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第031話 幸ちゃんの例え話

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 スーパーマーケットの中でも先程のホームセンターの様に、僕がカートを押す係で、幸ちゃんがそのカートに欲しい物を投げ込んでいく係である。

 しかも、最初の家電量販店とは異なり、値段を気にせず必要だと思われるものをポイポイと投げ込んでいく。特価品狙いの僕にはとても真似できない行為である。

「八雲殿、鰹節が欲しいのだが… どこにあるのだ?」

「ん? 鰹節ならそこにあるよ」

 そう言ってパックになった鰹節を指差す。

「んー 削る前の鰹節が欲しかったのだが… 最近では自分の家では削らんのだな… 仕方が無い、この削ったものを買って帰るか… あと、昆布といりこも買っておかんとな」

 もしかして、お好み焼きや焼きそばの上からまぶす為の鰹節ではなく、出汁を取る為の鰹節を探していたのか… 昆布といりこも出汁に使うつもりなのか? なんだか家庭料理ではなく料亭みたいに本格的になってきたな…

 その後、スーパーマーケットでの買い物が終わり、車に荷物を詰め込み終わったところで、幸ちゃんが僕にアイスを差し出す。

「ご苦労様だ、八雲殿、アイスでも食べて一休みしようか」

「あ、ありがとう、幸ちゃん」

 ここまで来ると母の買い物の手伝いをした子供状態である。でも、10キロもある米袋や結構な量の荷物を運んで汗を掻いたのでアイスは正直嬉しい。

 僕たちは駐車場近くにあるベンチに腰かけ二人アイスと食べ始める。

「八雲殿をこき使ってしまって済まなかったな」

 アイスを食べながら幸ちゃんが謝罪してくる。

「いやいや、僕たちの生活向上の為に色々買い込んでくれたのだから、幸ちゃんが誤る必要はないよ、逆にこちらからお礼を言いたいぐらいだよ」

「そう言って貰えると助かる」

 幸ちゃんはふふっと微笑む。

「…しかし…幸ちゃんは凄いね…」

 今日一日の幸ちゃんの姿を見て来た感想をぽろりと告げる。

「何がだ?」

 僕の言葉に少し首を傾げながら顔を覗き込んでくる。

「着物姿なのもあいまって、すれ違う人々がずっと幸ちゃんの姿を見てたんだけど… とても幸ちゃんが普通の人間のように思えて座敷童とは思えないな…って…」

「私は頭の上から足のつま先までどこをとっても座敷童であるが?」

 僕の言葉の意図が伝わらず、幸ちゃんはキョトンとした顔をする。

「いや、座敷童って人間ではない存在なのに、普通の人にもちゃんと見えている所が凄いなって思って… ステラなんか、僕以外の人には見えないし、スマホの写真にも映らないんだよ… あっ、幸ちゃんの事、一度スマホで見てもいい?」

「あぁ、構わんが…」

 そう答える幸ちゃんに対してスマホを取り出して見てみると、スマホの画面にはちゃんと幸ちゃんの姿が鮮明に映っている。

「あっ、祖母の写真でも分かっていた事だけど、ちゃんと幸ちゃんの姿ってスマホに映るんだね… でも、どうしてステラはスマホや他の人には見えないんだろう…」

 スマホの画面に映る幸ちゃんの姿を見ながらそう漏らす。

「まぁ、私とステラでは存在としての年期が全く違うからな、ステラも年期を経れば他の人にも見えたり、スマホにも映るようになるだろう」

「それでも、不思議なんだよね… 他の人には全くステラの姿が見えてないのに、何で僕だけが見えるんだろうね…」

 僕がそう言うと、幸ちゃんは何か考え込み始めて、急に今日買ったばかりのスマホを弄り出す。

「八雲殿…ちょっと待っておれ、今よい例え話をしてやるから… よし、これだな… これをこうして、こうやれば… うん、私にもちゃんと出来たようだな」

 幸ちゃんスマホをこちょこちょと弄った後、スマホで何か写真を撮るように辺りをキョロキョロと見始める。

「よし、あそこが良いな… 八雲殿、あの木の所に何が見える?」

 そう言って幸ちゃんは街路樹を指差す。僕はそう言われて目を凝らして街路樹を見てみるが、街路樹しか見えない。もしかしたら、街路樹に蝉やカブトムシでもいるのであろうか…

「いや…僕の目には街路樹しか見えないね…」

「まぁ、そうじゃろうな、では、これを見てみるがよい」

 幸ちゃんはそう言って自分のスマホを差し出してくる。そのスマホの画面には人気ゲームのポケットクリーチャーGOが起動していた。

「それでもう一度あの街路樹を見てみるがよい」

 僕は幸ちゃんに言われるまま街路樹にスマホを向ける。

「あっ!!」

「八雲殿にも見えるだろ? あの街路樹の所に白い龍のような生き物がいるのを」

「ホントだ…ハクリュー…ハクリューがいる…」

 これは幸ちゃんのスマホだが、ボールを投げて捕えた方が良いのだろうか…

「このように、一般人では何も見えぬが、そのゲームをしてるものにはちゃんと白い龍がいるのが見えるだろ? ステラも同様に八雲殿にはステラが見えるような何かがあるのだろう」

「えっ!? それって霊能力が僕にあるってこと? でも、生まれてこの方一度もそんなものは見たことがないよ?」

 僕はスマホを降ろして幸ちゃんに向き直る。幸ちゃんはもくもくとアイスを舐めている。

「まぁ、ステラの方も特殊な存在だからな…八雲殿が困惑するのも無理はない」

「えっ? ステラが特殊な存在? 地縛霊がそんなに特殊なの?」

「八雲殿、ステラを地縛霊だと思っておるのか? それは違うぞ」

 幸ちゃんはアイスを舐めるのをやめて、僕に向き直る。

「えっ? 違うの?」

「あぁ、違う、ステラは霊などではない、どちらかと言うと私に近い存在だ」

「ステラが幸ちゃんに近い存在って…じゃあ、物の怪や妖怪って事になるの…?」

 僕は困惑しながら幸ちゃんに尋ねる。

「あぁ、私も存在が生まれて最初の頃は、家の者、それもある程度霊能力を持った者か、波長の近い者しか姿を見てもらう事が出来なかったからな… ステラもその頃の私と近い状況にあるのだろう… おぉ、当たりか、引き換えはまた今度にするか…」

 幸ちゃんは食べ終わったアイスの棒を見て呟き、ハンカチを取り出してアイスの棒を包みしまい込む。

「…じゃあ…ステラは何の妖怪なの…?」

 棒を仕舞い終わった幸ちゃんに尋ねる。

「さぁ? 私も海外の妖怪までは分らん、ステラの事が知りたければ本人から直接聞くか、身の回りの物を調べて、特定するしかないだろうな。昔なら大きな図書館でも言って古い文献を調べないといけないが、今ならほれ、ネットというものがあるだろう、それで調べてはどうだ?」

 そう言って幸ちゃんがスマホを指差す。

「…分かった、家に戻ってからじっくり調べて見るよ…」

 そう言って、幸ちゃんから渡されたスマホを返したのであった。


 
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