上 下
22 / 33

22.エルデ

しおりを挟む
焦げ茶色で巨大な体は、人間を軽く5人は乗せて飛べるだろう。
世の中にドラゴンにまつわる伝説や物語はいくつも残っているが、実際に人間が近くで接しコミュニケーションを取ったいい報告は少ない。
それもそうだ、ドラゴンはこの世界では神に近い、または神として崇められるような存在なのだ。
だが、過去にはその内なる好奇心を抑えられなかった者や、その力に魅力され自分の物にしようとした人間は、ドラゴンの大人ではなく子を狙い実験をした。
結果、反感を買った人間の街を滅ぼしたという記録も残っている。
この目の前にいるドラゴンが人間に対してどういった感情を持っているのかはわからない。
自分たちに向かって攻撃をしてくる可能性もある。

「気をつけろ…」

そう言いながらシラハは先頭に立ち、ドラゴンを無闇に刺激しないよう少しづつ近寄る。
それであってもドラゴンは自分の周りに何かが来たことに気付き、閉じていた目を開けた。

「そうこそこそせんでもよい…、汝らがこの空間を繋ごうとしていた事はとうに知っておった。こそこそしたところで何も変わりはせぬ。して人間よ…我に何用か」

このドラゴンはすぐに攻撃をしかけてくるタイプではないようだ。
警戒を解き自然な体制で立つと、シラハはドラゴンを見上げ話しかけた。

「勝手に立ち入った事ご容赦願いたい。俺はシラハ・クレーエという。今この周辺の地域に水を運ぶため皆で協力して工事をしているのだが、隣にある地底湖にて水位の変化がみられており、その調査のためにここへ来た。もし可能ならこの場所も調べさせていただきたい」
「ふむ…。我はエルデ、ここは一時的な我の寝床としている。…がそろそろ旅立とうと思っていた所だ。調べるというのなら好きにするがよい」

ドラゴンの許可もおり、心置きなく白羽達は辺りを調べ始めた。
その様子をドラゴンも見守っている。
穴があいていることで空からの光が降り注ぎ、この場所は他のところより調べやすい。

「何か分かった?」

ある程度辺りを見回ったところでシズハが尋ねるがシラハは首を横に振った。

「先程から見ていれば、奇妙な力をそのシラハとやらは使う。ゲシックト族か?」

見守っていたドラゴンがシラハの技術を見てそう言った。
シラハがそうだと返すと、ドラゴンはさらに続ける。

「ゲシックト族…ふむ、汝はゲシックト族がどのようにして今の技術を得たか知っておるか?」
「遠い昔に当時の王になった人が、この技術を研究しそれが発展していったと俺は聞いている」
「そうか、半分正解だが伝わっていない事があるようだ。当時の王は我のようなドラゴンとの契約によりその力を得ている」
「なんだって…?」

昔『クロウ』という名で機械のドラゴンがいたという。
その機械のドラゴンは古代の技術により廃棄されていたものが、ドラゴンとして形を成し出来たのだという。
そしてゲシックト族が誕生したのは、そのドラゴンは何等かの方法で人間と契約を結んだ時だ。
エルデは詳しい事はよく分からないらしいが、そういう事があったというのはドラゴンの間で伝わっているようだ。
機械を操れるようになったのも、そのクロウとの契約のおかげなのだろう。
シラハもしらないゲシックト族の事。
ドラゴンは長命種という事もあるため、もしかしたらいつかそのクロウというドラゴンにも会えるかもしれない。

「とりあえずこの場所はエルデがいる事もあって、何か他の者が細工をしたりすることは出来なかったはずだ…。そうなると別に原因があるかもしれないな…」
「私…まだ旦那様に言ってなかったのですけれど、少し地脈が読めるので、探ってみましょうか?」
「そうか、それなら頼みたい」

シズハは精神を整え呪文を言い、辺りの自然の流れを調べた。
対象を水に絞り地面の中の状態や流れを確認する。
魔力をその流れに沿って流し、地底湖の周りに何か原因になるようなものがないかを確認した。
その調査中、奇妙な光景がシズハの中へと流れこんでくる。
それはそう遠くない過去の出来事を映し出したもので、男性が二人地底湖を形作っている大きな水の流れの上流付近にいる時のものだった。

「イウロ…埋めておけ」
「しかしモブリシャス様…そんな事をしたらあの場所は…」
「かまわぬ、対して価値のない場所だ。作り直すために一時的に止めればよい。そうすればあの土地は完全に私たちが好きにできる。金もかけず出て行ってくれるならそれでいい」

シズハはそれを読み取った瞬間、地脈の流れを調べる事ができなくなりふらついた。

「シズハ…!」

倒れこむところをシラハに支えられ、少し朦朧となっていた意識が元に戻り始める。

「大丈夫か…?」
「あ…旦那様、すみません…ご迷惑をかけてしまって」
「俺はいい、何かあったのか?」
「はい…、少し過去の事になると思いますが、地脈を読んでいる最中でモブリシャスとイウロという人が何か話しているところを読み取りました」

見た内容とその場所、台詞を伝えるとそれは横にいたディスフィアにも伝わり、その事はディスフィアの顔を少し歪めた。

「なるほどね。予定より買収を早めなくてはいけなそうだ…」
「要は…自分達が好き勝手に商業ルートを作り替えたいから、水の流れを変え水不足に陥らせた挙句、街ごと人を追い出し再開発をしようとしていたという事か…」

今水路を繋ごうとして工事している事も、モブリシャスはうまくいかないだろうと分かっていたのだ。
埋めてしまった水脈を復活させることは容易ではない。
もし水がなくなってしまいその地域の人が苦しんでいようと、自分に影響のない範囲なら関係ない。
最終的に水不足になった事が自然のもので、住めなくなった住人が出て行ったとしても、それはモブリシャスにとって好都合なのだ。
再開発ができてしまえば、少額しか納めない民ではなくその場所を通らざるを得ない人々から金をぼったくればよいのだから。

「わかった、二人とも調査に感謝するよ。モブリシャスとイウロの事は、僕に任せておいて」

ディスフィアは二日後、ラブルで会おうと言い残しその場を後にした。

「シズハも少し休んだ方がいい。この場所から戻ろう」

近くで見守っていたエルデに状況を伝えその場を後にしようとすると、シラハは引き止められる。

「ふむ、少し待つがよい」

言われた通りその場所で待機していると、近くにあった木々と地底湖のほうからエルデはエネルギーを吸い上げ、一つの塊にしていく。

「この地は水に困っておるのだろう、我の力を少し使ってオーブを作った。オーブから水が出るようになっている故ここに置いていく、好きに使うといい。だが一つ忠告しておく、この空間から動かせばそのオーブは力を失う。どのようにするかは汝ら次第。では…さらばだ」

そう言ってエルデは飛び立つと、上空の穴から出て行った。
気まぐれで作ったのだろうそのオーブは、淡い光を放ちその場所に浮いていた。
そのままそこへ置いておくのも不自然なので、シラハはそのオーブに触ると地底湖の近くまで移動させ、簡易だが台座を作りそこに置く。
するとそれを見計らったかのように水がオーブから流れ出し、地底湖へと流れこんでいった。
これでもう、モブリシャスによって埋められた水脈も問題なくなるだろう。

「とりあえずは…これで水の問題も解決だな」

作業を終えてからシズハの元へ戻り抱き上げると、近くにあった休憩室へと運びベッドへと寝かせた。
2日間、ラブルで会うことになったディスフィアを待ちながら水路の工事を完了させ、ラブルにいたグロシとファルズの家に繋がる通路も作った。
後は、この地に住む人々が問題なく過ごせるように連絡を待つだけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

処理中です...