姫様、外に出てはダメと言ったでしょう?

Corvus corax

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25.ローブの剣士

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それぞれが使いやすく慣れた武器で戦いを進める。
仮面を付けローブを纏っていれば選手の中でも得体の知れない人物として目立つのは言うまでもない。

「なんだあいつ」
「あんな恰好してたら周りが見えないんじゃないか?」

そんなマイナスの声に関してもシラハは一切気にする様子もない。
なぜならそれは、剣を握った事がないかあるいは熟練度が足りていない者が言うセリフだと知っているからだ。
名前を呼ばれて戦闘フィールドに立ち相手と対面すると、対戦相手のクリーマは勝ち誇ったように笑っている。
まるでこれは俺が勝ちをもらったなと言わんばかりの表情をして。

「開始!」

審判員の合図と共に、クリーマが雄たけびを上げながらシラハに突撃してきた。

「うおおぉぉ!!」

相手の事がわかっていない状態で、何の策も考えず突っ込んでくるというのは愚かな行為でしかない。
剣を握ったのは初めてではなさそうで実戦経験もありそうではあるが、シラハの目に映るクリーマは初心者としか言えなかった。
振り下ろす剣を素早くかわし距離を取る。
シラハも剣を抜いてはいるものの、応戦しようとはしていない。
相手を観察し様子を見ているというのもあるが、自分が剣を振りかざすまでの相手でもないと判断したようだ。
クリーマは何度もシラハに対して剣を振るが、その度にひょいひょいと逃げられかすりもしなかった。

「ちょこまかと…ただ逃げているだけで勝てると思うなよ!」

相手を動かし疲れさせるのも一つの方法ではあるが、シラハにとってそれは副産物であり特に意図してやっているわけではない。
ようは相手が勝手に動き疲れているだけである。
はぁはぁと相手が肩で呼吸をし始めたところをシラハは見逃さなかった。
素早く近寄り相手の攻撃をかわすと、かろうじて剣のグリップ部分と自分の手を使い、相手の首と頭部分を同時に両手で打撃を与えた。

「なっ…!?」

その打撃を受けた次の瞬間には、クリーマはめまいをおこし地面に倒れ込んだ。
なんとか体制を立て直そうとするが、そう頭が思っていても身体が思うように動かない。
そしてそのままクリーマは気絶し、シラハの勝利となる。
見ていた観客もそしてシズハも何が起きていたのかわからなかった。
ただシラハの与えた攻撃で相手が倒れた事は事実であり、本人が本気ではないことも力をまだ隠していることも明らかだ。

「うおおぉ!なんだあいつなんかすごいぞ!」
「何がおきたんだ?」
『旦那様…お強い…』

そんな観客の声を聞く事はなくシラハは戦闘フィールドを出て次の試合の待機をした。
次々に対戦をする相手はシラハにとっては物足りない相手で、さすがに一つの国から姫をさらってくることを任された騎士というだけの事はある。
それはモブリシャスの部下ゼルガーも同様で、二人は他の対戦者に苦戦することなくトーナメント表はついに二人の最終決戦に進んだ。

「ふむ…予想通り、と言ったところか。最後に対戦する相手はどう見る?」
「何があろうとも勝つだけです。今日対戦した相手で一番手強い相手になるでしょうが、勝つことが私の仕事ですので」

モブリシャスもゼルガーも自分達が最終まで進むと分かっていたが、相手に関する情報を持ち合わせていなかった。
普段動く時は事前にゼルガーが情報収集をし、ある程度対策を取ってから動くのだが、今日は水路工事の事を探ろうとしていた矢先の祭りや対戦だった事もあり、今回の剣技大会の情報しか得られていない。
モブリシャスにとってゼルガーの強さには自信があった。
今まで自分の命令は完璧にこなしてくる人間だったからだ。
村を一つ壊滅させる事、先回りして盗賊を倒す事、闇夜に紛れての暗殺等、失敗した事はなかった。
単なる仕事として動いているのだとしてもモブリシャスにとっては優秀過ぎるほどで、モブリシャスがこの地位でずっといられるのはゼルガーのおかげでもあるのだ。

「これより最終決戦を開始する、両者前へ!」

審判員より声がかかり、シラハとゼルガーは戦闘フィールドに入った。
名前が読み上げられ、特別に今回はディスフィアとの交渉内容も一緒に皆に伝えられる。
負ければお互い後はない…。

「開始!!」

剣が鞘から抜かれ、二人とも構える。
相手を探るように一定の距離を保ちながら、相手がどう動くかを観察している。
今までの対戦相手とはわけが違うと身体から放つオーラでお互い察した。
そしてこのまま向かい合っていても何も始まらないため、先に動いたのはゼルガーのほうだった。

「…ふっ!!…は!!」

-カキン!カキン…カッ!―

ぶつかり合う剣の音、素早く動き相手の繰り出す技をよく見ながら避ける。
スライドさせずらし、ぶつかる時には剣で防ぎながら相手の背後や横を取れるように動く。
剣先がシラハのローブをかすめ切り込みを入れた。

「いつまでも隠しているその姿…気に食わない…」

本来であれば身体としては当たらない位置に剣が振り下ろされるせいで、避けているうちにどんどんシラハのローブは切れていった。
こうなってしまえばローブとしての役目を果たせなくなり、切れて行った部分が邪魔になる。

「ここらへんが限界か…」

相手の攻撃を避けた際にシラハは纏っていたローブを脱ぎ捨てる。
風に揺れる白髪の髪、仮面を付けてはいるがその奥から覗き込む赤い瞳がゼルガーの目にしっかりととらえられた。

『もう邪魔なものはない、これで…!』

いけると思ったゼルガーはシラハに迷う事なく飛び込んでいく。
しかしそれは邪魔なものがなくなり動きやすくなったシラハを相手にしているということになる。

-ガキンッ!カッ!カキーン!―

「——っく!!」
『な…なんだこの重さ…!!さっきとは全く…』

剣をはじき返す重さが違う、気を抜けば身体が吹き飛ばされるくらいに。

「お前の剣は…その程度か…」

シラハがボソッと言った独り言はゼルガーの耳に届いていた。

「舐めるなぁぁ!!」

剣の重さに驚いたが、ここで終わるわけにはいかないとゼルガーも必死に応戦する。

-キン!!カキン!!キンッ!カッ…ガッ!!―

「はぁっ!!」
「ふっ!…はっ!」

普段はあまり見ることのできない素早い動きと剣を扱う二人の真剣なやりとりに、会場も静寂につつまれ息を呑みながら観客たちが見守っている。
シラハの動きについてきてはいるものの、余裕のないゼルガーをシラハはそれ以上に苦しめていく。
戦っているうちにゼルガーは自分の上には上がいることを思い知らされていた。
ローブを切って脱ぎ捨てさせた事で、圧倒的に不利になってしまった状況と力の差。

『今日戦った誰より…いや…、今まで戦ってきた誰よりも…強い!!』

長い間剣を振っていれば、いつかは隙ができる。
その隙を作らないように立ち回っていたはずなのだが、一瞬ゼルガーの腕が下がったことをシラハは見逃さない。

「終わりだ」

その隙にシラハは相手の懐に入り込み、力を込めて相手を切り捨てた。

「ガハッ!!」

ゼルガーは投げ飛ばされ壁にぶつかると、衝撃で壁は壊れ体はずるっと下に落ちた。
今のシラハの力で剣で切っていたら身体が真っ二つになっていたかもしれないが、ゼルガーも一応剣士ではある。
シラハに切られる直前で剣を盾替わりにし攻撃を防いだことで、投げ飛ばされるだけになった。

「そこまで!勝負はついた。よって勝者…ドゥンケルハイトー!!」
「うおおおぉ!!」
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