上 下
33 / 38

第033話 幸ちゃんの夕食

しおりを挟む


 僕は駆け足でリビングに向かうステラの後に続いて、階段へと向かう。すると、階段を一歩降りるごとに夕食の良い香りが漂ってくる。

「八雲殿、降りて来られたか」

 幸ちゃんが僕の姿を見つけて声を掛けてくる。視線を向けてみると、いつも使っているリビング側のテーブルではなく、ちゃんとキッチン側のダイニングテーブルの所に色々な料理が並べてある。

 しかも、僕がいつも作っている様な、冷凍総菜を電子レンジでチンしただけの料理ではなく、すべて幸ちゃんの手料理だ。

「うわ、凄い…家庭的な料理だ…」

 僕は思わず言葉を漏らす。

「ふふふ、何か祝いの晴れの料理ではなく、普段の家庭料理でそこまで驚かれるとはな…」

「八雲! 八雲! 早く食べよ! すわって! すわって!」

 ステラが早く食べたいのか、僕に早く座るように催促してくる。

「あぁ、そうだね…」

 僕は椅子に腰を降ろして、テーブルの上に料理を再び見る。小鉢のほうれん草のおひたしに、ナスの煮びたし、湯気と香りが立ち昇る揚げとお豆腐のお味噌汁、そしてテーブルの中央には今までステラが獲った豆アジが唐揚げにされている。

「では、今ごはんをついでまわすぞ」

 そう言って幸ちゃんが今日買ってきた炊飯器を開けご飯をついで渡してくる。

「うわ! ご飯がつやつやで立ってる!」

 今まで食べていたご飯と異なり、まるで米粒一つ一つが宝石の様なご飯を手渡される。

「どうだ? 炊飯器が違うと炊きあがりのご飯がちがうであろう? 四条家でも理想のご飯が炊けるまで、なんども炊飯器を買い直しておったからな…」

 あんな金額の炊飯器を買い直すなんて… でも、このご飯の輝きを見れば分かるような気がするな…

「これで全員にいきわたったな、それでは頂こうか八雲殿」

 全員にご飯を渡し終わった幸ちゃんは、僕を見て食事の合図をいうのを促す。

「うん、それじゃあいただきますっ!」

「「いただきますっ!!」」

 みんなの声が揃って響き、夕食を始める。

 僕は先ず、お味噌汁を手に取り口に運ぶ。

「うまい! 今までのインスタントとは全然違うっ!!」

「うふふ、そうだろう、ちゃんと昆布と鰹節でとった出汁を使ったからな、残念なのはいつも四条家で使っていた味噌を使う事が出来なかったが、まぁ、スーパーで買った味噌なら及第点だろう」

「こんなに美味しいのに及第点? 幸ちゃんのいた四条家ではいったいどこのお味噌を使っていたの?」

 普段味に無頓着な僕ですら美味しいと感じる、この深い奥行きのある味わいのお味噌汁を及第点というなんて、一体どんなお味噌を使っているのだろう… ここらのスーパーで売ってないのなら、ちょっと贅沢してでもネット買いたくなる。

「昔から贔屓にしている味噌屋から直接、樽で買っておったから、いきなりここでも買わせてくれというのは難しいだろうな…」

「樽…単位なのか…」

 いくら美味しくても樽単位で買うのは難しいな…

「さっちゃん! 魚、めちゃくちゃ美味しいよっ!」

 ステラが豆アジの唐揚げを食べて瞳を輝かせて声を上げる。

「そうであろう、この様な豆アジは焼くのではなく、唐揚げにすれば、骨までサクサクと食べられるであろう?」

「うん! 苦くも無いし、骨がガリガリもしない! ホクホクで美味しい!」

 ステラは豆アジの唐揚げが気に入ったのか、何匹もパク付いて行く。

「じゃあ、僕も豆アジの唐揚げを… ん! うまい!」

 先程、幸ちゃんが言った通り、骨を気にすることなく食べる事ができて、尚且つ美味しい!! 今までの豆アジの塩焼きは何だったのかと思うぐらいに美味しかった。

 これはご飯も一食に食べたくなる味だ。僕はご飯をパクリと食べる。

「!! 何これ! 本当に美味しい!! 見た目だけじゃなくて、本当にご飯が美味しい!!」

「だろう? 炊飯器と言えどもここまで味が変わるのだ」

「…確かに…15万もするのが分かる…」

「あと、豆アジだが、今回はそれ程数が無かったので、唐揚げにしたが、数が多ければマリネなどにすれば、日持ちがするからな、いつでも食べられるぞ」

 幸ちゃんは喜んで唐揚げを食べるステラにそう告げる。

「ホントっ!? じゃあ、明日から本気を出してお魚とるねっ!」

 僕が食事を提供するようになってから、段々魚の獲れ高が減っていると思っていたら、ステラ自身もあの豆アジの塩焼きに辟易してて獲る量を減らしていたのか…

「このおナスの煮びたしも美味しい… ナスがこんなに美味しいだなんて…幸ちゃん最高だよっ!!」

「ここまで褒められると少し照れるな…」

 そう言って幸ちゃんは頬を染めながら少しはにかむ。

 そう言う事で、僕は幸ちゃんが作ってくれた美味しい料理を前に、普段はしないご飯のお代わりまでして夕食を平らげる。ステラも二回もお代わりしていたぐらいだ。

「御馳走様でした」

「はい、お粗末様です」

「いや~ 最初は幸ちゃんの言葉をあまり真剣に考えてなかったけど、幸ちゃんの料理を食べた今では、今まで僕たちが食べていたものが、どれ程ジャンクフードだったかを思い知らされたよ…」

「そうだな…昔と違って今の日本は食べ物に困る事はないが、逆に食べ過ぎたり、好きなものを食べ過ぎて、栄養のバランスが悪くて病気になる事も多いと聞く… 今後は栄養のバランスを考えた料理を作るので安心するがよい」

 幸ちゃんが食後のお茶を差し出しながら微笑む。

「ありがとう、幸ちゃん、でも美味しいから食べ過ぎて太りそうだね…」

 そう言って、満腹になったお腹を擦る。

「うふふ、そこは八雲殿が運動すればよいだろう、いくら健康に良い物を食べていても、部屋から出なければ不健康な事には変わりないぞ」

 うーん…ジャンクフードな食事に、部屋に籠りっぱなしの仕事… 今までの生活ってかなり危なかったんだな…

「ところで…」

 幸ちゃんがそこまで言って、リビングの所でゲームをしているステラをチラリと見る。

「ステラの正体は掴めそうなのか?」

「いや、まだ調べ始めたばかりだし、前にもステラに話を聞いた時はあまり自分の事は分からなそうな事を言ってたからね… ぼちぼちと調べていくつもりだよ」

「そうか…まぁ、ステラも悪い存在ではないので急ぐ必要も無いだろう…」

 そうして、幸ちゃんの作った夕食を終えたのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

ま性戦隊シマパンダー

九情承太郎
キャラ文芸
 魔性のオーパーツ「中二病プリンター」により、ノベルワナビー(小説家志望)の作品から次々に現れるアホ…個性的な敵キャラたちが、現実世界(特に関東地方)に被害を与えていた。  警察や軍隊で相手にしきれないアホ…個性的な敵キャラに対処するために、多くの民間戦隊が立ち上がった!  そんな戦隊の一つ、極秘戦隊スクリーマーズの一員ブルースクリーマー・入谷恐子は、迂闊な行動が重なり、シマパンの力で戦う戦士「シマパンダー」と勘違いされて悪目立ちしてしまう(笑)  誤解が解ける日は、果たして来るのであろうか?  たぶん、ない! ま性(まぬけな性分)の戦士シマパンダーによるスーパー戦隊コメディの決定版。笑い死にを恐れぬならば、読むがいい!! 他の小説サイトでも公開しています。 表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

女ハッカーのコードネームは @takashi

一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか? その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。 守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕のペナントライフ

遊馬友仁
キャラ文芸
〜僕はいかにして心配することを止めてタイガースを愛するようになったか?〜 「なんでやねん!? タイガース……」 頭を抱え続けて15年余り。熱病にとりつかれたファンの人生はかくも辛い。 すべてのスケジュールは試合日程と結果次第。 頭のなかでは、常に自分の精神状態とチームの状態が、こんがらがっている。 ライフプランなんて、とてもじゃないが、立てられたもんじゃない。 このチームを応援し続けるのは、至高の「推し活」か? それとも、究極の「愚行」なのか? 2023年のペナント・レースを通じて、僕には、その答えが見えてきた――――――。

処理中です...