔王がもたらした破滅の攻撃により発生した死の瘴気は、既にこの星全体を覆いつくしており、北極や南極、海底や上空に至るまで、微生物の様な小さな命を持つ者までも存在することを許さなかった。
そして、その時になって魔王は自分の仕出かした行為の罪の重さを知ることになった。
だが、魔王は諦めきれなかった。その日から、毎日毎日、命の創造を試みて、また何処かに生存者がいないか、星の上を駆け巡った。
時間が立てば死の瘴気が薄まるやもしれない、何処かに避難した生存者が地表に出て来るかも知れない。そんな希望を抱きながら、命の創造と生存者の探索を繰り返した。
毎日、毎日、休むことなく、眠る事無く…
一年が経ち、十年が経ち、百年が経った… だが、一向に死の瘴気が薄まる事はなく、何一つとして生命を存在を見付ける事は出来なかった。
そして、千年が過ぎた頃、その膨大な何も変わらない年月という積み重ねに、魔王は気がおかしくなりそうだった。いっその事、自殺でもすれば楽になれるかもと考えて、時には実行に移した事もあった。
だが、自身はあの人族の攻撃の爆心地にいて、傷一つ付かなかった強固な存在であり、また強大な魔力から来る回復力によって、傷を負ってもすぐに回復してしまう。魔力を使っても無意識に回復していくので、魔力を枯渇させても自殺は能わない事を知る。
魔王は考えた。これは罪に対する罰なのであろうか…
何人、どのような立場、存在であっても、何かを死滅させるような事は、許されざる大罪であり、自身はその大罪を犯した大罪人であると… だから、自分はその罰としてこの生き地獄を味わっているのだと…
自分は魔族の頂点の存在であり、魔族を導く物であった。人族との争いで、この様な互いに死滅どころか、この星までも生命の存在を許さない状況を避ける事は、自分にしか出来なかったはずだ。
だから、統治者として、この大罪の罰を一身に受けているのであろう…
人族との死滅の道を避ける方法はあったのであろうか? いや、無くても作らなければならないのが自身の立場であった。民を統べる王たる存在が、理知や理性で判断せず、感情に身を任せ、この様な結果をもたらしてしまった。
民やこの星の上に息づく全ての者の事を考えれば、もっと他の道を摸索できたはずである。
だが、自分は出来なかった…
魔王はそんな悔恨の念を抱きながらも日々や年月を積み重ねた。その間も生命の創造や生存者の探索を続けた。だが、その行為も希望や願いから来る行為でなく、次第に無意識の習慣の様になってくる。
そして、ふいにその当初の希望や願いで始めた事を思い出し、再び祈るような気持ちで、再び命の創造と生存者の探索を続けた。
また、生存者の探索をする途中で、魔王は色々な事を考え、妄想するようになった。
もし、再び生命を作り出す事が出来れば、何をおいても守り切る。
もし、生存者を見付けて、それが人族であっても、争うような事は二度とせず、手を取り合って共存の道を探ろう。そして、再びこの星が命溢れる場所になる事を目指そう…
ずっと、ずっと魔王はそんな夢を持ちながら日々を過ごした。
そして、いつしか一万二千年という膨大な年月が流れた。
魔王には新たな日課が出来ていた。それは、昼間でも黄砂の砂嵐で青空を見る事の出来ない地表から、成層圏まで飛行して、あの懐かしかった青空や、星の瞬く夜空を見る事である。
地表にいると、切り取られた時間の中に閉じ込められたように、何も変わらない光景である。だが、こうして成層圏付近まで飛行することは、日が昇る瞬間や日の沈む瞬間…太陽が確かに動いている光景を望むことが出来る。
また、星の瞬く夜空は、同じように見えるが、月の満ち欠けや、流れ星、この一万二千年の間に北極星は移動している。
それらの事が、自分は切り取られた時間の中を永劫回帰しているのではなく、確かに流れる時間の中にいることを感じさせる。
時が流れているのなら… いつか…いつの日か…変化や終わりが訪れるはずだ…
そして、魔王は星に祈る。
この星に再び命が溢れる事を…
魔王はそんな祈りを星に捧げながら、地表へと降りていく。
そして、いつもとかわらぬ魔王の城のあった場所へと降り立つ。辺りをゆっくりと見回してみるが、誰かの人影が見えたり、草花が芽吹いている所などは無い。
魔王は再び黄砂で黄色くなった天を仰ぐ。これもまた魔王の習慣だ。
いつもとかわらぬ、黄色く染まり切った空…なにも変わることなど…
「!?」
いや、いつもとは違った!
天を見上げる視界の端に何かが映った!!
魔王は視界を何かに定める。見間違いではない!! 何かがいる!!
それもこちらに向かってきている!!!
それは…人の姿だった!!
この幾度となく繰り返される状況に慣れ切っているものの、やはり魔王は少し落胆する。
成層圏から見下ろす地表は、荒涼とした砂漠の黄色と、所々にある岩石の灰色…河川も捌くから舞い上がる黄砂により、黄色く濁っている。
この状況は魔王が見下ろす所だけではなく、この星全体がこの様な木々や雑草一本も生えない、全く生物の姿の無い星となって、既に一万二千年の月日が流れていた。
一万二千年前のあの日、突然、人族側の攻撃を受け、魔王以外の者…家畜や野生動物、草木や昆虫、最近に至るまで、魔族領の全ての生命が死滅した。
人族により一方的に同族だけではなく、その領地、国土、生存圏まで死滅させられた魔王は、我を忘れる程激怒し、すぐさま報復を果たす為、人族の済む場所へと向かった。
そこで魔王がどれだけの時間、何をどうしたかは覚えてはいない。しかし、復讐と言う行為に身を任せていた事は確かだ。魔王が我を取り戻した時には、人族の領地、国土、生存圏全てを魔族領と同じ全ての生物が死滅した場所と化していた。
我を取り戻した魔王は、骨一つ残さない人族に復讐を果たした事に、達成感に似た喜びを感じていた。だが、そんな喜びは一週間も持たなかった。
元自国だった魔族領に戻った魔王であったが、己が魔法によって仲間の魔族たちを復活させようと試みるが、人族そして自分自身が放った凶悪な魔法により発生した死の瘴気に、誰一人として蘇らせることは叶わなかった。
自身の強大な魔力ならば、仲間を蘇らせることなど造作もないと見込み違いをしていた魔王は、その思いがけない結果に、次第に焦りを覚え始め、爆心地となった魔族領から離れて、別の場所で仲間の復活を試みる。だが、人族と魔王がもたらした破滅の攻撃により発生した死の瘴気は、既にこの星全体を覆いつくしており、北極や南極、海底や上空に至るまで、微生物の様な小さな命を持つ者までも存在することを許さなかった。
そして、その時になって魔王は自分の仕出かした行為の罪の重さを知ることになった。
だが、魔王は諦めきれなかった。その日から、毎日毎日、命の創造を試みて、また何処かに生存者がいないか、星の上を駆け巡った。
時間が立てば死の瘴気が薄まるやもしれない、何処かに避難した生存者が地表に出て来るかも知れない。そんな希望を抱きながら、命の創造と生存者の探索を繰り返した。
毎日、毎日、休むことなく、眠る事無く…
一年が経ち、十年が経ち、百年が経った… だが、一向に死の瘴気が薄まる事はなく、何一つとして生命を存在を見付ける事は出来なかった。
そして、千年が過ぎた頃、その膨大な何も変わらない年月という積み重ねに、魔王は気がおかしくなりそうだった。いっその事、自殺でもすれば楽になれるかもと考えて、時には実行に移した事もあった。
だが、自身はあの人族の攻撃の爆心地にいて、傷一つ付かなかった強固な存在であり、また強大な魔力から来る回復力によって、傷を負ってもすぐに回復してしまう。魔力を使っても無意識に回復していくので、魔力を枯渇させても自殺は能わない事を知る。
魔王は考えた。これは罪に対する罰なのであろうか…
何人、どのような立場、存在であっても、何かを死滅させるような事は、許されざる大罪であり、自身はその大罪を犯した大罪人であると… だから、自分はその罰としてこの生き地獄を味わっているのだと…
自分は魔族の頂点の存在であり、魔族を導く物であった。人族との争いで、この様な互いに死滅どころか、この星までも生命の存在を許さない状況を避ける事は、自分にしか出来なかったはずだ。
だから、統治者として、この大罪の罰を一身に受けているのであろう…
人族との死滅の道を避ける方法はあったのであろうか? いや、無くても作らなければならないのが自身の立場であった。民を統べる王たる存在が、理知や理性で判断せず、感情に身を任せ、この様な結果をもたらしてしまった。
民やこの星の上に息づく全ての者の事を考えれば、もっと他の道を摸索できたはずである。
だが、自分は出来なかった…
魔王はそんな悔恨の念を抱きながらも日々や年月を積み重ねた。その間も生命の創造や生存者の探索を続けた。だが、その行為も希望や願いから来る行為でなく、次第に無意識の習慣の様になってくる。
そして、ふいにその当初の希望や願いで始めた事を思い出し、再び祈るような気持ちで、再び命の創造と生存者の探索を続けた。
また、生存者の探索をする途中で、魔王は色々な事を考え、妄想するようになった。
もし、再び生命を作り出す事が出来れば、何をおいても守り切る。
もし、生存者を見付けて、それが人族であっても、争うような事は二度とせず、手を取り合って共存の道を探ろう。そして、再びこの星が命溢れる場所になる事を目指そう…
ずっと、ずっと魔王はそんな夢を持ちながら日々を過ごした。
そして、いつしか一万二千年という膨大な年月が流れた。
魔王には新たな日課が出来ていた。それは、昼間でも黄砂の砂嵐で青空を見る事の出来ない地表から、成層圏まで飛行して、あの懐かしかった青空や、星の瞬く夜空を見る事である。
地表にいると、切り取られた時間の中に閉じ込められたように、何も変わらない光景である。だが、こうして成層圏付近まで飛行することは、日が昇る瞬間や日の沈む瞬間…太陽が確かに動いている光景を望むことが出来る。
また、星の瞬く夜空は、同じように見えるが、月の満ち欠けや、流れ星、この一万二千年の間に北極星は移動している。
それらの事が、自分は切り取られた時間の中を永劫回帰しているのではなく、確かに流れる時間の中にいることを感じさせる。
時が流れているのなら… いつか…いつの日か…変化や終わりが訪れるはずだ…
そして、魔王は星に祈る。
この星に再び命が溢れる事を…
魔王はそんな祈りを星に捧げながら、地表へと降りていく。
そして、いつもとかわらぬ魔王の城のあった場所へと降り立つ。辺りをゆっくりと見回してみるが、誰かの人影が見えたり、草花が芽吹いている所などは無い。
魔王は再び黄砂で黄色くなった天を仰ぐ。これもまた魔王の習慣だ。
いつもとかわらぬ、黄色く染まり切った空…なにも変わることなど…
「!?」
いや、いつもとは違った!
天を見上げる視界の端に何かが映った!!
魔王は視界を何かに定める。見間違いではない!! 何かがいる!!
それもこちらに向かってきている!!!
それは…人の姿だった!!
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