ニートシルキー ~僕とステラの不思議な生活~

にわとりぶらま

文字の大きさ
上 下
36 / 38

第036話 最後の場所

しおりを挟む


 父の連絡があってから丸一日が過ぎた。その間、僕たち三人は家探しをして、この家と土地の権利書を探しまわった。僕自身も祖父の書斎にあった、写真や書籍、アルバムを丁寧に調べて書類が挟まっていないか探しまわしたが、一向に書類らしきものもは出てこなかった。

 幸ちゃんの方でも祖母の部屋を調べてもらい、また、掃除を兼ねて、物置きやキッチン周りを調べてもらったが、僕が結果を尋ねても首を横に振るだけであった。

 そんな中、ステラが鼻息を荒くして『大切な書類を見付けたっ!』と言ってきて、期待して受け取ったものの、それは今まで祖父が購入した家電製品などの取り扱い説明者や保証書などで、家や土地の権利書などは見当たらなかった。

「簡単に見つかるものと思っていたが、なかなか見つからぬものだな…」

 ダイニングテーブルのところで、頭を抱える僕に、幸ちゃんがお茶を差し出しながら声を掛けてくる。

「そうだね… なかなか見つからないね…」

 僕は肩を落としながら答える。

「もしかして、盗まれたという事もありえるのか?」

 幸ちゃんがそんな事を言ってくる。

「…確かに、半年前に祖父が入院してから、表向きにはこの家は空き家になっていたからね… その可能性もあるかも…」

 僕は頭を上げ、リビングのソファーで、この状況に気を使って音を消しながらゲーム機を弄っているステラを見る。

「ねぇ、ステラ」

「ん? なに? 八雲」

 ステラは少し不安そうな顔でこちらに振り返る。

「祖父が入院してから、この家に侵入しようとした人っている? 泥棒をしようとした人とか…」

 ステラがずっとこの家にいるはずなら、見ているはずだ。しかし、ステラは首を横に振る。

「ううん、いないよ… 時々、郵便の人が来るぐらいで誰も来なかった。たまに隣のわかもっさんが家の前を通る時に、見上げていたぐらい」

「そうか… 空き家状態だけど、田舎だから平和だったんだな…」

 僕は一先ず安心して視線を幸ちゃんが煎れてくれたお茶に戻す。

「とりあえず、盗まれた心配はしなくても良い方だな… しかし、ここまで出てこないとなると、八雲殿の実家にあるのではないか?」

 幸ちゃんが僕の向かいに腰を降ろす。

「いや、その可能性はないね、それなら父さんは意地悪なんかせずに書類を送ってきてくれるはずだよ」

「そうか…ならばもはや手詰まりだな… 役所や弁護士、司法書士の所へ行って相談でもしてみるか?」

 幸ちゃんは綺麗な所作でお茶を口にする。

「うーん、最後に一つだけ…ありそうな場所が残っているんだけど…」

「それは本当なのか?」

「あぁ… 一度、幸ちゃんにも見てもらった方が良いかな? 古い物には詳しそうだし」

 僕は縋る様な目でチラリと幸ちゃんを見る。

「別に構わないが…場所はどこなのだ?」

「僕が自室として使っている祖父の部屋だよ」

「八雲殿の部屋?」

「そう…じゃあ、ちょっとついてきてもらえるかい?」

 幸ちゃんはコクリと頷くので、僕は椅子から立ち上がり、幸ちゃんと二人で二階の僕の部屋へと向かう。

「ここが八雲殿が自室として使っているジョージの部屋か…」

 僕の部屋に入ってきた、幸ちゃんは部屋の中を見渡しながら声を上げる。

「うん、まだ日が経ってないから、祖父が使っていた状態をあまり動かしてないんだ。僕の荷物として置いているのは、このPCと着替えくらいだね」

 そう言って書斎机の上に設置しているPCケースに手を乗せる。

「それで私に見てもらいたいものとは?」

「この書斎机だよ、この机の引き出しに鍵がかかっていて開く事が出来ないんだ… 書類の在処はこうここしか残っていないと思うんだ」

「なるほど…かなり年期を積み重ねた書斎机だな… しかも、日本のものではなく、海外…恐らくジョージの故郷のイギリス製のものではないか?」

 幸ちゃんは書斎机に手を触れながらマジマジと見る。

「そこの鍵穴のある引き出しが空かないんだけど… 幸ちゃん、開ける事は出来る?」

「私か? 私はただの座敷童なので、鍵を開けるような能力は持っておらぬ」

 幸ちゃんは僕に向き直って答える。

「そうか…幸ちゃんでも開ける事は出来ないのか…」

「八雲殿がそう仰るという事は、鍵も見当たらなかったのだな? だが、私の力に頼らなくても他にやり方はあると思うぞ」

「本当!?」

 幸ちゃんの言葉に期待に胸を膨らませる。

「鍵開けを生業としているものがいるのであろう? その者頼めばよいではないか」

「あぁ! そうだった! 書類を探す事に集中してたからその事を失念していたよっ!」

 僕は早速、PCを動かして、鍵開けを検索する。

「よし! ちょっと遠いけど府内にあるね…」

 僕はスマホを取り出して、そこの業者に電話する。

「はい!鍵トラブル110番ガキショップです!」

 電話はすぐに繋がり返答が来る。

「すみません、鍵開けをお願いしたいのですが…」

「はい! 家、金庫、車、バイク、なんでも鍵開けしますよ! 何の鍵開けでしょうか?」

 元気な声で返事がくる。

「その…家具なんですが、机の引き出しの鍵が開かなくて…」

「メーカーは分かりますか?」

「メーカー? いや、古い事務机で…メーカーなどは分からないのですが…」

「お客様、もしかしてアンティーク品の鍵開けですか?」

 担当者の声のトーンが下がる。

「そうですね、アンティークの部類に入ると思います、しかも海外製です」

「すみません…うちにはアンティーク品の担当の者がおらず、アンティーク品の鍵開けは行ってないんですよ」

「そうなんですか…では申し訳ないですが他を当たりますね…」

 僕は電話を切り、別の業者を探して連絡した。

 しかし、どの業者も断られるばかりであった。どうやら鍵開けの対象がアンティーク品という事で、技術者がいなかったり、また高価な物だと保証できなかったり、トラブルになるので引き受けられないという理由があるそうだ。

 その事を教えてくれた業者は付け加えて次の様な事も教えてくれた。

『書斎机の引き出しという事でしたら、我々には出来ませんが、お客さん自ら、バールでこじ開けるとか、引き出しの底板を突き破るという方法なら開ける事が出来ると思います』

 との事であった。どうせ壊して開けるならその方がお金をかけずに開ける事が出来るという話だ。

 僕は電話が切れた後、スマホを握り締めたまま呆然と立ち尽くした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...