上 下
14 / 33

14.図書館

しおりを挟む
次の日、シラハと相談してシエルが戻ってくるまでの間は、街でタクタハ国の情報収集をする事にした。
今度は離れ離れにならないよう、一緒に行動することをお互いに約束して。
まずは歴史や世界を知るために図書館へ行く事となる。
自分の城にあった本しかあまり読んで来なかったシズハにとっては、また1つ世界が広がりそうでワクワクしていた。
ある程度の規模の国であれば図書館は国が運営している事が多い。
だがシズハは自国の図書館すら行ったことがないのだ。
とはいえ今いるハルクートはシラハもそこまで詳しくはない。
いつもなら案内役のシエルが道案内をしてくれるからだ。
道端に立っている人に、図書館はどこか尋ねると快く行き先を地図で教えてくれた。
だがシラハは道を人に聞いたのにそのままその方向へ向かおうとはせず、違う店に入ると全く同じ事を店主に尋ねた。
するとその店主からはさっきの人とは違う回答が返ってくる。
どういうことか分からず、シラハの横で?マークを出しているシズハに、店から出るとシラハが説明してくれた。

「知らない、詳しくない国に来たら、誰かに道を聞いたりするのはいい。ただ、一人の人を鵜呑みにしたらダメなんだ。必ず目的地が合っているかどうか複数人に聞いてから判断するほうがいい」
「どうしてそんな事をするのですか?」
「土地勘がない人の行動は、その地域にいる人が見ればなんとなくわかる。悪事を働く奴らにとってはいいカモにしかならない。信じ切ってしまって、違う道に誘いこまれた場合、面倒くさくなることに間違いはないから、こちらも対策をしなきゃならないんだ。人は見かけによらないからな」
「なるほど…だからさっき最初に聞いた方と、このお店の店主さんは違う事を言ってきたということですね…」
「そうだ、果たしてどちらが正解か、次の人に聞きに行くことにしよう」
「もし他の方も違う事を言ってきたらどうするんです?」
「もし3人目に聞いて違う答えが返ってきたら、もうその国の危険度が高い事になってくる。それなら少し自力で歩いてみるのもいいさ」

シラハはそう言い、近くにいた人にまた声をかけると、その人は2度目に聞いた店主と同じ答えを返してくれた。

「よし、これで行き先は定まったから、あとは歩くだけだ」
「よかったです、図書館は誰でも中に入って大丈夫なのでしょうか?」
「だといいが…、そればっかりは言って見ないとわからないな」

そう二人で話をしていると、最後に質問した人から観光客も自由に出入りできると言われ、二人は胸を撫でおろした。
お礼を言いながら図書館へと進む。
街中の公園に隣接した、ゆとりのありそうな大きな建物。
入り口は神殿のように大きな柱が並んでおり、入り口の横には警備員と思われる人も二人立っていた。
しかし警備員は立っているものの、民間人の出入りは頻繁のようで、特に何か検査をされそうな雰囲気もない。
もしもの事があった時のためにいる警備員のようだ。
立派な入り口を通り中に入ると、受付をする場所が見え、どうやらチケットを購入しなければならないらしい。
決められた金額を払い奥へ進むと、図書館全体の配置図が壁に貼り付けられていた。
1階と2階に分けられているフロアは研究資料や娯楽だけでなく、生物や子供向けまでジャンルは様々だ。
海外についてのエリアを見つけ、1階の右奥のほうへと進む。
思っていたよりも広く各エリアに自習スペースが設けられており、ただ座って読むだけのベンチの他にもテーブル付きの物もあれば、周りが見えなくなる個室タイプもあるようで、ハルクートは学問にも力を入れていることがうかがえた。
目的地のエリアに到着すると、入り口にはわかりやすく海外エリアと表示されており間違いなさそうだ。
まずはタクタハについて語られている書物を探す事にした。
探しているにつれ、見た事や聞いた事のない国や地名を目にすると、シズハはいかに自分が世の中を知らないかを目の当たりにすることになる。

「こんなに沢山…国や地域があるのですね…。知らない事ばかりです」
「そうだ、俺もまだまだ行ったことのない国も多い。ただ、シズハの場合そういう機会も与えられなかっただろうし、今から知っていくのでも遅くない」
「そうですね、その機会を与えてくださった旦那様に感謝します」
「あった、タクタハだ。いくつかあるから3冊くらい持って行って、一緒に読もう。文字は問題なく読めるか?」
「大丈夫だと思います。それは城で教えてくれる先生がいらっしゃいましたので」
「ならいい、いこう」

少し分厚い本を3冊持ち、窓側の明るいテーブルのある席へ腰かける。
隣り合って座り、内容を確認しながら気づいた事があれば共有する形になった。
シズハが見ているのは、各地の観光名所の案内本のようだ。
美しい滝や大きな塔、花が咲き乱れる丘など、自国にこんなにも見所があるというのは少し嬉しい。
だが実際それをその目で見た事はなく、家族に言われた事だけを信じ生活してきた自分に少し腹立たしさや寂しさを覚える。
あの城にいたとしても、もう少し自分で変わろうとすることはできたのではないか…と。

『いけない、今はそんな自分の事を嘆いてる場合じゃなかった。何か他にないかな…』

ページをめくっていくにつれて、自分の城が描かれているページにたどり着く。
そこには王家の姫が所有する土地として紹介され、その地域に住む人以外の一般人や観光客は上陸できないとされていた。
ただ、船で近くへ見に行くことは可能で、立派な城と海を見たい観光客は後を絶たないのだという。
そして特産物として、地下から沸き出す水を商品として購入することができ、観光客に人気だとも書かれていた。
〈その水を飲むと病の進行が遅くなる〉や〈体にいい成分が含まれていて健康に良い〉等。
ただ、その水を購入するにはかなりの金額を支払わねばならず、購入できるのは貴族や金持ちくらいのものだろう。
その水が入手困難のため、窃盗しようとする人も多いのだという。
この本に記述されている事が確かなのであれば、自分の身体の知られざる病を水を飲む事で直そうとしていたという事は正しい。
ただ、どうしてその状況になったのかをシズハは知りたかった。
生まれつきそうだったのか、それとも生まれた後に発症もしくは何かきっかけがあったのではないかと。

「シズハ…こっちの本、歴史について語られているんだが、最近発行された本で、古い歴史だけじゃなく今の王についても語られている」
「本当ですか?」

今から15年程前、新しい王が統治することとなったタクタハだが、その際前の王は何者かに妃も共に暗殺されたようだと書かれていた。
その時にはもうすでにシズハは生まれていたはずで、本には新しい王がクローゼットの奥に隠されていた赤子を発見し、子として育てるようになったと記述されている。
新しい王は自分は先代の王に何かあった場合、自分が王となるよう申しつけられていたと書簡を取り出し国民に見せ、親戚の反対や国民の反対があったにもかかわらず王として君臨することとなった。
この本の内容によって、シズハが会っていたのは本当の両親でないことが確定する。

『そっか…やっぱり本当の両親じゃないんだ…。だから…一緒に暮らすの、嫌だった…のかな』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax
恋愛
たとえ世界が終わっても…最後まであなたと共に 恋愛×現代ファンタジー×魔法少女×魔法男子×学園 魔物が出没するようになってから300年後の世界。 祖母や初恋の人との約束を果たすために桜川姫歌は国立聖歌騎士育成学園へ入学する。 そこで待っていたのは学園内Sクラス第1位の初恋の人だった。 しかし彼には現在彼女がいて… 触れたくても触れられない彼の謎と、凶暴化する魔物の群れ。 魔物に立ち向かうため、姫歌は歌と変身を駆使して皆で戦う。 自分自身の中にあるトラウマや次々に起こる事件。 何度も心折れそうになりながらも、周りの人に助けられながら成長していく。 そしてそんな姫歌を支え続けるのは、今も変わらない彼の言葉だった。 「俺はどんな時も味方だから。」

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

処理中です...