上 下
7 / 38

第007話 夢なら覚めて

しおりを挟む
 あの後、僕は女の子を何も言わず無言でリビングのソファーの上に置いて、二階の祖父の部屋へと向かい、何も考えず眠りに着いた。

 これが夢であるなら、寝て目を覚ませば何もなかった事になるはずだし、もし…仮に…あの警察官のいう通りに、心霊現象などであれば、日が昇り、夜が明けて辺りが明るくなれば、その様な存在は消えてなくなるはずである。

 まぁ、僕は科学主義のオカルト否定派なので、アメリカからの強行軍の帰省で疲れて夢をみているだけだと思うが…

 そして、僕は目が覚める。

 微睡む事や、二度寝したいという気持ちは起こらず、昨日のことが無ければ、清々しい部類の目覚めになる。窓から差し込む朝日を見る限り、朝日が昇って一番見ごたえのある時間帯である。

 僕は枕元に置いていたスマホを手に取り、時間を確認する。時刻は6時15分ちょっと早めの起床時間だ。僕は更にスマホを弄り、通話履歴を確認する。

 うん、家族に連絡した後、110番に連絡した履歴が残っている…

 スマホという科学文明の利器が、昨日僕が警察に連絡している事を記録している。つまり、昨日僕が体験した事は夢ではなかったという証明だ。

 後は…一階に降りて、女の子を降ろしたソファーの所に誰もいなければ、昨日の事は信じられない事だが、心霊現象ということになる。

 そうなったら、さっさと祖父の遺品を車に詰め込んで、父にはこの家に幽霊…いや怪奇現象が起きると報告して後は関わらなくて良い、そう考えながら、祖父の部屋をでて一階に続く階段を降りていく。


「!!!!」


 しかし、階段の途中で一階のリビング部分を見てみると、僕の予想とは反して女の子がいた。正確には、ソファーで寝ていたのである。しかも、昨日僕が女の子を見つける途中で、物置きで発見した毛布と体にかけ、ソファーの近くのテーブルには、同じく昨日見つけた携帯ゲーム機が置かれてある。やはり、女の子の物だったようだ…

 僕は一階に降りたって、ソファーで寝ている女の子の所へ近づく。もう見つかったから隠れる必要が無いと思ってのか、女の子は僕が近づいても反応することなく堂々と眠って寝返りを打っており、お前に涎まで垂らしている。

 僕はその口元に手を運んで見ると、手に女の子の息が当たり呼吸をしていることが確認できる。次に広げて似ている手を取って見ると、ちゃんと触れるし、体温もある。

 そこまで確認すると、昨日のよるの警察官は女の子が色白すぎて見間違えたのではないと考えた。しかし、一応確認の為に、スマホを取り出しカメラ越しの女の子を確認してみると、驚きの光景が目に飛び込んでくる。


 女の子が写ってない!! ワイシャツだけだ!!


 スマホの画面と自分の目で交互に確認するが、やはり、昨日の警察官が言っていた通り、スマホ越しにはワイシャツしか映っていない。女の子は実在の人間の様に見えるが、実際には怪奇現象なのだ。

 そこで、僕はこれからどうするのか考え込む。やはり、ここは定番の霊能力者にお払いにきてもらうのか? だが、ここまで実在化して会話もできる状態であるのならば、僕は今までオカルト否定派であったけれど、話をして見てその理解を深めるのも悪くはないと考える。


 きゅうぅぅ


 そんな事を考えていると、お腹の虫が鳴き始める。そう言えば、昨日、飲み物も飲めなかったから、喉の渇きも感じている。

 僕は視線を昨日買ってきたテーブルの上のコンビニ袋に向けるが、昨日の夜に女の子に食い荒らされて、パン一つ飲み物一滴も残ってない。僕はその事に、はぁと溜息をつく。

 もう既にない物を悔やんでも仕方が無い… コンビニ買出しに行くか…

 そう思うと、一度部屋に戻ってから服装を整えて再び一階に降りて来る。うん、やはり女の子はソファーの上で寝ていて実在している様だ。

 女の子が寝ている姿を眺めながら玄関に向かい靴を履き替えて、自動車へと向かう。ナビに近くのコンビニを検索して車を走らせる。やはり、ここらあたりは田舎の様で、コンビニに行くにも徒歩で行ける距離ではなく車を使わないとダメな距離だ。

 五分程車を走らせると目的のコンビニ到着して店の中に入る。店の店員も都会の学生バイトではなく、オーナー家族の老人がしているようだ。

 とりあえず、喉の渇きを覚えていたので、先ずは飲み物のコーナーに向かう。アメリカの飲み物は甘ったるい飲み物が多かったので、僕はさっぱりとしたお茶が好きだ。そこで様々にブランドがあるお茶のコーナーに手を伸ばす。


 ん? よく考えたら、あの女の子の分はどうしよう?


 自分の分だけ考えていたが、よく考えたらあの女の子の分の事は考えていなかった。これが、ただの人間の悪さをした悪ガキであれば、そんな奴の分を買って帰る義理は無いが、あの女の子は怪奇現象である。

 いや、そもそも怪奇現象である存在が飲み食いをするのか? 

 そう考えてみたものの、思い返せば、リビングでバーベキューをして魚やザリガニを焼いて食べたのか、あの女の子だとしたら、飲み食いはするだろうし、実際、僕のコンビニのパンやペットボトルを飲まれた事実がある。

 その後、色々と考えた結果、警察でも犯人にかつ丼を食べさせて自供を促す事をしているので、僕のその方法にあやかって見ようと結論した。

 そして、僕はコンビニでお弁当二つと飲み物を2本買って帰る。

 家に辿り着いた僕は、車を降りて、コンビニ袋を手に下げながら玄関へと向かう。まだ、ワンチャン、女の子の姿が消えている事を願いながら、玄関の扉を開ける。そして、靴を脱いで奥へ進んでいくと、僕の淡い希望は打ち砕かれる。

 女の子は僕が買い物に出かけたままの姿でソファーの上に眠っていたのだ。

 僕はその姿を見て、諦めたように溜息をつく。そして、女の子が眠る向かいのソファーに腰を降ろして、コンビニ袋をテーブルの上に置いた。

 ここまで物音を立てても女の子は目覚めようとはしない。スマホを取り出して時間を確認すると7時を回っている。

 このまま女の子が起きるまで待つ事は出来ないので、僕は女の子を起こす事に決めたのであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ま性戦隊シマパンダー

九情承太郎
キャラ文芸
 魔性のオーパーツ「中二病プリンター」により、ノベルワナビー(小説家志望)の作品から次々に現れるアホ…個性的な敵キャラたちが、現実世界(特に関東地方)に被害を与えていた。  警察や軍隊で相手にしきれないアホ…個性的な敵キャラに対処するために、多くの民間戦隊が立ち上がった!  そんな戦隊の一つ、極秘戦隊スクリーマーズの一員ブルースクリーマー・入谷恐子は、迂闊な行動が重なり、シマパンの力で戦う戦士「シマパンダー」と勘違いされて悪目立ちしてしまう(笑)  誤解が解ける日は、果たして来るのであろうか?  たぶん、ない! ま性(まぬけな性分)の戦士シマパンダーによるスーパー戦隊コメディの決定版。笑い死にを恐れぬならば、読むがいい!! 他の小説サイトでも公開しています。 表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

女ハッカーのコードネームは @takashi

一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか? その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。 守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~

415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」 普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。 何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。 死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。

隣の家のありす

FEEL
キャラ文芸
文才に恵まれているが実力に直結しない小説家。兎山直久はうだつの上がらない日々を過ごしていた。それでも書き続けていたある日、買い物に出かけると同じアパートで行き倒れている少女、一ノ瀬ありすと出会う。見かねて助けてあげたのがきっかけでありすに懐かれた兎山直久の日常は少しだけ愉快で、少しだけ悩ましいものに変わっていき――。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

僕のペナントライフ

遊馬友仁
キャラ文芸
〜僕はいかにして心配することを止めてタイガースを愛するようになったか?〜 「なんでやねん!? タイガース……」 頭を抱え続けて15年余り。熱病にとりつかれたファンの人生はかくも辛い。 すべてのスケジュールは試合日程と結果次第。 頭のなかでは、常に自分の精神状態とチームの状態が、こんがらがっている。 ライフプランなんて、とてもじゃないが、立てられたもんじゃない。 このチームを応援し続けるのは、至高の「推し活」か? それとも、究極の「愚行」なのか? 2023年のペナント・レースを通じて、僕には、その答えが見えてきた――――――。

処理中です...