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16.ラブルのオオカミと少年
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図書館で勉強すること3日が経った。
朝、シエルのいない家で2人で準備した朝食を食べ、水が届くまでの間は図書館に通い詰めている。
今まで知ることの出来なかった歴史や、様々な国の事を調べているとあっという間に時間が過ぎてしまう。
自分の知らなかった知識を知るというのは面白い事で、その中でもこれから通っていかなくてはならない国を教えて貰うのは、シズハにとって興味津々だった。
ある程度自分で調べてシラハの説明も受ければ、その国でのタブーや文化の違いがあっても対処する事ができるからだ。
他にも、シエルの家で2人で過ごしている時は本当に夫婦のようで、一般家庭で暮らすとしたらこんな感じなのだろうなと幸せな気持ちに浸り、このまま時が止まってしまえばいいのにとすら思っていた。
その日も図書館へ行って勉強していると、2人が座っていた窓の横に小さな鳥がチョンチョンと左右に動いているのが見える。
それを見たシラハはキリのいいところで引き上げると言い、理由を聞けばシエルが帰ってきた合図をあの鳥で送ってきているとの事だった。
予定より少し遅れ気味の旅のスケジュールが進むことになりそうだ。
「おかえりなさい、私もただいま帰りました」
シエルの家に戻ると、横にある小屋で樽を2個ほどたっぷりと水を汲んでシエルは馬車を用意していた。
シラハが戻り次第すぐ出発すると予測し、準備を進めていたようだ。
すぐ発ちますよね?と確認するシエルに、シラハも迷うことなくそうすると言う。
1度積み込んだ荷物を確認し、前回カロッソの時と同じように地図を広げルートを確認する。
シラハが指さすその先は地図の色が荒野を表す色、そして砂の色だった。
大きく分けて3か所休憩できる場所があり、比較的街から近い集落、オアシス、崖に囲まれているが風や砂を防げる天然のトンネルだ。
その3か所を通ると目的地であるテースタへ到着することができる。
殺風景な場所を通りながら気を付けなければいけないのは、その土地だからこその野生生物と盗賊である。
彼らは厳しい環境でも生きるために容赦なく襲ってくる。
善か悪かなどの基準など存在しないのだ。
「ケライノを出す」
ケライノ?とは何だろうというシズハの疑問はすぐに解決された。
エレクトラやアルキュオネと同じく、機械式で動く犬型の戦闘機のようだ。
馬車と並走させ野生生物や盗賊を警戒しながら移動し、もし遭遇してしてしまった場合でも、数が少なければ3体のケライノが戦闘し勝手に倒してくれる。
ただケライノだけで対処できない場合は、ある程度の偵察をした後シラハの元に1匹が戻ってくるようになっているため、危険に会う前にルートを変更したり一度止まって対策を練る必要があるが、それでも自分達が無防備で襲われることはこれでなくなった。
そしてシエルは定期的に水を取りに行ってくれると約束し、買ってもらったローブを被った二人は馬車に乗り込む。
忘れ物がないかどうかを確認し、シラハもシズハも短い間だがお世話になったシエルにお礼を言って、ハルクートを出発した。
天候が良ければテースタまで5日間で到着できる予定だ。
出発してから1時間ほども進むと、周りの風景に緑が少なくなっていく。
大きく転がった石や乾燥した土、気温もハルクートよりも上がっている。
途中途中で馬に水と食料をあげつつ、馬車を操縦しているのにシラハはシズハの体調の気遣いながら進んでくれた。
その日の夕方には街から近い集落、『ラブル』にたどり着く。
規模としてはハルクートの前に立ち寄ったダクハと同じくらいである。
ラブルにはハルクートのようにシラハと同じゲシックト族はいないため、泊まれる宿があるかを探した。
しかしどの宿にも空いているところがなく、仕方なく野宿するしかないかとシラハが諦めて店を出ると、とある男の子に声をかけられる。
「にーちゃん、魔法使えるか?」
「まぁ…、そこら辺の人よりは…」
「本当か?!じゃあ枯れちゃった井戸とか戻せたりしないか?」
「枯れた井戸?」
「うん…1週間前から水が取れなくなって…今じゃもう水が溜まらないんだ…。今までこんなことなかったって父ちゃん達言ってて…、とにかく直ぐにでも直してくれる人がいないと、たぶんラブルの水もいずれ枯れちゃうんだって」
水の少ない地域で水が取れない事は死活問題である。
とは言え、シラハ達は地元民ではなく井戸に一時的に水を貯める事ができたとて、根本的な解決をしないと水はすぐ干上がってしまうだろう。
シラハは少年にその事を伝えると、それでも直せる可能性があるかもしれないなら、井戸や周辺を見て欲しいと頼んできた。
「それならこちらも一つ頼みがある」
シラハは少年に今夜泊まる場所がなく、馬車を停めて置くだけの場所を貸してほしいと頼む。
すると少年はあっさりとそのお願いを受け入れてくれた。
「大丈夫だと思う!おいらの家町外れだし、父ちゃんに理由を説明してみるよ!」
「ありがとう、それは助かる」
「おいらグロシ!グロシ・ハーベスト、9歳だ!にーちゃんは?」
「シラハ・クレーエだ。あと、馬車の中にもう1人女性がいる」
「そうなのか?」
グロシと一緒に馬車に近付きシズハを呼ぶと、ひょこっと顔を出したシズハにシラハは事情を説明した。
「はじめましてグロシ君、私はシズハ・クレーエ。よろしくね」
「うん!よろしくシズハのねーちゃん!」
もう日が傾いている。
辺りが暗くなってしまう前に、グロシに案内を頼まなくてはならない。
「グロシ、案内を頼めるか?」
「うん、まかせて!」
そう言うとグロシは指を唇に噛ませ器用に鳴らした。
鳴らした音に反応し、どこかで待機していた普通のサイズより一回り大きなオオカミがグロシに近付いてくる。
初めてその姿をシラハが目視してからびっくりし警戒したものの、グロシが当たり前のように近づき背中に飛び乗っている姿を見ると、それが日常的に行われていることだと理解し、大人しくグロシの後をついて行くことにした。
集落を離れ10分程走ると、切り立った崖の麓に多少の木々と窪みを発見し、山小屋のような建物に明かりがついているのが見えてきた。
敷地内を確認すると、グロシの乗っていたオオカミと同じ色のオオカミが3匹ほど馬車をじーっと見つめている。
グロシに案内され指定の場所に馬車を停める。
父親に確認してくるから待っていてほしいと言われ、馬に餌と水をやりながら待機した。
その間に先程馬車をじーっと見つめていたオオカミたちが、一定の距離を保ちながら辺りをくるくるとまわり匂いを嗅いでいる。
シラハも同じく機械だが犬型のケライノをつれているため、オオカミ達はそれを警戒しているらしい。
「すまないな、わけのわからない機械がいれば警戒するのも当たり前だ」
ケライノを座らせ、相手よりも視線が低くなるようにすると、ゆっくりとシラハのほうにオオカミ達は近寄ってきた。
そしてオオカミ達が納得するまでケライノの周辺を探らせ、ケライノやシラハ達も敵ではない事を理解してもらう。
しばらくの間観察して満足したのだろう、オオカミ達はシラハの元を去っていく。
去ったオオカミと入れ替わりに、グロシと父親だろう人物がシラハ達の方へ歩いてきた。
「グロシの父、ファルズだ。すまないな、オオカミ達が早速近くに寄って行ってしまった」
「シラハ・クレーエ、そして妻のシズハ・クレーエです。いえ、敷地内をお借りするのですから、停める場所を提供してくださってありがとうございます。グロシくんがオオカミの後ろに乘って移動しているのを最初見た時は驚きました。先程敵ではないと認識してくれたみたいです」
「命令を出さなければ基本的にとびかかったり攻撃したりすることはないんだが、奥さんがいたなら怖がらせてしまったかもしれないな」
「いえ、旦那様から下手に動かなければ大丈夫だと言われたので、大丈夫です」
「もう外も暗くなる、どうぞ家の中へ」
朝、シエルのいない家で2人で準備した朝食を食べ、水が届くまでの間は図書館に通い詰めている。
今まで知ることの出来なかった歴史や、様々な国の事を調べているとあっという間に時間が過ぎてしまう。
自分の知らなかった知識を知るというのは面白い事で、その中でもこれから通っていかなくてはならない国を教えて貰うのは、シズハにとって興味津々だった。
ある程度自分で調べてシラハの説明も受ければ、その国でのタブーや文化の違いがあっても対処する事ができるからだ。
他にも、シエルの家で2人で過ごしている時は本当に夫婦のようで、一般家庭で暮らすとしたらこんな感じなのだろうなと幸せな気持ちに浸り、このまま時が止まってしまえばいいのにとすら思っていた。
その日も図書館へ行って勉強していると、2人が座っていた窓の横に小さな鳥がチョンチョンと左右に動いているのが見える。
それを見たシラハはキリのいいところで引き上げると言い、理由を聞けばシエルが帰ってきた合図をあの鳥で送ってきているとの事だった。
予定より少し遅れ気味の旅のスケジュールが進むことになりそうだ。
「おかえりなさい、私もただいま帰りました」
シエルの家に戻ると、横にある小屋で樽を2個ほどたっぷりと水を汲んでシエルは馬車を用意していた。
シラハが戻り次第すぐ出発すると予測し、準備を進めていたようだ。
すぐ発ちますよね?と確認するシエルに、シラハも迷うことなくそうすると言う。
1度積み込んだ荷物を確認し、前回カロッソの時と同じように地図を広げルートを確認する。
シラハが指さすその先は地図の色が荒野を表す色、そして砂の色だった。
大きく分けて3か所休憩できる場所があり、比較的街から近い集落、オアシス、崖に囲まれているが風や砂を防げる天然のトンネルだ。
その3か所を通ると目的地であるテースタへ到着することができる。
殺風景な場所を通りながら気を付けなければいけないのは、その土地だからこその野生生物と盗賊である。
彼らは厳しい環境でも生きるために容赦なく襲ってくる。
善か悪かなどの基準など存在しないのだ。
「ケライノを出す」
ケライノ?とは何だろうというシズハの疑問はすぐに解決された。
エレクトラやアルキュオネと同じく、機械式で動く犬型の戦闘機のようだ。
馬車と並走させ野生生物や盗賊を警戒しながら移動し、もし遭遇してしてしまった場合でも、数が少なければ3体のケライノが戦闘し勝手に倒してくれる。
ただケライノだけで対処できない場合は、ある程度の偵察をした後シラハの元に1匹が戻ってくるようになっているため、危険に会う前にルートを変更したり一度止まって対策を練る必要があるが、それでも自分達が無防備で襲われることはこれでなくなった。
そしてシエルは定期的に水を取りに行ってくれると約束し、買ってもらったローブを被った二人は馬車に乗り込む。
忘れ物がないかどうかを確認し、シラハもシズハも短い間だがお世話になったシエルにお礼を言って、ハルクートを出発した。
天候が良ければテースタまで5日間で到着できる予定だ。
出発してから1時間ほども進むと、周りの風景に緑が少なくなっていく。
大きく転がった石や乾燥した土、気温もハルクートよりも上がっている。
途中途中で馬に水と食料をあげつつ、馬車を操縦しているのにシラハはシズハの体調の気遣いながら進んでくれた。
その日の夕方には街から近い集落、『ラブル』にたどり着く。
規模としてはハルクートの前に立ち寄ったダクハと同じくらいである。
ラブルにはハルクートのようにシラハと同じゲシックト族はいないため、泊まれる宿があるかを探した。
しかしどの宿にも空いているところがなく、仕方なく野宿するしかないかとシラハが諦めて店を出ると、とある男の子に声をかけられる。
「にーちゃん、魔法使えるか?」
「まぁ…、そこら辺の人よりは…」
「本当か?!じゃあ枯れちゃった井戸とか戻せたりしないか?」
「枯れた井戸?」
「うん…1週間前から水が取れなくなって…今じゃもう水が溜まらないんだ…。今までこんなことなかったって父ちゃん達言ってて…、とにかく直ぐにでも直してくれる人がいないと、たぶんラブルの水もいずれ枯れちゃうんだって」
水の少ない地域で水が取れない事は死活問題である。
とは言え、シラハ達は地元民ではなく井戸に一時的に水を貯める事ができたとて、根本的な解決をしないと水はすぐ干上がってしまうだろう。
シラハは少年にその事を伝えると、それでも直せる可能性があるかもしれないなら、井戸や周辺を見て欲しいと頼んできた。
「それならこちらも一つ頼みがある」
シラハは少年に今夜泊まる場所がなく、馬車を停めて置くだけの場所を貸してほしいと頼む。
すると少年はあっさりとそのお願いを受け入れてくれた。
「大丈夫だと思う!おいらの家町外れだし、父ちゃんに理由を説明してみるよ!」
「ありがとう、それは助かる」
「おいらグロシ!グロシ・ハーベスト、9歳だ!にーちゃんは?」
「シラハ・クレーエだ。あと、馬車の中にもう1人女性がいる」
「そうなのか?」
グロシと一緒に馬車に近付きシズハを呼ぶと、ひょこっと顔を出したシズハにシラハは事情を説明した。
「はじめましてグロシ君、私はシズハ・クレーエ。よろしくね」
「うん!よろしくシズハのねーちゃん!」
もう日が傾いている。
辺りが暗くなってしまう前に、グロシに案内を頼まなくてはならない。
「グロシ、案内を頼めるか?」
「うん、まかせて!」
そう言うとグロシは指を唇に噛ませ器用に鳴らした。
鳴らした音に反応し、どこかで待機していた普通のサイズより一回り大きなオオカミがグロシに近付いてくる。
初めてその姿をシラハが目視してからびっくりし警戒したものの、グロシが当たり前のように近づき背中に飛び乗っている姿を見ると、それが日常的に行われていることだと理解し、大人しくグロシの後をついて行くことにした。
集落を離れ10分程走ると、切り立った崖の麓に多少の木々と窪みを発見し、山小屋のような建物に明かりがついているのが見えてきた。
敷地内を確認すると、グロシの乗っていたオオカミと同じ色のオオカミが3匹ほど馬車をじーっと見つめている。
グロシに案内され指定の場所に馬車を停める。
父親に確認してくるから待っていてほしいと言われ、馬に餌と水をやりながら待機した。
その間に先程馬車をじーっと見つめていたオオカミたちが、一定の距離を保ちながら辺りをくるくるとまわり匂いを嗅いでいる。
シラハも同じく機械だが犬型のケライノをつれているため、オオカミ達はそれを警戒しているらしい。
「すまないな、わけのわからない機械がいれば警戒するのも当たり前だ」
ケライノを座らせ、相手よりも視線が低くなるようにすると、ゆっくりとシラハのほうにオオカミ達は近寄ってきた。
そしてオオカミ達が納得するまでケライノの周辺を探らせ、ケライノやシラハ達も敵ではない事を理解してもらう。
しばらくの間観察して満足したのだろう、オオカミ達はシラハの元を去っていく。
去ったオオカミと入れ替わりに、グロシと父親だろう人物がシラハ達の方へ歩いてきた。
「グロシの父、ファルズだ。すまないな、オオカミ達が早速近くに寄って行ってしまった」
「シラハ・クレーエ、そして妻のシズハ・クレーエです。いえ、敷地内をお借りするのですから、停める場所を提供してくださってありがとうございます。グロシくんがオオカミの後ろに乘って移動しているのを最初見た時は驚きました。先程敵ではないと認識してくれたみたいです」
「命令を出さなければ基本的にとびかかったり攻撃したりすることはないんだが、奥さんがいたなら怖がらせてしまったかもしれないな」
「いえ、旦那様から下手に動かなければ大丈夫だと言われたので、大丈夫です」
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