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第021話 仕事とアニメ

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 電気・ガス・水道・ネットとインフラはすべて整ったし、家の中の片付けも大体終わった。ご迷惑を掛けていたお隣の若本さんへの挨拶と謝罪も済ませた。

 やるべきことは殆ど済ませて、新しい環境での生活を楽しんだり、棚上げにしていたステラの謎や祖父との事を解明していきたいところであるが、それよりも前にやらなければならない事が出来た。

 それは何かというと仕事だ。

 今朝、アメリカのスティーブから、プロジェクトのロードマップから具体的にタスクの担当者や、期日を決めていきたいと連絡が入ったのだ。

 まだ担当や期日を決めるだけで大したことないと思えるが、海上の航海の様な物で、進行角度が少しでもずれたら、到着点が100キロずれるという事がある。かと言って、カチカチに詰め込んで計画すると何かトラブルが発生した時に、対処できなくてプロジェクトが破綻してしまう。

 なので高度な柔軟性を維持しつつ臨機応援に対応できるような状態を残しつつ、綱渡りするような慎重さと繊細さで目標の方向性を決めなければならない。

 つまり、スティーブとの会議に集中しなければならないという事だ。

 では、集中すれば良いだろうと思われるであろうが、僕にはそうはいかない事情がある。


「ねぇねぇ! 八雲っ! 今日は何するのっ?」


 散歩を期待する子犬の様な目でステラが僕を見てくる。

 この数日、ステラは僕の手伝いを色々としてくれたが、半年間一人で生活して人恋しかったステラにとってはお手伝いというより、僕と何かのイベントをこなす感覚に近かったのであろう。つまり遊んでいる感覚だったわけだ。

 うーん、しかし、どうしたものか…

 ステラに何か家事をお願いするにしても、ステラの事だから何を仕出かすか分からないし、そんな状態では、僕も落ち着いて会議に参加していられないしで、どうしたものか…

 その時、ふと子供の頃を思い出す。

 父も母も仕事で忙しかった時には、事前にアニメのレンタルDVDを与えたり、サブスクチャンネルを契約してくれたりしたな…

 ステラにもこの方法がいけるかな?

「ステラがいっぱいお手伝いしてくれたから、今日はゆっくりしてもらおうと考えているんだ」

「どういう事?」

 ステラはキョトンと首を傾げる。

「今日はお休みってことだよ」

「じゃあ! 一緒にゲームするっ?」

 ステラが目を輝かせ、アホ毛がピンと伸びる。

「いや、僕はやらなくちゃいけない仕事があるからステラと一緒に遊べないんだ」

「えぇ~」

 ステラがアホ毛まで垂れてしょぼーんとする。…ステラのアホ毛…感情表現が出来るんだ…

「その代わりと言っちゃなんだけど、ゲーム機を貸してごらん」

「はい」

「ちょっと、どれどれ…」

 僕はステラのゲーム機を操作して、アニメが見れるサブスクに登録する。

「はい、これアニメが見れるようにしておいたから、今日は何か好きな物でも見ててよ」

「へぇ~ そうなんだ~ で、何が面白いの?」

 ステラは興味はあるものの、何を見たらよいのか分からず、僕を見る。

「えぇぇ~ そうだね… ステラには何がいいかなぁ~」

 男の僕が面白いと思う作品と、女の子のステラが面白いと思う作品は違うと思うから結構悩む。子供の頃の妹は、なにも文句を言わず、僕と同じものを見ていたから参考になら無いし…

「おい! 八雲! そろそろミーティングタイムだぞ!」

 会議の準備をして通話ソフトを起動していたPCから、スティーブの声が響く。

「あっ! スティーブ! ごめんごめん!」

「ねぇねぇ! 八雲! 何が面白いの?」

 スティーブに謝る僕に、ステラがアニメの事を尋ねてくる。

「ん? 八雲、女の子の声がするけど誰だ?」

 スティーブが会議の事より、ステラの声に興味を持ち始める。

「あっえっと…僕の妹だよ…」

「そうか…前に言っていた八雲のシスターか!」

「それで八雲! どのアニメが面白いの!?」

 僕はステラとスティーブの両方から話しかけられて混乱する。

「へい! ガール! ユーはアニメをみるのか?」

 するとスティーブがPCを通してステラに話しかける。

「ん? 誰?」

 ステラがPCを通してスティーブに話しかけられているのに気が付く。 

「ハハハ! 俺は八雲のフレンズでナイスガイのスティーブだ! よろしくな!ガール! それでユーの名前は?」

「わたし? 私はステラだよ!」

 ステラが楽し気にスティーブに答える。

「ステラ? オゥ! そいつはグッドな名前だ! で、ユーはどのアニメを見るのか悩んでいるのかい?」

「うん、そうなの! 一杯あってどれを見たらいいのか分かんないの」

「OK! なるほど! ジャパニーズアニメはクールでグッドな作品が多いからな! 悩むのは当然だ! バット! そんなユーにお勧めの作品がある!」

「えっ! なになに!?」

 なんだか、僕をそっちのけで二人だけで楽しそうにしているな…

「それは… エヴァ! エヴァンゲリオンだ!!」

「えぇ~ ステラにはちょっと難しくないか?」

 エヴァは僕もスティーブと一緒に見たことがあるので口を挟む。

「何を言う! 八雲! エヴァは近代アニメの金字塔をビルディングしたアニメだぞ! エヴァとガンダムとまどマギを見ないと近代アニメは始まらんっ!」

 アメリカでも良く聞かされたスティーブの格言だ。僕もアメリカでは、日本人なのに、ジャパニーズアニメを見ていないとは何事か!といって全部見せられた記憶がある。

「なるほど! エヴァだねっ! でも、一杯あるけどどれから見ればいいの?」

 ステラが動画サイトの画面を見ながらスティーブに尋ねる。

「新の方から見てもノープロブレムといえばノープロブレムなんだか、ここはやはり、旧作から見るべきだろう! そうすれば、最後の作品を見た時に全てが分かる!!」

「分かった! じゃあ旧作から見る!」

 ステラはPC越しのスティーブに力強く答える。

「えっと…じゃあ見るアニメも決まったし…会議を始めようか… ステラもアニメはリビングでみてくれるかな?」

 そうして、ステラはリビングに降りていき、僕はスティーブと会議を始める事になった。
 



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