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13.家族とは

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思わずシラハはシズハを抱きしめた。

「!」

形だけかもしれない、契約結婚であり偽装夫婦として最初はそこまで深く考えずに2人とも指輪を付けた。
数日過ごしただけだというのに、お互い横にいる時の安心感は他の人と比べ物にならないくらい高く、惹かれ合っているのは確実だった。
普段なら女性を避けているシラハですら、今自分が起こしている行動が分からずにいた。

「すまない…いきなり」
「いえ…その、心配してくださっているお気持ちは伝わってきていますので、大丈夫です」

近づく距離はとても近く、シズハからふわっといい匂いがした。
それはシラハも一緒だったようだ。
腕の中でシズハは考える。
家族とは何なのだろう…と。
父と母がいることなのだろうか?
血の繋がりがあるから家族なのか…?
それとも血が繋がっていなくとも、一緒に暮らしていたら家族?
シズハはその答えが分からずにいた。

「旦那様…家族とは、何なのでしょう?」
「何…と言われても…、何が聞きたい?」
「誕生日の時にしか会えない父や母、そして妹に対して…私は家族という実感がわかないのです…。これはおかしな事なのでしょうか?」

シラハはおかしい事ではないと話す。
そもそも水を飲み続けていれば病状が悪化しないのであれば、一緒に暮らさない理由にはならない。
島から出てはならないと話すのは、それを信じ込ませて閉じ込めておくための手段だろう。
第三者のシラハからすれば、シズハは王とその妃に命が危ない事を理由に洗脳している状態に見えるのだ。
それに閉じ込めているともなれば、何か後ろめたい理由があるか、シズハに利用価値があるため生かしておいているだけのこと。
シズハは何も知らぬまま、結婚させられるところだったのだ。

「シズハは色々な事を知らなすぎる。それが悪いという意味ではなく、親であれば子にすべき事があるはずだ。しかし、今の状況を聞くからにその姿勢は見受けられない」

今まで何かを教えてもらった事があっただろうか、抱きしめてもらったことも、国の様子もこの世の中のこともシズハは何もわからないのだ。

「よかったら…旦那様の家族の事をお聞きしてもいいでしょうか?」

自分以外の家族はどう生活しているのだろう?
比較対象がなければ、自分の身の回りのこともおかしいかどうかわからない。
シズハの問いに、シラハは快く教えてくれた。

「まず俺の家は5人家族だ。父と母、母方の祖母、そして兄と俺で生活している。まぁ生活してるとは言っても、俺はこうやって遠征に行く事もあるから、帰れる日とそうじゃない日の差が激しいが…」
「今回は、私を連れていくという役目がありますから、もしかして結構な長旅になられているのでは?」
「そうだな、今回は今までで1番長いかもしれない」
「普段はどのように過ごされているのです?」

家族は皆、畑仕事をして過ごしているという。
作物を作り、町や城にも届けに行くのだとか。
幼い頃はシラハも手伝いをしており、畑仕事だけでなく近所の漁師について行ったり、狩猟のやり方を教わったりと、色んな方にお世話になったようだ。
兄の足が悪いようで、動けない兄の変わりに一生懸命働いていた。
青年になって城に入るまでは、父が城に務めていたらしい。

「実は、国に戻ったらすぐ城に戻るんじゃなく、1度家に帰ろうと思ってる」
「えっと…その時私はどうすれば…」
「もちろんシズハも一緒につれていこうと思う」
「ええっ…私も?」
「あぁ、俺の家族に会うのは嫌か?」
「そんな!とんでもない!むしろ私が緊張してしまいます」
「かしこまらなくていいし、いつも通り接してればいい。皆俺の家族なら暖かく迎えてくれると思う」

特に何か理由があって連れていきたいわけではなさそうだ。
とはいえ、密かに恋心が芽生え始めてしまったシラハの家に行くなんて、考えただけで緊張する。
本で読んだ事があって、男性が女性を自分の家族に合わせる時は、真面目にお付き合いをしている時だと知っていたからだ。

「シズハ…もし、ララシュト国に帰ってから王の妃にならなくても、タクタハ国には帰らないほうがいい」
「え…それは、どうして?」
「驚くなと言えば無理かもしれないが、タクタハの王とその家族は、シズハの本当の親ではない可能性があるんだ」
「……え」
「シズハを陥れようとか、そう言うのでは無いことだけはわかってほしい。俺はララシュトを発つ前、王からこの事を聞かされた。最初は半信半疑だったが、今シズハの家族間の事を聞いてから、事実なんじゃないかという気持ちが強くなっている」

シズハ驚きを隠せなかった。
寂しいと思い、王に手紙を送った事もあったシズハだったが、多忙であると何度も返され、自分の意見が聞き入れられる事はなかった。
家族で一緒に食事やコミュニケーションの時間を取ろうとしても、叶わなかったのだ。
王族であり他の家庭がわからないシズハにとって、自分の身体のせいだから仕方ないと諦めていた。
まさか自分の本当の親ではないとは思ってもいない。

「びっくり…しました」
「驚かせてしまったと思う…、いきなり言われたらびっくりするのも無理はない」
「考えた事も…なかったな…」

少し俯き考えるシズハ。
でも城から出て実際に何日か過ごしてみて気付いた事がある。
自分が城の外でも水さえ飲んでいれば生きられる事、そして一度も会ったことのない祖母に出会い、ブローチを自分に渡してくれた事だ。
もしシラハの言う両親が本当の王族ではなく、それを祖母が知っていたとしたら…シズハに直接ブローチを渡そうという気持ちになるだろう。
そう考えれば、噂の事もブローチの事も辻褄が合う。

「旦那様、お願いがあります」
「なんだ?」
「私は自分の事も家族や王族の事もほとんど知りません。もし、私や国について知っていること、もしくはそういった書籍や知れる場所があるなら、教えていただけないでしょうか」
「わかった、俺が知っている事は話そう。丁度水をタクタハまで行って、持って帰ってくるには少し時間がかかる。その間に書籍も2人で探しに行こう」
「ありがとうございます」
「ただ、今日はもう休んだ方がいい。歩き回って疲れただろう?」

そう言われ、シズハは言われた通り横になることにした。
横になるまで別に眠気なんて…と思っていたのが、実際布団に入ってみたらどうだろう。

『…あ…れ』

今まで気が張っていたのを解されるように、身体は布団に馴染んでいき、一気に眠気がやってくる。
このまま意識が無くなるのに、もう時間もかからないだろう。
 
「だんな…さ…ま」
「ん?」
「おや…す……み……」
「あぁ、おやすみ」

おやすみなさいを最後まで言うことが出来ず、シズハは眠りに落ちた。
あれだけ歩き回ったのだから、こうなるのも当然だろう。
自分の横で安心したように、スヤスヤと眠るシズハを見ながらシラハもベッドに入ると、同じようにものの数分で眠りにつく。 
初めて離れてしまった日の夜は、二人とも一切夢を見ることも無く過ぎていった。
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